液冷の部品に使う材料とは、冷却液に直接触れる部分の材料(接液材料)のことです。コールドプレートは銅、CDU(冷却液分配ユニット)の配管や継手はステンレス、ホースやシールは EPDM・フッ素ゴム・PTFE が中心になります。
部品ごとの解説はあっても、材料を横断して液との相性まで並べた資料は多くありません。この記事は、OCP の PG25 ガイドライン(2026年9月)と ASHRAE の水冷サーバーの資料を読み比べて、金属と樹脂・ゴムを表にしました。相性は回路全体で決まります。
表から見たい方は 金属の表(銅・ステンレス・アルミ・黄銅) /樹脂・ゴムの表 /PG25との相性の確かめ方
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液冷の部品に使う材料とは
先に結論
液冷の部品に使う材料とは、冷却液に直接触れる部分の材料(接液材料、wetted materials) のことです。コールドプレートは熱をよく伝える銅 、CDU の配管や熱交換器、継手は腐食に強いステンレス 、ホースやシールにはEPDM (エチレンプロピレンゴム)やフッ素ゴム(FKM) 、PTFE などが使われます。
大事なのは「1つの部品の材料」より「回路全体の組み合わせ」です。OCP の PG25 ガイドライン(2026年9月)は、冷却液に触れるすべての部品(コールドプレート・CDU・ホース・ポンプのシール・熱交換器・クイックディスコネクトのシール)の相性を、最高運転温度で確かめるよう求めています。アルミは、銅などほかの金属と同じ液に触れると腐食を速めるため通常は避け、黄銅は亜鉛が15%を超えると脱亜鉛腐食を起こしやすいので注意、めっきした継手は摩耗で下地が出るので実証されるまで避ける、というのが2つの資料(OCP・ASHRAE)の共通した考え方です。
用語メモ:接液材料(wetted materials)
冷却液に直接触れる材料。配管・継手・ポンプ・熱交換器・コールドプレートの内側・シールやホースの内面など、回路のすべての部品が対象です。
用語メモ:PG25
水にプロピレングリコール(PG)を体積で約25%混ぜ、腐食抑制剤を加えた冷却液。コールドプレート方式(直接液冷)のサーバー側の回路でよく使われます。
接液材料とは:液に触れる部品は、思ったより多い
液冷の回路は、GPU の上のコールドプレートから、サーバーの中の細い配管、ラックの中のマニフォールド、クイックディスコネクト(UQD)、ホース、CDU の中のポンプ・熱交換器・配管まで、液が通る道のすべてでできています。液に触れる材料は、見える金属の管だけではありません。ポンプの軸のシール、継手の O リング、ホースの内面の層、センサーの先端、ねじのシール剤まで含みます。
OCP のガイドラインは、相性を確かめる対象として「コールドプレート、CDU、ホースと配管、ポンプのシール、熱交換器、クイックディスコネクトのシール」を挙げています。ASHRAE の白書も、「冷却液に触れる材料の数は予想より多い」として、設計者が部品メーカーに接液材料の一覧を出させ、回路の端から端まで確かめ続けるよう勧めています。
部品
液に触れる部分
よく使われる材料
コールドプレート 内側の流路(マイクロチャネル)、ろう付けの接合部 銅、銅のろう材
配管・マニフォールド 管の内面 ステンレス、銅
クイックディスコネクト(UQD) 本体、シール ステンレス本体、EPDM などのシール
ホース 内面の層 EPDM、フッ素系の樹脂
CDU ポンプのシール、熱交換器の板、配管、フィルター ステンレス、EPDM、フッ素ゴム
センサー・ねじ部 先端、ねじのシール ステンレス、PTFE テープ・シール剤
たとえるなら
接液材料の管理は、料理の「アレルギー表示」に似ています。主役の食材だけでなく、調味料や油、まな板まで含めて確かめないと、どこかで混ざります。液冷の回路も、管の材料だけでなく、シールやホースの内面まで含めて一覧にしないと、1か所の材料が液を汚し、回路全体の腐食につながります。
金属:銅・ステンレスが中心。アルミと黄銅は条件つき
金属で大事なのは、「1つの金属が液に耐えるか」だけでなく、「2種類以上の金属が同じ液に触れたとき何が起きるか」です。種類の違う金属が電気を通す液でつながると、電池と同じ原理で片方が溶けていきます(ガルバニック腐食)。液冷の回路は銅・ステンレス・黄銅・めっきなど複数の金属が混ざるので、腐食抑制剤を入れた冷却液と、材料の組み合わせの両方で守ります。
金属
OCP(PG25 との相性の表3)
ASHRAE(水冷サーバーの接液材料の表2)
使われる場所
銅 可。CDA110 などの純銅。ろう材は BCuP 系など 可(サーバー側・設備側とも)。鉛フリーの銅合金も コールドプレート、配管
ステンレス 304L・316L 以上が望ましい。303・410 も多くは可 可。溶体化・不動態化処理(溶接の熱で表面のクロムが失われるため) CDU の配管・熱交換器、継手、クイックコネクタ本体
黄銅(真鍮) 亜鉛15%未満が望ましい。15%超は脱亜鉛腐食に注意、ISO 6509 で確かめる 亜鉛15%未満なら可。クロム・ニッケルめっきの黄銅も一覧にある 継手、バルブ
アルミ 表3にない 通常は避ける(ほかの金属のガルバニック腐食の触媒になりうる)。表面処理で液に直接触れないようにすれば使われている。誘電性の液なら可 一部のコールドプレート、ラジエーター
ニッケル・めっき 高ニッケル合金は Hastelloy B など還元環境向けを避ける。ニッケル・クロムめっきのクイックコネクタは実証されるまで避ける めっき黄銅は一覧にある めっき部品
チタン Grade 2 が可 — 熱交換器など
炭素鋼 表3にない CDU の設備側(FWS)だけ。鋼用の腐食抑制剤を保つ条件 設備側の配管
注意: めっきの継手が「実証されるまで避ける」とされるのは、めっきそのものが悪いからではありません。何度も抜き差しするうちにめっきが摩耗して下地の金属が出ると、めっきと下地の異種金属の組み合わせが腐食を速めるおそれがあるからです。黄銅が腐食すれば亜鉛や銅が液に溶け出し、銅のコールドプレートへの長期的な影響はまだ確かめられていない、と OCP は書いています。
コールドプレートの銅とアルミの比較(熱の伝えやすさ・重さ・値段)は、コールドプレートの記事に詳しく書いています。本記事では「アルミはほかの金属と同じ液に触れさせない」という回路側の注意に絞りました。
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ホース、O リング、ポンプのシール、配管の一部には樹脂やゴムを使います。金属と違って、同じ名前の材料でも配合(架橋剤・可塑剤・添加剤)で性質が大きく変わるため、OCP は「表は出発点で、網羅的な一覧ではない。材料の供給元と直接確かめる」と念を押しています。
材料
正式名
OCP(PG25 との相性の表4)
ASHRAE(表2)
主な使い方
EPDM エチレンプロピレンジエンゴム 可。過酸化物架橋を推奨。硫黄架橋は硫酸塩を液に出し、腐食の原因になるので注意 可(サーバー側・設備側とも) ホース、O リング、シール
FKM フッ素ゴム(Viton など) 可(Viton A・GF・ETP) 可 シール、O リング
PTFE ポリテトラフルオロエチレン 可 可。ねじのテープにも シール、ライニング、ねじのテープ
FEP フッ素化エチレンプロピレン 可 可 チューブの内面
PP ポリプロピレン 可 可 タンク、配管部品
HDPE / PE 高密度ポリエチレン 可 可(PE) タンク、配管
PEEK ポリエーテルエーテルケトン 可 — 耐熱の部品
PSU / PPSU ポリサルホン類 — 可(両側) 透明な配管部品、継手
PPS ポリフェニレンサルファイド GF40 配合は評価中 可 ポンプ部品
NBR / CR / シリコーン ニトリルゴム・クロロプレンゴム・シリコーンゴム — 一覧にある(NBR はサーバー側) 一部のシール・ホース
PA(ナイロン) ポリアミド PA11・PA12(無可塑)・PA66+GF30 は評価中 可 継手、ホース
この表でいちばん実務に効くのは、EPDM の行です。同じ EPDM でも、ゴムを固める(架橋する)方法が硫黄か過酸化物かで、液への影響が違います。硫黄架橋の EPDM は時間とともに硫酸塩を液に溶かし出し、金属の腐食の原因になるため、OCP は過酸化物架橋を推奨しています。「EPDM だから大丈夫」ではなく、「どの EPDM か」まで確かめる必要があります。
ポイント: 樹脂・ゴムは「材料名」だけでは決まらない。配合と架橋の方法まで含めて、供給元と確かめるのが2つの資料の共通した助言です。
冷却液PG25の中身と、材料との相性の確かめ方
PG25 は、水にプロピレングリコールを体積で約25%(OCP の表では 24.5〜27.5%)混ぜ、腐食抑制剤を加えた冷却液です。プロピレングリコールを入れる目的は、微生物を増やさない(静菌)ことと、輸送・保管・運転での凍結を防ぐことで、OCP の表では凍結点は -13〜-10℃です。腐食抑制剤は、回路の金属の表面に保護の層を作ることで腐食を防ぎます。
材料との相性で気をつける点は3つです。
最高運転温度で確かめる
相性は温度が高いほど厳しくなる。OCP は、システムの最高運転温度で確かめ、部品を替えたときも確かめ直すよう求めている。
抑制剤は消費される
保護層を作るたびに抑制剤は減る。供給元の勧める頻度で分析し、減ったら供給元が承認した添加剤だけで戻す。承認のない添加剤は、析出による詰まり・熱伝達の低下・腐食の加速を招きうる。
液が材料を、材料が液を傷める
硫黄架橋の EPDM が硫酸塩を、黄銅の腐食が亜鉛を液に出すように、材料の側から液が汚れることもある。だから材料の一覧と液の分析はセットで行う。
24.5〜27.5%
PG25 のプロピレングリコールの体積割合(代表値)
出典:OCP「PG25 Guidelines」表1(2026年9月)
-13〜-10℃
PG25 の凍結点(代表値)
出典:OCP「PG25 Guidelines」表1(2026年9月)
8.0〜10.5
PG25 の pH(従来型の抑制剤の場合。OAT 系は 7.0〜10.5)
出典:OCP「PG25 Guidelines」表1(2026年9月)
注意: OCP の表1は「代表値で、仕様ではない」と明記されています。実際の値は使う冷却液の供給元の資料で確かめてください。冷却液の種類そのもの(水系・炭化水素系・フッ素系)の違いは、冷却液の記事に書いています。
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部品ごとに見る、材料の組み合わせ
熱の流れの順に、部品ごとの材料の組み合わせを並べます。どの部品も「金属は銅かステンレス、やわらかい所は EPDM かフッ素系」という骨格は同じで、違いは熱を伝える役か、漏らさない役か、です。
部品
熱の流れでの役
材料の組み合わせ
気をつける点
コールドプレート GPU の熱を液に移す 銅の板と流路、銅のろう材(BCuP 系など)で接合 ASHRAE は銅配管の接合にろう付けを推奨し、はんだ付けは空隙が多く信頼性が低いので推奨しない
サーバー内の配管・ホース 液をコールドプレートへ運ぶ 銅・ステンレスの管、EPDM やフッ素系のホース ホースの内面の層が接液材料。架橋の方法まで確かめる
クイックディスコネクト(UQD) 抜き差ししても漏らさない ステンレスの本体、EPDM などのシール OCP はステンレス製を使い、めっき品は実証されるまで避けるとしている
マニフォールド ラック内で液を分ける・集める ステンレス 多くの UQD がつく。異種金属を混ぜない
CDU サーバー側と設備側の液を分け、熱を渡す ステンレスの配管・熱交換器、ポンプのシール(EPDM・フッ素ゴム)、フィルター 設備側(FWS)は炭素鋼が使われることもあり、鋼用の抑制剤を保つ
CDU が「サーバー側と設備側の液を分ける」のは、材料の面でも意味があります。サーバー側(TCS)は銅とステンレスに合わせた PG25 の回路、設備側(FWS)は冷却塔やチラーにつながる建物の水の回路で、使われる金属も水質も違います。CDU の熱交換器でこの2つを分けておくことで、設備側の水質の影響がサーバーのコールドプレートまで届かないようにしています。
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材料と部品に関わる会社
接液材料の話は、素材(銅・ステンレス・ゴム)と部品(配管・継手・ポンプ・CDU)の会社がつながる場所です。ここでは、このサイトで企業記事のある会社を、液冷の部品の役割に沿って並べます。素材そのもの(ステンレス鋼・EPDM)のメーカーは、本記事では確かめていないので載せていません。
配管・継手(液を運ぶ・つなぐ)
三桜工業 (6584):自動車の配管の技術を液冷の配管へ
ポンプ・CDU(液を回す・熱を渡す)
荏原製作所 (6361):液を回すポンプ
ニデック (6594):モーターの会社が作る水冷 CDU
使う側(回路を設計し運用する)
データセンター事業者・サーバーメーカー :接液材料の一覧を集め、冷却液の分析と合わせて管理する
投資の目で見るときは、「材料そのもの」より「材料を正しく組み合わせて漏らさず回す部品」に価値があることを押さえてください。銅やステンレスは汎用の素材で、差がつくのは継手のシール・ポンプの軸受・CDU の熱交換器のような、材料と設計が一体になった部品です。
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あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ: 設備・施工・サーバーの仕事では、部品を1つ替えるだけでも接液材料が変わります。発注のとき部品メーカーに「接液材料の一覧」を求め、液の供給元の相性表と突き合わせる習慣が、腐食と漏れを防ぐいちばん確かな方法です(OCP・ASHRAE の両方がそう勧めています)。
投資家の方へ: 液冷の銘柄を見るときは、「何の素材か」ではなく「材料と設計を合わせて漏らさない部品を作れるか」で見ると、継手・ポンプ・CDU の会社の位置づけがはっきりします。推奨ではなく、構造の話です。
学生・就活中の方へ: ガルバニック腐食、ゴムの架橋、腐食抑制剤の保護層は、材料工学・化学・機械工学の基本がそのまま使われている例です。「AIインフラ=情報系」ではなく、材料・化学の専攻がそのまま活きる分野です。
よくある誤解
誤解1:材料は部品ごとに決めればよい
回路全体で異種金属が同じ液に触れるので、組み合わせで決めます。1つの部品の黄銅やめっきが、別の部品の銅を腐食させることがあります。
誤解2:EPDM なら何でも同じ
硫黄架橋の EPDM は硫酸塩を液に出し、腐食の原因になります。OCP は過酸化物架橋を推奨しています。配合まで確かめる必要があります。
誤解3:PG25 は入れれば永久に効く
腐食抑制剤は保護層を作りながら消費されます。定期的に分析し、供給元が承認した添加剤だけで戻すのが前提です。
誤解4:アルミは軽くて熱を伝えるので液冷に向く
ほかの金属と同じ液に触れるとガルバニック腐食を速めるため、ASHRAE は通常は避けるとしています。表面処理で液に直接触れないようにした場合や、誘電性の液なら使われています。
まとめ
液冷の部品の材料とは、冷却液に触れる「接液材料」。コールドプレートは銅、配管・CDU・継手はステンレス、シールやホースは EPDM・フッ素ゴム・PTFE が定番
大事なのは回路全体の組み合わせ。異種金属が同じ液に触れると腐食が進むので、アルミは通常避け、黄銅は亜鉛の少ないものを選び、めっき品は実証されるまで避ける
樹脂・ゴムは材料名だけでは決まらない。EPDM は過酸化物架橋を推奨(硫黄架橋は硫酸塩を出す)
PG25 はプロピレングリコール約25%+腐食抑制剤+水。抑制剤は消費されるので、分析して承認された添加剤で戻す
確かめ方は OCP・ASHRAE の資料が共通:部品メーカーに接液材料の一覧を求め、最高運転温度で相性を確かめる
よくある質問
Q. 液冷の部品に使う材料とは何ですか?
A. 冷却液に触れる部分の材料(接液材料)です。コールドプレートは銅、配管やCDUはステンレス、シールやホースはEPDMやフッ素ゴムです。
Q. CDUの配管やタンクは何の材料ですか?
A. 配管や熱交換器はステンレスが中心で、ポンプのシールにはEPDMやフッ素ゴム、設備側の配管には条件つきで炭素鋼が使われることもあります。
Q. 液冷の樹脂やゴムは何を選べばよいですか?
A. EPDM、フッ素ゴム、PTFE、PP、PEEKなどが定番です。同じ名前でも配合で性質が変わるので、供給元と確かめます。
Q. PG25と相性の悪い材料はありますか?
A. アルミはほかの金属と同じ液に触れると腐食を速めるため通常避けます。亜鉛の多い黄銅、めっきした継手、硫黄架橋のEPDMも注意が要ります。
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