半導体の「エッチング装置メーカー」は、世界でもごく少数しかありません。中でも名前がよく挙がるのが、日本の東京エレクトロンと、米国のLam Researchです。どちらも「エッチングの大手」と紹介されますが、得意な分野や事業の形には違いがあります。
こんな疑問はありませんか?
- エッチング装置メーカーの2強は、それぞれ何が得意なの?
- なぜエッチング装置は、少数の会社の寡占になるの?
- メモリとロジックで、2社の強みはどう違うの?
- 極低温エッチングなどの新しい技術では、どちらが先行しているの?
- 装置を売ったあとの売上(サービス)は、どれくらいあるの?
この記事でわかること
- エッチング装置が寡占になる4つの理由
- 2社の基本データ(売上・決算期・主な製品)を1枚の表で
- 「絶縁膜」と「導体」という得意分野の違い
- 極低温エッチングをめぐる両社の発表
- 装置・部品と材料・使う側の企業を3面のカードで
あなたが今いる場所:前工程 > エッチング > エッチング装置メーカーの2強
前工程(ウェーハに回路を作る)
基板
成膜
露光
エッチング ←ココ
ドーピング
CMP
洗浄
配線
計測
後工程(チップに切り分けて仕上げる)
ウェーハテスト
バックグラインド
ダイシング
ボンディング
封止
最終テスト
先端パッケージ
この記事は「エッチング」の装置メーカーの比較です。2社はエッチングのほかに、薄い色の「成膜」「洗浄」の装置も手がけています。
エッチング装置メーカーの2強とは?先に結論
先に結論
エッチング装置の2強は、絶縁膜のエッチングを得意とする東京エレクトロンと、導体(シリコンや金属)を含めた幅広いエッチングに強いLam Researchです。
東京エレクトロンは、絶縁膜エッチングの世界シェアを50%以上と説明し、DRAMのキャパシタやHBM向けの配線の工程に強みを持ちます。Lam Researchは、導体・絶縁膜・深掘り・選択エッチングまで製品群をそろえ、極低温エッチングの3世代目を製品化しています。どちらも「装置を売ったあとの保守や部品の売上」が大きい事業の形を持ち、メモリの投資の波を大きく受けます。
用語メモ:絶縁膜エッチング
電気を通さない膜(酸化膜など)を削るエッチング。配線をつなぐ穴や、メモリの深い穴を掘る工程が中心です。
用語メモ:導体エッチング
シリコンや金属など、電気を通す材料を削るエッチング。トランジスタのゲートや、素子を仕切る溝を作る工程が中心です。
なぜエッチング装置は寡占になるのか
エッチング装置を作る会社は、世界でも数えるほどしかありません。Lam Researchは年次報告書で、エッチングの競合としてApplied Materials・日立・東京エレクトロンを挙げています。新しい会社が入りにくい理由は、大きく4つあります。
1. 工程ごとの「レシピ」の蓄積
削る膜・形・深さごとに、ガス・圧力・電力・温度の組み合わせ(レシピ)を作り込む必要があり、長年のデータと経験がものを言います。
2. 一度採用されると変わりにくい
チップを作る会社は、ある工程で使う装置と条件を決めると(POR)、その世代の量産が終わるまで変えないのが普通です。
3. 装置を売ったあとが長い
エッチング装置は部屋の内側の部品が少しずつ削れるため、部品交換や保守の仕事が装置の寿命まで続きます。
4つ目は、開発の規模です。最先端の工程に合わせた装置を、チップメーカーの開発と同時に作り込むには、大きな研究開発費と、世界中の工場の近くで支える技術者が必要です。
用語メモ:POR
Process of Record の略。チップメーカーが、ある工程の量産で使う装置と条件を正式に決めたもの。ここに選ばれると、その世代の量産の間、同じ装置が使われ続けます。
あわせて読みたい
半導体の成膜装置の世界シェア|AMAT・Lam・東京エレクトロンの寡占構造を図解
装置はなぜ少数の会社の寡占になるのか。成膜装置の構造から読み解く
2社の基本データを並べて見る
2社は決算期が違うため(東京エレクトロンは3月、Lam Researchは6月)、売上の数字をそのまま並べて順位をつけることはできません。ここでは、それぞれの最新の公表値を紹介します。
| 比較項目 |
東京エレクトロン |
Lam Research |
| 本社 | 日本(東京) | 米国(カリフォルニア州) |
| 証券コード | 8035(東証) | LRCX(NASDAQ) |
| 最新の通期の売上高 | 2兆4,435億円(2026年3月期、過去最高) | 232億ドル(2026年6月期) |
| 前期の売上高 | 2兆4,315億円(2025年3月期) | 184億ドル(2025年6月期) |
| エッチング以外の主な装置 | 塗布・現像装置、成膜装置、洗浄装置、ウェーハプローバ | 成膜装置、洗浄装置 |
| 主なエッチング装置 | Tactras、Episode UL | Kiyo・Akara(導体)、Flex・Vantex(絶縁膜)、Syndion(深掘り)など |
東京エレクトロンは、エッチングのほかに、露光の前後でレジストを塗って現像する装置(コータ/デベロッパ)を世界シェア90%以上と説明しています。Lam Researchは、エッチングと成膜を2本柱にしています。同じ「装置メーカー」でも、売上の土台になっている製品が違います。
得意分野の違い:絶縁膜の東京エレクトロン、幅広いLam Research
エッチングは、削る膜の種類で「絶縁膜」と「導体」に大きく分かれます。2社の強みは、この分け方で見るとわかりやすくなります。
| エッチングの種類 |
主な工程 |
東京エレクトロンの説明 |
Lam Researchの製品群 |
| 絶縁膜 | メモリの深い穴、配線をつなぐ穴、DRAMのキャパシタ | 世界シェア50%以上。DRAMキャパシタ工程で大手顧客のPORを専有。HBM向けの配線工程で高いシェア | Flex・Vantex |
| 導体(シリコン・金属) | トランジスタのゲート、素子を仕切る溝 | GAAでゲートエッチングの機会が拡大 | Kiyo・Akara・Versys Metal |
| 深掘り(TSV) | チップを縦に貫く穴 | ― | Syndion |
| 選択・等方性エッチング | 立体の構造の一部だけを横から削る | GAAで等方性エッチングの機会が拡大 | Argos・Prevos・Selis |
ポイント:東京エレクトロンは、自社の説明で絶縁膜とメモリ(キャパシタ・HBMの配線)の強さを前面に出しています。Lam Researchは、導体から深掘り、選択エッチングまで、エッチングの種類ごとに製品群をそろえています。同じエッチングでも、得意な「膜」と「工程」が違うのが2社の大きな違いです。
注意:「シェア50%以上」は東京エレクトロンが決算説明で示した、絶縁膜エッチングという区分での数字です。エッチング装置全体のシェアではありません。会社が示すシェアは、区分の切り方によって大きく変わるため、どの区分の数字かを確かめて読む必要があります。
あわせて読みたい
【完全図解】エッチングとは?半導体を「削って形を作る」工程を1から解説
絶縁膜と導体、削る膜の違いから。エッチングを1から理解する
新しい技術の競争:極低温エッチングとGAA
極低温エッチング:深い穴を速く掘る
3D NANDの深い穴を掘る技術では、2社とも、ウェーハを零度よりずっと低い温度に冷やして掘る「極低温エッチング」を打ち出しています。
| 会社 |
発表 |
内容 |
| 東京エレクトロン | 2023年6月 | 400層を超える3D NAND向けのチャネルホールの技術。深さ10μmを33分で掘れる |
| Lam Research | 2024年7月 | 極低温エッチングの3世代目「Lam Cryo 3.0」。深さ最大10μmの穴を、寸法のずれ0.1%未満で掘れる |
GAA:立体のトランジスタで出番が増える
2nm世代から使われ始めたGAA(ゲート・オール・アラウンド)のトランジスタは、電流の通り道を何枚かの薄い板に分け、その上下左右をゲートで包む構造です。板と板の間だけを横から削るような、選択性の高いエッチングが必要になり、両社ともこの分野を成長の機会と位置づけています。
売上の中身:装置と、売ったあとのサービス
エッチング装置の会社の売上は、新しい装置の販売と、すでに工場にある装置の部品・保守・改造の2つでできています。後者は、装置の台数が増えるほど積み上がる、比較的安定した売上です。
| 比較項目 |
東京エレクトロン |
Lam Research |
| 装置を売ったあとの売上 | フィールドソリューション:6,260億円(2026年3月期、前期比16.3%増) | サポート等:24億7,239万ドル(2026年6月期第4四半期) |
| 新しい装置の売上 | 新規装置の用途別:DRAM 31%・不揮発性メモリ10%・非メモリ59%(2026年3月期) | 装置(Systems):42億4,985万ドル(2026年6月期第4四半期) |
| 地域 | 中国向けの売上構成比34.1%(2026年3月期) | 台湾27%・中国26%・韓国20%・日本9%ほか(2026年6月期第4四半期) |
どちらも、売上のかなりの部分を保守や部品が占めています。工場の稼働率が上がると部品や保守の売上が伸び、チップメーカーの新しい投資が増えると装置の売上が伸びる、という2つの波があります。
2強以外のプレーヤー
エッチング装置は2社だけの市場ではありません。工程や地域によって、ほかの会社も存在感を持っています。
| 会社 |
特徴 |
| Applied Materials(AMAT) | 米国の製造装置最大手。成膜やCMPなど幅広い装置の中で、エッチング装置も手がける |
| 日立ハイテク(日立製作所の子会社) | 日本のエッチング装置メーカー。シリコンや金属などの導体エッチングで実績がある |
| 中国の装置メーカー | 中国の工場向けを中心に、国産のエッチング装置が育ちつつある |
中国は、2社にとって大きな売り先です。東京エレクトロンの2026年3月期の中国向けの売上構成比は34.1%でした。米国などの輸出規制や、中国の国産化の動きは、2社の今後の売上の行方に関わる大きな要因です。
エッチング装置を取り巻く企業:装置・部品と材料・使う側
装置メーカー
- 東京エレクトロン(8035):絶縁膜エッチングに強み。塗布・現像、成膜、洗浄の装置も手がける
- Lam Research(LRCX):エッチングと成膜が2本柱。極低温エッチングを製品化
- Applied Materials(AMAT):米国の製造装置最大手
- 日立ハイテク(日立製作所の子会社):導体エッチングなど
部品・材料
- 関東電化工業(4047):半導体向けのフッ素系ガス
- レゾナック(4004):半導体向けの高純度ガス
使う側(チップを作る会社)
- TSMC(2330.TW):ロジック半導体の受託製造
- Samsung Electronics(005930.KS)・SK hynix(000660.KS):DRAM・HBM・NAND
- キオクシア(285A):3D NAND
エッチング装置の売上は、チップメーカーの投資計画に左右されます。メモリの投資が増える時期は絶縁膜エッチング、先端ロジックの投資が増える時期は導体や選択エッチングの出番が増える、という傾向を知っておくと、ニュースの読み方が変わります。
2社の違いを知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:工場では、同じエッチングでも工程によって違う会社の装置が並んでいるのが普通です。担当する工程の装置がどちらの会社のものか、その会社が何を得意としているかを知っておくと、条件の相談や不具合の切り分けの話がしやすくなります。
投資家の方へ:2社は決算期も、得意な膜も、売上の土台になっている製品も違います。「エッチング装置の大手」とひとまとめにせず、メモリ(絶縁膜)とロジック(導体・選択)のどちらの投資に乗るのか、サービスの売上がどれだけあるのかを分けて見ると位置づけがわかります。
学生・就活中の方へ:装置メーカーは、プラズマ・化学・機械・ソフトウェア・制御の技術者が集まる会社です。どちらの会社も日本に開発拠点を持ち、電気系・化学系・機械系の学生の就職先として身近な存在です。
よくある誤解
誤解1:エッチング装置は、1社が世界を独占している
東京エレクトロンとLam Researchの2強に加え、Applied Materialsや日立ハイテクなども手がけています。しかも2強の得意な膜や工程は違い、工程ごとに勢力図が変わります。
誤解2:売上が大きいほうが、エッチングでも強い
2社とも、エッチング以外の装置やサービスの売上を含んだ数字です。決算期も違うため、全社の売上の大きさだけで、エッチングの強さは比べられません。
誤解3:装置は売ったら終わり
エッチング装置は部品が少しずつ削れるため、保守や部品交換の仕事が装置の寿命まで続きます。売ったあとの売上が、2社の事業を支える大きな柱です。
まとめ
- エッチング装置の2強は、東京エレクトロン(日本)とLam Research(米国)
- 東京エレクトロンは絶縁膜エッチングで高いシェアを持ち、メモリのキャパシタやHBMの配線に強い
- Lam Researchは導体・絶縁膜・深掘り・選択エッチングまで製品群をそろえる
- 極低温エッチングとGAA向けのエッチングが、新しい競争の場になっている
- 装置の販売と、売ったあとの保守・部品の2つの売上が、どちらの会社も支えている
よくある質問
Q. エッチング装置メーカーの大手はどこですか?
A. 東京エレクトロンとLam Researchが2強です。ほかにApplied Materialsや日立ハイテクも手がけています。
Q. 東京エレクトロンとLam Researchの違いは何ですか?
A. 東京エレクトロンは絶縁膜のエッチングに強く、Lam Researchは導体や深掘りも含めた幅広いエッチングの製品群を持ちます。
Q. なぜエッチング装置は寡占になるのですか?
A. 工程ごとの条件づくりの蓄積が必要で、一度採用されると変わりにくく、保守や開発に大きな体制がいるためです。
Q. エッチング装置の会社の売上は何で決まりますか?
A. 新しい装置の販売と、工場にある装置の部品・保守の売上で決まります。前者は投資の波、後者は工場の稼働率に左右されます。
免責事項:本記事はエッチング装置の業界の構造を理解するための情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。業績などの数値は2026年10月5日時点の公開情報に基づき、将来の成果を保証しません。投資判断は、ご自身の責任と最新の一次情報(IR・有価証券報告書など)に基づいて行ってください。
この記事のテーマを、本でもっと深くPR(アフィリエイト広告)
エッチング装置の会社を、業界の全体から見たい方に。本書(技術評論社)には「成膜装置・エッチング装置の市場と技術動向」の章があり、「半導体製造装置業界の業務」の章では装置業界の仕事も取り上げられています。
¥1,980 (2026/10/05 21:02時点 | Amazon調べ)
ポチップ
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
テーマ別に、もっと深く学ぶ
気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめての方にもわかるように図解で書いています。
前工程をもっと深く
つまずきやすい「違い」を解決
あわせて知りたい、隣のテーマ
コメント