UPS(無停電電源装置)とは、停電や電圧の乱れが起きても、電池にためた電気で機器に電気を送り続ける装置です。データセンターでは、非常用発電機が動き出すまでの「つなぎ」を受け持ちます。
大きな部屋がまるごと UPS と電池で埋まっているのは、なぜか。ラックの中の電池(BBU)や発電機と何が違うのか。方式の違いから順に整理しました。
先に読みたい節 3つの方式の違い/データセンターが常時インバータを使う理由/非常用発電機・BBUとの役割分担
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電気の流れ(送電線からGPUへ)
受変電設備→非常用発電機→UPS(電気室) ←ココ→ラックの電源→BBU(ラックの中)→GPU
停電への備え
UPS・BBU(数分) ←ココ
非常用発電機(数時間〜)
一言でいうと:UPS は、送電線から来た電気を一度「作り直して」サーバーに送り、停電のあいだは電池でつなぐ装置です。
UPS(無停電電源装置)とは
先に結論
UPS(無停電電源装置)とは、停電や電圧・周波数の乱れが起きても、電池にためた電気で、機器に電気を途切れさせずに送り続ける装置です。データセンターでは、非常用発電機が動き出して電気を送れるようになるまでの「つなぎ」と、ふだんの電気の乱れを取り除く「ろ過」の2つの役目を持ちます。
方式は大きく3つで、乱れへの強さの順に、常時商用(ふだんは電気をそのまま通す) → ラインインタラクティブ(電圧だけ整える) → 常時インバータ(いつも電気を作り直す)です。国際規格の IEC 62040-3 は、出力が入力にどれだけ左右されるかで UPS を分類しており、常時インバータは電圧も周波数も入力から独立した、いちばん高い分類(VFI)に当たります。大きな容量で多数のサーバーを守るデータセンターでは、この常時インバータの方式が中心です。
用語メモ:UPS
Uninterruptible Power Supply(無停電電源装置)。「切れ目のない電源」という意味です。
用語メモ:IEC 62040-3
UPS の性能と試験の方法を決めた国際規格。出力が入力の電圧・周波数にどれだけ左右されるかで、VFD・VI・VFI の3つに分けます。
UPSの中身:整流器・インバータ・電池・バイパス
データセンターで使う大きな UPS は、4つの部品でできています。送電線から来た交流の電気を、一度直流に変え(整流器)、電池をつなぎ、もう一度きれいな交流に作り直して(インバータ)サーバーへ送ります。点検や故障のときに、作り直さずに電気を通す近道(バイパス)もあります。
整流器
交流を直流に変える。電池を充電しながら、インバータに電気を渡す。
電池
直流の電気をためておく。停電のあいだ、インバータに電気を送る。
インバータ
直流から、電圧と周波数のそろった交流を作り直してサーバーへ送る。
バイパス
整流器とインバータを通らない近道。点検・故障・高効率のモードで使う。
整流器やインバータが電気をどう変えるのかという原理は、同じ筆者が運営する電気の基礎のブログ shirasusolo.net の「インバータとは?直流を交流に変える仕組み」で詳しく解説しています。ここでは、データセンターでの使い方に絞って見ていきます。
たとえるなら
UPS は、浄水場とその貯水タンクのようなものです。川の水(送電線の電気)をいったんきれいにし直してから家庭(サーバー)に送り、川が止まっても(停電)タンク(電池)の水でしばらく送り続けます。そのあいだに、別の水源(非常用発電機)を動かします。
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UPSの3つの方式の違い
UPS の方式の違いは、「ふだん、電気をどれだけ作り直しているか」です。作り直すほど乱れに強くなりますが、そのぶん電気のむだ(損失)も増えます。
| 比べる点 |
常時商用給電 |
ラインインタラクティブ |
常時インバータ給電 |
| ふだんの電気 | 送電線の電気をそのまま通す | そのまま通し、電圧だけ整える | いつも整流器とインバータで作り直す |
| 停電したとき | 電池とインバータに切り替える | 電池とインバータに切り替える | 切り替えなし(電池が整流器の代わりに電気を送る) |
| 切り替えの時間 | 10ms未満 | 10ms未満 | 0ms |
| IEC 62040-3 の分類 | VFD(電圧も周波数も入力しだい) | VI(電圧は整える) | VFI(電圧も周波数も入力から独立) |
| 代表的な容量 | 0.2〜2kVA | 0.5〜5kVA | 10〜1500kVA |
| よく守るもの | 個人のパソコン | 少数のサーバー・ネットワーク機器 | 多数の重要なサーバー・ストレージ |
日本では、常時商用給電方式を「オフライン」、常時インバータ給電方式を「オンライン」や「ダブルコンバージョン(二重変換)」と呼ぶこともあります。三相の大きな装置では、ダブルコンバージョン方式という呼び名がよく使われます。
注意:容量の範囲と切り替えの時間は、Schneider Electric の技術資料(White Paper 1)が示す代表的な値です。製品によって違うので、選ぶときは各社の仕様書で確かめてください。
データセンターは、なぜ常時インバータを使うのか
理由は3つあります。1つ目は、切り替えの時間がないことです。常時商用やラインインタラクティブは、停電を見つけてから電池に切り替えるまで、短い時間とはいえ電気が途切れます。常時インバータは、ふだんからインバータが電気を作っているので、停電しても電気の通り道が変わらず、途切れが生まれません。
2つ目は、停電のほかの乱れも取り除けることです。電圧が一瞬下がる瞬低や、周波数のずれ、雷などによる電気のゆがみも、いったん直流にしてから作り直すことで、サーバーに届く前に消えます。
3つ目は、大きな容量を作りやすいことです。Schneider Electric の技術資料でも、10kVA を超える範囲ではダブルコンバージョン(常時インバータ)が最も普及した方式で、多数の重要なサーバーやストレージ、ネットワーク機器を守るのに使われると説明されています。
途切れない
ふだんからインバータが電気を作るので、停電しても切り替えがない。
乱れを消す
瞬低・周波数のずれ・ゆがみを、直流にしてから作り直して取り除く。
大きく作れる
電気室にまとめて置き、多数のサーバーを一度に守る。
ポイント:AIの学習では、何千個ものGPUが1つの計算を分け合っています。1台でも電気が途切れると、全体がやり直しになることがあります。「一瞬も途切れない」ことの価値が、AIのデータセンターではさらに大きくなっています。
いつも作り直すと、電気がむだになる:効率を上げる工夫
常時インバータには弱点もあります。いつも交流→直流→交流と2回変換するので、そのたびに電気の一部が熱になって失われます。データセンター全体の電気が大きくなるほど、この損失と、その熱を冷やす電気も無視できなくなります。
そこで多くの常時インバータの UPS は、高効率のモード(エコモードなどと呼ばれる)を持っています。送電線の電気がきれいなあいだはバイパスで電気をそのまま通して損失を減らし、乱れを見つけたら作り直すモードに戻ります。ただし、そのあいだの出力は入力しだい(IEC の分類で VFD)になるので、どこまで使うかは、守る機器と電気の質のバランスで決めます。
| モード |
電気の通り道 |
強み |
注意 |
| 通常(オンライン) | 整流器 → インバータ | 乱れに最も強い(VFI) | 変換の損失がある |
| 高効率(エコモード) | バイパスでそのまま通す | 損失が小さい | そのあいだは入力しだい(VFD)。戻るまでの切り替えがある |
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UPSの電池:何分もたせるか、何を使うか
UPS の電池は、何時間も電気を送るためのものではありません。役目は、非常用発電機が動き出し、電気が安定して送れるようになるまでの数分ほどをつなぐことです。何分もたせるかは、発電機が立ち上がる時間と、発電機が動かなかったときに予備に切り替える時間を見込んで、設計で決めます。
鉛蓄電池
古くから UPS で使われてきた電池。電気室に電池の棚を並べる。
リチウムイオン電池
同じ電気をためるのに場所が小さくて済む。UPS の製品にも、ラックの中の BBU にも使われる。
電池は、UPS の中でいちばん寿命が短い部品です。電池の部屋の温度の管理と、決まった時期の交換が、UPS を「いざというときに動かす」ための大きな仕事になります。
注意:電池が支える時間や寿命の年数は、製品・電池の種類・使う温度・設計で大きく変わるため、この記事では数字を書いていません。各社の仕様書で確かめてください(2026年10月時点)。
UPS・非常用発電機・BBUの役割分担
データセンターは、停電に「時間の順番」で備えています。UPS だけで長い停電を乗り切るのではなく、それぞれが得意な時間を受け持ちます。
| 装置 |
置き場所 |
受け持つ時間 |
役目 |
| UPS | 電気室(部屋ごと) | 停電の瞬間〜数分 | 途切れなく電気をつなぎ、ふだんの乱れも取り除く |
| BBU | ラックの中(電源の棚) | 停電の瞬間〜数分 | ラックの中の直流の線に直接電気を送る |
| 非常用発電機 | 建物の外・屋上など | 数分後〜数時間・数日 | 燃料がある限り、長い停電のあいだ発電する |
この工程の役割
→
UPS・BBU
電池で途切れなくつなぐ
そのあいだに発電機が起動
→
次の工程へ渡すもの
非常用発電機
電気を送り始め、UPSの電池は充電へ
AI向けのデータセンターでは、ラックの電力が大きくなり、電気室の UPS に加えて、ラックの中に電池を置く BBU を組み合わせる設計も出てきました。どの組み合わせにするかは、建物の設計と、どれだけ止めないか(冗長)の考え方で決まります。
UPSを知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:設備・電気・IT のどの担当でも、UPS の方式(常時インバータか、エコモードを使うか)と電池の時間がわかると、「どの乱れまで守れて、何分もつのか」を同じ言葉で話せます。AI向けの設計では、ラックの BBU との組み合わせも話の中心になります。
投資家の方へ:データセンターの電気設備のニュースで UPS が出たら、容量(kVA・MW)と、電池の種類(鉛かリチウムイオンか)、ラックの BBU との組み合わせを見ると、どの部分の需要の話なのかがわかります。推奨ではなく、ニュースの読み方の話です。
学生・就活中の方へ:電気電子系の学生にとって、UPS はパワーエレクトロニクス(整流器・インバータ)と電池、そして設備の設計が1つにまとまった装置です。電源装置やデータセンターの設備の仕事の入口になります。
よくある誤解
誤解1:UPS は長い停電のあいだ電気を送り続ける
UPS の電池が受け持つのは数分ほどのつなぎです。長い停電は非常用発電機が受け持ちます。
誤解2:UPS は停電のときだけ働く
常時インバータの UPS は、ふだんから電気を作り直し、瞬低や周波数のずれなどの乱れも取り除いています。
誤解3:どの UPS でも停電の瞬間は途切れない
常時商用やラインインタラクティブは、電池に切り替えるあいだ短く途切れます。途切れないのは常時インバータです。
まとめ
- UPS は、停電や電気の乱れのあいだも、電池の電気で途切れなく電気を送る装置
- 中身は整流器・電池・インバータ・バイパスの4つ
- 方式は常時商用・ラインインタラクティブ・常時インバータの3つ。データセンターは常時インバータが中心
- 常時インバータは変換の損失があり、高効率のモード(エコモード)で補う
- UPS・BBU が数分をつなぎ、非常用発電機が長い停電を受け持つ
よくある質問
Q. UPSとは何ですか?
A. 停電や電圧の乱れが起きても、電池にためた電気で機器に電気を途切れさせずに送り続ける装置で、無停電電源装置とも呼びます。
Q. UPSの方式にはどんな種類がありますか?
A. 常時商用給電・ラインインタラクティブ・常時インバータ給電の3つが代表的です。乱れへの強さは常時インバータがいちばん上です。
Q. データセンターではどの方式のUPSを使いますか?
A. 大きな容量で多数のサーバーを守るため、停電でも切り替えがなく、乱れも取り除ける常時インバータ給電方式が中心です。
Q. UPSと非常用発電機の違いは何ですか?
A. UPS は電池で停電の瞬間から数分をつなぎ、非常用発電機はその後、燃料がある限り長い停電のあいだ発電します。
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