【完全図解】HPBとは?チップの中に”煙突”を建てる発想

半導体実装・HBM
💭 こんなモヤモヤ、ありませんか?
  • 「HPB」という単語を見たが、何の略かもわからない
  • 「熱伝導率500〜1,000倍」という数字がすごいのかどうか判断できない
  • データセンターの液冷は知っているが、チップの中の冷却という話が急に出てきて混乱している
  • SamsungのHPBとSK hynixのiHBM、何が違うのかわからない
大丈夫です。この記事は専門用語をひとつも前提にせずに書いています。
結論を一言で言うと、HPBはチップの中に「熱専用の煙突」を建てる技術です。この一枚のイメージだけ持ち帰っていただければ、それで十分です。
少し、想像してみてください。

真夏の締め切った部屋で、ストーブを焚いているとします。窓もドアも閉じたまま。当然、部屋の温度はどんどん上がります。

では、どうすれば涼しくなるでしょうか。
エアコンを強くする——これも一つの手です。でももっと根本的な方法があります。

ストーブの真上に、煙突を1本つけてしまう。

これが、HPBという技術の考え方そのものです。
🗺️ あなたが今いる場所:AI半導体 > HBM製造 > HPB(パッケージ内の熱設計)
▼ 技術スタック(下から上へ積み上がる)
DRAM
HBM ←ココ
先端パッケージ ←ココ
GPU(関連)
GPUサーバー(関連)
AIデータセンター(関連)
▼ サプライチェーン(上流→下流)
素材(関連)
装置
メモリ製造 ←ココ
パッケージング ←ココ
GPU設計
システム統合
💡 この記事の特殊性:HPBは「HBMの技術」でありながら「冷却の技術」でもあります。当サイトの2大テーマ(HBM × 冷却)が初めて交差する地点です。

🎯 先に結論:HPBを3行で

📌 この記事の結論
① HPBとは
SamsungのHeat Path Block(ヒート・パス・ブロック)=「熱の通り道ブロック」。半導体のパッケージの中に熱を逃がす専用の柱(煙突)を埋め込む技術です。

② なぜ効くのか
チップの周りを固めている樹脂は熱をほとんど通しません。そこに熱伝導率が500〜1,000倍の金属の柱を通すことで、熱に「専用の高速道路」を与えます。

③ いつ来るのか
スマホ用チップ(Exynos 2600)ではすでに実用化済み。HBM向けはHBM4Eで検証を終え、2028年頃のHBM5量産で本格導入が見込まれます。
📖 読み方のガイド
この記事は前半で「なぜ熱が問題なのか」を身近なたとえで理解し、後半で「HPBの仕組みと競合技術」に進みます。
専門用語が出るたびに解説ボックスを置いていますので、順番に読めば置いていかれません。

🔥 まず前提:なぜ今、チップの「熱」が大問題なのか

HPBの話に入る前に、そもそも何が困っているのかを押さえておきましょう。ここが分かると、あとは驚くほどスムーズに理解できます。

問題①:GPU1個で「ドライヤー1台分」の発熱

💨
約1,200W
最新AI GPU 1個の消費電力
🌀
約1,200W
家庭用ヘアドライヤー(強)
🌀 たとえ話:手のひらサイズのドライヤー
次世代のAI GPUは、1個あたり1,000W級に向かっています。これはヘアドライヤーを「強」で回し続けているのと同じ電力です。

しかもドライヤーは手のひらより大きいのに、GPUチップは切手を数枚並べた程度の面積。同じ熱量が、はるかに狭い場所から出ているわけです。

ここに熱に弱いメモリを寄り添わせているのが、今のAI半導体の姿です。

問題②:HBM自体も発熱する(1スタック100W級へ)

「熱いのはGPUだけ」ではありません。HBM自身も、世代が進むごとにどんどん熱くなっています

KAIST(韓国科学技術院)が公開したロードマップでは、HBM5は1スタックあたり約100Wに達するとされています。GPUの周りに4個並べれば、それだけで400Wです。
📖 用語ミニ解説:HBM(High Bandwidth Memory)
AI用の超高速メモリ。DRAMという記憶チップを12段・16段と縦に積み上げて、GPUのすぐ横に置きます。一度に大量のデータを流せるのが強みです。
この「積み上げた1セット」を1スタックと呼びます。
→ 【完全図解】HBMとは?GPUの隣にある「AI最重要メモリ」

問題③:DRAMは「暑いと忘れっぽくなる」

ここが決定的に重要です。

DRAMは、ごく小さな容器に電気を溜めてデータを覚えています。ただしこの電気は放っておくと自然に抜けていくため、定期的に「書き直し」(リフレッシュ)をしないと内容を忘れてしまいます。

そして——温度が上がると、電気が抜けるスピードが速くなる。

つまり暑くなると、書き直しの回数を増やさなければなりません。書き直している間はデータを読み書きできないので性能が落ち、余計な電力も食う。そして電力を食えばさらに熱くなる。典型的な悪循環です。
💡 だから「冷やす」のは性能の話なのです
熱対策は「壊れないため」の保険ではありません。冷やせた分だけ、そのまま性能と電力効率になって返ってくる。ここがAI半導体で熱設計が主役に躍り出た理由です。

🧱 熱はどこから逃げるのか?チップの中を「断面」で見る

HPBを理解するには、チップの中がどうなっているかを一度だけ覗いておく必要があります。難しくありません。ミルフィーユのような層構造だと思ってください。
🔍 HBMパッケージの断面(イメージ)
❄️ ヒートシンク/コールドプレート(外の冷却)
▲ ここまで熱を届けたい
🟫 封止樹脂(EMC)= 熱を通しにくい壁
DRAM(コアダイ)16段
↑ 層と層の間も接着フィルム(DAF)で熱が詰まる
🔥 ベースダイ(D2D PHY領域)= 最大の熱源
シリコンインターポーザー
パッケージ基板
※構造を理解するための簡略図です。実際の配置は製品により異なります。
図を見ていただくと、問題がはっきりします。

一番熱いのは真ん中あたり(ベースダイ)なのに、そこから外に出るには熱を通しにくい樹脂の層を何枚も突破しなければならないのです。
📖 用語ミニ解説:EMC・DAF ってなに?
EMC(封止樹脂):チップ全体を包んで守る黒い樹脂。ICチップの「黒い部分」の正体です。
DAF(ダイアタッチフィルム):チップとチップを貼り合わせる接着フィルム。両面テープのようなものです。

どちらもチップを守り、固定するために不可欠。でも共通の弱点があります。熱をほとんど通さないのです。
🧥 たとえ話:ダウンジャケットを着たストーブ
樹脂は断熱材です。つまり今のチップは、ストーブにダウンジャケットを着せているような状態。

ジャケットは中身を守るために必要なので、脱がせるわけにはいきません。
ならばどうするか——ジャケットに穴を開けて、熱専用の排気ダクトを通す。

これがHPBです。

🏗️ HPBとは?「熱専用の煙突」を建てる

📖 用語ミニ解説:HPB(Heat Path Block)
Samsungが開発したパッケージ内の熱対策技術。日本語にすると「熱の通り道ブロック」
熱伝導率の非常に高い材料で作った柱や板をパッケージ内部に埋め込み、熱源から外側の冷却部品まで一直線の道を作ります
🧱

HPBなし(従来)

❄️ 冷却
▓▓▓▓▓▓▓ 樹脂
▓▓▓▓▓▓▓ 樹脂
🔥 熱源
↑ 熱がなかなか出られない
  • 熱は樹脂をじわじわ通るしかない
  • 熱源付近に熱が溜まる
  • 局所的に温度が跳ね上がる
🏭

HPBあり

❄️ 冷却
▓▓┃┃▓▓ 樹脂
▓▓┃┃▓▓ 樹脂
🔥 熱源
↑ 専用の柱で一気に抜ける
  • 熱伝導率の高い柱が抜け道になる
  • 熱が溜まる前に外へ運ばれる
  • ピーク温度が下がる
ポイントは、「冷やす力を強くする技術」ではないということです。

冷やすのは、あくまで外側のヒートシンクやコールドプレートの仕事。HPBがやっているのは「熱をそこまで届ける」という、非常に地味で本質的な役割です。

どんなに強力な換気扇をつけても、部屋にダクトが通っていなければ意味がありません。HPBはそのダクトなのです。
🔗 「外側の冷却」はこちらで解説しています
HPBが熱を届ける「先」にあるのが、コールドプレートや液冷システムです。合わせて読むと構造が一本につながります。
👉 コールドプレートとは?GPUを直接冷やす「液冷の心臓部品」 👉 【完全図解】液冷と空冷の違い|冷却の仕組みと構造

📊 「500〜1,000倍」の正体──何と比べた数字なのか

HPBの説明で必ず出てくるのが「熱伝導率が従来材料の500〜1,000倍」という数字です。インパクトはありますが、何と比べているかが分からないと意味がつかめません。

Samsungの公式技術ブログに、はっきり書いてあります。
材料 役割 熱伝導率の目安 イメージ
銅(HPB) 熱の通り道 約400 W/m·K 🛣️ 高速道路
樹脂系材料
(基板・DAF・EMC)
保護・接着・固定 1未満のオーダー 🚧 未舗装のぬかるみ
= その差 約500〜1,000倍
出典:Samsung Semiconductor 公式技術ブログ。銅の熱伝導率は約400 W/m·K、樹脂系材料に対して熱伝達性能が約500〜1,000倍と記載。
🛣️ たとえ話:ぬかるみと高速道路
500〜1,000倍という差は、感覚的にはこれくらいの違いです。

樹脂の中を進む熱= ぬかるんだ泥道を、長靴で一歩ずつ進む
銅の中を進む熱= 空いている高速道路を車で走る

同じ距離でも、到着までの時間はまったく違います。そしてチップの中では、「熱が早く出ていくこと」がそのまま性能に直結するのです。
⚠️ 初心者がつまずく重要ポイント:材料は用途で違います
「HPB=銅」と覚えてしまうと、あとで混乱します。実際にはこう分かれています。

・スマホ用チップ(Exynos 2600)銅ベースで実用化済み
・HBM向けシリコンベースのHPB構造を検討中(SamsungのDS部門CTO・Song Jae-hyuk氏の発言、2026年6月報道)

なぜ変えるのか。HBMの内部は信号線がびっしり通っているため、電気を通す銅を不用意に入れると信号を乱すリスクがあるのです。シリコン系なら、電気は通さず熱だけ通す設計がしやすくなります。

🎯 どこに置くのか?狙いは「D2D PHY」という一点

HPBは、パッケージ全体に均等に入れるわけではありません。一番熱い一点を狙い撃ちします。

その場所がD2D PHYです。ここが今のAI半導体で、もっとも熱が集中するポイントとされています。
📖 用語ミニ解説:D2D PHY(Die-to-Die Physical Layer)
チップとチップをつなぐ「送受信口」のこと。HBMの一番下の層(ベースダイ)にあって、GPUとの間で超高速にデータをやり取りします。

イメージとしては巨大な物流センターの搬入口。ものすごい量の荷物(データ)が、狭い入口を24時間ぶっ通しで通過し続けます。当然、そこが一番混雑して熱くなるわけです。
🌡️ ベースダイの温度分布(イメージ)
周辺部
比較的低温
やや高温
🔥 D2D PHY
最高温
やや高温
周辺部
比較的低温
※概念図です。このように一部だけ極端に熱くなる現象をホットスポットと呼びます。
ホットスポットの厄介さは、平均温度では見えないことです。

チップ全体の平均は許容範囲でも、一点だけ限界を超えていれば、システムはそこに合わせて性能を落とさざるを得ません。全員が元気でも、一人が疲れていたらチーム全体のペースはその人に合わせるしかない——それと同じです。

だから3社そろって、「D2D PHYの熱を何とかする」という同じ一点に集まっているのです。

📈 HPBの効果:発表されている数字を整理する

35%超
ピーク温度の低減
(PHY面積の50%超を覆う場合)
最大16%
熱抵抗の低減
(Exynos 2600での実績)
500〜1000倍
樹脂系材料に対する
熱伝達性能
⚠️ 数字を混ぜないでください
この3つの数字は別のものを測っています。ここを混同した記事が海外にも多いので、整理しておきます。

「35%超」= HBM向けHPBのシミュレーション/設計目標(Hot Chips 2026での発表)
「最大16%」= スマホ用チップでの実測ベースの実績(Exynos 2600)
「500〜1,000倍」材料そのものの性質の比較

材料が1,000倍優れていても、チップ全体の温度が1,000分の1になるわけではありません。熱の通り道は「一番詰まっている場所」で決まるからです。水道管を一部だけ太くしても、細い部分が残っていれば流量はそこで決まります。
✅ すでに製品で動いているという強さ
HPBの信頼度を上げているのは、研究段階の構想ではないという点です。

Samsungはスマートフォン向けのExynos 2600でHPBを実用化し、量産品として市場に出しています。さらにHBM向けについても、CTOが「HBM4Eで実装・検証を完了し、信頼性と安定性を確認済み」と述べています(2026年6月、COMPUTEX)。

半導体の世界では「論文で動いた」と「量産で歩留まりが出た」の間に深い谷があります。HPBはすでに片足を谷の向こう側に置いている技術です。
🔗 「量産で歩留まりが出る」ことの重さ
👉 HBM歩留まり戦争|なぜSK Hynixだけ「9割」を実現できたのか

🥊 3社が3通りに答えた:HPB vs iHBM vs トレンチ冷却

2026年は、HBM御三家がそろって熱対策技術を公表した年になりました。面白いのは、同じ問題に対する答えが三者三様だったことです。
🇰🇷

Samsung(005930.KS)

技術名
HPB
熱を「運び出す」
  • 熱源から外部へ専用の柱を通す
  • PHY面積50%超でピーク温度35%超低減
  • Exynos 2600で量産実績あり
  • HBM4Eで検証完了と表明
🇰🇷

SK hynix(000660.KS)

技術名
iHBM
熱源に「直接置く」
  • ICE(絶縁性+熱伝導性のシリコン材)をD2D PHYに直接埋込
  • 熱抵抗30%削減
  • 実績あるMR-MUF工程を活用
  • 既存設計との互換性が高い
🇺🇸

Micron(MU)

技術名
低電力設計+
トレンチ冷却
そもそも「出さない」
  • 設計段階で発熱自体を抑える
  • シリコンに微細な溝を彫り冷媒を流す構想
  • 熱伝導専用TSVの特許も出願
  • 米国唯一のHBMメーカー
💡 3行でまとめると
Samsung= 熱を運び出す道を作る(排気ダクト型)
SK hynix= 熱い場所に熱を吸う部品を置く(保冷剤型)
Micron= そもそも熱を出さない設計にする(省エネ型)

どれが正解かはまだ決まっていません。ただ、3社すべてが同じ場所(D2D PHY)を狙っていることは、この問題の深刻さを物語っています。
📖 用語ミニ解説:MR-MUF(マス・リフロー・モールド・アンダーフィル)
SK hynixの得意技。積み上げたチップの隙間に液状の樹脂を一気に流し込んで固める製法です。チップを1枚ずつ熱圧着する方式より速く、しかも熱が逃げやすいという利点があります。
iHBMがこの既存工程をそのまま使えるのは、量産化のハードルが低いという意味で大きな強みです。
→ TCボンダーとハイブリッドボンディングの違い|HBM16層化を支える”職人技”

📅 いつ来るのか?2028年に向けたタイムライン

📰 HPBをめぐる動きの流れ
2026年5月26日
SK hynixがiHBMを発表。D2D PHYにICEを埋め込み熱抵抗30%削減。HBM5世代での採用を表明。
2026年6月(COMPUTEX Taipei)
SamsungがHBM5の実物モックアップを初公開し、HPBを併せて展示。CTOが「HBM4Eで実装・検証済み」と表明。ベースダイを自社2nmで製造することも公表。
2026年8月(Hot Chips 2026)
Samsungがベースダイ進化の3段階ロードマップを公開。HPBがPHY面積の50%超を覆えばピーク温度35%超低減という具体数値を提示。
2028年頃(見込み)
HBM5の量産開始。HPB/iHBMともにこの世代からの本格導入が見込まれます。両社とも「2028年より前の量産は想定していない」とされています。
※時期は各社発表および報道ベース(2026年9月時点)。流動的な情報のため最新のIR発表で必ず確認してください。
📅 HBM世代進化マップと熱対策の導入タイミング
HBM3E
2024年
熱対策は従来型
HBM4
2026年
←現行
HBM4E
2027年頃
HPB検証段階
HBM5
2028年頃
HPB・iHBM本番
📐 なぜ「HBM5から」なのか
偶然ではありません。HBM5でスペックが一段跳ねるからです。

KAISTのロードマップによれば、HBM5は4,096ビットのインターフェース、1スタック約4TB/s、消費電力約100Wに達する見込みです。データを運ぶ量が倍になれば、送受信口の発熱も跳ね上がります。

製品を出してから対策するのでは間に合わない。だから両社とも、発売の2年前から熱設計の話を始めているわけです。

🌊 チップの中の熱と、データセンターの熱は「地続き」です

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。

HPBはミリメートル以下の世界の話です。一方、AIデータセンターの液冷は、建物全体を巻き込む話です。この二つはまったく別のテーマのように見えて、実は一本の道でつながっています
🔥 熱のリレー:熱源から屋外まで
① D2D PHY(熱源)
ここを担うのがHPB/iHBM
② パッケージ表面
TIM(熱伝導材)
③ コールドプレート
冷却液が熱を運ぶ
④ CDU(冷却液分配ユニット)
⑤ クーリングタワー → 大気へ
💡 この5段リレーは、どこか1箇所でも詰まれば全体が詰まります。どんなに高性能な液冷を導入しても、①の段階で熱が出てこなければ意味がない。逆にHPBで①を改善しても、③〜⑤の能力が足りなければやはり温度は下がりません。
🚰 たとえ話:水道管のリレー
蛇口から洗面所、洗面所から排水管、排水管から下水——このリレーのどこか1本が細ければ、そこで流量が決まってしまいます。

熱もまったく同じです。熱設計とは「一番細い場所を探して太くする」作業の繰り返しなのです。

そして今、いちばん細い場所がチップの内部に来ている。だからHPBという技術が生まれたわけです。

💼 誰が作るのか?関連企業を3層で整理

HPBやiHBMは、メモリメーカーが単独で作れるものではありません。材料・装置・検査それぞれに専門企業が関わります。日本企業の出番も少なくない領域です。
💼 関連企業:3層で整理
🧪

上流:材料・装置

  • レゾナック(4004):封止材・後工程材料の世界首位級。熱伝導性材料も手がける
  • ディスコ(6146):ウェーハの薄化研磨。積層が増えるほど重要度が上がる
  • 東京エレクトロン(8035):ウェーハ接合・前工程装置
  • ハンミ半導体(042700.KQ):TCボンダー世界首位
  • Besi(BESI.AS):ハイブリッドボンディング装置
  • 味の素(2802):ABF(絶縁材料)
🏭

中流:メモリ製造・実装

  • Samsung(005930.KS):HPB開発元。メモリとファウンドリを自社で持つ強み
  • SK hynix(000660.KS):iHBM。MR-MUF工程を活かす
  • Micron(MU):低電力設計+トレンチ冷却で別路線
  • TSMC(2330.TW / TSM):CoWoSパッケージ。熱設計の要でもある
  • イビデン(4062):ABF基板
🎯

下流:検査・冷却・ユーザー

  • NVIDIA(NVDA):最大のHBMユーザー。供給側に熱管理能力の強化を要求
  • アドバンテスト(6857):テスター世界首位。高温下の検査が課題に
  • 日本マイクロニクス(6871):HBM検査プローブカード
  • 三桜工業(6358):液冷配管
  • ダイキン工業(6367):DC冷却
  • Vertiv(VRT):DC冷却の純粋プレイ
※本記事は特定銘柄の推奨を目的とするものではありません。企業名は技術構造上の位置づけを説明するために挙げています。HPB/iHBMの具体的な材料サプライヤーは公表されていないため、上記は関連領域の主要企業を整理したものです。投資判断はご自身でお願いします。

🧭 HPBは、あなたにとって何を意味するか

💰 投資家の方へ
HPB単体は、今の株価を動かす材料ではありません。導入は2028年頃のHBM5からで、まだ距離があります。

ただし、ここから読み取れる構造の変化は重要です。
① HBMの競争軸が「容量・帯域」から「熱をどう捌くか」へ移った
熱伝導材料・封止材の技術的要求水準が一段上がる
③ 熱が性能を縛る以上、チップ内部の熱設計とデータセンター液冷は同じテーマとして見るべき

そして注意点も。この手の「次世代技術」ニュースは、発表から量産、量産から収益化までに数年のギャップがあります。ここを踏まえずに飛び乗ると、時間軸のズレで苦しむことになります。
→ テーマ株の「実需」と「思惑」を見分ける手順|IRのどこを読むか
🎓 理工系学生・院生の方へ
HPBは、熱力学・伝熱工学を学んでいる人にとって最高の面接ネタです。半導体は「電気の話」だと思われがちですが、最前線では伝熱が性能のボトルネックになっている——この視点を語れる学生は多くありません。

話す順番はこれだけで十分です。
「GPUが1,000W級になった → DRAMは温度が上がると性能が落ちる → でも樹脂は熱を通さない → だから熱専用の経路を作る」

材料メーカー志望なら熱伝導材料と絶縁性の両立、装置メーカー志望なら微細構造を歪みなく埋め込む工程に話を広げると深みが出ます。
🔧 メーカー技術者の方へ
熱設計をやったことがある方なら、HPBの発想自体は驚くほどオーソドックスだと感じるはずです。熱抵抗の直列モデルで、一番大きい項を潰す。教科書通りの手です。

本当に難しいのは、それを数十µmの世界で、電気的な悪影響を出さずに、量産歩留まりを確保して実現すること。銅を使えば熱は通りますが信号に影響が出る。だからHBMではシリコンベースを検討する——この制約条件の中での妥協点探しこそが、この技術の本当の中身です。

「原理は簡単、実装が地獄」。ものづくりに携わる方には、よくご存知の構図ではないでしょうか。

🚫 よくある誤解を4つ、整理しておきます

❌ 誤解①「HPBがあれば液冷はいらない」
✅ 正しくは:逆です。両方必要です。HPBは熱をパッケージの外まで「運び出す」技術であって、熱そのものを消す技術ではありません。運び出された熱を受け取る液冷やコールドプレートが弱ければ、結局そこで詰まります。
むしろHPBで熱が効率よく出てくるほど、外側の冷却能力が問われることになります。
❌ 誤解②「HPB=銅の塊を入れるだけ」
✅ 正しくは:HBM向けはシリコンベースの構造が検討されています。HBMの内部は信号線が密集しているため、電気を通す銅を不用意に配置すると信号品質に悪影響が出るからです。
SamsungのCTOも「ベースダイとコアダイの配置最適化が鍵」と述べており、単純に部材を足すのではなくスタック全体の設計に組み込むアプローチであることが示されています。
❌ 誤解③「熱伝導率1,000倍なら温度も1,000分の1」
✅ 正しくは:そうはなりません。熱の通り道は直列につながった複数の区間でできていて、全体の速さは一番詰まっている区間で決まります。
実際に発表されている効果は「ピーク温度35%超低減」(設計目標)や「熱抵抗最大16%削減」(Exynos実績)といった水準です。それでも十分にインパクトのある数字です。
❌ 誤解④「SamsungのHPBのほうが優れている(or その逆)」
✅ 正しくは:現時点で優劣は判定できません。SamsungのHPBは「ピーク温度35%超低減」、SK hynixのiHBMは「熱抵抗30%削減」と発表していますが、測っている指標が違うので単純比較できないのです。
さらにHBMの勝敗は、熱対策単体ではなく歩留まり・供給量・顧客認定(クオリフィケーション)の総合で決まります。両方とも量産は2028年頃。答えが出るまでには、まだ時間があります。
📌 半導体のニュースを読むときのコツは、「何を測った数字か」を毎回確認すること。同じ「30%改善」でも、熱抵抗・ピーク温度・消費電力のどれを指すかで意味がまったく変わります。

📝 まとめ:熱設計が、性能を決める時代へ

① HPBとは
SamsungのHeat Path Block。パッケージ内部に熱伝導率の高い構造体を埋め込み、熱専用の通り道(煙突)を作る技術。

② なぜ効くのか
チップを守る樹脂系材料は熱をほとんど通さない。そこに熱伝達性能が500〜1,000倍の材料で道を通すことで、熱が溜まる前に外へ運び出せる。

③ どこを狙うのか
ベースダイのD2D PHY——GPUとの送受信口。ここが最大のホットスポット。PHY面積の50%超を覆えばピーク温度35%超低減(Hot Chips 2026)。

④ 実績と時期
スマホ用Exynos 2600で量産実績あり(熱抵抗最大16%削減)。HBM向けはHBM4Eで検証済み、2028年頃のHBM5量産で本格導入見込み。

⑤ 競合技術
SK hynixはiHBM(ICEを熱源に直接配置、熱抵抗30%削減)、Micronは低電力設計+トレンチ冷却。3社が同じD2D PHYを別の方法で攻めている。

⑥ いちばん大事なこと
チップ内部の熱設計と、データセンターの液冷は一本の道でつながっています。HBMを追う人も、冷却を追う人も、同じ景色を見ています。

❓ よくある質問(FAQ)

Q1. HPBは何の略ですか?
Heat Path Block(ヒート・パス・ブロック)の略で、日本語にすると「熱の通り道ブロック」です。Samsungが名付けた技術名称で、業界共通の規格名ではありません。
Q2. すでに買える製品に入っていますか?
はい。SamsungのスマートフォンSoCExynos 2600に採用されています。ただしこちらは銅ベースでモバイル向けの構成です。
HBM向けのHPBは、HBM4Eで検証を終えた段階で、本格導入は2028年頃のHBM5と見込まれています。
Q3. SK hynixのiHBMとの違いを一言で教えてください。
HPB=熱を「運び出す」(排気ダクトを作るイメージ)
iHBM=熱を「吸わせる」(熱い場所に保冷剤を置くイメージ)

どちらも狙う場所は同じD2D PHYですが、アプローチが逆方向です。効果の発表値もHPBが「ピーク温度35%超低減」、iHBMが「熱抵抗30%削減」と、測っている指標が違うため単純比較はできません
Q4. なぜ今まで作らなかったのですか?
必要がなかったからです。GPUが数百W、HBMが数十Wの時代は、従来の放熱設計で足りていました。
しかしGPUが1,000W級、HBM1スタックが100W級に向かい、さらに積層が16段・20段へ増えて熱の脱出距離が伸びたことで、初めてパッケージ内部の熱経路が深刻なボトルネックになったのです。
Q5. デメリットやコストはどうですか?
構造が複雑になるため、製造工程が増え、歩留まりリスクとコスト増は避けられません。また熱の通り道に面積を割く分、他の用途に使える面積は減ります。
具体的なコスト影響は公表されていませんが、HBMは不良が出るとGPUや高価なインターポーザーごと無駄になるため、信頼性向上のためならコストを払う判断になりやすい領域です。
Q6. 日本企業に関係はありますか?
関係します。HPB/iHBMの具体的なサプライヤーは公表されていませんが、この領域は封止材・接着材・熱伝導材料薄化研磨・接合装置の技術が土台になります。
封止材ではレゾナック(4004)が世界首位級、薄化研磨ではディスコ(6146)が圧倒的なシェアを持ちます。さらに複雑な積層は検査工数を押し上げるため、アドバンテスト(6857)や日本マイクロニクス(6871)といった検査系も構造的に重要度が上がります。
📚 主な参照元:Samsung Semiconductor 公式技術ブログ(HPBパッケージアーキテクチャ)/SK hynix Newsroom 公式リリース(iHBM、2026年5月26日)/ServeTheHome(Hot Chips 2026講演レポート)/Tom’s Hardware(COMPUTEX 2026)/TrendForce/Korea Times/Yonhap News。
※本記事の数値はいずれも各社の発表値・目標値および報道ベースです。流動的な情報のため、投資判断の際は必ず各社の最新IR資料をご確認ください。本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

📚 次に読むべき記事

HPBは「HBM」と「冷却」が交差する地点にある技術です。どちらの方向にも道が伸びていますので、興味に合わせて選んでください。
☕ このサイトでは、AI半導体とAIインフラの構造を煽らず、図解で整理しています。
「ニュースの意味が自分で読めるようになる」ことをゴールにしています。

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