- 「バックグラインド=ウェーハを削る」までは知っているが、なぜわざわざ削るのかが説明できない
- HBMの記事で「50μmまで薄化」と出てくるが、その数字のすごさが体感できない
- DISCO(6146)の株を持っている・気になっているが、なぜ7〜8割ものシェアを取れるのかが腑に落ちない
- 前工程(露光・エッチング)は追えたが、後工程の入口でつまずいた
- バックグラインドが「後工程の最初の関門」である理由
- 775μm → 50μm という薄化の物理的な意味
- 粗研削・仕上げ研削・ストレスリリーフという3段構造
- DISCO・東京精密・リンテックなど関連企業の勢力図
半導体の話題といえば、どうしても「2nm」「EUV」「GAA」といった前工程の華やかなキーワードに目が行きますよね。
けれど、AI半導体の性能を最後に決めているのは、実は「削る・切る・積む」という後工程です。
その後工程のいちばん最初に立ちはだかるのが、今回のテーマバックグラインド(裏面研削)。
厚さ0.775mmのシリコン円盤を、コピー用紙より薄い0.05mmまで削り落とす、とんでもなく繊細な工程です。
「なぜそこまで薄くする必要があるのか?」
この問いに答えられるようになると、HBMの16層積層も、DISCOの高収益も、いっぺんに構造で見えるようになります。ゆっくり整理していきましょう。

バックグラインドとは?3行でわかる結論
- バックグラインドとは、回路を作り終えたウェーハの「裏側」を削って薄くする工程です。表側の回路には一切触れません。
- 目的は3つ。①パッケージを薄くする ②熱を逃がす ③チップを積み重ねられるようにする。特に③がAI時代に効いています。
- 削るだけの単純作業に見えて、実際は「薄くするほど割れる」というジレンマとの戦い。だから装置メーカーが寡占になります。
そもそも、なぜ「裏面」を削るのか
シリコンウェーハは、直径300mmの円盤に対して厚さ775μm(=0.775mm)という規格でつくられています(SEMI規格・300mmウェーハの標準厚)。1円玉の厚さが約1.5mmなので、その半分くらいですね。
ではなぜ、最初からもっと薄く作らないのでしょうか。
答えはシンプルで、薄いと前工程に耐えられないからです。露光・成膜・エッチング・洗浄……前工程はウェーハを何百回も装置間で搬送し、高温にさらし、薬液に浸します。ペラペラの円盤ではとても持ちません。
ホールケーキをデコレーションするとき、しっかりした厚紙の台の上で作業しますよね。デコレーションが終わって箱に詰める段階になって初めて、「この台、厚すぎて箱に入らないな」となる。
ウェーハもまったく同じです。前工程では厚さが「味方」、後工程では厚さが「邪魔」。だから最後に削るのです。

この工程は何を受け取り、何を渡すのか
「50μm」がどれくらい薄いか、体感してみる
日本人の髪の毛の太さ(約80μm)より細い。
しかもこれを、直径300mmの面全体で均一に削り出します。
直径300mm=だいたいA4用紙の短辺くらいの円盤を、厚さ0.05mmまで削る。しかも面内のバラつきは数μm以内に抑える。イメージとしては、体育館の床全体を紙一枚の厚みまで削って、それでも凹凸をミリ単位以下に揃えるような話です。
ちなみにDISCOは、条件を最適化すれば研削だけで300mmウェーハを厚さ5μmまで薄化した実績を公開しています(同社技術資料)。もはやラップフィルム(約10μm)より薄い世界です。

なぜ削るのか?3つの理由を構造で理解する
「薄くする理由」は、時代とともに増えてきました。昔は①だけでしたが、いまは③が最重要になっています。
薄くて小さくしたい
スマホ・ICカード・センサーなど、機器そのものが薄型化。チップが厚いままではパッケージが箱に収まりません。「入るように削る」という素直な動機です。
熱と電気を通したい
シリコンは熱の通り道でもあり、抵抗体でもあります。薄いほど熱が裏側へ抜けやすく、縦方向の電気抵抗も下がる。パワー半導体(IGBT・SiC)では性能に直結します。
積み重ねたい
HBMのようにチップを何段も垂直に積むには、1枚1枚を極限まで薄くするしかありません。厚いまま積めば、パッケージの高さ制限を一瞬で超えてしまいます。
HBMが「薄化」を主役に押し上げた
いま最もバックグラインドを酷使しているのが、AI向けメモリHBMです。HBMはDRAMチップを8段・12段・16段と垂直に積み上げますが、パッケージ全体の高さには上限がある。
そうなると、段数を増やす唯一の方法は「1枚あたりを薄くする」ことしかありません。だからHBM用のDRAMウェーハは、30μm台まで薄化されると言われています(業界推定値。各社は正式値を非公開)。髪の毛の3分の1です。
チップを垂直に貫通する電気の通り道のこと。日本語では「シリコン貫通電極」。HBMはこのTSVで上下のチップをつないでいます。
ここが重要で、TSVを裏側に「顔出し」させるためには、ウェーハを削ってTSVの底に到達させる必要があるのです。つまりバックグラインドは、積層の前提条件そのものになっています。

削り方の中身|バックグラインドは3段構えで進む
「削る」と一口に言っても、いきなり最終厚さまで一気に削ることはできません。粗く速く削る段階と丁寧に仕上げる段階を分けるのが基本です。
粒の粗い砥石(#320前後)で、削る量の大部分を一気に除去します。775μmのうち600μm以上をここで落とすイメージ。スピード優先ですが、その代わりウェーハ裏面に「傷んだ層」が残ります。
粒の細かい砥石(#2000クラス)に持ち替え、残りをμm単位で削り込みます。最終厚さの手前で送り速度を落とし、ウェーハへの負荷を減らすのがセオリー。厚みは非接触センサーでリアルタイム監視されます。
研削で生じた破砕層(はさいそう)を除去し、チップの強度を回復させる工程。DISCOはドライエッチング方式とドライポリッシング方式を提供しています。ここを省くとチップが折れやすくなります。
破砕層=砥石で削ったときにシリコン表面にできる、ミクロな傷とひずみの層。
抗折強度(こうせつきょうど)=チップが「折れずに耐えられる力」。破砕層は割れの起点になるため、これを取り除くほど抗折強度が上がります。薄いチップほど、この差が命取りになります。
速く削れば傷む。丁寧に削れば時間がかかる。
この相反する要求を、装置・砥石・条件の組み合わせで最適解に持っていく。だからバックグラインドは「単なる研削」ではなく、ノウハウの塊なのです。

見落とされがちな主役|バックグラインドテープ
ここでひとつ、素朴な疑問が湧きませんか。
「裏面を削るとき、表面の回路はどうやって守っているの?」
答えがバックグラインドテープ(BGテープ)です。研削の前にウェーハ表面へ貼り付け、削り水と削りカスの侵入から回路を守りつつ、ウェーハをチャックテーブルに保持する役目を果たします。
画面(回路)に保護フィルムを貼ってから、背面をヤスリで削るようなもの。
ただし条件はかなり過酷で、このテープには「しっかり密着する」のに「終わったらきれいに剥がれる」という矛盾した性能が求められます。しかも粘着剤が1μmでも残れば不良品です。
テープが「日本の牙城」になっている理由
このBGテープは、実は日本メーカーが圧倒的に強い領域です。日本経済新聞(2022年報道)によれば、リンテック(7966)はこの分野で世界シェア5〜6割を持つとされます。加えて日東電工(6988)、古河電気工業(5801)も主要供給者です。
なぜ強いのか。粘着剤の配合が「一度採用されたら変えられない」からです。テープを変えると研削条件も歩留まりも変わってしまうため、顧客は簡単に切り替えられません。レジストや封止材と同じ「材料の粘着性(=スイッチングコストの高さ)」という構造です。
紫外線(UV)を当てると粘着力が落ちるタイプのテープが主流です。「貼るときは強く、剥がすときは弱く」を光でスイッチするという発想。地味ですが、極薄ウェーハを割らずに剥離するための決定的な技術です。

薄くするほど襲ってくる、3つの壁
バックグラインドの難所は「削ること」そのものではありません。薄くなった後に何が起きるかです。
壁① 反り(そり)
薄くなると、表面の膜の応力に負けてウェーハがポテトチップスのように反り返ります。反ると搬送機が吸着できず、装置に載せることすらできません。
壁② エッジチッピング
ウェーハの縁は元々まるい断面。薄化するとここが刃物のように鋭くなり、欠けが発生します。DISCOはこの欠けがウェーハ全体の割れの起点になると説明しています。
壁③ 搬送リスク
50μmのウェーハは、もはや「持ち上げた瞬間に割れる」レベル。1枚のウェーハには数百〜数千個のチップが載っているため、1枚の破損が巨額の損失になります。
業界はこの3つの壁にどう答えたか
解決策は、大きく2つの方向に分かれました。
🧷 別の板に貼って補強する
ガラスなどのサポート基板(ハードサブストレート)に仮接着し、丸ごと補強してから削る方式。強度は稼げますが、貼る・剥がすの工程が増え、高温プロセスでは接着剤からガスが出る問題もあります。
🥁 ウェーハ自身を補強材にする
外周だけ削らずに残し、その縁をフレーム代わりにするという逆転の発想。これがDISCOのTAIKOプロセスです。別部材を使わないので、反り・搬送・高温対応をまとめて解決できます。
🥁 TAIKO研磨とは?ウェーハの端だけ残す技術
「外周3mmを残す」だけで、反りも割れも搬送も解決してしまう。和太鼓の名を冠したこの技術を、仕組みから応用例まで図解します。
続きを読む ▶
関連企業マップ|誰がこの工程を支えているか
バックグラインドは、装置・砥石・テープ・使う側の4層で成り立っています。特筆すべきは、装置も砥石もテープも、主要プレイヤーの多くが日本企業だという点です。
装置メーカー
- ディスコ(6146)
グラインダ・ポリッシャで世界シェア7〜8割(同社IR公表)。TAIKOの開発元 - 東京精密/ACCRETECH(7729)
薄化とダメージ除去を1台でこなす「ポリッシュ・グラインダ」を展開する2番手 - 岡本工作機械製作所(6125)
研削盤の老舗。半導体向け研削装置を供給
材料メーカー(砥石・テープ)
- ディスコ(6146)
研削ホイールも自社製。装置+消耗品の二毛作モデル - リンテック(7966)
BGテープで世界シェア5〜6割とされる(日経2022年報道) - 日東電工(6988)/古河電気工業(5801)
耐熱BGテープ、SDBG対応テープなどを供給 - ノリタケカンパニーリミテド(5331)
研削・研磨ツール。SiC向けにも展開
使う側(ユーザー)
- SK hynix(000660.KS)
- Samsung Electronics(005930.KS)
- Micron(MU)
↑HBM3強。薄化がそのまま積層段数に直結 - TSMC(2330.TW)
CoWoSのインターポーザ薄化などで使用 - ASE・Amkor(ASX/AMKR)
後工程を請け負うOSAT
💡 構造のポイント:DISCOの強さは「装置を売って終わり」ではない点にあります。研削ホイールという消耗品が装置稼働に比例して売れ続けるため、AI需要でDCが動くほど収益が積み上がる。2026年3月期の売上高は前期比11.1%増の4,368億円でした(同社決算発表)。

あなたにとって、この工程の意味は?
注目すべきは「装置の販売台数」よりも消耗品(研削ホイール・テープ)の伸びです。装置は景気で振れますが、消耗品は工場の稼働率に比例するため、AI需要の実体を映しやすい指標になります。
また、HBMの積層段数が12層→16層→20層と進むほど、1枚あたりの薄化難易度が上がる=高付加価値の装置・材料が必要になるという構造も押さえておきたいところです。(※特定銘柄の売買を推奨するものではありません)
バックグラインドは機械工学・材料力学の出番が最も大きい半導体工程です。応力・反り・破壊力学・トライボロジー(摩擦摩耗)といった、機械系の学びがそのまま生きます。
「半導体=電気・物理の世界」と思って諦めていた機械系・化学系の方こそ、後工程は狙い目です。
品質管理の視点で見ると、この工程はTTV(厚みのばらつき)という面内分布との戦いです。管理図・工程能力・分散分析といったQC手法がそのまま適用できます。
「削り量」という1つの因子に対し、砥石・回転数・送り速度・テーブル傾きが絡む典型的な多変量プロセスと捉えると、自分の専門との接続点が見えてくるはずです。
よくある3つの誤解を正しておく
→ 別物です。CMPは前工程で「表面」を平らにする研磨、バックグラインドは後工程で「裏面」を薄くする研削。目的(平坦化 vs 薄化)も、場所(表 vs 裏)も、削る量(nm〜数百nm vs 数百μm)も桁違いです。
→ 削るのは簡単でも、「割らずに、均一に、傷めずに」削るのが難しいのです。ここまで来たウェーハには前工程数百工程分の価値が乗っており、1枚割れば数百万円が飛びます。だから顧客は装置を替えたがらず、寡占が続きます。
→ AI時代にはむしろ逆転しつつあります。微細化のペースが緩やかになるなか、性能向上の主戦場は「積む・つなぐ」=後工程へ移りました。HBMもCoWoSも、その中核は後工程技術です。

まとめ|バックグラインドは「積層時代の入場券」
- バックグラインドは、回路完成後のウェーハの裏面を削って薄くする後工程の入口
- 300mmウェーハは標準775μm。用途により100μm前後〜30μm台まで薄化される
- 薄くする理由は、①薄型化 ②放熱と低抵抗 ③積層。AI時代は③が主役
- 工程は粗研削 → 仕上げ研削 → ストレスリリーフの3段構え
- 立ちはだかる壁は反り・エッジチッピング・搬送リスクの3つ
- 装置はディスコ(6146)が7〜8割、テープはリンテック(7966)が5〜6割とされる日本強者領域
よくある質問(FAQ)
A. 後工程です。回路形成(前工程)が終わり、ウェハーテストを経た後に行われます。後工程の実質的なスタート地点にあたります。
A. 量産品では数十μm〜100μm前後が一般的で、HBM用DRAMは30μm台とされます(業界推定)。技術的な到達点として、DISCOは研削のみで300mmウェーハを5μmまで薄化した事例を公開しています。
A. 研削水とともにスラッジ(削りカス)として排出され、廃棄物処理されます。ウェーハの体積の9割以上が削り落とされるため、リサイクル・排水処理も工場設計の重要テーマです。
A. DBG(Dicing Before Grinding)は順番を入れ替える手法です。通常は「削る→切る」ですが、DBGは先に途中まで切り込んでおき、裏面研削が溝に到達した瞬間にチップが分離します。薄いウェーハを運ぶ工程が消えるため、破損リスクが大きく下がります。
A. DISCOが開発した、ウェーハ最外周の約3mmを削り残して内側だけを薄化する技術です。残った縁が補強リングとして働き、反りと破損を防ぎます。詳しくはシリーズ第2回で解説します。
次に読むべき記事
TAIKO研磨とは?ウェーハの端だけ残す技術
本記事で触れた「反り・割れ・搬送」の3つの壁を、外周3mmを残すだけで解いた発想。DISCOの看板技術を徹底解説。
記事を読む ▶半導体製造プロセスとは?前工程・後工程を1枚の地図で理解する ▶
バックグラインドが全体のどこにあるかを再確認できます。
HBMの製造工程|TSV→積層→検査までを15ステップで理解する ▶
薄化が16層積層をどう可能にしているかがわかります。
ディスコの研磨・切断技術がHBM・CoWoSの歩留まりを決める理由 ▶
「削る・切る・磨く」の世界王者を構造で解剖します。
TCボンダーとハイブリッドボンディングの違い|HBM16層化を支える職人技 ▶
薄化したチップを「どう貼り合わせるか」の次章です。
※本記事は株式会社ディスコ公式技術資料(グラインディング/TAIKOプロセス/薄仕上げ研削/DBGプロセス)、東京精密(ACCRETECH)製品情報、リンテック・日東電工・古河電気工業の製品資料、および各社決算発表・報道をもとに構成しています。市場シェアは各社IRおよび報道ベースの数値であり、時点により変動します。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。


コメント