OCS(光回線スイッチ)とは?GoogleがTPUクラスタで10年使い続ける「鏡で切り替える」技術

AIデータセンター入門
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こんなモヤモヤ、ありませんか?
「GoogleのTPUはOCSで繋がっている」と聞くけど、OCSが何なのかピンとこない
CPOや光トランシーバーは分かってきた。でもOCSはそれと何が違うの?
Lumentumの決算で「OCSバックログ」という言葉を見て、投資的に重要なのか判断できない
NVIDIAのNVLinkとGoogleのやり方は、結局どっちが正しいの?

その気持ち、とてもよく分かります。実はOCSは、これまでの光の話とは「見ている階層」がまるごと違う技術なんです。CPOや光トランシーバーは「1本の配線を光にする」話でした。OCSは「たくさんの光の配線を、どこと繋ぐか組み替える」話です。いわば、道路を舗装し直す話から交差点と線路の分岐器を作る話へ、1段上がります。

この記事でわかること
① 電気スイッチ(パケット単位)と光スイッチ(回線単位)の仕事の違い
② 小さな鏡で光の通り道を切り替えるMEMSミラーの仕組み
③ Googleが10年以上OCSを使い続け、消費電力を約4割削減できた理由
④ NVIDIA(全員と常時つながる)とGoogle(つなぎ方を組み替える)の思想の違い
⑤ NTT・サンテックなど日本企業の立ち位置
あなたが今いる場所:AIインフラ > 光インターコネクト > ネットワーク > OCS(光回線スイッチ)
▼ データの流れ(チップから相手チップへ)
GPU/スイッチチップ
電気配線
光エンジン(E/O変換)
光ファイバ伝送(OCSで行き先を切替) ←ココ
受光(O/E変換)
相手チップ
▼ サプライチェーン(上流→下流)
素材・光部品
光エンジン/モジュール
パッケージ統合
システム(スイッチ/GPU) ←ココ
DC運用
▼ 光化の「階層」(この記事は1段上のレイヤー)
リンクの光化
1本の配線を光にする
(CPO・トランシーバー・LPO=既存記事)
→
ネットワークの光化 ←ココ
光の配線どうしの
「つなぎ方」を組み替える(OCS)
  1. 先に結論:OCSは「中身を読まない」から圧倒的に省エネ
  2. 電気スイッチと光スイッチは「仕事」がまったく違う
      1. 電気パケットスイッチ=郵便局
      2. 光回線スイッチ=鉄道の分岐器
    1. 6つの観点で比較
  3. 「光→電気→光」の翻訳をやめる、という発想
    1. 従来:電気スイッチを通るたびにOEO変換
    2. OCS:光のまま鏡で反射するだけ
  4. 「鏡で切り替える」仕組みを4ステップで図解
    1. 実用化を支えた2つの工夫
  5. OCSの方式は4つ|「鏡」以外の選択肢も台頭中
  6. Google Jupiter|OCSで「幹線道路」を丸ごと撤去した
      1. 従来型(Clos構成)
      2. OCS導入後(直接メッシュ)
    1. Googleが公表した成果
  7. TPUクラスタ|OCSで「ブロックを組み替えるスパコン」
  8. NVIDIAとGoogleの思想の違い|「全結合」vs「再構成」
      1. NVIDIA:全員が全員と常時つながる
      2. Google:つなぎ方を組み替える
  9. OCSについてのよくある誤解3つ
  10. OCSの関連企業を3層で整理
      1. 上流:光部品・ファイバ・測定
      2. 中流:OCS装置メーカー
      3. 下流:システム・DC運用
  11. 日本企業の立ち位置|「装置の主役」ではなく「別の土俵」と「周辺」
    1. NTT(9432):通信網の世界で「光回線交換」を先に実装
    2. santec Holdings(6777):光を「測る」側+小型光スイッチ
  12. あなたにとってOCSは何を意味するか
      1. 投資家の方へ
      2. 理工系学生の方へ
      3. 若手技術者の方へ
  13. まとめ:OCSは「光の配線網の分岐器」
    1. よくある質問(FAQ)
  14. 次に読むべき記事

先に結論:OCSは「中身を読まない」から圧倒的に省エネ

OCS(Optical Circuit Switch=光回線スイッチ)は、光を電気に変えず、小さな鏡の角度を変えるだけで「どのファイバとどのファイバを繋ぐか」を切り替える装置です。データの中身(宛先)を一切読まないため、同じ136ポート規模の電気スイッチが約3,000Wを使うところを約108Wで動かせます。Googleはこれを2010年代半ばからデータセンター網(Jupiter)とTPUクラスタに組み込み、電力を約4割、コストを約3割削減しました。2026年にはNVIDIAの次世代ラック構想でも採用が見込まれ、「Google専用の技術」から「業界の標準部品」へ移り変わる局面に入っています。
108W
Google製OCS(136ポート)の消費電力
同規模の電気スイッチは約3,000W
約40%減
Jupiter網の消費電力
コストも約30%減
1/50
ネットワークの停止時間
比較対象は既知の最良構成
80億ドル超
2030年のOCS市場予測
年平均30%超の成長
人間スケールで言うと:3,000Wはドライヤー2〜3台を同時に回し続ける電力です。108Wはノートパソコン数台分。それだけ差があるのに、運べるデータの量は同じです。
データの諸元
・108W/約3,000W:R. Urata et al., “Mission Apollo: Landing Optical Circuit Switching at Datacenter Scale”(arXiv:2208.10041, 2022)。136×136ポートのPalomar OCSと、同ポート数の電気パケットスイッチの比較
・電力40%減・コスト30%減・停止時間1/50:Google Cloud Blog “The evolution of Google’s Jupiter data center network”(2022年8月)。論文(SIGCOMM 2022)では電力41%減・設備投資30%減
・80億ドル超・年平均30%超:Cignal AI「Optical Circuit Switching Market – 2Q26」(2026年7月30日発表)
先に押さえる6つの用語
OCS(光回線スイッチ)
光を光のまま、ファイバの「つなぎ先」を切り替える装置。中身は読みません。
EPS(電気パケットスイッチ)
普段「スイッチ」と呼ばれる装置。データの小包(パケット)ごとに宛先を読んで振り分けます。
OEO変換
光(O)→電気(E)→光(O)の変換。電気スイッチを通るたびに必ず発生し、電力を食います。
MEMS(メムス)
半導体の技術で作る「動く超小型の機械」。OCSでは、角度を変えられる小さな鏡として使います。
スパイン層
データセンター網の最上段にある「幹線道路」役のスイッチ群。全体を束ねる背骨です。
トポロジー
ネットワークの「つなぎ方の形」。全員が全員と繋がる形や、格子状の形などがあります。
まだ読んでいない方はこちらから(ピラー記事)
光電融合(CPO)とは?仕組みを図解|AIデータセンターの「銅から光へ」
「1本のリンクを光にする」基本を押さえると、OCSの位置づけが一気に分かります。
記事を読む →

電気スイッチと光スイッチは「仕事」がまったく違う

「スイッチ」という名前は同じですが、2つは別の仕事をしています。一番わかりやすいのは、郵便局と鉄道の分岐器にたとえる方法です。

電気パケットスイッチ=郵便局

届いた手紙(パケット)を1通ずつ開けて宛先を読み、それぞれの行き先へ仕分けます。とても柔軟ですが、1通ごとに手間(電力)がかかります。

光回線スイッチ=鉄道の分岐器

列車の中身は見ません。線路のつなぎ先をガチャンと切り替えるだけです。切り替えにはやや時間がかかりますが、一度つなげば、何両の列車が通ってもほとんど手間がかかりません。

6つの観点で比較

比較項目 電気パケットスイッチ(EPS) 光回線スイッチ(OCS) 差・優位
切り替える単位パケット(データの小包)回線(ファイバ1本まるごと)役割が違う
中身(宛先)を読むか読む読まないOCSは処理ゼロ
切り替えの速さパケットごと(超高速)ミリ秒級(MEMS方式)EPSが優位
消費電力(136ポート相当)約3,000W約108W約1/28
通信速度の世代交代世代ごとに交換が必要交換不要(速度に依存しない)OCSは「建物の一部」扱い
得意な通信相手が細かく変わる通信大量のデータが長く同じ相手へ流れる通信AI学習はOCS向き
ひとことメモ:AIの学習では、同じGPUどうしが何時間〜何週間も大量のデータをやり取りし続けます。これは「毎回宛先を読む」必要がほとんどない、分岐器向きの仕事です。OCSがAI時代に再評価された一番の理由はここにあります。
データの諸元
・消費電力の比較:Urata et al., arXiv:2208.10041(2022)。約1/28は108W÷3,000Wから筆者が計算
・速度に依存しない点:Google Cloud Blog(2022年8月)の記述「data rate and wavelength agnostic, and does not require upgrades」
・MEMS方式の切り替え時間は製品・構成によって変わるため、目安として「ミリ秒級」と記載

「光→電気→光」の翻訳をやめる、という発想

データセンターの中では、データはファイバを光で走ります。ところが電気スイッチを通るたびに、いったん電気に戻して宛先を読み、また光に変える必要があります。国際会議で、話すたびに通訳を2回挟んでいるような状態です。

従来:電気スイッチを通るたびにOEO変換

光で到着
→
トランシーバーで
電気へ
→
スイッチチップが
宛先を読む
→
また光へ
→
光で出発

OCS:光のまま鏡で反射するだけ

光で到着
→
MEMSミラーで
向きを変える
→
光で出発
変換がないので電力がほぼ要らない
電力を使うのは鏡の角度を保つ制御部分だけです。
通信速度が上がっても交換不要
40G→100G→200G→400Gと速度が変わっても、鏡は光をそのまま反射するだけです。
遅延がほぼゼロ
宛先を読む処理がないので、待ち時間は光がガラスと空間を進む時間だけです。
人間スケールで言うと:GoogleのJupiter網全体の帯域は6ペタビット/秒を超えます。2時間の映画(約5GB)に換算すると、1秒間に約15万本を運べる計算です。この流れの大部分を、電気に変えずに鏡で振り分けています。
データの諸元
・6Pb/s超:Google Cloud Blog(2022年8月)「Today, Jupiter supports more than 6Pb/sec」
・映画15万本/秒:6Pb/s=750TB/s、映画1本5GBとして筆者が計算(目安)
・40G→400Gの世代交代:同ブログの記述による

「鏡で切り替える」仕組みを4ステップで図解

GoogleのOCS(社内名:Palomar)の中には、2枚のMEMSミラーの板(アレイ)が向かい合わせに入っています。それぞれの鏡は2つの軸で傾けられるので、光の向きを自由に変えられます。

1
入力ファイバ+コリメータ
ファイバから出た光を、小さなレンズでまっすぐな平行光にそろえます。
2
第1ミラーアレイ
入力ごとに専用の鏡があり、角度を変えて第2アレイの狙った鏡へ光を飛ばします。
3
第2ミラーアレイ
受け取った光を、出力ファイバの真正面へ向け直します。
4
出力ファイバ
光が目的のファイバに入れば、接続完了です。136×136の組み合わせを自由に作れます。
たとえるなら:体育館の両端に、手鏡を持った人が136人ずつ並んでいます。左の列の人がレーザーポインターの光を受け、右の列の「誰か」に向けて反射します。右の人はそれを出口の穴に向け直します。誰に向けるかを変えるだけで、配線を1本も抜き差しせずに「つなぎ先」が変わります。

実用化を支えた2つの工夫

① 鏡の角度を常に補正する
鏡がわずかにずれるだけで光は外れてしまいます。Googleは監視用の光とカメラで鏡の向きを読み取り、自動で角度を微調整し続ける仕組みを作りました。
② サーキュレーターで1本のファイバを往復利用
行きと帰りの光を1本のファイバに同居させる部品(サーキュレーター)を使い、必要なOCSのポート数を約半分に抑えました。
データの諸元
・Palomar OCS(136×136、3D MEMS、完全ノンブロッキング)、監視光とカメラによる鏡の制御、サーキュレーターの利用:Urata et al., “Mission Apollo”(arXiv:2208.10041, 2022)
・2組のMEMSミラーによる任意ポート間の接続:Google Cloud Blog(2022年8月)
・「約半分」はサーキュレーターで双方向化した場合の原理的な効果(筆者整理)

OCSの方式は4つ|「鏡」以外の選択肢も台頭中

GoogleとLumentumはMEMS鏡方式ですが、2026年には「動く部品を持たない方式」も存在感を増しています。投資家としては、各社がどの方式で戦っているかを押さえておくと、ニュースが読みやすくなります。

方式 切り替えの原理 動く部品 強み・課題 代表プレイヤー
MEMS鏡小さな鏡を傾けて反射あり大規模・低損失で実績が最も多い/駆動に高い電圧が要るGoogle(内製)、Lumentum(LITE)R300
液晶液晶で光の偏り(偏光)を変えて進路を選ぶなし機械的な摩耗がなく、低電圧で動く/大規模化の実績はこれからCoherent(COHR)
圧電圧電素子でファイバ(光の向き)を直接動かすあり低損失で、光がなくても接続を維持できるHUBER+SUHNER(SIX: HUBN)Polatis
シリコンフォトニクスチップ上の光の通り道(導波路)で切り替えなし高速化・小型化の余地が大きい/損失とポート数に課題新興スタートアップ群(非上場が中心)
ひとことメモ:シリコンフォトニクス方式の基本は、既存記事で詳しく解説しています。導波路のイメージがあると、この方式がなぜ小型化に強いのかが分かります。 → シリコンフォトニクスとは?
データの諸元
・Lumentum R300(MEMS、300×300ポート):Lumentum公式製品ページ
・Coherentの液晶方式(動く部品なし):Coherent「OFC 2026 Investor Event」資料(2026年3月17日)
・MEMS/液晶/圧電/ロボット/シリコンフォトニクスの分類と20社超のベンダー:Cignal AI(2026年7月30日発表)
・方式ごとの強み・課題は各社資料をもとに筆者が整理した定性比較。切り替え時間などの定量値は製品ごとに異なるため省略

Google Jupiter|OCSで「幹線道路」を丸ごと撤去した

Googleがデータセンター網「Jupiter」にOCSを入れた最大の理由は、省電力だけではありません。「建物を建て替えずに、中身だけ最新にし続けたい」という悩みがありました。

BEFORE

従来型(Clos構成)

・全ブロックが最上段のスパイン層を経由してつながる
・スパインは「接続される中で最も速い機器」に合わせる必要がある
・速度が上がるたびに数万本のファイバを張り替える大工事になる
AFTER

OCS導入後(直接メッシュ)

・スパイン層を撤廃し、ブロック同士をOCS経由で直接つなぐ
・新旧さまざまな速度の機器が混在したまま動く
・通信の混み具合に合わせて、つなぎ方をソフトウェアで組み替える

Googleが公表した成果

−40%
消費電力
−30%
コスト
+30%
スループット
1/50
停止時間
たとえるなら:駅前の再開発のたびに線路を全部敷き直していたのをやめ、ポイント(分岐器)を操作するだけで新しい電車を走らせられるようにした、というイメージです。OCSは速度に依存しないので、Googleはこれを「建物の設備(インフラ)の一部」と位置づけています。
データの諸元
・電力40%減・コスト30%減・スループット30%向上・停止時間1/50、スパイン層の撤廃、「OCS becomes part of the building infrastructure」:Google Cloud Blog “The evolution of Google’s Jupiter data center network”(2022年8月)
・論文:L. Poutievski et al., “Jupiter Evolving”(ACM SIGCOMM 2022)。電力41%減・設備投資30%減と記載
・比較対象は「Googleが把握している最良の代替構成」

TPUクラスタ|OCSで「ブロックを組み替えるスパコン」

GoogleのAI専用チップTPUは、64個をひとかたまりにした「キューブ」単位で組み立てられています。キューブの中は電気で、キューブ同士はOCSを介した光でつながります。故障したキューブがあれば、OCSの鏡を動かして別のキューブに差し替えられます。レゴブロックを組み替える感覚に近い仕組みです。

GoogleとOCSの歩み(時系列)
2010年代半ば
JupiterへのOCS統合を開始。2022年のブログで「過去8年」と振り返っています。
2020年〜
TPU v4スパコンを運用開始。4,096チップを48台のOCSで接続しています。
2022年
SIGCOMMでJupiterのOCS化を初めて詳しく公表しました。
2023年
ISCAでTPU v4論文を発表。OCSはシステム費用の5%未満・電力の3%未満だと示しました。
2025年
第7世代TPU「Ironwood」を発表。9,216チップをOCSでつなぎ、1つの巨大な計算機として動かします。
2026年
内製から外部調達へ移行中。Lumentum・Coherent・HUBER+SUHNERに発注したと報じられています。
4,096
TPU v4の最大チップ数
(64チップ×64キューブ)
<5%
システム費用に占める
OCSと光部品の割合
9,216
Ironwoodの
1ポッドあたりのチップ数
データの諸元
・「past eight years」:Google Cloud Blog(2022年8月)。そこから逆算すると統合開始は2014年前後で、2026年時点で10年超
・TPU v4(4,096チップ、64チップ単位、OCSは費用5%未満・電力3%未満):N. Jouppi et al., “TPU v4: An Optically Reconfigurable Supercomputer”(ISCA 2023, arXiv:2304.01433)
・Ironwood 9,216チップ・OCSによる接続:Google Cloud Blog “Inside the Ironwood TPU codesigned AI stack”
・外部ベンダーへの発注:Cignal AI(2026年7月30日発表)

NVIDIAとGoogleの思想の違い|「全結合」vs「再構成」

AIチップをたくさんつなぐ方法には、大きく2つの考え方があります。どちらが正しいかではなく、何を優先するかの違いです。

NVIDIA:全員が全員と常時つながる

たとえるなら
72人の円卓会議
NVL72ではNVLinkスイッチで72個のGPUを総当たり(all-to-all)でつなぎます。ラック背面には5,000本超の銅ケーブルがあります。誰とでも即座に話せる代わりに、1部屋に入れる人数には上限があります。

Google:つなぎ方を組み替える

たとえるなら
席替えできる大ホール
TPUは隣のチップとだけ格子状(3Dトーラス)につながります。遠くとはOCSで経路を用意します。総当たりではない代わりに、数千個規模まで広げられ、形も組み替えられます。
比較項目 NVIDIA NVLink(NVL72) Google TPU+OCS
つなぎ方固定の全結合格子状+再構成
密結合の単位72 GPU(1ラック)9,216チップ(Ironwood)
主な媒体銅(ラック内)電気(キューブ内)+光(OCS)
強みどんな通信パターンにも強い・汎用性大規模化・故障への強さ・省電力
弱み銅が届く範囲(ラック)が上限通信パターンに合わせた設計が必要
2026年の注目点:2つの思想が近づき始めた
調査会社Cignal AIは、NVIDIAが次世代のRubin Ultra NVL576(複数ラックをまとめる構成)にOCSを組み込む計画だと分析しています。本格的な量産は2028年からの見込みです。銅で届くラックの外へ広げるとき、NVIDIAも「光で組み替える」発想を取り入れつつある、ということです。
データの諸元
・NVL72のall-to-all接続と5,000本超の銅ケーブル:NVIDIA公式(NVLink製品ページ・NVIDIA AI Infrastructure公式投稿)
・TPUの3Dトーラス+OCS:ISCA 2023 TPU v4論文
・Ironwood 9,216チップ:Google Cloud Blog
・Rubin Ultra NVL576へのOCS統合計画と2028年からの量産見込み:Cignal AI「Optical Circuit Switching Market – 2Q26」(2026年7月30日発表)。NVIDIAの正式発表ではなく調査会社の分析です

OCSについてのよくある誤解3つ

誤解①「OCSが電気スイッチを全部置き換える」
置き換えるのは「幹線(スパイン)」の部分だけです。OCSの切り替えはミリ秒級で、パケットごとに宛先を振り分けることはできません。Jupiterでも、ラックの近くでは今も電気スイッチが細かい振り分けを担当しています。役割分担だと考えるのが正確です。
誤解②「OCSとCPOはライバル技術」
むしろ補い合う関係です。CPOや光トランシーバーは「電気を光に変える入口」で、OCSは「光の行き先を決める交差点」です。OCSを使うネットワークでも、両端には必ず光の送受信部品が必要です。OCSが広がるほど、1芯で往復できる光部品など周辺部品の要件も変わっていきます。
誤解③「Googleだけが使う特殊技術」
2026年時点で、量産規模で使っているのは確かにほぼGoogleだけです。ただし、Google自身が外部調達へ切り替えつつあり、NVIDIAの次世代構成でも採用が見込まれています。「1社の技術」から「業界の部品」へ変わる移行期だと捉えるのが実態に近いでしょう。
物語の全体像を確認する
AIの第3の壁は「光配線」|GPU→HBM→光
なぜ今、配線とネットワークがAIの主戦場になったのかを、因果関係で整理しています。
記事を読む →
データの諸元
・Jupiterでの電気スイッチとOCSの役割分担:Google Cloud Blog(2022年8月)、SIGCOMM 2022論文
・「量産規模の用途は現状TPUのみで、今後2〜3年は主流」「OCSの普及で単芯FR光学系やサーキュレーターが好まれる」:Cignal AI(2026年7月30日発表)

OCSの関連企業を3層で整理

上流:光部品・ファイバ・測定

  • santec Holdings(6777):光測定器、測定用MEMS光スイッチ、LCOS光フィルタ
  • フジクラ(5803):DC向けの高密度光ケーブル・コネクタ
  • 住友電工(5802):光ファイバ・光デバイス
  • 古河電工(5801):光ファイバ・レーザー光源
  • Corning(GLW):光ファイバ・ガラス素材

中流:OCS装置メーカー

  • Lumentum(LITE):MEMS方式のR300(300×300)。受注残は4億ドル超
  • Coherent(COHR):液晶方式のOCS
  • HUBER+SUHNER(SIX: HUBN):圧電方式のPolatis
  • Molex(非上場・米Koch傘下):高ポート数のOCSプラットフォームを開発

下流:システム・DC運用

  • Alphabet/Google(GOOGL):OCSを量産規模で使う唯一のユーザー。内製から外部調達へ移行中
  • NVIDIA(NVDA):次世代NVL576でOCSを統合する見込み(調査会社の分析)
  • NTT(9432):通信網(APN)で光回線を切り替える技術を推進
実需が数字に表れている組
Lumentumは受注残が4億ドルを超えました。2026年7〜9月期には初めてOCSの売上が1億ドルを大きく上回る見通しだと、決算説明会で述べています。
テーマ性が先行しやすい組
「光スイッチ」という言葉だけで連想買いされる銘柄には注意が必要です。OCS向けの売上をIRで開示しているかを必ず確かめましょう。
データの諸元
・Lumentumの受注残4億ドル超:Lumentum FY2026 Q2決算リリース(2026年2月)
・OCS売上1億ドル超の見通し(FY2027 Q1=2026年7〜9月期):Lumentum FY2026 Q4決算説明会(2026年8月、報道ベース)
・Google→Lumentum・Coherent・HUBER+SUHNERへの発注:Cignal AI(2026年7月30日発表)
・Coherentの液晶方式:Coherent OFC 2026投資家説明資料
・santecの製品構成:同社製品ページ(OSXシリーズ、LCOS)。DC向け大型OCSへの直接供給は、2026年9月時点の公開情報では確認できていません(要確認)
・特定銘柄の売買を推奨するものではありません

日本企業の立ち位置|「装置の主役」ではなく「別の土俵」と「周辺」

正直に言うと、データセンター向けの大型OCS装置の主役は、2026年時点では米国勢です。ただし日本企業は、違う土俵や周辺の工程でしっかり存在感を持っています。

NTT(9432):通信網の世界で「光回線交換」を先に実装

NTTのIOWN構想の中心にあるAPN(オール・フォトニクス・ネットワーク)は、端末から端末まで光のまま直結する通信網です。2023年3月に「APN IOWN1.0」として提供が始まりました。
現在研究中のAPN step3には、光のまま行き先を切り替えるファイバクロスコネクトが組み込まれています。品質が落ちたときに数十ミリ秒で光の経路を切り替える技術も検討されています。
Google OCSとの違いは主に土俵です。Googleは建物の中(DC内)、NTTは建物と建物の間(通信網)を担います。どちらも「電気に戻さず光のまま切り替える」という同じ発想に立っています。

santec Holdings(6777):光を「測る」側+小型光スイッチ

愛知県小牧市の光測定器メーカーです。測定用のMEMS光スイッチ(最大1×400チャネル級)や、液晶で波長を操るLCOS光フィルタを手がけています。2026年3月期は売上高が前期比31%増の315億円で、データセンター向けの光測定器が伸びています。
OCSとの関係は、光部品が高度になり数が増えるほど、測定・検査の需要も増えるという構造です。ただし、Google向けのような大型OCS装置を量産しているという一次情報は確認できていません。「OCS銘柄」と言い切らず、「光化の測定インフラ」として見るのが正確です。
ファイバ・コネクタ勢への波及:OCSはファイバを「建物の設備」として長く使う設計です。そのため、1芯で往復通信する構成(サーキュレーター)や、高密度のファイバ配線がより重要になります。フジクラ・住友電工・古河電工にとっては、部品の要件が変わるという形で関係してきます。
データの諸元
・APN IOWN1.0の提供開始(2023年3月):NTTグループ公式・関連技術解説
・APN step3、Ph-GW(ファイバクロスコネクト)、数十ミリ秒級のリアルタイム光パス制御:NTT技術ジャーナル「APN step3を支える基盤システム主要要素技術」(2025年11月)。研究開発段階の技術です
・santecの2026年3月期(売上高315億円、前期比31%増):日本経済新聞電子版(2026年6月23日、santec公式サイト掲載)
・santecの光スイッチ(1×2〜1×400ch):同社製品ページ(OSX-100)

あなたにとってOCSは何を意味するか

投資家の方へ

OCSは「Googleの設備投資」と「NVIDIAの次世代ラック」の2本柱で伸びる市場です。見るべき指標は3つあります。①Lumentum・CoherentのOCS受注残と売上、②GoogleのTPU出荷の動き、③NVL576の量産時期です。小型株については、「光スイッチ」という連想だけで買われていないか、IRの売上内訳で確かめましょう。

理工系学生の方へ

OCSはMEMS(機械)・光学・制御・ネットワークの融合領域です。鏡の角度を制御するフィードバック設計や光の損失の管理は、機械・電気・光のどの専攻からも入りやすい分野です。就活の面接で「OCSとCPOの違い」を説明できれば、しっかり勉強している印象を残せます。

若手技術者の方へ

OCSが入るとトランシーバーの選び方が変わります。OCSの損失を見込んで、より高い光出力、単芯のFR系、サーキュレーター対応が求められます。自社の光部品が「OCS経由の経路」で使われる可能性があるかを確認しておくと、顧客との会話で一歩先を行けます。
データの諸元
・OCSの普及で単芯FR光学系・高光出力・サーキュレーター対応が求められる点:Cignal AI(2026年7月30日発表)
・市場の2本柱(TPUのScale Out/GPUのScale Up):同上

まとめ:OCSは「光の配線網の分岐器」

OCSは中身を読まず、鏡で光の行き先を切り替える装置
同規模の電気スイッチ約3,000Wに対して約108W。速度が上がっても交換不要
GoogleはJupiterでスパイン層を撤廃し、電力を約4割、コストを約3割削減
TPUは4,096〜9,216チップをOCSで組み替え可能なスパコンとして運用
NVIDIAは「全結合」、Googleは「再構成」。ただしNVL576で2つの思想が近づく見込み
日本企業は、NTTが通信網の光回線交換、サンテックが測定と小型光スイッチで関わる

よくある質問(FAQ)

Q1. OCS(光回線スイッチ)とは何ですか?
A. 光信号を電気に変えずに、ファイバの接続先を切り替える装置です。多くはMEMSミラーという小さな鏡の角度で光の進路を変えます。データの宛先を読まないため、消費電力と遅延が非常に小さくなります。
Q2. 光スイッチと電気スイッチの違いは?
A. 電気スイッチはデータの小包(パケット)ごとに宛先を読んで振り分けます。光回線スイッチは、ファイバ1本分の経路を丸ごとつなぎ替えます。前者は柔軟、後者は省電力で、役割分担して使われます。
Q3. GoogleはなぜTPUにOCSを使うのですか?
A. 64チップ単位のブロックを光で自由に組み替えられるからです。故障したブロックの差し替え、用途に合わせた形の変更、数千チップ規模への拡張ができます。しかもOCSと光部品の費用はシステム全体の5%未満です(TPU v4論文)。
Q4. OCSとCPOはどちらが普及しますか?
A. 比べる対象ではありません。CPOは「電気を光に変える入口」、OCSは「光の行き先を決める交差点」で、同じネットワークの中で両方が使われます。
Q5. OCSの関連銘柄は?
A. 装置メーカーとしてLumentum(LITE)、Coherent(COHR)、HUBER+SUHNER(SIX: HUBN)が知られています。日本ではNTT(9432)が通信網での光回線交換、santec(6777)が光測定器と小型光スイッチで関わっています。売買を推奨するものではないので、各社のIRで売上内訳を確認してください。
データの諸元
・この記事のブロック③〜⑭で示した各出典(Google SIGCOMM 2022/ISCA 2023/arXiv:2208.10041、Cignal AI 2026年7月、Lumentum IR、NTT技術ジャーナル 2025年11月)に基づく要約

次に読むべき記事

OCSで「ネットワーク全体の光化」が見えたら、次はその両端で光を作る部品と、光化が必要になった理由を押さえると、地図が完成します。

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