エッチングの説明で「ドライエッチングの代表はRIE」と書かれていても、その中で何が起きているのかまで説明されることは多くありません。
こんな疑問はありませんか?
RIEとは何の略で、どうやって膜を削っているの?
なぜRIEは、横に広がらずに真下だけを削れるの?
CCPやICPという装置の違いは何?
ボッシュ法やALEは、RIEと何が違うの?
RIEの装置やガスは、どの会社が作っているの?
この記事でわかること
RIEの定義と、プラズマの中の「イオン」と「ラジカル」の役割
真下に削れる理由(異方性)と、側壁を守る膜の働き
CCPとICPの違いを1枚の表で
削る膜ごとにガスを変える理由
装置・材料・使う側の企業を3面のカードで
あなたが今いる場所:前工程 > エッチング > RIE(反応性イオンエッチング)とは?
前工程(ウェーハに回路を作る)
基板
成膜
露光
エッチング ←ココ
ドーピング
CMP
洗浄
配線
計測
後工程(チップに切り分けて仕上げる)
ウェーハテスト
バックグラインド
ダイシング
ボンディング
封止
最終テスト
先端パッケージ
RIEは「エッチング」の中のドライエッチングの代表です。薄い色の「成膜」で積んだ膜を、「露光」で焼き付けた模様どおりに削ります。
RIEとは?先に結論
先に結論
RIE(反応性イオンエッチング)とは、ガスをプラズマにして、化学反応をおこす粒子(ラジカル)と、電界で真下に加速したイオンの両方で膜を削るドライエッチング です。
ラジカルが膜と反応して削りやすくし、真下から飛んでくるイオンが底だけをたたいて反応を進めます。そのため、横にはほとんど広がらず、マスクの模様どおりに垂直な溝や穴を掘れます。微細なトランジスタや、AI半導体のメモリに欠かせない深い穴は、この「真下に削る力」で作られています。
用語メモ:RIE
Reactive Ion Etching(反応性イオンエッチング)の略。「反応性」はガスが膜と化学反応すること、「イオン」は電界で加速した粒子が膜をたたくことを指します。
用語メモ:プラズマ
ガスに強い電気のエネルギーを与えて、電子・イオン・ラジカル(反応しやすい中性の粒子)がまざった状態にしたもの。蛍光灯の中で光っているのもプラズマです。
RIEの仕組み:プラズマの中の「3つの役者」
この工程の役割
受け取るもの
模様のついたウェーハ
膜の上にレジストのマスクがある状態
→
→
次の工程へ渡すもの
模様どおりに削れたウェーハ
マスクを取り除いて洗浄へ
RIE装置では、真空にした部屋(チャンバー)にウェーハを置き、少量のガスを流して高周波の電力をかけます。するとガスがプラズマになり、ウェーハのすぐ上には、イオンを真下に引き寄せる強い電界の層(シース)ができます。
役者
正体
役割
ラジカル 電気を帯びていない、反応しやすい粒子 膜と化学反応して、削れやすい物質に変える。四方八方に飛ぶ
イオン 電気を帯びた粒子 シースの電界で真下に加速され、底をたたいて反応を進める
シース ウェーハの直上にできる電界の層 イオンの向きをそろえ、真下に飛ばす「発射台」
ポイント: ラジカルだけなら等方的(四方に同じ速さ)に削れ、イオンだけなら削る速さが足りず、マスクも傷みます。化学の力(ラジカル)と物理の力(イオン)を組み合わせる ことで、速く、真下に、狙った膜だけを削れます。
あわせて読みたい
【図解】ウェットエッチングとドライエッチングの違い|7つの視点で比較
等方性と異方性の違いから、ウェットとドライを7つの視点で比べる
なぜ真下に削れるのか:異方性のしくみ
RIEで垂直な壁ができる理由は、イオンの向きだけではありません。削っている最中に、溝の側壁に薄い保護膜ができることも大きな役割を持っています。
理由1:イオンは真下からしか当たらない
シースの電界で加速されたイオンは、ほぼ真上から真下へ飛びます。そのため、溝の底にはイオンが当たり、側壁にはほとんど当たりません。反応が進むのは、イオンが当たる底の面です。
理由2:側壁に「保護膜」ができる
ガスの成分や削りかすの一部は、溝の壁に薄い膜としてつきます。底の膜はイオンにたたかれてすぐにはがれますが、壁の膜は残って、横から削られるのを防ぎます。
たとえるなら
真上から降る雨の中で、傘を差して立っているようなものです。雨(イオン)は真上から地面(底)にしか当たらず、傘(側壁の保護膜)が横の面をぬらさないように守ります。
良いRIEかどうかは、次の3つで判断されます。
選択比
削りたい膜と、残したい膜(マスクや下の層)の削れる速さの比。高いほど、狙った膜だけを削れます。
異方性
縦に削れる速さと、横に削れる速さの差。大きいほど、垂直な壁になります。
均一性
ウェーハの中心と端で、削れる速さがそろっているか。ばらつくと、場所によって削り残しが出ます。
RIE装置の種類:CCPとICPの違い
RIE装置は、プラズマの作り方で大きく2つに分かれます。どちらも、削る膜や求める形に応じて使い分けられています。
比較項目
CCP(容量結合プラズマ)
ICP(誘導結合プラズマ)
プラズマの作り方 向かい合う2枚の電極の間に高周波をかける コイルに高周波を流し、その磁界でプラズマを作る
特徴 イオンの勢いが強く、硬い膜を削りやすい プラズマの濃さと、イオンの勢いを別々に調整しやすい
主な相手 酸化膜などの絶縁膜 シリコン・金属・多くの膜
用語メモ:CCP・ICP
CCPは Capacitively Coupled Plasma、ICPは Inductively Coupled Plasma の略。どちらも RIE の一種で、プラズマを作るための電気のかけ方が違います。
どちらの装置も、削っている最中にプラズマの光や反射光を測り、下の膜が出てきた瞬間に止める「終点検出」の仕組みを持っています。削りすぎると下の層を傷め、削り残すと配線がつながらないためです。
ポイント: ICPのように「プラズマの濃さ」と「イオンの勢い」を別々に調整できると、速く削りながら、下の膜へのダメージを抑えられます。微細化が進むほど、この調整の自由度が重要になっています。
削る膜ごとに、ガスを変える
RIEの「反応性」の部分は、使うガスで決まります。削りたい膜と反応して、気体になって飛んでいく物質を作れるガスを選びます。
削る膜
主に使うガスの系統
ねらい
シリコン・ポリシリコン フッ素系・塩素系・臭素系 トランジスタのゲートや、素子を仕切る溝を掘る
シリコン酸化膜(絶縁膜) フルオロカーボン系(炭素とフッ素の化合物) 配線をつなぐ穴(コンタクト・ビア)を開ける
アルミなどの金属 塩素系 金属を配線の形に削る
有機膜(マスクの下地など) 酸素系 炭素を燃やすように取り除く
注意: 銅は、塩素などと反応してできる物質が気体になりにくく、RIEで細かい形に削るのが難しい金属です。そのため銅の配線は、先に溝を掘ってから銅を埋める「ダマシン法」で作ります。RIEで削るのは、銅ではなく溝を作る絶縁膜のほうです。
フルオロカーボン系のガスは、削りながら炭素を含む膜を壁につけやすい性質があります。前の節の「側壁の保護膜」をうまく作れるのは、このガスの選び方のおかげです。
RIEの発展形:ボッシュ法とALE
基本のRIEをもとに、もっと深く、もっと精密に削るための方法が生まれています。
ボッシュ法(DRIE):削る・守るを交互にくり返す
ボッシュ法は、ドイツの Robert Bosch 社の技術者が1992年に出願した方法です(ドイツでの特許の公開は1994年)。六フッ化硫黄(SF6)のプラズマで少し削る工程と、側壁に高分子の保護膜をつける工程を、交互に何度もくり返します。深く垂直な穴を掘れるため、DRIE(深掘りRIE)とも呼ばれます。
もともとは自動車のエアバッグや横滑り防止に使う加速度センサー・ジャイロセンサー(MEMS)を安く作るために生まれた技術です。いまでは、チップを縦に貫く電極(TSV)を作る工程などにも使われています。
ALE(原子層エッチング):1層ずつはがす
ALE(Atomic Layer Etching)は、「表面の1層だけを反応させる」工程と「反応した層だけをはがす」工程を分けてくり返し、原子の層を1枚ずつ取り除く方法です。削る量を極めて細かく制御できるため、最先端のトランジスタのように、わずかな削りすぎも許されない場面で使われ始めています。
方法
考え方
得意なこと
RIE(基本) ラジカルとイオンで同時に削る 速く、垂直に削る
ボッシュ法(DRIE) 削る・守るを交互にくり返す 深くて垂直な穴
ALE 反応させる・はがすを分けてくり返す 原子レベルの削る量の制御
なぜAI半導体でRIEが重要なのか
AI向けのGPUやメモリでは、RIEに求められる形がどんどん難しくなっています。
1. トランジスタが立体になった
最先端のトランジスタは、平らな構造から、ひれのように立てたFinFET、さらに電流の通り道を上下から包むGAA(ゲート・オール・アラウンド)へと変わってきました。立体の部品を、狙った形と寸法で削り出すのはRIEの役割です。
2. メモリは「深い穴」を掘る勝負になった
層を何十層も積み重ねる3D NANDや、電気をためる部分を細長く立てるDRAMでは、細くて深い穴を、まっすぐに掘る必要があります。穴が深くなるほど、底までイオンやガスが届きにくくなり、穴が曲がったり細ったりしやすくなります。
3. HBMやチップレットで、チップを貫く穴を掘る
HBM(広帯域メモリ)は、DRAMのチップを何枚も積み重ね、TSVという縦の電極で上下をつなぎます。TSVのための深い穴を開ける工程でも、ボッシュ法のような深掘りのRIEが使われています。
あわせて読みたい
HBMの製造工程とは?TSV・積層(MR-MUF・TC-NCF)・検査の15ステップを図解
TSVの穴あけから積層・検査まで、HBMができるまでを15段階で
RIEを支える企業:装置・材料・使う側
RIEは、装置の作り込みと、ガスなどの材料の組み合わせで性能が決まる工程です。装置にも材料にも日本企業がいます。
装置メーカー
東京エレクトロン (8035):日本最大の製造装置メーカー。絶縁膜向けなどのエッチング装置を手がける
Lam Research (LRCX):米国の製造装置大手。エッチング装置が主力
Applied Materials (AMAT):米国の製造装置最大手。エッチング装置も手がける
日立ハイテク (日立製作所の子会社):シリコンや金属向けなどのエッチング装置を手がける
材料メーカー(エッチングガスなど)
関東電化工業 (4047):半導体向けのフッ素系ガスを手がける
レゾナック (4004):半導体向けの高純度ガスを手がける
使う側(チップを作る会社)
TSMC (2330.TW):ロジック半導体の受託製造
Samsung Electronics (005930.KS)・SK hynix (000660.KS):DRAM・HBM
キオクシア (285A):3D NANDフラッシュ
エッチング装置は、ウェーハ1枚を削るたびに部屋の内側の部品も少しずつ削られます。そのため、装置を売ったあとも部品の交換や保守の仕事が続きます。各社の勢力図は、別の記事で詳しく比べる予定です。
RIEを知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ: 露光や成膜の担当でも、RIEの「選択比」と「異方性」の考え方を知っておくと、マスクの厚さや膜の材料を決める理由が見えてきます。前後の工程の条件は、RIEで削れるかどうかで決まることが多いからです。
投資家の方へ: メモリの層数が増えたり、トランジスタの構造が変わったりすると、RIEの工程数と難しさが増えます。エッチング装置のニュースは、メモリやロジックの構造の変化とセットで読むと位置づけがわかります。
学生・就活中の方へ: RIEは、プラズマ物理(電気)・反応(化学)・真空と装置(機械)・材料が交わる分野です。電気系・化学系・機械系のどの専攻でも入り口があります。
よくある誤解
誤解1:RIEは、イオンをぶつけて物理的に削っているだけ
イオンだけで削る方法(イオンミリング)もありますが、RIEはガスの化学反応 が主役です。イオンは反応を後押しし、向きをそろえる役目です。だから、削りたい膜だけを選んで削れます。
誤解2:ドライエッチングとRIEは同じ意味
RIEはドライエッチングの代表ですが、ドライエッチングにはラジカルだけで削る方法や、イオンミリングなども含まれます。RIEは「反応性のガス+イオン」の組み合わせを指す言葉です。
誤解3:RIEなら、どんな金属でも削れる
削ってできる物質が気体にならない金属は、RIEでは削りにくくなります。銅がその代表で、銅の配線はRIEで削るのではなく、溝に埋めて余分を研磨する方法で作ります。
まとめ
RIEは、プラズマの中のラジカル(化学)とイオン(物理)の合わせ技で膜を削るドライエッチング
イオンが真下から当たり、側壁には保護膜がつくので、横に広がらず垂直に削れる
プラズマの作り方でCCPとICPに分かれ、削る膜ごとにガスを変える
深い穴のボッシュ法、原子1層ずつのALEなど、RIEから発展した方法がAI半導体を支える
装置は日米の大手、ガスは日本の化学メーカーが担っている
よくある質問
Q. RIEとは何の略ですか?
A. Reactive Ion Etching の略で、日本語では反応性イオンエッチングといいます。ドライエッチングの代表的な方法です。
Q. RIEとウェットエッチングの違いは何ですか?
A. ウェットは薬液で四方に溶かすため横にも広がり、RIEはプラズマのイオンが真下から当たるため垂直に削れる点が違います。
Q. RIEで使うプラズマとは何ですか?
A. ガスに電気のエネルギーを与えて、電子やイオン、反応しやすい粒子がまざった状態にしたものです。これで膜を削ります。
Q. ボッシュ法とRIEの違いは何ですか?
A. ボッシュ法はRIEの一種で、削る工程と側壁を守る工程を交互にくり返し、普通のRIEより深く垂直な穴を掘る方法です。
この記事のテーマを、本でもっと深く PR(アフィリエイト広告)
¥2,200 (2026/10/04 13:17時点 | Amazon調べ)
ポチップ
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
テーマ別に、もっと深く学ぶ
気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめての方にもわかるように図解で書いています。
前工程をもっと深く
つまずきやすい「違い」を解決
あわせて知りたい、隣のテーマ
コメント