30秒でわかる答え
液浸冷却(えきしんれいきゃく)とは、サーバーの基板を、電気を通さない特殊な冷却液に丸ごと沈めて冷やす方式です。 冷却液は電気を通さないので、基板が浸かっていてもショートしません。冷却液が液体のまま回る「単相式」と、沸騰と凝縮をくり返す「二相式」があります。
空気で冷やすより熱をよく運べるため、冷却の電力を大きく減らせますが、保守のたびにサーバーを液から引き上げる手間、サーバーメーカーの保証、冷却液の調達という3つの壁があり、今のAIデータセンターの主流はチップに冷却板を当てる直接液冷(DLC)です。「液冷(えきれい)」との言葉の違いは記事の中ほどの表にまとめました。
「液浸冷却」──サーバーを液体に沈めて冷やす。初めて聞くと「え、壊れないの?」と驚きますよね。
こんな悩みはありませんか?
液浸冷却って、本当にサーバーを液体に沈めるの? 壊れないの?
「単相式」と「二相式」があるらしいけど、何がどう違うの?
DLC(直接液冷)との違いがわからない──どっちが優れているの?
PUE 1.05を達成した事例があるのに、なぜまだ主流になっていないの?
3Mが冷却液の製造を撤退したって聞いたけど、今後どうなるの?
この記事でわかること
液浸冷却の定義と「なぜ壊れないのか」 を30秒で理解
単相式・二相式の仕組みの違いを断面図イメージで図解
DLC(コールドプレート方式)との6項目比較表
PUE 1.05を達成したKDDIの実証事例
普及を阻む「3つの壁」 ──メンテナンス・保証・冷却液問題
3MのPFAS撤退 が液浸冷却の未来に与える影響
先に結論
液浸冷却とは、サーバーの基板を絶縁性の冷却液に丸ごと沈めて冷やす方式 です。使われる冷却液は電気を通さないため、基板が浸かっていてもショートしません。冷却効率は液冷方式のなかで最高──KDDIの実証実験ではPUE 1.05(冷却電力94%削減) を達成しています(出典:経済産業省 METI Journal )。しかし「最高の冷却効率」にもかかわらず、現時点ではDLC(コールドプレート方式)が主流であり、液浸冷却は実証〜一部導入の段階 にとどまっています。その理由は、①メンテナンスの難しさ、②サーバーメーカーの保証問題、③冷却液の調達リスク(3MのPFAS撤退)という「3つの壁」 にあります。この記事では、液浸冷却の仕組みと魅力を理解しつつ、なぜまだ主流になれないのかを構造で解説します。
前回の記事(液冷とは?DLC・液浸冷却・水冷の違いを初心者向けに整理 )では、液冷の3方式(リアドア・DLC・液浸冷却)の違いを概観しました。この記事はその続編として、液浸冷却だけを深掘り します。
液浸冷却とは?──「なぜ壊れないのか」を30秒で理解
一言でいうと「サーバーを冷たいお風呂に丸ごと沈める」冷却方式
液浸冷却(Immersion Cooling)とは、サーバーの基板やIT機器を、電気を通さない特殊な冷却液に丸ごと沈めて冷やす方式 です。DLC(コールドプレート方式)がチップの上に冷却板を取り付ける「局所冷却」なのに対し、液浸冷却は基板上のすべての部品が液体に触れる「全面冷却」 です。
たとえるなら…
DLCが「熱い鉄板の上にアイスノンを当てて冷やす 」方式なら、液浸冷却は「熱い鉄板ごと冷たいプールに沈める 」方式です。プールの水が鉄板のすべての面に触れるので、冷却効率は圧倒的に高い。「でもプールに電子機器を入れたら壊れるでしょ?」──ここがポイントです。使うのは水ではなく、電気を通さない特殊な液体 なんです。
「なぜ壊れないのか」──絶縁性の冷却液がカギ
液浸冷却に使われる冷却液は「誘電性液体(ゆうでんせいえきたい)」 と呼ばれ、電気をまったく通しません。水のように電気を通す液体に基板を沈めれば当然ショートしますが、誘電性液体なら電子回路が浸かっていても正常に動作します。
用語メモ:誘電性液体(Dielectric Fluid)
電気を通さない(電気絶縁性が高い)液体の総称。液浸冷却では、鉱物油系(植物由来含む)やフッ素系の合成液が使われる。ENEOSの「ENEOS IXシリーズ」(植物由来オイル)や、かつての3M「Novec」シリーズ(フッ素系)が代表例。熱を運ぶ力は水より小さいものの、空気よりはずっと大きい。
液冷(Liquid Cooling)= 総称
DLC(直接液冷)
チップをコールドプレートで局所冷却現在の主流
液浸冷却 この記事
基板ごと冷却液に浸漬最高の冷却効率
ポイント
液浸冷却のキーワードは「全面冷却 」と「絶縁性液体 」の2つ。DLCがGPUやCPUだけを狙って冷やす「スナイパー」なら、液浸冷却は基板全体を液体で包む「ブランケット」。冷却効率は液浸冷却が上ですが、実運用の手間とコストはDLCが有利──ここが「最高効率なのに主流になれない」ジレンマの原因です。
液浸・液冷・水冷・空冷の違い──読み方と意味を1つの表で
冷却の方式の名前は漢字が似ていて、読み方もまぎらわしいものが多くあります。この記事の「液浸冷却」と、よく一緒に出てくる言葉を整理しました。
言葉 読み方 意味 液浸冷却との関係
空冷 くうれい 空気(ファンや空調)で熱を運んで冷やす 従来のデータセンターの基本
液冷 えきれい 水などの液体で熱を運んで冷やす方式の総称 液浸冷却も液冷の一種
水冷 すいれい 水(または水に不凍液を混ぜたもの)を使う液冷 液浸冷却は水ではなく電気を通さない冷却液を使う
直接液冷(DLC) ちょくせつえきれい チップに金属の冷却板(コールドプレート)を当て、中に液体を流す 今のAIデータセンターの主流。基板は液に浸からない
液浸冷却 えきしんれいきゃく サーバーを電気を通さない冷却液に丸ごと沈める この記事のテーマ
単相式/二相式 たんそうしき/にそうしき 冷却液が液体のまま回るか、沸騰と凝縮をくり返すか 液浸冷却の2つの型
ポイント: 「液冷」は大きな分類の名前で、その中に「直接液冷(DLC)」と「液浸冷却」があります。ニュースで「液冷サーバー」と書かれていたら、多くは直接液冷のことです。
液冷の全体の比べ方は液冷とは 、単相式と二相式のくわしい比べは単相液浸と二相液浸の違い で解説しています。
なお、「浸漬冷却(しんせきれいきゃく)」も同じ意味で使われる言葉です。英語ではImmersion Cooling(イマージョン・クーリング)と書きます。
単相式と二相式──2つの仕組みを図解
液浸冷却には「単相式」と「二相式」 の2タイプがあります。名前は似ていますが、冷却の原理がまったく違います。
単相式──冷却液が「液体のまま」循環する
単相式(Single-Phase Immersion Cooling)は、冷却液が常に液体のまま サーバーの熱を吸収し、CDU(冷却液分配ユニット)で冷やされて戻ってくる方式です。冷却液は沸騰しません。
単相式液浸冷却の仕組み
液体は常に液体のまま。シンプルで管理しやすい。冷却液例:ENEOS IXシリーズ(植物由来オイル)
二相式──冷却液が「沸騰→蒸気→凝縮」するサイクル
二相式(Two-Phase Immersion Cooling)は、冷却液がチップの熱で沸騰して蒸気になり、上部の冷却コイルで凝縮(液体に戻る)して再び落下する 方式です。液体→気体→液体という「相変化」を利用するため、「二相」と呼ばれます。
二相式液浸冷却の仕組み
①
サーバー基板が低沸点の冷却液 (沸点30〜60℃程度)に浸かっている
③
蒸気が上昇し、タンク上部の冷却コイル(コンデンサー)で凝縮 ──液体に戻る
④
凝縮した液体が重力で落下 し、再びサーバーに接触──ポンプ不要で循環
相変化(液体→気体→液体)の潜熱で熱を奪う。ポンプなしで循環する「自然対流」が特徴
用語メモ:潜熱(Latent Heat)
液体が蒸発するときに周囲から奪う熱のこと。同じ温度でも、液体が蒸発するときは単なる温度上昇よりもはるかに多くの熱を吸収する。二相式液浸冷却は、この潜熱を利用することで単相式より高い冷却能力を実現している。
単相式 vs 二相式──6項目で比較
比較項目
単相式
二相式
冷却の原理
液体の顕熱 (温度上昇)で熱を運ぶ
液体の潜熱 (気化)で熱を奪う
冷却能力
高い
最も高い(潜熱の効果)
冷却液の例
鉱物油・植物由来オイル(ENEOS IXシリーズ等)
フッ素系合成液(旧3M Novec等・沸点30〜60℃)
循環方式
ポンプで強制循環
自然対流(ポンプ不要)
システムの複雑さ
比較的シンプル
複雑(凝縮器・密閉設計が必要)
現在の普及度
液浸冷却の主流
研究開発段階が中心
たとえるなら…
単相式は「ぬるま湯のお風呂 」──お湯が温まったら配管で冷やして戻す、シンプルな仕組み。二相式は「沸騰するフットバス 」──液体が沸騰する力で熱を奪い、蒸気が天井で冷えて水滴として戻る。二相式のほうが冷却パワーは上ですが、「密閉」「フッ素系冷却液」「凝縮器」が必要になるため、コストと複雑さが段違いです。
PUE 1.05の実力──KDDIの実証事例から見える液浸冷却の威力
冷却電力94%削減──「ほぼ理想値」に到達
液浸冷却の冷却効率がどれほどすごいか──最もわかりやすい実例が、KDDIの実証実験です。KDDIは三菱重工・NECネッツエスアイと共同で液浸冷却の実証を行い、PUE 1.05 を達成しました。これは空冷と比べて冷却電力を94%削減 した数字です(出典:経済産業省 METI Journal )。
用語メモ:PUE(Power Usage Effectiveness)
データセンター全体の消費電力 ÷ IT機器の消費電力。1.0に近いほど効率的。業界平均は1.56、Googleは1.09。PUE 1.05は「理論上の下限値1.0にほぼ到達」した驚異的な数字。
この実証にはENEOSの液浸冷却液「ENEOS IXシリーズ」が使われています。ENEOS IXシリーズは植物由来のオイルで、高い電気絶縁性と優れた耐熱性を兼ね備え、2025年には「”超”モノづくり部品大賞」を受賞しています(出典:ENEOS公式 )。
液浸冷却 vs DLC vs 空冷──冷却方式の性能比較
比較項目
空冷
DLC
液浸冷却
PUE目安
1.4〜1.8
1.03〜1.15
1.01〜1.05
冷却範囲
サーバー室全体
チップ(CPU/GPU)のみ
基板上のすべての部品
空冷の併用
──
必要(液冷7:空冷3)
基本不要
サーバーの互換性
汎用サーバーOK
コールドプレート対応が必要
液浸専用サーバーが必要
現在の主流度
従来型DCの9割
AI DCの主流
実証〜一部導入
騒音
大きい(ファン稼働)
小さい
ほぼ無音
普及を阻む「3つの壁」──最高効率なのに主流になれない理由
ここが、この記事の核心です。液浸冷却はPUE 1.05という驚異的な効率を持ちながら、なぜ今もDLC(コールドプレート方式)が主流で、液浸冷却は「実証〜一部導入」にとどまっているのか 。その理由は3つの構造的な壁にあります。
壁① メンテナンスの難しさ
液浸冷却の最大の運用課題は、サーバーの保守・交換時に、基板を冷却液から引き上げなければならない ことです。日経クロステックは「液浸冷却は2010年代にサーバー各社が製品化を試みたが、メンテナンス性や導入コストなどの壁が立ちはだかる」と報じています(出典:日経クロステック )。
具体的に何が大変なのか:
・基板を液体から引き上げる → 冷却液が滴り落ちる間の待機時間 が発生
・オイル系冷却液の場合、基板に油膜が残る → 清掃が必要
・通常のラックのように「引き出してすぐ作業」ができない
・液浸タンクの搬入・搬出が大型設備級 の作業になる
・運用スタッフに液浸冷却の専門知識 が必要(従来のDC運用とはスキルセットが異なる)
壁② サーバーメーカーの保証問題
液浸冷却のもう1つの壁が、サーバーメーカーの保証(ワランティ) です。OCP(Open Compute Project)は2024年に液浸冷却コンポーネントの保証ガイドラインを発行していますが(出典:OCP )、現実には多くのサーバーメーカーが「液浸冷却に使用した場合は保証対象外」 としています。
液浸冷却専用に設計されたサーバーも存在しますが、汎用サーバーの選択肢が限られるため、特定のベンダーにロックインされるリスク があります。DLCの場合はNVIDIAのGPUラック(GB200 NVL72など)がDLC前提で設計されているため、メーカー保証の問題がはるかに小さいのです。
壁③ 冷却液の調達リスク──3MのPFAS撤退問題
特に二相式液浸冷却にとって深刻なのが、冷却液の供給リスク です。二相式に最も広く使われていたフッ素系冷却液「3M Novec」シリーズの製造元である3Mが、2022年12月にPFAS(フッ素化合物)の製造から2025年末までに全面撤退する ことを発表しました(出典:3M公式プレスリリース )。
なぜこれが問題なのか
3M Novecは二相式液浸冷却の事実上の標準冷却液 でした。PFAS(永遠の化学物質と呼ばれる)の環境規制が世界的に強化されるなか、代替液の確保が急務になっています。単相式はENEOSの植物由来オイルなどPFASフリーの選択肢がありますが、二相式は低沸点の特殊な液体が必要なため、代替品の開発が技術的に難しい のが現状です。Syensqo(2023年にベルギーのSolvayから分かれた会社)やChemours等が代替品を提供していますが、3M Novecほどの実績はまだありません。
壁① メンテナンス
引き上げ・乾燥・清掃に時間がかかる。DLCのような「引き出してすぐ作業」ができない。
壁② 保証問題
多くのサーバーメーカーが液浸使用を保証対象外に。専用サーバーの選択肢が限られる。
壁③ 冷却液リスク
3MがPFAS撤退。二相式の標準冷却液が消えた。代替品の開発・検証が急務。
ポイント
液浸冷却が主流になれない理由は、冷却性能の問題ではありません 。PUE 1.05は文句なし。壁はすべて「運用・商業・サプライチェーン 」の問題です。技術が成熟しても、運用エコシステム(保証・メンテナンス・冷却液供給)が追いつかないと普及しない──これが液浸冷却の現在地です。
液浸冷却は今後どうなるのか──「次世代の切り札」か「ニッチ技術」か
市場は成長中──しかし主流交代はまだ先
液浸冷却市場は着実に成長しています。MarketsandMarketsの予測では、液浸冷却市場は2025年の約5.7億ドルから2032年に約26億ドル (CAGR 24.2%)に成長する見通しです。しかしこれはデータセンター冷却市場全体(2024年で約163億ドル)のなかではまだ一部です。
富士経済は2025年を「液冷元年」と呼んでいますが、その「液冷」の主役はDLC(コールドプレート方式)です。液浸冷却が主流になるためには、3つの壁が解消される必要があり、業界の見方では2028〜2030年頃に本格普及が始まる可能性がある とされています。
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2027〜2028年
ラック600kW超の世代 DLCの限界が見え始める
→
2028〜2030年
液浸冷却の本格普及 (壁が解消されれば)
ひとことメモ
NVIDIAの「Vera Rubin」(2026年後半からパートナーの製品が出ると発表)の次の世代「Rubin Ultra」(2027年予定)では、ラックあたり600kW級に達すると報じられ、DLCだけでは冷却が追いつかない可能性があります。NVIDIAはDLCと液浸冷却を融合させたサーバーの開発も進めていると報じられています。GPU世代の進化がDLCの限界を超えたとき、液浸冷却の出番が来る ──これが業界の見方です。
あなたにとっての意味──投資家・学生・技術者の視点
あなたにとっての意味
投資家: 液浸冷却は「今すぐ」の投資テーマではなく、「2028年以降」の成長テーマです。ただし、冷却液メーカー(ENEOS等)、液浸冷却タンクメーカー(GRC、Submer、国内のQuantum Mesh等)、PFAS代替技術を持つ化学メーカーが、この分野に関わる企業として挙げられます。GPU世代が600kW超に達したとき、液浸冷却の需要は一気に顕在化します 。
学生: 液浸冷却には熱工学(相変化・熱伝達)、材料工学(冷却液の化学特性)、機械工学(タンク設計・流体制御)の知識が必要です。DLCが「配管の世界」なら、液浸冷却は「化学と流体力学の世界」。化学系・材料系の学生にとって、AIインフラへの参入口 になり得るテーマです。
技術者: 液浸冷却の運用には、従来のDC運用とはまったく異なるスキルセットが求められます。冷却液の品質管理、漏液検知、液浸タンクの搬入出、冷却液と材料の適合性検証──これらの専門性を持つ技術者は、液浸冷却の普及とともに需要が急増します 。
よくある誤解を整理する
よくある誤解
実際はこう
「サーバーを液体に沈めたら壊れる」
使うのは電気を通さない誘電性液体 。水とはまったく異なり、基板が浸かっていても正常に動作する。KDDIの実証でも問題なく稼働。
「液浸冷却が最強だから全部液浸にすべき」
冷却効率は最高だが、メンテナンス・保証・冷却液の3つの壁 が存在。現時点の主流はDLC。用途に応じた使い分けが正解。
「単相式と二相式は大差ない」
冷却の原理がまったく異なる。単相式は「温まった液体を冷やす」、二相式は「沸騰の潜熱で奪う 」。冷却能力は二相式が上だが、システム複雑さ・冷却液コストも桁違い。
「液浸冷却は新しい技術」
概念自体は2010年代から 存在する。技術的にはすでに実証済み。普及しないのは技術ではなく運用・商業面の壁 が原因。
「3MのPFAS撤退で液浸冷却は終わり」
影響を受けるのは主に二相式 。単相式はENEOS IXシリーズなどPFASフリーの冷却液が使える。また代替フッ素系液体の開発も進行中。「終わり」ではなく「再編」。
まとめ:液浸冷却の全体像
この記事のまとめ
① 液浸冷却とは: サーバー基板を電気を通さない冷却液に丸ごと沈めて冷やす方式。基板上のすべての部品を「全面冷却」する。
② 単相式 vs 二相式: 単相式は液体のまま循環(シンプル・現在の主流)。二相式は沸騰→凝縮サイクル(冷却能力最高だが複雑・冷却液問題あり)。
③ 冷却効率は最高: KDDI実証でPUE 1.05(冷却電力94%削減)を達成。DLC(1.03〜1.15)をさらに上回る。
④ 普及を阻む3つの壁: メンテナンスの難しさ(引き上げ・乾燥・清掃)、サーバーメーカーの保証問題、冷却液の調達リスク(3M PFAS撤退)。
⑤ 壁は「技術」ではなく「運用・商業」: 冷却性能は文句なし。普及の鍵は、メーカー保証の標準化・メンテナンス手法の確立・冷却液供給の安定化。
⑥ 今後の展望: GPU世代が600kW超に達する2027〜2028年がDLCの限界ライン。液浸冷却の本格普及は2028〜2030年頃と見られる。
結局こういうことです。液浸冷却は「冷却性能の世界チャンピオン」ですが、「運用のしやすさ」ではDLCに大きく負けています。技術の良し悪しだけでは普及は決まらない ──保証・メンテナンス・サプライチェーンという「ビジネスインフラ」が揃って初めて技術は主流になる。これが液浸冷却から学べる産業構造の教訓です。
よくある質問(FAQ)
Q. 液浸冷却でサーバーを液体に沈めても、長期間大丈夫なのですか?
A. KDDIの実証実験やENEOSの長期耐久試験では、誘電性冷却液にサーバーを浸漬した状態で安定した動作が確認されています。ただし、すべてのサーバー部品が冷却液と長期的に互換性があるかは、冷却液と部品材料の組み合わせによります。OCPがガイドラインを策定しており、互換性テストの標準化が進んでいます。
Q. 液浸冷却の導入コストはDLCと比べてどのくらい高いですか?
A. 初期コストは液浸冷却のほうが一般的に高くなります。液浸タンク・冷却液・液浸対応サーバーの調達が必要で、既存のラックや空調設備は流用できません。ただし、運用コスト(冷却電力)はDLCより低い場合が多く、大規模・長期運用ではTCO(トータルコスト)で逆転する可能性があります 。冷却電力の90%削減効果により、一部の試算では18〜24ヶ月で投資回収可能とするレポートもあります。
Q. 日本で液浸冷却を導入しているデータセンターはありますか?
A. KDDIが小山データセンターで大規模な液浸冷却の実証実験を行い、PUE 1.05を達成しています(
出典:経済産業省 )。また、国産の液浸冷却システム「KAMUI」を開発するQuantum Meshが日本初の商用展開を始めています。ENEOSの冷却液を使った実証も複数進行中です。ただし、大規模な商用データセンターでの本格導入はまだ限定的です。
Q. 液浸冷却の読み方は?
A. えきしんれいきゃくと読みます。液体に浸して冷やすという意味で、液冷(えきれい)の方式の一つです。
Q. 液浸冷却と直接液冷(DLC)の違いは何ですか?
A. 液浸冷却はサーバーを冷却液に丸ごと沈め、直接液冷はチップに当てた冷却板の中だけに液体を流します。今の主流は直接液冷です。
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気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめての方にもわかるように図解で書いています。
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