油入変圧器とモールド変圧器の違いは、巻線(鉄心に巻いたコイル)の絶縁と冷やし方です。油入は巻線を絶縁油に浸して油で熱を運び、モールドは巻線を樹脂で固めてまわりの空気で冷やします。
データセンターの受変電設備では両方が使われます。屋外の大きな受電には油入、建物の中の電気室にはモールド、という分け方が基本です。燃えにくさ・保守・置き場所の違いと、2026年度の省エネ基準、変圧器の品薄までを順に見ていきます。
知りたいところから 7つの視点の比較表/データセンターでの使い分け/2026年度の省エネ基準/品薄と増産
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油入変圧器とモールド変圧器の違い
先に結論
変圧器は、鉄心に巻いた2つのコイル(巻線)で電圧を変える装置です。油入変圧器は、巻線を絶縁油に浸して絶縁し、油で熱を運んで冷やします。モールド変圧器は、巻線を樹脂で固めて絶縁し、まわりの空気で冷やします。
油を使わないモールド変圧器は燃えにくく、油の点検もいらないので、ビルや病院など建物の中に向きます。油入変圧器は冷やす力が大きく、大容量・高電圧の変圧器の中心です。データセンターでは、送電線から受ける大きな変圧器と、建物の中で電圧を下げる変圧器とで、置き場所に合わせて使い分けます。2026年度からは、どちらも省エネの新しい基準(トップランナー変圧器)を満たす必要があります。
用語メモ:巻線
鉄心に巻いた銅やアルミの線。電気を入れる側を1次巻線、取り出す側を2次巻線と呼びます。
用語メモ:受変電設備
電力会社の送電線から電気を受け、建物で使える電圧まで下げて配る設備。変圧器はその中心です。
変圧器は、どうやって電圧を変えるのか
変圧器は、1本の鉄心に2つの巻線を巻いた装置です。1次巻線に交流の電圧をかけると、鉄心の中に磁束(磁気の流れ)が生まれ、その磁束が2次巻線を通ることで、2次巻線に電圧が生まれます(電磁誘導)。
このとき、電圧の比は巻数の比と同じになります。1次巻線の巻数が2次巻線の10倍なら、電圧は10分の1になります。このしくみ(電磁誘導と巻数比)は、同じ筆者が運営する電気と品質管理のブログ shirasusolo.net の変圧器とはで詳しく解説しています。
巻線には大きな電流が流れ、鉄心には磁束が流れるので、どちらからも熱が出ます。この熱を逃がしながら、巻線どうしや鉄心との間の絶縁を保つ方法の違いが、油入とモールドの違いです。
用語メモ:無負荷損と負荷損
変圧器の損失。無負荷損(鉄損)は電気を使っていなくても鉄心で出る損失、負荷損(銅損)は流れる電流に応じて巻線で出る損失です。鉄損・銅損と効率の関係は、同じ筆者のブログ shirasusolo.net の変圧器の損失と効率で解説しています。
油入とモールド:構造の違い
油入変圧器:油に浸す
鉄心と巻線を、鉄のタンクに入れた絶縁油に浸します。油は電気を通さない絶縁の役目と、巻線の熱をタンクの外へ運ぶ冷却の役目を兼ねます。タンクの外側には、油を冷やすためのひだ(放熱器)がついています。
モールド変圧器:樹脂で固める
巻線を、エポキシなどの樹脂で型に流し込んで固めます(モールド)。樹脂が絶縁の役目をし、熱はまわりの空気に直接逃がします。油もタンクもありません。
富士電機は、モールド巻線に真空注型の方式を使って絶縁の信頼性を確保し、国際規格(IEC)の試験をクリアする難燃性を持つと説明しています。
たとえるなら
油入変圧器は「エンジンオイルで冷やすエンジン」、モールド変圧器は「樹脂で固めて風で冷やす電子部品」に近いイメージです。油は熱をよく運びますが、漏れや火災への備えが要ります。
油入変圧器とモールド変圧器を7つの視点で比較
| 視点 |
油入変圧器 |
モールド変圧器 |
| 絶縁 | 絶縁油 | 樹脂(エポキシなど) |
| 冷やし方 | 油で熱を運び、放熱器から逃がす | まわりの空気で冷やす |
| 燃えにくさ | 油は燃えるので、防火の備えが要る | 難燃性。油がない |
| 保守 | 油の点検・分析が要る | 油の点検がいらない(省保守) |
| 置き場所 | 屋外や、専用の電気室 | ビル・病院など建物の中 |
| 得意な規模 | 大容量・高電圧まで幅広い | 中くらいの容量が中心 |
| メーカーが強調する点 | 省エネ・耐震性・低騒音 | 難燃性・省保守 |
日立産機システムは、油入変圧器は「省エネと耐震性、低騒音」、モールド変圧器は「難燃性、省保守」を追求した製品だと説明しています。どちらが優れているというより、置き場所と規模で選び分ける設備です。
データセンターでの使い分け
データセンターでは、電気は何段階かに分けて電圧を下げられます。大きなデータセンターは、電力会社の高い電圧(特別高圧)の送電線から電気を受け、まず大きな変圧器で電圧を下げます。そのあと、建物の中で、サーバーの電源が使える低い電圧までさらに下げます。
| 場所 |
役目 |
向く種類の考え方 |
| 受電の変電所(屋外) | 特別高圧を、建物で配る電圧に下げる | 大容量・高電圧なので、冷やす力の大きい油入が中心 |
| 建物の中の電気室 | 建物で配る電圧を、サーバーが使う低い電圧に下げる | 防火と保守を重く見て、モールドが選ばれることが多い |
AIのデータセンターは、1か所で使う電力が大きいので、受電の変圧器も大きくなります。サーバーの近くで電圧を下げる変圧器の数も増えます。そのため、大型の油入変圧器と、建物の中のモールド変圧器の両方の需要が増えています。
注意:どちらを使うかは、建物の設計・消防の決まり・電力会社との受電の条件などで決まります。ここで示したのは一般的な考え方で、すべてのデータセンターに当てはまるわけではありません。
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トップランナー変圧器の2026年度基準
変圧器は24時間ずっと電気を通すので、わずかな損失の差が、1年では大きな電力の差になります。日本では、省エネ法のトップランナー制度で、変圧器の効率の基準が決められています。
電源の設計者の目では、変圧器を選ぶときに定格の容量より先に見たいのは、損失の内訳です。無負荷損は電気を使っていなくても24時間出続け、負荷損は流す電流の2乗で増える。どの時間帯にどれだけ電気を流すかで、得な変圧器が変わるからです。
日立産機システムの製品の案内を読むと、題は「施設環境・稼働状況から選ぶ」でした。24時間動かす設備には無負荷損と負荷損の両方を減らす型を、止まる時間がある設備には無負荷損を減らす型を勧めています。サーバーが止まらないデータセンターは、前者に当たります。
2026年度からは、新しい基準(第三次判断基準)が適用され、エネルギー消費効率を平均14.2%改善することが求められます。油入変圧器とモールド変圧器の両方が対象で、メーカー各社は新しい基準に合わせた製品を出しています。鉄心の損失を減らす材料(アモルファス合金や高品質の電磁鋼板)が、その中心です。
14.2%
2026年度から適用されるトップランナー変圧器の第三次判断基準で求められる、エネルギー消費効率の平均の改善
出典:日立(2025年5月16日の発表)
変圧器の品薄と増産の動き
データセンターの建設が増え、大型の変圧器が足りなくなっています。電気新聞は2025年6月、大型変圧器が全国で不足し、「いま大型機器で受注があったとしても、納入できるのは2030年以降だろう」という声を伝えました。
メーカーは増産を進めています。日本経済新聞によると、ダイヘンは約100億円を投じて、三重県の事業所で大型変圧器の生産能力を2029年度までに倍増させる計画です。
約100億円
ダイヘンが大型変圧器の生産能力を2029年度までに倍増させるための投資(三重事業所)
出典:日本経済新聞(2025年12月15日)
変圧器は、巻線を巻く・鉄心を積む・タンクを組む・試験するという手作業の多い工程でできていて、すぐには増やせません。データセンターの計画が、変圧器の納期で決まることもあります。
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変圧器を支える企業
変圧器のメーカー
- 日立製作所(6501):グループの日立産機システムが油入・モールドの配電用変圧器
- 富士電機(6504):油入変圧器・モールド変圧器「モルトラ」
- ダイヘン(6622):変圧器。大型変圧器の生産能力を倍増へ
- 明電舎(6508):変圧器・受変電設備
変圧器の効率を決めるのは、鉄心の材料です。省エネの基準が上がるほど、損失の少ない電磁鋼板やアモルファス合金の重みが増します。
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この違いを知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:設備・電気・建築のどの仕事でも、変圧器の種類は置き場所・防火・保守の計画に直結します。データセンターの電気室の設計や、更新の計画を読むときの基本になります。
投資家の方へ:変圧器の需要は、データセンターの建設と、2026年度の省エネ基準による更新の両方で増えています。メーカーの受注残と、増産の設備がいつ動くかを合わせて見ることが大切です。
学生・就活中の方へ:変圧器は、電磁気(電磁誘導)・材料(鉄心と絶縁)・熱(冷やし方)が一度に学べる機器です。電気系の学生にとって、電力の分野の入口になります。
よくある誤解
誤解1:モールド変圧器のほうが新しく、すべてにおいて優れている
モールドは燃えにくく保守が楽ですが、大容量・高電圧では油入が中心です。置き場所と規模で選びます。
誤解2:油入変圧器は古い技術
油入変圧器も、損失の少ない鉄心や耐震の設計で進化を続けています。2026年度の新しい基準にも対応しています。
誤解3:変圧器はどこでもすぐ買える
大型の変圧器は受注が積み上がり、納期が数年先になることもあります。
まとめ
- 変圧器は、鉄心と2つの巻線の電磁誘導で電圧を変える
- 油入は油で絶縁・冷却し、モールドは樹脂で固めて空気で冷やす
- モールドは難燃・省保守で建物の中向き、油入は大容量・高電圧の中心
- 2026年度からトップランナーの新基準で、効率を平均14.2%改善(日立の発表)
- データセンターの増加で大型変圧器は品薄。メーカーは増産を進めている
よくある質問
Q. 油入変圧器とモールド変圧器の違いは?
A. 油入変圧器は巻線を油に浸して絶縁・冷却し、モールド変圧器は巻線を樹脂で固めて空気で冷やします。
Q. モールド変圧器のメリットは?
A. 油を使わないので燃えにくく、油の点検もいりません。ビルや病院など、建物の中に置くのに向いています。
Q. データセンターではどちらを使いますか?
A. 受電の大きな変圧器は油入が中心で、建物の中で電圧を下げる変圧器にはモールドが選ばれることが多いです。
Q. トップランナー変圧器とは?
A. 省エネ法の効率の基準を満たした変圧器です。2026年度から新しい基準が適用されます。
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