1枚のウェーハには、同じチップがすき間なく何百個も並んでいます。これを1個ずつ切り離さなければ、どれだけ良い回路でも製品にはなりません。その切り離しを担うのが「ダイシング」です。
こんな疑問はありませんか?
- ダイシングとは、何を、何で切っているの?
- ブレード・レーザー・ステルスダイシングは何が違うの?
- 切るときに、どんなトラブルが起きるの?
- HBMのような薄いチップでは、何が難しくなるの?
- ダイシングの装置や材料は、どの会社が作っているの?
この記事でわかること
- ダイシングの定義と、後工程の中での位置
- ブレード・レーザー・ステルス・プラズマの4つの切り方
- 欠け(チッピング)と、それを防ぐ工夫
- 薄いチップや積み重ねるチップで難しくなった点
- 装置・材料・使う側の企業を3面のカードで
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前工程(ウェーハに回路を作る)
基板
成膜
露光
エッチング
ドーピング
CMP
洗浄
配線
計測
後工程(チップに切り分けて仕上げる)
ウェーハテスト
バックグラインド
ダイシング ←ココ
ボンディング
封止
最終テスト
先端パッケージ
ダイシングは、ウェーハを薄く削る「バックグラインド」のあと、チップを基板に取りつける「ボンディング」の前にある工程です。
ダイシングとは?先に結論
先に結論
ダイシングとは、回路を作り終えたウェーハを、チップとチップの間の細い通り道(ストリート)に沿って切り、1個ずつのチップ(ダイ)に分ける後工程です。
切り方は、ダイヤモンドの刃で削り切るブレードダイシングが基本で、レーザーで切る方法や、レーザーでウェーハの内部に切れ目を作って割るステルスダイシング、プラズマで溝を掘るプラズマダイシングもあります。ウェーハが薄くなり、チップを積み重ねるAI半導体では、欠けや割れを出さずに切る技術が、歩留まりを左右します。
用語メモ:ダイ
ウェーハから切り出した1個のチップのこと。ダイシング(dicing)は「ダイに分ける」という意味で、さいころ(dice)の形に切ることに由来します。
用語メモ:ストリート
ウェーハの上で、チップとチップの間に設けた細い通り道。ダイシングラインとも呼び、ここを切ってチップを分けます。
ダイシングは後工程のどこにあるのか
この工程の役割
受け取るもの
薄く削ったウェーハ
テストを終え、テープとリングに貼った状態
→
→
次の工程へ渡すもの
1個ずつのチップ
テープの上に並んだまま、ボンディングへ
ダイシングの前には、ウェーハが動くかを確かめるウェーハテストと、ウェーハの裏を削って薄くするバックグラインドがあります。切る前に、ウェーハを粘着テープ(ダイシングテープ)に貼り、金属のリング(フレーム)に固定します。
| 準備するもの |
役割 |
| ダイシングテープ | ウェーハの裏に貼り、切ったあともチップがばらばらにならないよう支える |
| リングフレーム | テープを張った状態で固定し、装置の中で運びやすくする |
| ストリート | チップを作るときに、あらかじめ切るための通り道を空けておく |
ポイント:ダイシングでは、ウェーハを完全に切り離しても、テープの上ではチップが元の並びのまま残るようにします。次のボンディングの装置が、良品のチップを1個ずつ正確に拾い上げられるようにするためです。
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ダイシングの4つの切り方
ウェーハの切り方は、大きく4つあります。チップの厚さや材料、ストリートの幅に合わせて使い分けたり、組み合わせたりします。
| 切り方 |
やり方 |
得意なこと |
苦手なこと |
| ブレードダイシング | ダイヤモンドの粒をつけた薄い円い刃を高速で回し、水をかけながら削り切る | 多くの材料を安定して切れる。実績が長い | 切りしろ(刃の幅)が必要。欠けが出やすい |
| レーザーダイシング(アブレーション) | レーザーで表面から材料を溶かし飛ばして溝を掘る | もろい膜や硬い材料も切りやすい | 熱の影響や、飛び散ったかすへの対策が必要 |
| ステルスダイシング | レーザーをウェーハの内部に集めて切れ目を作り、テープを広げて割る | 切りしろがほぼなく、水も使わず、かすが出にくい | 金属の膜などがストリートにあると使いにくい |
| プラズマダイシング | エッチングと同じプラズマで、ストリートの溝を一度に掘る | 全部のストリートをまとめて処理でき、欠けが少ない | ストリート以外を守るマスクが必要 |
4つの方法は、どれか1つが完全に勝つわけではありません。表面のもろい膜だけをレーザーで先に取り除いてから、ブレードで切る、といった組み合わせもよく使われます。4つの方法のくわしい比べ方は、別の記事で整理します。
基本はブレードダイシング:欠けとの戦い
ブレードダイシングは、ダイヤモンドの細かい粒を固めた、ごく薄い円い刃(ブレード)を高速で回して、ウェーハを削り切る方法です。削るときに出る熱とかすを流すため、水をかけながら切ります。
たとえるなら
ガラスの板を、細かいやすりのついた円盤で少しずつ削り切るようなものです。急いで切ると、切り口のふちが欠けたり、ひびが入ったりします。刃の回し方、進め方、刃の種類の選び方が、仕上がりを決めます。
チッピング(欠け)
切り口のふちが小さく欠ける現象。チップの中まで広がると、回路が壊れたり、あとで割れたりする原因になります。
ひび割れ
薄いウェーハほど、刃の力でひびが入りやすくなります。目に見えないひびが、使っているうちに広がることもあります。
かすと汚れ
削りかすがチップの表面に残ると、次の工程の不良につながります。水で流し、洗浄して取り除きます。
用語メモ:切りしろ
刃が通る幅のぶん、ウェーハが削られてなくなる部分。切りしろが狭いほどストリートを細くでき、1枚のウェーハから取れるチップが増えます。
内側から割る:ステルスダイシングの発想
ステルスダイシングは、浜松ホトニクスが開発したレーザーのダイシング技術です。ウェーハを通り抜ける波長のレーザーを、ウェーハの内部の決まった深さに集めて、切り分けの起点になる層(改質層)を作ります。そのあと、ウェーハを貼ったテープを外側に引き伸ばすと、改質層を起点にチップが割れて分かれます。
| 比較項目 |
ブレードダイシング |
ステルスダイシング |
| 切り方 | 刃で表面から削り切る | 内部に切れ目を作り、引き伸ばして割る |
| 水 | 使う | 使わない(完全なドライの工程) |
| 切りしろ | 刃の幅のぶん必要 | ほぼない |
| かす・欠け | 出やすい | 出にくい |
表面に傷をつけずに切れるため、もろい構造を持つMEMS(微小な機械部品)や、薄いメモリのチップなどに使われてきました。ディスコは2025年12月、ステルスダイシングのレーザー装置を含む、新しいレーザーの切断装置3機種の開発を発表しています。
AI半導体で、ダイシングが難しくなった理由
1. ウェーハがどんどん薄くなる
HBMのようにチップを何枚も積み重ねる製品では、1枚1枚のチップをとても薄くします。薄いウェーハは、刃の力やわずかな振動で割れやすくなります。先にストリートに溝を入れてから裏を削り、削り終えたところでチップが分かれるようにするなど、切る順番を変える工夫も使われています。
2. チップの表面に、もろい膜が増えた
配線の間には、信号の遅れを減らすための、やわらかくもろい絶縁膜が使われるようになりました。刃でいきなり切るとはがれやすいため、表面の膜だけをレーザーで先に取り除いてから、刃で切る方法がとられています。
3. 貼り合わせる面に、かすを残せない
チップどうしを直接貼り合わせるハイブリッド接合では、接合面に粒子が1つでもあると接合不良になります。かすや欠けの少ない切り方の重みが増しています。
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ダイシングを支える企業:装置・材料・使う側
ダイシングは、日本企業が装置と材料の両方で中心にいる工程です。
装置メーカー
- ディスコ(6146):ブレードで切るダイシングソーと、レーザーで切るレーザーソーを手がける。刃(ブレード)も自社で作る
- 東京精密(7729):ダイシングマシンを手がける。ブランド名はACCRETECH
- 浜松ホトニクス(6965):ステルスダイシングを開発し、切断装置に組み込むレーザーのユニットを手がける
材料メーカー(テープなど)
- リンテック(7966):ダイシングテープなど、後工程の粘着テープを手がける
- 日東電工(6988):半導体の工程で使う粘着テープを手がける
使う側(切り分ける会社)
- ASE(3711.TW)・Amkor(AMKR):後工程を受託する会社(OSAT)
- SK hynix(000660.KS)・Samsung Electronics(005930.KS):HBMなどのメモリ
- TSMC(2330.TW):先端パッケージの工程
ダイシングの刃やテープは、切るたびに消耗する消耗品です。装置の販売に加えて、刃やテープの継続的な売上が生まれる構造になっています。
ダイシングを知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:後工程の不良の中には、ダイシングの欠けやひびが原因で、あとの工程や使っている途中で表に出るものがあります。前工程の担当でも、ストリートの幅や表面の膜の材料が、切りやすさに影響することを知っておくと話が通じやすくなります。
投資家の方へ:ダイシングは、薄いチップを積み重ねるHBMや先端パッケージが増えるほど、難しさと工程の数が増える分野です。装置と、刃やテープの消耗品の両方で日本企業が強く、その構造を知るとニュースの位置づけがわかります。
学生・就活中の方へ:ダイシングは、機械(刃と精密な動き)・光学(レーザー)・材料(割れ方)・化学(プラズマ)が交わる分野です。機械系や光学系の学生にとって、とくに入り口の多い工程です。
よくある誤解
誤解1:ダイシングは、ただ切るだけの単純な工程
薄くもろいウェーハを、欠けやひび、かすを出さずに、決まった幅で切り分ける精密な工程です。切り方の選び方と条件の作り込みが、歩留まりに直結します。
誤解2:ステルスダイシングなら、何でも切れる
レーザーを内部に届かせる必要があるため、ストリートに金属の膜があるときなどは使いにくくなります。材料や構造に合わせて、ほかの方法と使い分けます。
誤解3:ダイシングとバックグラインドは同じ「削る」工程
バックグラインドはウェーハの裏を削って薄くする工程、ダイシングはウェーハを縦に切ってチップに分ける工程です。順番の工夫で組み合わせることはありますが、目的が違います。
まとめ
- ダイシングは、ウェーハをストリートに沿って切り、1個ずつのチップに分ける後工程
- 切り方は、ブレード・レーザー・ステルス・プラズマの4つ。組み合わせても使う
- 基本のブレードダイシングは、欠け・ひび・かすとの戦い
- ステルスダイシングは、内部に切れ目を作って割る、水を使わない方法
- 装置・刃・テープのすべてに日本企業がいて、薄いチップを積むAI半導体で重みが増している
よくある質問
Q. ダイシングとは何ですか?
A. 回路を作り終えたウェーハを、チップの間の通り道に沿って切り、1個ずつのチップに分ける後工程です。
Q. ブレードダイシングとは何ですか?
A. ダイヤモンドの粒をつけた薄い円い刃を高速で回し、水をかけながらウェーハを削り切る、基本のダイシングの方法です。
Q. ステルスダイシングとは何ですか?
A. レーザーをウェーハの内部に集めて切れ目を作り、テープを引き伸ばしてチップを割る方法です。水を使わず、かすが出にくいです。
Q. ダイシングでチップが欠けるとどうなりますか?
A. 欠けがチップの中まで広がると、回路が壊れたり、使っているうちにひびが広がって故障したりする原因になります。
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メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
テーマ別に、もっと深く学ぶ
気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめての方にもわかるように図解で書いています。
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