「液冷といっても、結局どんな液体でサーバーを冷やしているの?」「3Mが冷却液から撤退したらしいけど、何がそんなに大ごとなの?」──そう感じていませんか?
- 水・PG・誘電性流体…冷却液の種類の違いがわからない
- 「水でPCを冷やしたらショートするのでは?」という素朴な疑問
- 「3M撤退」「PFAS」がニュースに出るが、冷却とどう関係するのか不明
- なぜこの問題で日本企業(ダイキン・ENEOS・出光)が浮上したのか知りたい
- 冷却液の3タイプ(水系・PG25・誘電性流体)の違いを図解
- 液浸冷却の単相式(炭化水素系)と二相式(フッ素系)の使い分け
- 世界シェア8割の3MがPFAS撤退した「本当の理由」
- 3M撤退で生まれた市場空白と日本企業の商機
- 投資家・学生にとっての意味と注目企業
本記事は2026年6月21日時点の公開情報(各社IR・公式発表・報道)に基づく情報整理コンテンツです。特定銘柄の売買を推奨するものではなく、企業の立ち位置はあくまで冷却バリューチェーン上の構造を示すものです。投資判断は最新のIR資料をご確認のうえ、自己責任でお願いします。

データセンターの冷却液は大きく3タイプに分かれます。①水系(純水・PG25)=コールドプレート方式(DLC)で使う、安価で熱を運ぶ能力が高い液。②炭化水素系(単相式)=サーバーを丸ごと浸す液浸冷却用のオイル。③フッ素系誘電性流体(二相式)=沸騰させて冷やす最高効率の特殊液。このうち③のフッ素系で世界シェア約8割を握っていた米3Mが、PFAS(有機フッ素化合物)規制を背景に2025年末までの製造撤退を表明。これにより市場に巨大な空白が生まれ、ダイキン・ENEOS・出光興産といった日本企業が代替の受け皿として浮上しています。
そもそも「冷却液」はなぜ重要なのか
液冷システムというと、つい「ポンプ」や「CDU(冷却液分配ユニット)」といった装置に目が行きがちです。しかし、実際にGPUの熱を奪って運んでいる主役は「液体そのもの」です。装置がどれだけ優秀でも、流れる液体の性能が悪ければ冷却は成立しません。
冷却液には、相反する要求が課されます。「熱をよく奪うこと」「電気を通さないこと(または金属を腐食させないこと)」「安全であること」「環境負荷が低いこと」──これらをすべて満たす液体は限られており、だからこそ冷却液は高い技術と参入障壁を持つ「素材ビジネス」になっているのです。
冷却液は「血液」のようなものです。心臓(CDU・ポンプ)がいくら強くても、血液(冷却液)の質が悪ければ体(サーバー)は冷えません。しかも、その血液は電子部品にとって毒(ショートや腐食)であってはならない。この「冷やす力」と「無害さ」の両立が、冷却液の難しさです。

冷却液は「冷やし方」で3タイプに分かれる
冷却液の種類は、「どの冷却方式で使うか」で決まります。大きく分けると、コールドプレート方式(DLC)で使う水系と、液浸冷却で使う油・特殊液の2系統。さらに液浸は単相式と二相式で使う液が異なります。全体像を先に押さえましょう。
① 水系(純水・PG25)
- 安価・熱を運ぶ力が最強
- チップに直接触れない(配管内を流れる)
- 現在のAI GPUの主流
② 炭化水素系(単相式)
- サーバーを油に丸ごと浸す
- 液状のまま循環(相変化なし)
- ENEOS・出光が強い領域
③ フッ素系(二相式)
- 沸騰させて冷やす最高効率
- 誘電性(電気を通さない)
- 3M撤退で激震が走った領域
電気を通さない(絶縁性のある)液体のこと。電子部品を直接浸してもショートしないため、液浸冷却に使われる。水は電気を通すため、サーバーを直接浸すには使えない(コールドプレート内を流れる水系とは役割が違う)。
「水でサーバーを冷やすとショートするのでは?」という疑問の答えは、「水はチップに直接触れない」です。DLC(コールドプレート方式)では、水はあくまで金属板(コールドプレート)の配管の中を流れ、チップには触れません。一方、チップを液体に直接浸す液浸冷却では、電気を通さない油やフッ素液(誘電性流体)を使います。「水系か誘電性流体か」は、チップに触れるかどうかで決まるのです。

① 水系(PG25・純水)──DLCで使う「現在の主役」
現在のAIデータセンターで最も広く使われているのが、コールドプレート方式(DLC)で循環する水系の冷却液です。水は、あらゆる液体の中でも熱を運ぶ能力(比熱・熱伝導率)が極めて高く、しかも安価という、冷却液として理想的な性質を持ちます。
ただし、純粋な水をそのまま使うと、金属配管の腐食や、低温時の凍結、微生物の繁殖といった問題が起きます。そこで実際には、プロピレングリコールを約25%混ぜた「PG25」がよく使われます。IIJの解説によると、PG25はサーバー側(CDU二次側)の冷却液として広く採用されています。
水にプロピレングリコール(PG)を約25%混ぜた冷却液。防錆・防食性が高く、凍結しにくく、毒性が低い。クルマの不凍液(クーラント)と似た発想。DLCのコールドプレート内を循環してチップの熱を奪う。
| 項目 | 純水ベース | PG25 |
|---|---|---|
| 冷却力 | 最高 | 高い(純水よりやや低下) |
| 防錆・凍結対策 | 添加剤が必要 | 優れる |
| コスト | 最安 | 安い |
| 主な用途 | DLC(管理が行き届く環境) | DLCの標準的な選択肢 |
水系冷却液は安価なため、「冷却液そのもの」で大きく儲ける構造にはなりにくい領域です。ここでの投資妙味はむしろ、PG25を腐食なく安全に循環させる配管・継手・ポンプ・水質管理の側にあります。冷却液が水系の場合、利益が出るのは「液体を支える周辺部品」だと覚えておきましょう。

②③ 液浸冷却の「単相式」と「二相式」──使う液が違う
サーバーを液体に丸ごと浸す「液浸冷却」には、単相式と二相式の2方式があります。そして、この2方式は使う液体の種類がまったく異なります。ここが3M撤退問題を理解する核心です。
単相式(炭化水素系オイル)
仕組み:冷却液は常に液体のまま循環。サーバーの熱で温まった液をCDUで冷やして戻す。
使う液:炭化水素系オイル(植物由来・鉱物油系など)。PFASを含まないのが大きな利点。
代表製品:ENEOS「IXシリーズ」、出光興産「ICFシリーズ」
特徴:構造がシンプルで管理しやすい
二相式(フッ素系液体)
仕組み:チップの熱で液が沸騰→蒸気→冷却コイルで凝縮→液に戻るサイクル。相変化の潜熱で冷やす。
使う液:フッ素系の誘電性流体。PFASに該当するものが多い。
代表製品:(旧)3M「フロリナート」「Novec」、ダイキン「DAISAVE」、ケマーズ「Opteon」
特徴:冷却効率は最高だが液が高価
単相式=液体が液体のまま熱を運ぶ方式。二相式=液体が沸騰して気体(蒸気)に変化(相が2つ=二相)し、その「気化熱(潜熱)」で強力に冷やす方式。お湯が沸騰するときに大量の熱を吸うのと同じ原理で、二相式は冷却効率が高い。
最高効率の二相式で使うフッ素系液体の多くがPFASに該当します。そして、そのフッ素系液体で世界シェア約8割を握っていたのが3Mでした。3Mが撤退するということは、「二相式液浸の主力供給源が消える」ことを意味します。一方、単相式で使う炭化水素系オイルはPFASを含まないため、ENEOS・出光など日本の石油系企業に追い風となっています。

3M撤退とは何だったのか──時系列で整理
3M(スリーエム)は、1950年代にPFAS(有機フッ素化合物)を実用化したパイオニアであり、半導体・電子分野のフッ素系冷却液で世界をリードしてきました。その3Mが、2022年末に衝撃的な発表を行います。
Per- and Polyfluoroalkyl Substances。炭素とフッ素が強く結合した人工化合物の総称で、撥水・耐熱・絶縁性に優れる。一方、自然分解しにくく「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」とも呼ばれ、環境・健康への影響が懸念され、欧米で規制強化が進む。

なぜ3Mは「儲かる事業」を捨てたのか
3MのPFAS撤退は、単なる事業の選択と集中ではありません。背景には世界的なPFAS規制の強化と、巨額の訴訟リスクがあります。
EUではPFASを一括で規制する案がREACH規則で審議中。米国でもEPAによる飲料水規制やPFAS報告義務(2026年4月〜)が進む。規制が固まれば製造・使用が大きく制限される。
PFASによる環境汚染をめぐり、3Mは米国で巨額の和解金を支払う事態に。今後も訴訟リスクが続く事業を抱え続けるより、撤退するほうが合理的という判断。
「永遠の化学物質」を作り続ける企業というイメージは、ESG投資が重視される時代には大きな経営リスク。撤退は企業ブランドを守る側面もある。
「PFAS=すべて即座に禁止」ではありません。規制は用途・物質ごとに段階的で、半導体製造のように代替が難しい用途には例外・猶予が議論されています。また、フッ素液すべてが等しく問題なわけでもありません。ただし、3Mのような大手メーカーが「リスクを取らない」判断をした影響は、市場全体に大きく波及しています。冷却液の話は「環境規制×素材ビジネス×AI需要」が交差する複雑なテーマだと理解しておきましょう。

3M撤退で生まれた「市場空白」を埋めるプレイヤー
世界シェア8割の供給者が消える──これは関連企業にとって脅威であると同時に、巨大な商機です。撤退後の冷却液市場を埋めるプレイヤーを、「二相式(フッ素系)の代替」と「単相式(炭化水素系)への転換」の2方向で整理します。
二相式フッ素液(3Mの代替)
- ダイキン工業(6367):「DAISAVE」低GWP・引火点なし
- Chemours/ケマーズ(CC):「Opteon」HFO系
- AGC(5201):フッ素化学の有力企業
単相式オイル(PFASフリー)
- ENEOS(5020):「IXシリーズ」
- 出光興産(5019):「ICFシリーズ」
- ※ともに石油精製の技術を応用
関連素材・周辺
- ダイセル(4202):配管・継手用樹脂
- 日本液浸コンソーシアム:業界連携組織
- 3M(MMM):撤退側(参考)
ポイントは、3M撤退で「二相式」と「単相式」で勝者の顔ぶれが異なることです。二相式フッ素液の空白は、同じフッ素化学に強いダイキンやケマーズが埋めます。一方、そもそもPFASを使わない単相式オイルは、石油精製技術を持つENEOSや出光が「フッ素規制に強い選択肢」として攻勢をかけています。
ネット上では「3M撤退でAI冷却を日本4社が独占」といった見出しが見られますが、「独占」は誇張です。二相式ではケマーズ(米)など海外勢も代替に動いており、ダイキンのDAISAVEもまだ立ち上がり段階です。日本勢が「有力な選択肢として浮上した」のは事実ですが、市場を独占したわけではありません。煽り見出しを鵜呑みにせず、各社のIRで実際の販売実績を確認してください。

冷却液・液浸市場はどれだけ伸びるのか
3M撤退で供給側が揺れる一方、AI需要によって冷却液市場そのものは急拡大しています。調査会社により数値の幅はありますが、いずれも高い成長率を予測しています。
冷却液テーマの面白さは、「3M撤退で供給が細る」×「AI需要で需要が急増する」という需給ギャップにあります。供給が細るのに需要が増えれば、残ったプレイヤーには追い風です。ただし、二相式は規制リスクが残り、単相式・水系へのシフトも進んでいるため、「どの方式が主流になるか」が勝者を最終的に決めます。一本足の予想は禁物です。

あなたにとっての意味──投資家・学生・技術者の視点
冷却液は「素材ビジネス」であり、装置(CDU・ポンプ)とは別の投資軸です。注目すべきは、3M撤退の空白を誰が埋めるか。二相式フッ素液ならダイキン(6367)・ケマーズ・AGC(5201)、PFASフリーの単相式ならENEOS(5020)・出光興産(5019)。ただし、冷却液事業はどの企業も本業(空調・石油・化学)に比べれば売上比率が小さいのが現状です。テーマ性だけで判断せず、IRで冷却液の実販売規模を確認しましょう。
冷却液は化学・材料系の知識がAIインフラに直結する好例です。フッ素化学(ダイキン・AGC)、石油精製・潤滑油(ENEOS・出光)、高分子・樹脂(ダイセル)──いずれも「AI=情報系」では語れない領域。熱力学・流体力学・有機化学・環境規制(PFAS)が交差するテーマであり、化学メーカーの就活でも語れる旬の話題です。
冷却液選定は、冷却方式(DLC/単相液浸/二相液浸)と密接に結びつきます。「冷却力」だけでなく、材料適合性(腐食・膨潤)、安全性(引火点・毒性)、環境規制(PFAS該当性)、保証・メンテナンス性を総合的に評価する必要があります。特に二相式フッ素液はPFAS規制の動向次第で採用判断が変わるため、規制ニュースのウォッチが実務に直結します。

よくある誤解を整理する
| ❌ よくある誤解 | ✅ 実際はこう |
|---|---|
| 「水でサーバーを冷やすとショートする」 | DLCでは水はコールドプレートの配管内を流れ、チップに直接触れない。チップを直接浸す液浸では誘電性流体(電気を通さない液)を使う。 |
| 「冷却液はどれも同じようなもの」 | 水系・炭化水素系・フッ素系で性質・価格・規制リスクが大きく異なる。使う冷却方式によって最適な液が変わる。 |
| 「3M撤退で日本企業が市場を独占」 | 「独占」は誇張。二相式ではケマーズ(米)等も代替に動く。日本勢は有力な選択肢として浮上したが、独占ではない。 |
| 「PFAS=すべて即座に全面禁止」 | 規制は用途・物質ごとに段階的。半導体など代替困難な用途には例外・猶予が議論されている。一律禁止ではない。 |
| 「二相式が最高効率だから将来は二相式が主流」 | 二相式は効率は高いが規制リスク・コスト・メンテ性に課題。現在の主流はDLC(水系)で、方式間の競争は流動的。 |

まとめ:冷却液は「方式」と「規制」で読み解く
① 冷却液は3タイプ: 水系(PG25・純水/DLC用)、炭化水素系(単相式液浸/PFASフリー)、フッ素系誘電性流体(二相式液浸/高効率だがPFAS)。
② 水か誘電性流体かは「チップに触れるか」で決まる: DLCの水はチップに触れず、液浸の誘電性流体は直接浸す。
③ 3M撤退: フッ素系冷却液で世界シェア約8割の3Mが、PFAS規制・訴訟リスクを背景に2025年末までの製造撤退を表明。
④ 空白を埋めるのは: 二相式フッ素液はダイキン(6367)・ケマーズ・AGC(5201)、単相式オイルはENEOS(5020)・出光興産(5019)。
⑤ 市場: 供給が細る一方、AI需要で液浸市場はCAGR18〜26%級で拡大。需給ギャップが残存勢への追い風。
⑥ 注意点: 「日本独占」は誇張。冷却液は各社とも本業比で売上小。方式間競争・規制動向で勝者は流動的。
冷却液は、AIインフラの中でも「環境規制」「素材ビジネス」「AI需要」が交差する特殊なテーマです。3M撤退というニュースの本質は、「環境規制が冷却液の供給構造を塗り替え、日本の化学・石油企業に商機をもたらした」という構造変化にあります。ニュースの見出しだけでなく、この構造を押さえておくことが、テーマに振り回されない投資・学習の土台になります。
❓ よくある質問(FAQ)

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