「i線」「KrF」「ArF」「EUV」──半導体の解説でよく出てくる光源の名前ですが、こんなふうに感じていませんか?
- i線・KrF・ArF・EUVの順番と違いが頭に入らない
- 名前は知っているが、「なぜその順で進化したか」がわからない
- ASMLが独占したのは知っているが、Cymerやギガフォトンの役割がピンとこない
- ニコン・キヤノンがいつ・どこで脱落したのか知りたい
- i線→KrF→ArF→ArF液浸→EUVの50年の進化を1枚の年表に
- 各光源の波長・対応世代・代表企業を比較表で整理
- 「なぜ毎回ボトルネックは光源だったのか」という物理の必然
- 光源を作るCymer(米)vs ギガフォトン(コマツ子会社)の構図
- ニコン・キヤノンが脱落した歴史的な転換点
シリーズ第1回(リソグラフィとは?)で「波長が短いほど細い線が引ける」という大原則を押さえました。今回はその歴史を、1980年代から2020年代まで一気通貫で整理します。
| 回 | タイトル | 区分 |
|---|---|---|
| 第1回 | リソグラフィとは?「設計図を焼き付ける」工程 | 入口 |
| 第2回 | 📍 リソグラフィ光源の歴史|i線→KrF→ArF→EUV(この記事) | 時系列 |
| 第3回 | ArF液浸露光とは? | 技術 |
| 第4回 | EUVとは?13.5nmの極端紫外線 | 技術 |
| 第5回 | High-NA EUVとは?2nm世代の主役 | 次世代 |
| 第6回 | マルチパターニングとは? | 補完 |
| 第7回 | フォトマスク・レチクルとは? | 材料 |
| 第8回 | レジストとは?光で変質する薬品 | 材料 |
| 第9回 | ASMLが世界を握る理由|EUV独占の構造 | 業界 |

50年の進化を1枚で──まずは結論
リソグラフィの光源は、水銀ランプ(i線・365nm)→ エキシマレーザ(KrF・248nm → ArF・193nm)→ ArF液浸(実効134nm相当)→ EUV(13.5nm)と進化してきました。約30年で波長は27分の1に。波長を短くするたびに「装置構造」「光源」「レジスト」「マスク」が大変革を求められ、そのたびに勝者が入れ替わってきたのが歴史の特徴です。最後の関門であるEUVを乗り越えたのはオランダのASMLただ1社で、これがニコン・キヤノンが先端から脱落した決定的な転換点となりました。
📅 光源進化の年表(1980年代〜現在)
水銀の発光線を使ったランプ光源。g線(436nm)→i線(365nm)と進化。350nm世代までを支えた基盤技術。
ランプからレーザへの転換点。1987年に国内半導体メーカーへ初納入(出典:応用物理学会誌)。化学増幅型レジストの開発と組み合わさり、250〜130nm世代を支える。
90nm世代以降の主役。F2レーザ(157nm)の開発が頓挫し、業界はArFを延命する道を選択。
ArFと同じ193nmレーザだが、レンズとウェハの間を水で満たし実効波長を134nm相当に短縮。日経クロステックの報道によれば、ASMLは2007年に37nm解像のArF液浸装置を発表。45〜7nm世代を10年以上支える。
構想から30年以上を経て実用化。ASMLが2018年に20台、2019年に30台以上を出荷(出典:EE Times Japan)。TSMCの7nm改良版(N7+)から本格採用され、5nm/3nm世代の必須技術に。

5つの光源を一覧で比較する
各光源の特徴を、波長・対応世代・装置の主な勝者で整理します。「i線→KrFはランプからレーザへ」「ArF→液浸は水を入れた」「液浸→EUVはまったく別の光源」という3つの大ジャンプがあった点に注目してください。
| 光源 | 波長 | 時代 | 対応世代 | 装置の主な勝者 |
|---|---|---|---|---|
| i線 | 365 nm | 1990s前半 | 350nm〜 | ニコン・キヤノン |
| KrF | 248 nm | 1990s後半〜 | 250〜130nm | ニコン・キヤノン・ASML |
| ArF | 193 nm | 2000s前半〜 | 90〜45nm | ASML優位+ニコン |
| ArF液浸 | 193 nm(実効134nm) | 2007年〜 | 45〜7nm | ASML圧勝 |
| EUV | 13.5 nm | 2019年〜 | 7nm以降 | ASML独占 |
出典:日経クロステック、応用物理学会誌、TEL museum等の資料を基に作成。

歴史を貫く「3つの大ジャンプ」
50年の歴史をざっくり眺めると、3回の大きなジャンプが見えてきます。それぞれが業界の勢力図を塗り替える転換点でした。
🪜 ジャンプ① ランプ → レーザ(i線 → KrF)
水銀ランプは「波長365nm(i線)が物理的下限」でした。これ以上短くするには発光原理ごと変える必要があり、エキシマレーザが解になりました。同時にレジストもh線・i線用の樹脂から化学増幅型樹脂へ大変革。「光源 × レジスト」のセットで世代が進む構図がここで定着しました。
🪜 ジャンプ② ArF → ArF液浸(水を挟む)
ArFの次は「F2レーザ(157nm)」のはずでした。しかし新光源の開発が難航し、業界は「光源を変えずにレンズとウェハの間に水を入れる」という奇策で乗り切りました。プールの中の物体が大きく見えるのと同じ原理(屈折率1.44)で、波長193nmが実効134nm相当に短くなる。これがArF液浸の発想です。詳しくは第3回で解説します。
日経クロステックによれば、ASMLは2007年に開口数1.35のArF液浸装置「XT:1900i」で37nmを解像し、業界の主導権を確立しました。この延命策のおかげで、業界はEUV量産までの10年以上の時間を稼ぐことができました。
🪜 ジャンプ③ ArF液浸 → EUV(光源を作り直す)
ArF液浸の限界が見えるなか、業界は構想から30年以上かけてEUV(13.5nm)の実用化に挑みました。EUVは普通のレンズで集光できず、真空中で多層膜ミラーを反射させながら導く必要があり、しかも光源はスズの液滴に高出力レーザを当ててプラズマ化する(LPP方式)という別物です。応用物理学会誌や東京エレクトロンの解説によれば、この光源開発で生き残ったのは米Cymer(現ASML子会社)と日本のギガフォトン(コマツ子会社)の2社のみ。EUV量産においてはCymerが主役になりました。

関連企業マップ──「光源を作る企業」が業界の鍵
リソグラフィの解説では「ASML」「ニコン」「キヤノン」ばかりが語られますが、その内部で「光源そのもの」を作っている企業こそ、歴史を動かしてきた裏の主役です。投資家視点では、装置メーカーと光源メーカーを分けて理解することが重要です。
露光装置メーカー
- ASML(ASML.AS)
EUV独占/全光源を扱う - ニコン(7731)
ArF液浸・KrF・i線 - キヤノン(7751)
i線・KrF(成熟ノード強い)
光源メーカー(裏の主役)
- Cymer(ASML子会社・米)
EUV光源で量産主役 - ギガフォトン(コマツ 6301子会社)
ArFエキシマレーザでシェア60%超(2010年実績) - TRUMPF(独・非上場)
EUV用CO2レーザ供給 - Zeiss(独・非上場)
レンズ・ミラー光学系
使う側(ユーザー)
- TSMC(2330.TW)
EUV最大ユーザー - Samsung/SK hynix
ロジック・メモリ両方でEUV - Intel(INTC)
High-NA EUVに先行投資 - Rapidus(非上場)
2nmでEUV採用予定
ArFエキシマレーザの世界では、ギガフォトン(コマツ子会社)が2010年に約60%のシェアを獲得(出典:NEDOウェブマガジン)。一方でEUV光源はASMLが2013年にCymerを買収し事実上の自社内製化。光源領域の競争力が、装置市場の支配力に直結しています。

今、どの世代でどの光源が使われているか
重要なのは、古い光源は廃止されないということ。1チップを作るのに、層によって光源を使い分けるのが現代の半導体製造です。
あなたにとっての意味──投資家・学生・技術者
光源の歴史は「装置メーカー」と「光源メーカー」が別々の競争軸であることを示しています。ASMLはCymerを買収して光源を内製化、ニコンはギガフォトン(コマツ)と組む構図。コマツ(6301)は建機メーカーとして見られがちですが、子会社ギガフォトンを通じて半導体露光光源の世界2強の一角です。「装置か材料か」だけでなく「光源か」も投資の視点に加えると、業界構造の解像度が上がります。
光源開発はレーザ物理・プラズマ物理・光学設計・制御工学・材料科学の総合格闘技です。電気電子系だけでなく、応用物理・機械・化学系の学生にも門戸が開かれています。エキシマレーザ・EUV LPP光源を開発するギガフォトン、TRUMPF、ASML/Cymerは、いずれも理系大学院の研究テーマと地続きの世界です。
光源の進化は常に「波長を短くしようとして失敗 → 既存光源を延命する奇策」の繰り返しでした。F2レーザの挫折→ArF液浸への迂回、High-NA EUVの遅延→マルチパターニング併用など。担当工程外の業界ニュースを読むときも、この「本命と延命策の併存」というパターンを知っておくと、技術ニュースの解像度が変わります。

よくある誤解の整理
最先端3nmチップでも、配線上層など微細化が要らない層では今もKrF・i線が現役。日経クロステックによれば、キヤノンの2024年12月期の露光装置販売は233台に達し、i線・KrFが主力。「古い光源=消滅」ではありません。
EUVは波長が桁違いに短く(193nm→13.5nm)、レンズが使えない・真空が必要・光源原理がまったく違う──ほぼ別物です。ArFが「進化したEUV」になったわけではなく、業界はEUVのために30年以上の別ルート開発を必要としました。
ASMLは2013年にCymerを買収してEUV光源を内製化しましたが、それ以前のArFエキシマレーザではCymerとギガフォトン(コマツ子会社)の2社競合。日本のニコン装置にはギガフォトン光源が搭載されるなど、装置と光源は別の競争軸でした。
i線・KrF時代の1990年代、ニコン・キヤノンは世界シェア合計で7〜8割を握っていた時代がありました。ArF液浸〜EUVのジャンプで勢力が逆転したものの、約20年間は日本が世界を牽引した歴史があります。

まとめ:光源進化の全体像
① 5世代の光源:i線(365nm)→ KrF(248nm)→ ArF(193nm)→ ArF液浸(実効134nm)→ EUV(13.5nm)。約30年で波長は27分の1に。
② 3つの大ジャンプ:(1) ランプ→レーザ、(2) ArFに水を挟む(液浸)、(3) ArF液浸→EUV(光源原理ごと変更)。
③ 装置と光源は別の競争軸:装置はASML・ニコン・キヤノン、光源はCymer(ASML子会社)・ギガフォトン(コマツ子会社)・TRUMPF。
④ 古い光源は今も現役:3nm世代でも層によってi線・KrFが使われる「使い分け」の世界。
⑤ 日本勢の歴史:i線・KrF時代に世界シェア7〜8割→ArF液浸・EUVで脱落。脱落は20年かけて段階的に進行。
❓ よくある質問(FAQ)

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| 第5回 | High-NA EUVとは?2nm世代の主役 | 次世代 |
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