CPOや光トランシーバーは分かってきた。でもOCSはそれと何が違うの?
Lumentumの決算で「OCSバックログ」という言葉を見て、投資的に重要なのか判断できない
NVIDIAのNVLinkとGoogleのやり方は、結局どっちが正しいの?
その気持ち、とてもよく分かります。実はOCSは、これまでの光の話とは「見ている階層」がまるごと違う技術なんです。CPOや光トランシーバーは「1本の配線を光にする」話でした。OCSは「たくさんの光の配線を、どこと繋ぐか組み替える」話です。いわば、道路を舗装し直す話から交差点と線路の分岐器を作る話へ、1段上がります。
② 小さな鏡で光の通り道を切り替えるMEMSミラーの仕組み
③ Googleが10年以上OCSを使い続け、消費電力を約4割削減できた理由
④ NVIDIA(全員と常時つながる)とGoogle(つなぎ方を組み替える)の思想の違い
⑤ NTT・サンテックなど日本企業の立ち位置

1本の配線を光にする
(CPO・トランシーバー・LPO=既存記事)
光の配線どうしの
「つなぎ方」を組み替える(OCS)

先に結論:OCSは「中身を読まない」から圧倒的に省エネ
同規模の電気スイッチは約3,000W
コストも約30%減
比較対象は既知の最良構成
年平均30%超の成長
・108W/約3,000W:R. Urata et al., “Mission Apollo: Landing Optical Circuit Switching at Datacenter Scale”(arXiv:2208.10041, 2022)。136×136ポートのPalomar OCSと、同ポート数の電気パケットスイッチの比較
・電力40%減・コスト30%減・停止時間1/50:Google Cloud Blog “The evolution of Google’s Jupiter data center network”(2022年8月)。論文(SIGCOMM 2022)では電力41%減・設備投資30%減
・80億ドル超・年平均30%超:Cignal AI「Optical Circuit Switching Market – 2Q26」(2026年7月30日発表)

光を光のまま、ファイバの「つなぎ先」を切り替える装置。中身は読みません。
普段「スイッチ」と呼ばれる装置。データの小包(パケット)ごとに宛先を読んで振り分けます。
光(O)→電気(E)→光(O)の変換。電気スイッチを通るたびに必ず発生し、電力を食います。
半導体の技術で作る「動く超小型の機械」。OCSでは、角度を変えられる小さな鏡として使います。
データセンター網の最上段にある「幹線道路」役のスイッチ群。全体を束ねる背骨です。
ネットワークの「つなぎ方の形」。全員が全員と繋がる形や、格子状の形などがあります。

電気スイッチと光スイッチは「仕事」がまったく違う
「スイッチ」という名前は同じですが、2つは別の仕事をしています。一番わかりやすいのは、郵便局と鉄道の分岐器にたとえる方法です。
電気パケットスイッチ=郵便局
光回線スイッチ=鉄道の分岐器
6つの観点で比較
| 比較項目 | 電気パケットスイッチ(EPS) | 光回線スイッチ(OCS) | 差・優位 |
|---|---|---|---|
| 切り替える単位 | パケット(データの小包) | 回線(ファイバ1本まるごと) | 役割が違う |
| 中身(宛先)を読むか | 読む | 読まない | OCSは処理ゼロ |
| 切り替えの速さ | パケットごと(超高速) | ミリ秒級(MEMS方式) | EPSが優位 |
| 消費電力(136ポート相当) | 約3,000W | 約108W | 約1/28 |
| 通信速度の世代交代 | 世代ごとに交換が必要 | 交換不要(速度に依存しない) | OCSは「建物の一部」扱い |
| 得意な通信 | 相手が細かく変わる通信 | 大量のデータが長く同じ相手へ流れる通信 | AI学習はOCS向き |
・消費電力の比較:Urata et al., arXiv:2208.10041(2022)。約1/28は108W÷3,000Wから筆者が計算
・速度に依存しない点:Google Cloud Blog(2022年8月)の記述「data rate and wavelength agnostic, and does not require upgrades」
・MEMS方式の切り替え時間は製品・構成によって変わるため、目安として「ミリ秒級」と記載

「光→電気→光」の翻訳をやめる、という発想
データセンターの中では、データはファイバを光で走ります。ところが電気スイッチを通るたびに、いったん電気に戻して宛先を読み、また光に変える必要があります。国際会議で、話すたびに通訳を2回挟んでいるような状態です。
従来:電気スイッチを通るたびにOEO変換
電気へ
宛先を読む
OCS:光のまま鏡で反射するだけ
向きを変える
電力を使うのは鏡の角度を保つ制御部分だけです。
40G→100G→200G→400Gと速度が変わっても、鏡は光をそのまま反射するだけです。
宛先を読む処理がないので、待ち時間は光がガラスと空間を進む時間だけです。
・6Pb/s超:Google Cloud Blog(2022年8月)「Today, Jupiter supports more than 6Pb/sec」
・映画15万本/秒:6Pb/s=750TB/s、映画1本5GBとして筆者が計算(目安)
・40G→400Gの世代交代:同ブログの記述による

「鏡で切り替える」仕組みを4ステップで図解
GoogleのOCS(社内名:Palomar)の中には、2枚のMEMSミラーの板(アレイ)が向かい合わせに入っています。それぞれの鏡は2つの軸で傾けられるので、光の向きを自由に変えられます。
実用化を支えた2つの工夫
鏡がわずかにずれるだけで光は外れてしまいます。Googleは監視用の光とカメラで鏡の向きを読み取り、自動で角度を微調整し続ける仕組みを作りました。
行きと帰りの光を1本のファイバに同居させる部品(サーキュレーター)を使い、必要なOCSのポート数を約半分に抑えました。
・Palomar OCS(136×136、3D MEMS、完全ノンブロッキング)、監視光とカメラによる鏡の制御、サーキュレーターの利用:Urata et al., “Mission Apollo”(arXiv:2208.10041, 2022)
・2組のMEMSミラーによる任意ポート間の接続:Google Cloud Blog(2022年8月)
・「約半分」はサーキュレーターで双方向化した場合の原理的な効果(筆者整理)

OCSの方式は4つ|「鏡」以外の選択肢も台頭中
GoogleとLumentumはMEMS鏡方式ですが、2026年には「動く部品を持たない方式」も存在感を増しています。投資家としては、各社がどの方式で戦っているかを押さえておくと、ニュースが読みやすくなります。
| 方式 | 切り替えの原理 | 動く部品 | 強み・課題 | 代表プレイヤー |
|---|---|---|---|---|
| MEMS鏡 | 小さな鏡を傾けて反射 | あり | 大規模・低損失で実績が最も多い/駆動に高い電圧が要る | Google(内製)、Lumentum(LITE)R300 |
| 液晶 | 液晶で光の偏り(偏光)を変えて進路を選ぶ | なし | 機械的な摩耗がなく、低電圧で動く/大規模化の実績はこれから | Coherent(COHR) |
| 圧電 | 圧電素子でファイバ(光の向き)を直接動かす | あり | 低損失で、光がなくても接続を維持できる | HUBER+SUHNER(SIX: HUBN)Polatis |
| シリコンフォトニクス | チップ上の光の通り道(導波路)で切り替え | なし | 高速化・小型化の余地が大きい/損失とポート数に課題 | 新興スタートアップ群(非上場が中心) |
・Lumentum R300(MEMS、300×300ポート):Lumentum公式製品ページ
・Coherentの液晶方式(動く部品なし):Coherent「OFC 2026 Investor Event」資料(2026年3月17日)
・MEMS/液晶/圧電/ロボット/シリコンフォトニクスの分類と20社超のベンダー:Cignal AI(2026年7月30日発表)
・方式ごとの強み・課題は各社資料をもとに筆者が整理した定性比較。切り替え時間などの定量値は製品ごとに異なるため省略

Google Jupiter|OCSで「幹線道路」を丸ごと撤去した
Googleがデータセンター網「Jupiter」にOCSを入れた最大の理由は、省電力だけではありません。「建物を建て替えずに、中身だけ最新にし続けたい」という悩みがありました。
従来型(Clos構成)
・スパインは「接続される中で最も速い機器」に合わせる必要がある
・速度が上がるたびに数万本のファイバを張り替える大工事になる
OCS導入後(直接メッシュ)
・新旧さまざまな速度の機器が混在したまま動く
・通信の混み具合に合わせて、つなぎ方をソフトウェアで組み替える
Googleが公表した成果
・電力40%減・コスト30%減・スループット30%向上・停止時間1/50、スパイン層の撤廃、「OCS becomes part of the building infrastructure」:Google Cloud Blog “The evolution of Google’s Jupiter data center network”(2022年8月)
・論文:L. Poutievski et al., “Jupiter Evolving”(ACM SIGCOMM 2022)。電力41%減・設備投資30%減と記載
・比較対象は「Googleが把握している最良の代替構成」

TPUクラスタ|OCSで「ブロックを組み替えるスパコン」
GoogleのAI専用チップTPUは、64個をひとかたまりにした「キューブ」単位で組み立てられています。キューブの中は電気で、キューブ同士はOCSを介した光でつながります。故障したキューブがあれば、OCSの鏡を動かして別のキューブに差し替えられます。レゴブロックを組み替える感覚に近い仕組みです。
(64チップ×64キューブ)
OCSと光部品の割合
1ポッドあたりのチップ数
・「past eight years」:Google Cloud Blog(2022年8月)。そこから逆算すると統合開始は2014年前後で、2026年時点で10年超
・TPU v4(4,096チップ、64チップ単位、OCSは費用5%未満・電力3%未満):N. Jouppi et al., “TPU v4: An Optically Reconfigurable Supercomputer”(ISCA 2023, arXiv:2304.01433)
・Ironwood 9,216チップ・OCSによる接続:Google Cloud Blog “Inside the Ironwood TPU codesigned AI stack”
・外部ベンダーへの発注:Cignal AI(2026年7月30日発表)

NVIDIAとGoogleの思想の違い|「全結合」vs「再構成」
AIチップをたくさんつなぐ方法には、大きく2つの考え方があります。どちらが正しいかではなく、何を優先するかの違いです。
NVIDIA:全員が全員と常時つながる
Google:つなぎ方を組み替える
| 比較項目 | NVIDIA NVLink(NVL72) | Google TPU+OCS |
|---|---|---|
| つなぎ方 | 固定の全結合 | 格子状+再構成 |
| 密結合の単位 | 72 GPU(1ラック) | 9,216チップ(Ironwood) |
| 主な媒体 | 銅(ラック内) | 電気(キューブ内)+光(OCS) |
| 強み | どんな通信パターンにも強い・汎用性 | 大規模化・故障への強さ・省電力 |
| 弱み | 銅が届く範囲(ラック)が上限 | 通信パターンに合わせた設計が必要 |
調査会社Cignal AIは、NVIDIAが次世代のRubin Ultra NVL576(複数ラックをまとめる構成)にOCSを組み込む計画だと分析しています。本格的な量産は2028年からの見込みです。銅で届くラックの外へ広げるとき、NVIDIAも「光で組み替える」発想を取り入れつつある、ということです。
・NVL72のall-to-all接続と5,000本超の銅ケーブル:NVIDIA公式(NVLink製品ページ・NVIDIA AI Infrastructure公式投稿)
・TPUの3Dトーラス+OCS:ISCA 2023 TPU v4論文
・Ironwood 9,216チップ:Google Cloud Blog
・Rubin Ultra NVL576へのOCS統合計画と2028年からの量産見込み:Cignal AI「Optical Circuit Switching Market – 2Q26」(2026年7月30日発表)。NVIDIAの正式発表ではなく調査会社の分析です

OCSについてのよくある誤解3つ
・Jupiterでの電気スイッチとOCSの役割分担:Google Cloud Blog(2022年8月)、SIGCOMM 2022論文
・「量産規模の用途は現状TPUのみで、今後2〜3年は主流」「OCSの普及で単芯FR光学系やサーキュレーターが好まれる」:Cignal AI(2026年7月30日発表)

OCSの関連企業を3層で整理
上流:光部品・ファイバ・測定
- santec Holdings(6777):光測定器、測定用MEMS光スイッチ、LCOS光フィルタ
- フジクラ(5803):DC向けの高密度光ケーブル・コネクタ
- 住友電工(5802):光ファイバ・光デバイス
- 古河電工(5801):光ファイバ・レーザー光源
- Corning(GLW):光ファイバ・ガラス素材
中流:OCS装置メーカー
- Lumentum(LITE):MEMS方式のR300(300×300)。受注残は4億ドル超
- Coherent(COHR):液晶方式のOCS
- HUBER+SUHNER(SIX: HUBN):圧電方式のPolatis
- Molex(非上場・米Koch傘下):高ポート数のOCSプラットフォームを開発
下流:システム・DC運用
- Alphabet/Google(GOOGL):OCSを量産規模で使う唯一のユーザー。内製から外部調達へ移行中
- NVIDIA(NVDA):次世代NVL576でOCSを統合する見込み(調査会社の分析)
- NTT(9432):通信網(APN)で光回線を切り替える技術を推進
Lumentumは受注残が4億ドルを超えました。2026年7〜9月期には初めてOCSの売上が1億ドルを大きく上回る見通しだと、決算説明会で述べています。
「光スイッチ」という言葉だけで連想買いされる銘柄には注意が必要です。OCS向けの売上をIRで開示しているかを必ず確かめましょう。
・Lumentumの受注残4億ドル超:Lumentum FY2026 Q2決算リリース(2026年2月)
・OCS売上1億ドル超の見通し(FY2027 Q1=2026年7〜9月期):Lumentum FY2026 Q4決算説明会(2026年8月、報道ベース)
・Google→Lumentum・Coherent・HUBER+SUHNERへの発注:Cignal AI(2026年7月30日発表)
・Coherentの液晶方式:Coherent OFC 2026投資家説明資料
・santecの製品構成:同社製品ページ(OSXシリーズ、LCOS)。DC向け大型OCSへの直接供給は、2026年9月時点の公開情報では確認できていません(要確認)
・特定銘柄の売買を推奨するものではありません

日本企業の立ち位置|「装置の主役」ではなく「別の土俵」と「周辺」
正直に言うと、データセンター向けの大型OCS装置の主役は、2026年時点では米国勢です。ただし日本企業は、違う土俵や周辺の工程でしっかり存在感を持っています。
NTT(9432):通信網の世界で「光回線交換」を先に実装
現在研究中のAPN step3には、光のまま行き先を切り替えるファイバクロスコネクトが組み込まれています。品質が落ちたときに数十ミリ秒で光の経路を切り替える技術も検討されています。
Google OCSとの違いは主に土俵です。Googleは建物の中(DC内)、NTTは建物と建物の間(通信網)を担います。どちらも「電気に戻さず光のまま切り替える」という同じ発想に立っています。
santec Holdings(6777):光を「測る」側+小型光スイッチ
OCSとの関係は、光部品が高度になり数が増えるほど、測定・検査の需要も増えるという構造です。ただし、Google向けのような大型OCS装置を量産しているという一次情報は確認できていません。「OCS銘柄」と言い切らず、「光化の測定インフラ」として見るのが正確です。
・APN IOWN1.0の提供開始(2023年3月):NTTグループ公式・関連技術解説
・APN step3、Ph-GW(ファイバクロスコネクト)、数十ミリ秒級のリアルタイム光パス制御:NTT技術ジャーナル「APN step3を支える基盤システム主要要素技術」(2025年11月)。研究開発段階の技術です
・santecの2026年3月期(売上高315億円、前期比31%増):日本経済新聞電子版(2026年6月23日、santec公式サイト掲載)
・santecの光スイッチ(1×2〜1×400ch):同社製品ページ(OSX-100)

あなたにとってOCSは何を意味するか
投資家の方へ
理工系学生の方へ
若手技術者の方へ
・OCSの普及で単芯FR光学系・高光出力・サーキュレーター対応が求められる点:Cignal AI(2026年7月30日発表)
・市場の2本柱(TPUのScale Out/GPUのScale Up):同上

まとめ:OCSは「光の配線網の分岐器」
同規模の電気スイッチ約3,000Wに対して約108W。速度が上がっても交換不要
GoogleはJupiterでスパイン層を撤廃し、電力を約4割、コストを約3割削減
TPUは4,096〜9,216チップをOCSで組み替え可能なスパコンとして運用
NVIDIAは「全結合」、Googleは「再構成」。ただしNVL576で2つの思想が近づく見込み
日本企業は、NTTが通信網の光回線交換、サンテックが測定と小型光スイッチで関わる
よくある質問(FAQ)
・この記事のブロック③〜⑭で示した各出典(Google SIGCOMM 2022/ISCA 2023/arXiv:2208.10041、Cignal AI 2026年7月、Lumentum IR、NTT技術ジャーナル 2025年11月)に基づく要約

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OCSで「ネットワーク全体の光化」が見えたら、次はその両端で光を作る部品と、光化が必要になった理由を押さえると、地図が完成します。



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