ドーピングの主役といわれる「イオン注入」。原子をイオンにして撃ち込む、と聞くと大がかりに感じますが、やっていることは「狙った場所に、狙った量を、狙った深さで」入れるという、とても几帳面な作業です。
- イオン注入とは、何をどうやって打ち込んでいるの?
- 装置の中は、どんな仕組みになっているの?
- 深さと量は、何で決まるの?
- 打ち込むと結晶が傷つくのに、なぜこの方法を使うの?
- イオン注入装置は、どの会社が作っているの?
- イオン注入の定義と、装置の中の5つの部分
- 深さを決める「エネルギー」と、量を決める「ドーズ量」
- 高電流・中電流・高エネルギーの3種類の装置
- 結晶の傷・チャネリングと、アニールの関係
- 装置・材料・使う側の企業を3面のカードで


イオン注入とは?先に結論
イオン注入とは、リンやホウ素などの不純物を電気を帯びたイオンにして、電圧で加速し、ウェーハの決めた場所に、決めた量を、決めた深さまで打ち込む前工程です。
深さは加速の強さ(エネルギー)で、量は打ち込むイオンの数(ドーズ量)で、場所はマスクで決まります。この3つを別々に正確に決められることが、熱でしみこませる方法に代わって主役になった理由です。打ち込みで傷ついた結晶は、あとの熱処理(アニール)で直します。
英語では Ion Implantation(インプランテーション=植え込み)。装置はイオン注入装置、現場ではインプランターとも呼ばれます。
ウェーハの面積あたりに打ち込んだイオンの数。どれだけ濃く不純物を入れたかを表します。

イオン注入装置の中身:5つの部分
イオン注入装置は、イオンを作ってから、ウェーハに当てるまでを1本の長い通り道で行います。通り道は、イオンが空気の分子にぶつからないよう真空になっています。
| 部分 | 役割 |
|---|---|
| イオン源 | 不純物を含むガスなどからイオンを作る |
| 質量分析 | 磁石でイオンの通り道を曲げ、重さの違いで、ほしい種類のイオンだけを選び出す |
| 加速 | 電圧をかけてイオンを加速し、打ち込む深さに合わせたエネルギーにする |
| ビームの走査 | イオンの流れ(ビーム)を動かしたり、ウェーハ側を動かしたりして、全体にまんべんなく当てる |
| エンドステーション | ウェーハを置いて打ち込む場所。打ち込んだイオンの量を測りながら進める |

深さは「エネルギー」、量は「ドーズ量」で決まる
イオン注入の条件は、主に2つのつまみで決まります。2つを別々に調整できるのが、熱でしみこませる方法との大きな違いです。
| つまみ | 決めるもの | 調整の仕方 |
|---|---|---|
| エネルギー | 打ち込む深さ | 加速の電圧を高くすると、イオンは深くまで届く。軽い元素ほど同じエネルギーで深く入る |
| ドーズ量 | 不純物の濃さ | 打ち込むイオンの数を、ビームの強さと時間で調整する |
| マスク | 打ち込む場所 | レジストなどで覆った所には入らない |
砂場にボールを投げ込むようなものです。強く投げれば(エネルギー)深くもぐり、たくさん投げれば(ドーズ量)その場所の密度が上がります。板で覆った所(マスク)には、ボールは届きません。
打ち込まれたイオンは、結晶の原子にぶつかりながら少しずつ止まるため、深さには一定の幅ができます。設計では、この広がりまで計算に入れて条件を決めます。
打ち込む場所を決めるマスクは、露光で焼き付けられる

イオン注入装置の3つの種類
入れたい深さと量の組み合わせは、場所によって大きく違います。そのため、イオン注入装置は得意な範囲ごとに3つの種類に分かれています。
| 種類 | エネルギー(深さ) | ドーズ量(濃さ) | 主な使い道 |
|---|---|---|---|
| 高電流 | 低い(浅い) | 多い(濃い) | ソース・ドレインのように、浅く濃く入れる場所 |
| 中電流 | 中くらい | 少なめ〜中くらい | チャネルのしきい値の調整など、量を細かく決めたい場所 |
| 高エネルギー | 高い(深い) | 少ない(薄い) | ウェルのように、深く入れる場所 |
1枚のウェーハは、工程の途中で何度もイオン注入装置を通ります。工場では、この3種類の装置を組み合わせて使います。

打ち込みの副作用と、その対策
イオンを高速でぶつける以上、ウェーハには負担がかかります。イオン注入の工程は、副作用への対策とセットで組み立てられています。
ぶつかったイオンが原子をはじき飛ばし、きれいに並んだ結晶が乱れます。あとのアニール(熱処理)で並びを直します。
結晶の原子の並びのすき間にイオンが入り込み、狙いより深くまで進んでしまう現象。ウェーハを少し傾けて打ち込んで防ぎます。
レジストのマスクもイオンを浴びて硬くなります。あとの工程で取り除きにくくなるため、洗浄・剥離の工夫が必要です。
結晶の中で、原子が一直線に並んでできる「トンネル」のようなすき間に沿って、イオンが奥まで入り込む現象。深さがばらつく原因になります。
打ち込んだ不純物は、アニールで結晶の決まった位置におさまってはじめて働きます。ただし熱を加えすぎると不純物が広がってしまうため、イオン注入の条件とアニールの条件は、いつも組み合わせで決めます。

AI半導体とパワー半導体で、何が変わったのか
1. より浅く、より正確に
トランジスタが小さくなるほど、不純物はごく浅い場所にとどめる必要があります。エネルギーを低くしながら、必要な量のイオンを短い時間で打ち込むことが、高電流の装置の課題になっています。
2. 立体のトランジスタには、角度をつけて
FinFETやGAAのような立体の構造では、真上から打つだけでは側面に入りにくくなります。打ち込む角度や回数を工夫して、立体の表面にまんべんなく入れます。
3. SiCでは、ウェーハを熱くして打ち込む
電気自動車やデータセンターの電源に使うSiC(炭化ケイ素)のパワー半導体は、結晶がとても硬く、打ち込みの傷が残りやすい材料です。報道によると、SiC向けのイオン注入装置では、ウェーハを500度C程度に加熱したうえでイオンを打ち込みます。住友重機械イオンテクノロジーは、SiC向けの装置を2025年にも投入する計画と報じられました。
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イオン注入を支える企業:装置・材料・使う側
イオン注入装置は、手がける会社が限られる専門性の高い装置です。日本からも2つのグループが作っています。
装置メーカー
- Applied Materials(AMAT):米国の製造装置最大手。イオン注入装置も手がける
- Axcelis Technologies(ACLS):米国のイオン注入装置の専業メーカー。高電流・中電流・高エネルギーの3種類をそろえる
- 住友重機械工業(6302):グループの住友重機械イオンテクノロジーが、半導体向けのイオン注入装置を手がける
- 日新電機グループ:日新イオン機器が、半導体向けとフラットパネル向けのイオン注入装置を手がける
材料メーカー(ウェーハなど)
- 信越化学工業(4063)・SUMCO(3436):打ち込みの土台になるシリコンウェーハ
使う側(チップを作る会社)
- TSMC(2330.TW):ロジック半導体の受託製造
- Samsung Electronics(005930.KS)・SK hynix(000660.KS):DRAM・HBM
- ローム(6963):SiCのパワー半導体
イオン注入装置は、1台が大きく値段も高い装置です。ロジック・メモリ・パワー半導体のどれが伸びるかで、必要な種類(高電流か高エネルギーかなど)が変わります。

イオン注入を知ると、何が見えてくるか

よくある誤解
ドーピングは「不純物を入れること」全体の名前で、イオン注入はその方法の1つです。今のチップでは、ドーピングの多くをイオン注入で行います。
強さ(エネルギー)が決めるのは深さで、量を決めるのはイオンの数(ドーズ量)です。深さと量を別々に決められるのが、イオン注入の強みです。
打ち込んだだけでは不純物は働かず、結晶も傷ついたままです。アニールの熱処理までが1組の工程です。
まとめ
- イオン注入は、不純物をイオンにして加速し、決めた場所・量・深さに打ち込む前工程
- 装置は、イオン源・質量分析・加速・走査・エンドステーションの5つの部分からなる
- 深さはエネルギー、量はドーズ量、場所はマスクで決まる
- 装置は高電流・中電流・高エネルギーの3種類。結晶の傷はアニールで直す
- 装置は米国の2社と日本の2グループが担い、SiC向けの加熱注入も広がっている

よくある質問
メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
次に読むべき記事
ここまでで、イオン注入が不純物を「狙った深さ」に打ち込む工程だとわかりました。次は、イオン注入の前後にある工程を読むと、トランジスタができるまでの流れがつながります。
テーマ別に、もっと深く学ぶ
気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめての方にもわかるように図解で書いています。



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