- 「フィジカルAI関連銘柄30選」を何本も読んだが、結局どこが本命なのか分からない
- ハーモニックもナブテスコも「減速機」と書いてある。何が違うのか説明できない
- 株価は動いているが、本当に売上に立っているのかが判断できない
- ヒューマノイドの完成品は米中が先行。日本は本当に強いのか疑っている
わかります。フィジカルAI関連の記事は、ほとんどが「企業名と世界シェア○%」を並べた一覧表で終わっているんです。
でも投資家として本当に知りたいのは、そこではないですよね。「なぜその会社でなければならないのか」「その需要は決算のどこに現れているのか」——この2つです。
この記事では、企業リストを作りません。代わりにロボットの体を上から下まで分解して、各部品を誰が握っているかを構造で示します。そして各社のIR資料から実数を引いて、「もう売上に立っている会社」と「まだ期待だけの会社」を分けます。
この記事を読み終えたとき、あなたは決算短信を見て「この数字はフィジカルAIの実需だ」と自分で判定できるようになっているはずです。


なぜ「完成品」ではなく「部品」を見るべきなのか
フィジカルAIの記事はたいてい、Tesla(TSLA)のOptimusやFigure AI(非上場・米)、Unitree(非上場・中国)の話から始まります。でも投資家の立場では、そこは一番読みづらい場所なんです。
理由は単純で、完成品メーカーはまだ勝者が決まっていないから。米国勢も中国勢も日本勢も、量産の入口に立ったばかりです。ここに賭けるのは、勝ち馬を当てるゲームになります。
一方で、どのメーカーが勝っても必ず必要になる部品があります。関節を回す減速機、軸を支えるベアリング、力加減を測るセンサー。これらは「誰が勝つか」に関係なく需要が発生します。半導体投資でNVIDIA(NVDA)本体ではなく、その裏の先端パッケージ材料の日本企業を見る発想と同じ構造です。

構造の核心:ヒューマノイドは「関節の数」が違う
ここがこの記事で一番大事なところなので、ゆっくり説明させてください。
産業用ロボットは、工場でおなじみの「1本の腕」です。一般的な垂直多関節型は6軸。つまり関節が6つあり、そこに減速機が6個入ります。
ヒューマノイドはどうでしょう。腕が2本あるだけで、まず単純に2倍です。さらに脚が2本、腰、首、そして指。日刊工業新聞の報道では、ハーモニック・ドライブ・システムズ自身が「腕が2本あるため搭載数が倍に増える」「人間と同様に滑らかに手を動かすには、関節にも腕の相当量の減速機を搭載する必要がある」と説明しています。
言い換えると、ヒューマノイドが1台売れることは、産業用ロボットが数台売れることに相当する——部品メーカーから見れば、そういう話なんです。これを本記事では「軸数レバレッジ」と呼びます。
(垂直多関節の一般構成)
(機種差が非常に大きい)
ベアリング数(ミネベア例)


第1層:関節を握る2社を徹底解剖する
ハーモニック・ドライブ・システムズ(6324)|小型・軽量の絶対王者
フィジカルAIの部品層で、最も名前が挙がる企業です。波動歯車装置で世界的な高シェアを持ち、「ロボットの手首・指・首」といった小型で軽さが命の関節を得意とします。ヒューマノイドの上半身は、まさにこの領域です。
ただし——ここが他の記事があまり書かないところですが——数字を見ると期待と実績のギャップがはっきり見えます。
| 項目 | 2026年3月期 実績 | 2027年3月期 会社予想 |
|---|---|---|
| 売上高 | 595億57百万円(+7.0%) | 680億円(+14.2%) |
| 営業利益 | 25億67百万円 (前期は6百万円) | 62億円(+141.5%) |
| 受注高 | 616億13百万円(+16.2%) | ─ |
| 当期純利益 | 16億8百万円(△53.7%) | 45億円(+179.7%) |
同社は2024年10月、日刊工業新聞の報道で「ヒューマノイド向け減速機で2026年度に100億〜200億円の売上高を目指す」「約100億円の戦略投資」と表明していました。
では実績はどうか。2025年11月の決算説明会で、社長の丸山氏はAIロボット向けを「今期、受注ベースで25億円ぐらい」と説明しています。目標レンジの下限にも届いていません。
そして同社は2026年5月、決算短信でこう書きました。「AIロボット市場については(中略)現時点においては創成期にあることから、中期経営計画策定時に想定していた前提条件と比べ、社会実装の進展ペースについて想定との差異が生じつつある」。中期経営計画そのものを見直したのです。
これは悲観ではなく、「フィジカルAIは本命企業でも予定より遅れている」という一次情報です。投資判断の前提として、ここは絶対に押さえておくべきポイントです。

投資家が追うべきKPI:2030年度に売上1,000億円
同社は2026年5月13日、2026年度を初年度とする新中期経営計画(2026〜2030年度)を決議しました。重点3分野は「AIロボット」「航空・宇宙・防衛」「eモビリティ」です。
ここで注目してほしいのは、AIロボット単独に賭けていない点です。航空・宇宙・防衛という、より確実な需要を並べています。これは経営の巧拙というより、フィジカルAIの不確実性を織り込んだ現実的な設計と読めます。
ここが投資判断の核心です。営業利益率4.3%→15%、ROE2.0%→10%という道のりは、生半可な改善では届きません。裏を返せば、AIロボットの量産が本当に立ち上がることが前提に組み込まれている計画だということ。四半期ごとに「AIロボット向け受注額」を追跡できるかどうかが、この銘柄を持てるかの分かれ目になります。

ナブテスコ(6268)|中大型で世界シェア約60%、そして小型へ攻め込む
ナブテスコは、ハーモニックとよく並べられますが担当領域がまったく違います。同社の統合報告書と決算説明会資料によれば、精密減速機は可搬重量20kg以上の中大型産業用ロボットの関節用途で世界シェア約60%(同社推計)。重い物を扱う溶接・塗装ロボットの根元側が主戦場です。
主要顧客はファナック(6954)、安川電機(6506)、川崎重工業(7012)、KUKA(独)、ABB Robotics。世界のロボットメーカーがほぼ全員入っている——これが同社の凄みです。
そして2026年2月の決算説明会で、同社は明確に宣言しました。「20kg以下の小型ロボット向けで手首軸含めた6軸セット提案、コボット、ヒューマノイドへの参入で売上拡大を図る」。新製品「RVmini」「Monocrank」を投入し、波動歯車方式にも手を伸ばしています。つまりハーモニックの庭に入ってきたわけです。
| 比較項目 | ハーモニック(6324) | ナブテスコ(6268) | 意味すること |
|---|---|---|---|
| 主力方式 | 波動歯車装置 | RV(プラノセントリック) | 薄軽 vs 頑丈 |
| 得意な部位 | 手首・指・首(先端側) | 腰・肩・脚(根元側) | 競合より補完 |
| 直近売上高 | 595億円 26/3期 | 3,079億円 25/12期 | 約5倍の規模差 |
| ロボット依存度 | 高い(減速装置77.8%) | 低い(鉄道・航空・自動ドア等) | 感応度 vs 安定性 |
| 直近営業利益率 | 4.3% | 6.8%(26年計画8.5%) | 両社とも改善途上 |

同社の2026年2月の説明会資料には、投資家が見逃せない記述があります。「2025年4Qの受注は4四半期連続で回復。今期中に過去最高の受注額となる見通し」。2025年4Q受注は前期比+11%、前年同期比+28%でした。
生産能力は年115万台(津・常州・浜松の3工場)。稼働率は常州工場が110%、浜松工場が115%とすでにフル稼働を超えています(3直20日/月換算)。
ただし注意。この回復の主因は同社の説明では「中国・韓国のEVメーカー向け投資案件」と「半導体製造装置・AGV/AMRの拡販」です。ヒューマノイドはまだ寄与していません。だからこそ「本業が回復しながら、ヒューマノイドは無料のオプション」という構図になっているのが、この銘柄の面白いところです。
精密減速機 世界シェア
(3工場合計)
(前年同期比)
第2層:関節の「内側」を握る企業群
ミネベアミツミ(6479)|ベアリング107個という説得力
減速機の話ばかりされますが、減速機の中にも、その外にもベアリング(軸受)が必要です。ここで圧倒的なのがミネベアミツミです。
同社によれば、外径22mm以下のミニチュア・小径ボールベアリングで世界シェア60%以上(同社調べ)。他にも1直リチウムイオン電池用保護ICで世界シェア80%、HDD用ピボットアッセンブリーで90%という数字を公表しています。
そして2026年1月、同社はCES 2026に初出展し、ヒューマノイド向けソリューションを公開しました。ここが極めて重要です。
このハンドは指1本で5kgを持ち上げられ、指にひずみセンサーを内蔵して硬い物と柔らかい物を識別します。そして構成部品にはベアリング107個が使われています。
つまり日本の減速機トップとベアリング世界トップが手を組み、「ユニット売り」に踏み込んだということ。部品を1個ずつ売るより単価が上がり、置き換えられにくくなります。これはこの2社の株を見るうえで、シェア%より重要な変化です。
さらに同社は成長ドライバーを「5本の柱」として整理しており、その2番目にヒューマノイドロボット製品(ベアリング、ボールねじ、半導体、フレームレスモーター)を、1番目にAIサーバー製品(ファンモーター、圧力センサー、光コネクター)を置いています。データセンター冷却とフィジカルAIの両取りが可能な、珍しいポジションです。
センサー面でも、Φ9.6mm×9.0mmの最小・最軽量クラス6軸力覚センサーやMEMS6軸力覚センサーを展示。ロボットが「力加減」を知る部品まで手当てしています。

THK(6481)・日本精工(6471)・ニデック(6594)
THK(6481)は直動案内(リニアガイド)の世界的大手で、実は「SEED-Noid」というサービスロボットを自社開発している珍しい企業です。部品を売りながらロボットも作るため、業界の要求仕様を内側から知っています。業績も動意があり、2026年12月期第1四半期は売上収益690億円(前年同期比+27.4%)、営業利益76億円(同+364.4%)と大幅増収増益でした(同社1Q決算より)。
日本精工(NSK・6471)もベアリングと直動製品の大手。ヒューマノイドの脚部・腰部は繰り返し荷重が過酷で、ここは経験値がそのまま参入障壁になります。
ニデック(6594)はモーター世界大手ですが、フィジカルAI文脈で見るべきは子会社です。日本経済新聞の報道によれば、ニデックドライブテクノロジー(京都府向日市)は、売上高に占める減速機の比率を2029年3月期に5割へ高める計画。同社の2025年3月期売上高は1,073億円と報じられています。モーター屋が減速機に本気で寄せてきたという点で、業界構図の変化を示すニュースです。

第3層:電気を「力」に変える半導体
ここは本サイトが最も得意にしている領域です。詳しくはロボットの関節にGaNが載る理由となぜロボットは2時間しか動けないのかで解説していますが、要点だけ整理します。
ロボットが動く時、電池の直流電気をモーター用の交流に変える必要があります。その変換を担うのがパワー半導体。ここで熱が出るほど、電池が減り、放熱が必要になり、ロボットは重くなります。だからSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)という、損失の少ない材料が求められるわけです。
ローム(6963)はSiCとモータードライバの両方を持つ、この文脈で最も筋の通った企業です。ただし数字は正直に見る必要があります。2026年3月期はLSI事業が売上高2,183億9千万円(前期比+7.1%)でセグメント利益245億3千5百万円と黒字転換した一方、半導体素子事業は売上高2,052億円(+9.7%)ながら減損の影響で赤字が継続。SiCへの巨額投資が重く、フィジカルAIの恩恵より先に、事業構造の立て直しが課題という段階です。
富士電機(6504)と三菱電機(6503)も、パワー半導体とサーボの両方を持ちます。両社はデータセンター側でも主役なので、AIデータセンターの電力構造と合わせて見ると立体的に理解できます。
ルネサスエレクトロニクス(6723)は車載・産業用マイコンの大手で、京都ヒューマノイドアソシエーション(KyoHA)にも参画。ソニーグループ(6758)はイメージセンサーでロボットの「目」を握ります。

上流:半導体・電子部品
- ローム(6963):SiC・モータードライバ。ただし事業再建途上
- 富士電機(6504):パワー半導体・インバータ
- 三菱電機(6503):パワー半導体・FA・サーボ
- ルネサス(6723):産業用MCU/SoC
- ソニーG(6758):イメージセンサー(目)
- NVIDIA(NVDA):エッジ推論チップで規格を主導
中流:センサー・アクチュエータ ★日本の牙城
- ハーモニック(6324):波動歯車。手首・指・首
- ナブテスコ(6268):RV減速機。中大型で世界約60%
- ミネベアミツミ(6479):小径ベアリング世界60%超+力覚センサー
- THK(6481):直動案内。自社ロボットも開発
- 日本精工(6471):ベアリング・直動
- ニデック(6594):モーター+子会社で減速機強化
下流:ロボット本体・統合(参考)
- ファナック(6954):産業用ロボット・CNC
- 安川電機(6506):ACサーボ世界トップシェア
- 川崎重工業(7012):Kaleido(30軸)
- Tesla(TSLA):Optimus開発
- Figure AI(非上場・米):直接投資不可
- Unitree(非上場・中国):直接投資不可

実需組と思惑組を分ける、4つの質問
ここまで読んでいただいた方に、最も持ち帰ってほしいのがこの部分です。フィジカルAI関連は業績より先にニュースで株価が動く典型的なテーマ株です。だからこそ、自分で判定する道具が必要です。
私が使っている4つの質問を共有します。

見落とすと痛い、3つのリスク
リスク① 中国勢の量産圧力
ヒューマノイド部品では中国の関節メーカーが急拡大しています。ハーモニックの経営陣は「ハイエンド品では中国製に負けない」と述べていますが(週刊エコノミスト 2026年6月報道)、これは同時に「ローエンドは取られる」ことを認めているとも読めます。日本勢の勝ち筋は数量ではなく単価と精度に限定される可能性があります。
リスク② コストダウン圧力そのものが構造的
Goldman Sachsのリサーチは、ヒューマノイドの製造コストが年40%のペースで低下していると指摘しています。台数が増えても、1台あたりの部品単価は下がる。「台数×単価」の掛け算で、単価側がマイナスに効くことを織り込む必要があります。
リスク③ 中国EV・半導体という本業の景気
両社の足元の業績を動かしているのは、依然として産業用ロボットと半導体製造装置です。ハーモニックの中国セグメントは2026年3月期に売上40億46百万円(前期比△28.0%)と大きく落ちました。ヒューマノイドの夢と、中国の景気は同時に効きます。

この記事は、あなたにとってどう役立つか
誤解2「ハーモニックとナブテスコは競合」→ 従来は担当領域が違い、むしろ補完関係でした。ただしナブテスコが小型・ヒューマノイド参入を宣言したため、今後は競合化していきます。
誤解3「減速機さえ持っていれば安泰」→ 業界は部品単体売りからアクチュエータのユニット売りへ動いています。単体しか作れない会社は、価値の取り分が減る可能性があります。

よくある質問(FAQ)
次に読むべき記事
企業の話から、その裏にある技術の話へ進むと理解が一段深まります。特に「なぜ減速機とパワー半導体がこれほど重要なのか」は、物理の制約から理解するのが最短です。
【主な出典】ハーモニック・ドライブ・システムズ 2026年3月期決算短信(2026年5月13日)・同第2四半期決算説明会スクリプト(2025年11月19日)・中期経営計画/ナブテスコ 2025年12月期決算説明会資料(2026年2月19日)・Nabtesco Value Report 2025/ミネベアミツミ プレスリリース(2025年12月16日)/安川電機 2026年2月期決算短信/ローム 2026年3月期決算短信/日刊工業新聞・日本経済新聞・日経クロステック・EE Times Japan・Goldman Sachs Research の各報道。

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