半導体の断面写真を見ると、いちばん下の小さなトランジスタの上に、何層もの配線がビルのように積み上がっています。この配線の部分を作るのが「BEOL」と呼ばれる工程です。
こんな疑問はありませんか?
- BEOLとは何の略で、FEOLとはどう違うの?
- なぜ配線を何層にも積み上げるの?
- 下の層と上の層で、配線の太さが違うのはなぜ?
- 配線の金属は、なぜアルミから銅に変わったの?
- AI半導体で、配線の何が問題になっているの?
この記事でわかること
- BEOLの定義と、FEOL・MEOLとの関係
- 細い配線・中くらいの配線・太い配線の役割分担
- アルミから銅に変わった理由と、その代わりに生まれた作り方
- 配線の遅れ(RC遅延)と、絶縁膜の工夫
- 装置・材料・使う側の企業を3面のカードで
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前工程(ウェーハに回路を作る)
基板
成膜
露光
エッチング
ドーピング
CMP
洗浄
配線 ←ココ
計測
後工程(チップに切り分けて仕上げる)
ウェーハテスト
バックグラインド
ダイシング
ボンディング
封止
最終テスト
先端パッケージ
BEOLは、前工程の後半の「配線」にあたります。薄い色の「成膜」「エッチング」「CMP」を、配線の層の数だけくり返して積み上げます。
BEOLとは?先に結論
先に結論
BEOL(配線工程)とは、ウェーハの上に作った無数のトランジスタを、何層にも積み上げた金属の配線でつなぎ、ひとつの回路にする前工程の後半です。
トランジスタの近くには細い配線、上に行くほど太い配線を積み、層と層は縦の小さな柱(ビア)でつなぎます。いまの配線の主役は銅で、絶縁膜に溝を掘ってから銅を埋める「ダマシン法」で作ります。AI半導体ではトランジスタが小さくなるほど配線が細くなり、電気の通りにくさと信号の遅れが、性能と消費電力を左右する課題になっています。
用語メモ:BEOL
Back End Of Line の略。工場の製造ライン(Line)の後ろ側(Back End)の工程という意味です。後工程(パッケージ)とは別物で、BEOLは前工程の一部です。
用語メモ:ビア
上下の配線の層をつなぐ、縦の小さな穴に金属を埋めたもの。ビルの階段やエレベーターにあたります。
FEOL・MEOL・BEOLの違い
前工程は、何を作るかで大きく3つに分けて呼ばれます。
| 区分 |
正式な名前 |
作るもの |
| FEOL | Front End Of Line | シリコンの中や表面に、トランジスタそのものを作る |
| MEOL | Middle End Of Line | トランジスタの電極と、いちばん下の配線をつなぐ接点(コンタクト)を作る |
| BEOL | Back End Of Line | トランジスタどうしをつなぐ、何層もの配線を作る |
たとえるなら
街づくりにたとえると、FEOLは家や工場(トランジスタ)を建てる工事、MEOLは家の玄関と道路をつなぐ工事、BEOLは路地から幹線道路、高速道路までを何層にも重ねて通す工事です。家がどれだけ立派でも、道路がなければ街は動きません。
注意:「前工程・後工程」の後工程(ダイシングやパッケージ)と、BEOLの「Back End」はまぎらわしい言葉です。BEOLは、ウェーハのまま行う前工程の後半です。
配線の構造:下は細く、上は太い
配線の層は、下から上まで同じではありません。役割に合わせて、太さと間隔が変わります。
| 層 |
場所 |
役割 |
太さ |
| ローカル配線 | トランジスタのすぐ上 | 近くのトランジスタどうしをつなぐ | いちばん細く、間隔も狭い |
| 中間の配線 | 真ん中の層 | 回路のまとまりどうしをつなぐ | 中くらい |
| グローバル配線 | いちばん上の層 | チップ全体に電源や時計の信号を配る | 太く、間隔も広い |
配線の間は、電気を通さない絶縁膜で埋められています。それぞれの層の配線は、ビアで上下につながり、全体で立体の配線網になります。
ポイント:細い配線は、たくさん詰め込めるかわりに電気が通りにくく、太い配線は、電気が通りやすいかわりに場所をとります。近くは細く、遠くは太くという役割分担で、密度と速さを両立させています。
配線の金属は、なぜアルミから銅に変わったのか
配線の金属は、長くアルミが標準でした。しかし配線が細くなるにつれて、アルミは電気を通す力の限界に近づきました。そこで登場したのが、アルミより電気を通しやすい銅です。
IBMは1997年9月22日、銅の配線を使ったチップの本格的な生産を始めると発表しました。銅を配線に使う試みは長く実を結んでいませんでしたが、電解めっきで銅を埋める方法と、溝と穴をまとめて作る「デュアルダマシン法」が成功の鍵になりました。
| 比較項目 |
アルミの配線 |
銅の配線 |
| 電気の通しやすさ | 銅より劣る | アルミより通しやすい |
| 電流による劣化への強さ | 弱い(細くすると切れやすい) | 強い |
| 作り方 | 金属の膜を積んでから、エッチングで配線の形に削る | 絶縁膜に溝を掘り、銅を埋めて、余分を研磨で削る(ダマシン法) |
用語メモ:エレクトロマイグレーション
細い配線に電流が流れ続けると、電子に押されて金属の原子が少しずつ動き、配線が細ったり切れたりする現象。配線の寿命を決める要因の1つです。
配線の遅れ:RC遅延という課題
トランジスタが小さく速くなっても、それをつなぐ配線で信号が遅れてしまえば、チップ全体は速くなりません。配線の遅れは、主に2つの要素のかけ算で決まります。
R:抵抗
配線の電気の通りにくさ。配線が細く薄くなるほど大きくなります。銅への切り替えは、ここを小さくするためでした。
C:容量
となりの配線どうしの間にたまる電気。配線の間隔が狭いほど大きくなり、信号の切り替えに時間がかかります。
R×C=遅れ
抵抗と容量のかけ算が大きいほど、信号は遅れ、消費電力も増えます。微細化で両方が大きくなるのが悩みどころです。
容量を小さくするために、配線の間の絶縁膜には、電気をためにくい材料(Low-k材料)が使われるようになりました。材料の中にごく小さな空気の穴を入れるなど、さまざまな工夫が重ねられています。絶縁膜の材料は、別の記事でくわしく取り上げます。
用語メモ:Low-k
電気をためにくい(誘電率kが低い)絶縁膜の材料のこと。配線どうしの間の容量を下げ、信号の遅れと消費電力を減らします。
BEOLの工程の流れ:1層ずつ、同じ手順をくり返す
この工程の役割
受け取るもの
トランジスタができたウェーハ
FEOL・MEOLを終えた状態
→
→
次の工程へ渡すもの
配線が完成したウェーハ
ウェーハテストを経て後工程へ
BEOLでは、配線1層ごとに、ほぼ同じ手順をくり返します。銅の配線の場合の流れは次のとおりです。
| 順番 |
工程 |
やること |
| 1 | 成膜 | 絶縁膜を積む |
| 2 | 露光・エッチング | 絶縁膜に、配線の溝とビアの穴を掘る |
| 3 | 成膜(バリア・シード) | 銅がしみ出さないように守る薄い膜と、めっきの下地を積む |
| 4 | めっき | 溝と穴に銅を埋める |
| 5 | CMP | あふれた銅を削り取り、溝の中だけに配線を残す |
この手順を配線の層の数だけくり返すため、BEOLでは成膜・露光・エッチング・CMPの装置がくり返し使われます。溝を掘って埋める作り方(ダマシン法)は、別の記事で詳しく解説します。
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1. 配線が細すぎて、銅でも電気が通りにくい
いちばん細い配線では、銅を守るための薄い膜(バリア)が占める割合が大きくなり、肝心の銅の部分が細くなります。銅の表面や境目で電子がはね返されることも増え、抵抗が上がります。銅以外の金属を細い配線に使う研究や採用も進んでいます。
2. 電源の配線と信号の配線が、場所を取り合う
大量の電力を使うAI向けのチップでは、電源の配線を太く、たくさん通す必要があります。そこで、電源の配線をウェーハの裏側に移す「裏面電源(BSPDN)」という新しい構造が生まれました。表側の配線を信号のために空けられます。
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チップの配電網を裏側に移す、BSPDNの発想
3. チップの外との配線も、BEOLに近づく
チップどうしを銅のパッドで直接貼り合わせるハイブリッド接合では、パッケージの接続が、BEOLと同じような細かさと平らさで作られます。前工程の配線の技術が、先端パッケージにも広がっています。
BEOLを支える企業:装置・材料・使う側
BEOLは、成膜・エッチング・めっき・CMPの装置と、金属や薬液の材料がそろってはじめて成り立ちます。
装置メーカー
- Applied Materials(AMAT):成膜・めっき・CMPなど、配線の装置を幅広く手がける
- Lam Research(LRCX):エッチングや、銅のめっきの装置を手がける
- 東京エレクトロン(8035):成膜・エッチングなどの装置を手がける
- 荏原製作所(6361):CMP装置を手がける日本の大手
材料メーカー
- JX金属(5016):配線の膜を積むためのスパッタリングターゲット(金属の板)を手がける
- レゾナック(4004):CMPで使う研磨液(スラリー)を手がける
- Entegris(ENTG):研磨液・パッドや洗浄液など、配線工程の材料を幅広く手がける
使う側(チップを作る会社)
- TSMC(2330.TW):ロジック半導体の受託製造
- Intel(INTC):ロジック半導体。裏面電源を自社のプロセスに取り入れている
- Samsung Electronics(005930.KS):ロジック・メモリ
配線の層が増えるほど、同じ種類の装置と材料がくり返し使われます。トランジスタの微細化だけでなく、配線の層の数と構造の変化も、装置と材料の需要を左右します。
BEOLを知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:設計の担当なら配線の遅れと電源の配線の取り合い、製造の担当なら層の数だけくり返す工程のばらつきが、チップの性能と歩留まりに直結します。担当外でも「配線で何が起きているか」を知っておくと、課題の話が通じやすくなります。
投資家の方へ:配線の層の数が増える、銅以外の金属が使われる、裏面電源が広がる、といった構造の変化は、成膜・CMP・めっきの装置や材料の需要の変化につながります。トランジスタの話だけでなく、配線の話にも注目すると全体像がつかめます。
学生・就活中の方へ:BEOLは、電気(抵抗と容量)・材料(金属と絶縁膜)・化学(めっき・研磨)・機械(装置)が交わる分野です。電気電子系・材料系・化学系のどの専攻でも入り口があります。
よくある誤解
誤解1:BEOLは、後工程のこと
BEOLの「Back End」は製造ラインの後ろ側という意味で、ウェーハのまま行う前工程の後半です。チップを切り分けて包む後工程(パッケージ)とは別の工程です。
誤解2:トランジスタが速くなれば、チップは速くなる
トランジスタが速くても、つなぐ配線で信号が遅れれば、チップは速くなりません。微細化が進むほど、配線の遅れの影響が大きくなっています。
誤解3:銅の配線は、銅の膜を削って作る
銅はエッチングで細かく削るのが難しいため、先に絶縁膜に溝を掘り、銅を埋めてから余分を研磨して作ります。削るのは銅ではなく、溝を作る絶縁膜のほうです。
まとめ
- BEOLは、トランジスタの上に何層もの金属配線を積んでつなぐ、前工程の後半
- 前工程はFEOL(トランジスタ)・MEOL(接点)・BEOL(配線)に分けて呼ぶ
- トランジスタの近くは細い配線、上の層ほど太い配線で、ビアで上下をつなぐ
- 配線の金属は1990年代の終わりからアルミから銅へ。銅は溝に埋めて作る
- 配線の遅れ(RC遅延)と電源の配線が、AI半導体の大きな課題になっている
よくある質問
Q. BEOLとは何の略ですか?
A. Back End Of Line の略で、トランジスタの上に何層もの配線を積んでつなぐ、前工程の後半の工程を指します。
Q. FEOLとBEOLの違いは何ですか?
A. FEOLはシリコンにトランジスタそのものを作る工程で、BEOLはそのトランジスタどうしを金属の配線でつなぐ工程です。
Q. BEOLは後工程のことですか?
A. 違います。BEOLはウェーハのまま行う前工程の後半です。チップを切り分けて包む後工程とは別の工程です。
Q. 配線の金属がアルミから銅に変わったのはなぜですか?
A. 銅はアルミより電気を通しやすく、電流による劣化にも強いため、細くなった配線でも性能を保ちやすいからです。
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メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
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前工程をもっと深く
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