露光装置とは、回路の原版の模様を、光でウエハーに焼き付ける装置です。半導体の工場でいちばん高価で、いちばん精密な装置といわれ、最先端の1台はオランダのASMLしか作れません。ニュースで「露光装置」「ステッパー」「スキャナー」と聞いても、何が違うのかは意外と説明されていません。
こんな疑問はありませんか?
- 露光装置の中は、どうなっているの?
- ステッパーとスキャナーは、何が違うの?
- i線・KrF・ArF・EUVは、装置の何が違うの?
- ASML・ニコン・キヤノンは、それぞれ何が得意なの?
この記事でわかること
- 露光装置の5つの部品と、縮小して焼き付ける仕組み
- ステッパーとスキャナーの違い(動き方)
- 光源で分ける4つの種類と、使われる場所
- 性能の3つの物差し(解像力・重ね合わせ・スループット)
- ASML・ニコン・キヤノンの得意分野
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前工程(ウェーハに回路を作る)
基板
成膜
露光 ←ココ
エッチング
ドーピング
CMP
洗浄
配線
計測
後工程(チップに切り分けて仕上げる)
ウェーハテスト
バックグラインド
ダイシング
ボンディング
封止
最終テスト
先端パッケージ
露光装置は「露光」の工程の主役です。成膜で積んだ膜の上のレジストに模様を焼き付け、次のエッチングで削る形を決めます。
露光装置とは?先に結論
先に結論
露光装置とは、回路の原版(レチクル)に光を通し、レンズで模様を小さくして、ウエハーの上のレジストに焼き付ける装置です。1枚のウエハーに、同じ模様を何百回も並べて焼き付けます。
種類は2つの軸で分けられます。1つは動き方で、模様を一度に写すステッパーと、細い帯の光の下でレチクルとウエハーを同時に動かして写すスキャナー。もう1つは光源で、i線・KrF・ArF・EUVの4種類です。いまの主流はスキャナーで、最先端のEUVの装置はASMLだけが出しています。ニコンはArF液浸、キヤノンはi線とKrF、そしてナノインプリントに力を入れています。
用語メモ:レチクル
回路の模様を描いた原版(フォトマスク)。露光装置はレチクルの模様を縮小してウエハーに写します。
用語メモ:レジスト
光が当たると性質が変わる薬品の膜。露光のあとに現像すると、光が当たった所(または当たらなかった所)だけが残り、模様になります。
露光装置の中は、5つの部品でできている
キヤノンの説明によると、露光装置の中は大きく5つに分けられます。光を作る照明系、原版を載せるレチクルステージ、何枚ものレンズを重ねた投影光学系、ウエハーを載せるウエハーステージ、ウエハーの位置を測るアライメントスコープです。
| 部品 |
役割 |
| 照明系 | 光源の光を、明るく均一な光にそろえる |
| レチクルステージ | 回路の原版(レチクル)を載せて動かす |
| 投影光学系 | 何枚ものレンズで、レチクルの模様を小さくしてウエハーに結ぶ |
| ウエハーステージ | ウエハーを載せて、次に焼き付ける場所へ正確に動かす |
| アライメントスコープ | ウエハーの位置を測り、前の層の模様とずれないように合わせる |
模様は、そのままの大きさではなく小さくして焼き付けます。ニコンのi線ステッパーは5分の1、ASMLのEUVの装置は4分の1に縮小します。原版を大きく作れるので、原版の小さな傷やゴミの影響を小さくできます。
たとえるなら
露光装置は「巨大で超精密なスライド映写機」です。スライド(レチクル)に光を当て、レンズで縮めてスクリーン(ウエハー)に映します。違うのは、スクリーンを何百回も動かして同じ絵を並べ、しかも前に映した絵とナノメートル単位で重ねる点です。
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ステッパーとスキャナーの違い
露光装置は、ウエハーの上の1区画(ショット)を焼き付けたら、隣の区画へ移って同じ模様を焼き付ける、をくり返します。違いは、1区画をどう焼き付けるかです。
| 比べる点 |
ステッパー |
スキャナー |
| 焼き付け方 | 1区画を、光を当てて一度に写す | 細い帯の形の光の下で、レチクルとウエハーを同時に動かしながら写す |
| 正式な呼び名 | ステップ・アンド・リピート | ステップ・アンド・スキャン |
| レンズ | 1区画の全体を、一度に正確に結ぶ必要がある | 帯の部分だけ正確に結べばよいので、大きな区画にしやすい |
| 主に使う所 | i線の装置、パワー半導体、後工程の先端パッケージ | KrF・ArF・EUV の装置。最先端のチップ |
日刊工業新聞の報道では、いまの主流はスキャナー方式です。一方で、ステッパーも、パワー半導体や先端パッケージの配線など、模様がそれほど細かくない層で使われ続けています。キヤノンはi線のステッパーを、前工程向けと後工程(先端パッケージ)向けの両方で出しています。
たとえるなら
ステッパーは「写真を1枚ずつパシャッと撮る」方式、スキャナーは「コピー機のように、光の帯で原稿をなぞって写す」方式です。コピー機は、光の帯の幅だけを正確にすればよいので、大きな原稿でもきれいに写せます。
光源で分ける、露光装置の4つの種類
露光装置は、使う光(光源)でも分けられます。光の波長が短いほど、細かい模様を焼き付けられます。キヤノンの説明では、いまの光源はi線・KrF・ArF・EUVの4種類です。
| 光源 |
装置の形 |
主な用途 |
| i線 | ステッパーが中心 | パワー半導体、センサー、先端パッケージの配線など |
| KrF | スキャナー(ステッパーもある) | メモリや成熟したチップの多くの層 |
| ArF(ドライ・液浸) | スキャナー | 微細な層。液浸はレンズとウエハーの間を純水で満たす |
| EUV | スキャナー(レンズでなく鏡で縮める) | 最先端のロジックとDRAMのいちばん細かい層。波長13.5nm |
1つのチップを作るのに、1種類の装置だけを使うわけではありません。いちばん細かい層だけをEUVやArF液浸で、それ以外の層はKrFやi線で焼き付けるのがふつうです。高い装置は、本当に必要な層にだけ使います。光源の移り変わりは、光源の歴史の記事で詳しく説明しています。
用語メモ:EUV
Extreme Ultraviolet(極端紫外線)。波長13.5nmの光で、空気やガラスに吸収されるため、真空の中で鏡を使って模様を縮めます。ASMLのNXE(開口数0.33)は解像度13nm、High-NAのEXE(開口数0.55)は解像度8nmです。
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露光装置の性能は、3つの物差しで測る
解像力
どれだけ細かい模様を写せるか。光の波長と、レンズの明るさ(開口数)で決まります。
重ね合わせ精度
前の層の模様と、どれだけずれずに重ねられるか。チップの良品率に直結します。
スループット
1時間に何枚のウエハーを処理できるか。工場の生産性とコストを決めます。
最先端の装置は解像力に注目が集まりますが、実際の工場では重ね合わせ精度とスループットも同じくらい重要です。チップは何十もの層を重ねて作るので、1層でもずれると不良になります。ニコンが2024年に出したArF液浸スキャナーNSR-S636Eは、ウエハーの反りやゆがみを測って補正し、重ね合わせ精度を重視する層(クリティカルレイヤー)向けとしています。
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露光装置を作る会社:ASML・ニコン・キヤノンの得意分野
ASML(オランダ)
- EUV:NXE・EXE(High-NA)。最先端の層の装置
- DUV:ArF液浸・ArFドライ・KrF・i線のスキャナー
ニコン(日本)
- ArF液浸・ArFドライ:NSR-S636E などのスキャナー
- KrF・i線:成熟した層やパワー半導体向け
- EUV:開発から撤退
キヤノン(日本)
- i線ステッパー:前工程向けと、先端パッケージ向け
- KrF:スキャナーとステッパー
- ナノインプリント:型を押し当てて模様を写す FPA-1200NZ2C
3社の得意分野は重なりながらも分かれています。いちばん細かい層を受け持つEUVはASMLだけで、ArF液浸はASMLとニコン、i線とKrFは3社が競います。キヤノンは光を使わないナノインプリントという別の方式にも取り組んでいます。
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露光装置を知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:工場や装置・材料の仕事では、「どの層を、どの光源の装置で焼くか」で、使うレジストやマスク、検査のやり方まで変わります。露光装置の種類を知っておくと、工程の会議で話が通じやすくなります。
投資家の方へ:露光装置のニュースは、EUVだけでなく、i線やKrFの成熟した装置の需要も合わせて見ると、パワー半導体やメモリの設備投資の動きが読めます。会社ごとに得意な光源が違う点も押さえておくと便利です。
学生・就活中の方へ:露光装置は、光学・精密機械・制御・材料が集まった装置です。日本の2社(ニコン・キヤノン)はカメラの光学技術から出発しており、光学や機械を学ぶ学生にとって身近な入口になります。
よくある誤解
誤解1:最先端のチップはすべてEUVで作る
EUVを使うのは、いちばん細かい一部の層です。ほかの層はArF・KrF・i線の装置で焼き付けます。
誤解2:ステッパーは古い装置で、もう使われない
主流はスキャナーですが、i線のステッパーはパワー半導体や先端パッケージで使われ続けています。
誤解3:日本の会社は露光装置から撤退した
ニコンはArF液浸を、キヤノンはi線・KrFとナノインプリントを出し続けています。撤退したのはニコンのEUVの開発です。
まとめ
- 露光装置は、レチクルの模様を縮小してウエハーのレジストに焼き付ける装置
- 中身は照明系・レチクルステージ・投影光学系・ウエハーステージ・アライメントスコープ
- 動き方でステッパー(一度に写す)とスキャナー(光の帯でなぞる)に分かれ、主流はスキャナー
- 光源はi線・KrF・ArF・EUVの4種類。1つのチップでも層ごとに使い分ける
- EUVはASMLだけ。ニコンはArF液浸、キヤノンはi線・KrFとナノインプリント
よくある質問
Q. 露光装置とは何ですか?
A. 回路の原版(レチクル)の模様を、光とレンズで縮小してウエハーの上のレジストに焼き付ける装置です。
Q. ステッパーとスキャナーの違いは?
A. ステッパーは1区画を一度に写し、スキャナーは細い帯の光の下でレチクルとウエハーを同時に動かして写します。いまの主流はスキャナーです。
Q. 露光装置のメーカーはどこですか?
A. オランダのASML、日本のニコンとキヤノンが主なメーカーです。最先端のEUVの装置はASMLが出しています。
Q. 露光装置の性能は何で決まりますか?
A. 解像力(どれだけ細かく写せるか)、重ね合わせ精度(前の層とずれないか)、スループット(1時間に処理できる枚数)の3つで測ります。
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