3行でわかる要点
何が起きたか:キオクシア株価が、10月30日 18時45分の決算発表のあと、夜間取引(PTS)で12.4%下落しました。11,805.5円です(10月31日 4時48分時点)。東証の終値は13,470円で、この日の東証でもすでに7.1%下げていました。理由は次の行に。
下落の理由:7〜9月期の結果は、売上も営業利益も会社の7月の予想を上回りました。市場で理由に挙がっているのは、10〜12月期の会社見通しが「7〜9月期と同水準」で、営業利益2兆円が市場予想(約2兆3,500億円と報じられた)に届かなかったことです。
AI向けのメモリ需要は?:会社は「データセンター向けの需要は旺盛」と説明し、営業利益率は80.4%でした。鈍ったのは需要ではなく「値上がりの勢い」です(NANDの平均販売単価の上昇率が約70%から20%台半ばへ、と報じられた)。
情報の時点:2026年10月31日 午前(日本時間)。株価は10月30日の東証の終値と、10月31日 4時48分時点の PTS の表示。決算は会社の発表資料
この記事は、夜間取引の値を見て不安になった人のために、決算短信の数字を図にして、何が起きて何が起きていないのかを分けて見ていきます。株を買うか売るかは勧めません。
この記事の位置:AIインフラ速報解説 > メモリ(NAND) > キオクシアの7〜9月期の決算と夜間取引の急落
関わる技術
NAND型フラッシュメモリ
エンタープライズSSD
メモリのサイクル
決算の読み方
PTS(夜間取引)
何が起きた:発表後の夜間取引で12%安
キオクシアHDの株価は、10月30日の東証の終値13,470円から、PTS(私設取引システム。夜間取引)で11,805.5円まで下がりました(10月31日 4時48分時点の表示で、東証終値比 −12.4%)。PTSの出来高は約132万株。東証の1日の出来高(約7,063万株)の2%ほどです。
注意したいのは、10月30日の東証の取引でも7.1%下げていたことです。決算の発表は取引が終わった18時45分。この下げは決算の中身とは関係ありません。同じ朝に出たインテルの急落(下のリンク)など、米ハイテク株安の流れでした。2日分を合わせると、10月29日の終値14,505円から18.6%下がった位置にいます。
| 時点 |
株価 |
前の時点からの変化 |
出来高 |
| 10月29日 東証の終値 | 14,505円 | — | 1億4,354万株 |
| 10月30日 東証の終値(発表前) | 13,470円 | −1,035円(−7.14%) | 7,063万株 |
| 10月31日 4:48 PTS(夜間取引) | 11,805.5円 | −1,664.5円(−12.36%) | 132万株 |
注意:PTSは参加者が少ない夜間の取引です。値が大きく動きやすく、11月2日(月)の東証の値は、これと同じになるとは限りません。「夜間で12%安」は「東証で12%安が決まった」ではありません。
同じ日の米国市場では、キオクシアと同じNANDを作る SanDisk が11%超下げたと報じられました。前日のインテルの決算から続く半導体株安は、同じ日の速報(インテル株価の下落)で図にしています。会社ページの「最新の速報」からも読めます。
なぜ下がった:決算は会社予想を上回ったのに、なぜ売られたのか
下がった理由として市場で挙がっているのは、7〜9月期の結果ではなく、10〜12月期の会社見通しです。結果は良かったのです。売上収益2兆4,800億円(会社の7月の予想より3.8%上)、営業利益1兆9,947億円(同5.5%上)で、営業利益率は80.4%でした。
ところが、次の10〜12月期の見通しは売上2兆5,000億円・営業利益1兆9,950億円で、7〜9月期と「同水準」です。報道によると、市場は10〜12月期の営業利益を約2兆3,500億円と見ていました。会社の見通し(Non-GAAPで2兆円)はそれより約15%低い数字です。
| 項目 |
4〜6月期(実績) |
7〜9月期(実績) |
10〜12月期(会社見通し) |
| 売上収益 | 1兆7,671億円 | 2兆4,800億円(+40.3%) | 2兆5,000億円(+0.8%) |
| 営業利益(IFRS) | 1兆2,700億円 | 1兆9,947億円(+57.1%) | 1兆9,950億円(+0.0%) |
| 営業利益率(筆者の計算) | 71.9% | 80.4% | 79.8% |
| 親会社の所有者に帰属する四半期利益 | 8,422億円 | 1兆3,557億円 | 1兆3,600億円(+0.3%) |
| 米ドルの平均為替レート | 160円 | 161円 | 157円(前提) |
会社が同水準にとどめた理由として短信に書いているのは、「データセンター向けの需要が旺盛に推移することが予想されるものの、為替の悪化を見込むこと」(要旨)です。1ドル161円が157円になる前提です。円建ての売上と利益が押し下げられます。
筆者は今回、短信の6ページにある小さな表(連結業績の見通し)を先に読みました。見通しが「+0.0%」と書かれた営業利益の行を見れば、市場が何に反応したかが分かります。四半期で2兆円という利益の大きさより、「次は増えない」という方向が材料になったのです。
株価を動かすのは「結果」ではなく「期待とのずれ」
決算の数字は過去3か月の成績表で、会社見通しはこれからの3か月の見込みです。株価は、その見込みが「みんなが思っていた数字」とどれだけずれたかで動きます。今回は成績表が良くても、見込みが期待より約15%低かった。だから売りが先に出ました。
例えるなら:満点のテストを持ち帰ったのに、次の模試の目標点を下げた子
親(市場)は、次も点が伸びると思って塾代(株価)を先に払っていました。本人(会社)は「今回は満点。でも次は同じくらい」と言います。親は怒っているのではなく、払いすぎた分を取り戻そうとしているだけです。点が下がると言われたわけではありません。
同じ型は、インテルの決算(10月29日)でも起きています。結果は市場予想を上回り、次の四半期の予想が弱く、株価が1日で28.6%下がりました。「好決算で下がる」は珍しいことではなく、決算のたびに起きる値動きの形です。
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NANDの値上がりは終わったのか:勢いは鈍った、下がるとは言っていない
NAND型フラッシュメモリの値上がりは、終わったのではなく「勢いが鈍った」段階です。決算説明会の内容として報じられた数字では、平均販売単価(ドル建て)の前四半期比の上昇率が、4〜6月期の約70%から7〜9月期は20%台半ばになりました。上がり方が3分の1です。
キオクシアの財務責任者は、販売価格がすでに大きく上がったため、来期(2027年度)も上昇が続くかは「現時点では不透明」と述べたと報じられています。この一言が効きました。「値上がりの終わり」を連想させたのです。UBS証券のアナリストが「需給は極めてタイトと言いながら価格が不透明なのは、保守的すぎないか」と問いただしたとも報じられています。
メモリの値段は、上がりすぎると買い手が買い控え、作る側が増産して、下がる。下がりすぎると投資が止まり、品不足になって、また上がる。この繰り返しが「メモリのサイクル」。今は上がる局面で、その速さが落ちてきたところです。サイクルの仕組みは下の記事で図にしました。
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数字で見る:値段の上がり方と、会社が言ったこと・言っていないこと
会社が「言ったこと」と「言っていないこと」を分けると、不安の中身がはっきりします。言ったのは、来期の価格上昇が不透明なこと、為替を161円から157円で見ていること。言っていないのは、価格が下がること。需要が落ちることです。
| 区分 |
中身 |
出どころ |
| 会社が言ったこと | 7〜9月期の増収は「平均販売単価の大幅な上昇」と「出荷量(記憶容量ベース)の増加」 | 決算短信 p.3 |
| 会社が言ったこと | 10〜12月期はデータセンター向けの需要は旺盛でも、為替の悪化を見込み同水準 | 決算短信 p.6 |
| 会社が言ったと報じられたこと | 来期の価格上昇は不透明。2027年の生産分の買い手は確保。2028年分の過半は長期契約 | Seoul Economic Daily・Briefs(10/30) |
| 会社が言っていないこと | 価格が下がる・需要が落ちる・通期の予想(出していない) | — |
| 市場の見方(報道) | 営業利益2兆円の見通しは市場予想2兆3,500億円に届かず。メモリ価格の急騰が落ち着き始めた | Bloomberg の報道を引く Yahoo Finance ほか |
調査会社の TrendForce は9月30日の時点で、10〜12月期のNANDの契約価格を前四半期比+15〜20%と予想していました。会社の「上昇が続くかは不透明」は、この予想より慎重な言い方です。どちらが正しいかは、1〜3月期の契約価格が出てから分かります。
AI向けのメモリ需要は崩れたのか:今回の決算に、崩れた数字はない
AI向けのメモリ需要が崩れた数字は、今回の決算には出ていません。短信は、スマートフォンとPC向けが鈍化する一方で「データセンター及びエンタープライズ向けではAI用途サーバー向けの需要が増加」と書いています。用途別では、SSD & ストレージが1兆6,160億円。全体の65%です。
| 見るところ |
今回の決算で分かること |
出どころ |
| 需要 | データセンター向けは旺盛。2027年に作れる分の買い手は確保したと報道 | 短信 p.6・Briefs |
| 稼ぐ力 | 営業利益率 80.4%(4〜6月期 71.9%)。上期の営業キャッシュフロー 2兆3,796億円 | 短信 p.3・p.5 |
| 財務 | 自己株式の取得 8,003億円のあとも現金 1兆3,973億円。資本の比率 37.9%→49.8%。S&P が BBB に格上げ(10/13) | 短信・S&P の発表 |
| 株主への配り方 | 初めての中間配当 90円(分割前)。余剰資金の100%を株主還元に | 適時開示(10/30) |
| 弱い所 | 値上がりの勢いの鈍化、為替、スマホ・PC向けの鈍化 | 短信・報道 |
キオクシアの売上の7割近くはNANDをSSDにして売る分で、AIのサーバーには学習データや推論の結果を置くための大容量のSSDが要ります。GPUの横に積むHBM(DRAMの一種)とは役割が違います。NANDは「書庫」の側です。この違いは下の記事で図にしています。
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ポイント:今回の数字で崩れたのは「上がり続ける」という期待で、需要そのものではありません。期待と需要を分けて見ると、次の決算で何を確かめればいいかが決まります。
どう見ればいいか:次に見る数字と日付
次に確かめるのは3つです。①11月2日(月)の東証の値が、PTSの11,805.5円に近いか、戻すか。②10〜12月期の決算(2月ごろの見込み)で、会社見通し(売上2兆5,000億円・営業利益1兆9,950億円・1ドル157円)に対して結果がどうだったか。③NANDの契約価格の調査(TrendForce など)で、1〜3月期の上がり方が止まるか。
| 日時(日本時間) |
予定 |
見るところ |
| 11月2日(月)9:00 | 東証の取引の再開 | PTSの値と東証の寄り付きの差。出来高が10/30(7,063万株)より多いか |
| 11月6日(金) | キオクシアHD 半期報告書の提出予定日 | セグメント・用途別の詳しい数字 |
| 12月8日 | 中間配当の効力発生日 | 1株90円(分割前)が支払われる |
| 2月ごろ(見込み) | キオクシア 10〜12月期の決算 | 見通し(売上2兆5,000億円・営業利益1兆9,950億円・157円)との差と、1〜3月期の見通し |
このブログは、株を買うか売るかを勧めません。同じ数字を見ても、持っている期間やお金の事情で答えは人によって違います。ただ、夜間の値だけで決めるのは早い。11月2日の東証の終値を見てから、上の表の数字で判断してください。
ほかの会社の決算日と、速報を出す予定は、決算カレンダーにまとめています。キオクシアの基本データと決算の見どころは会社ページに。
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追記・訂正
追記・訂正があれば、日時を添えてここに書きます(新しいものを上に)。
よくある質問
Q. キオクシアの株価はなぜ夜間取引で下がったのですか?
A. 次の3か月の会社見通しが横ばいで、市場予想に届かなかったことが理由に挙げられています。結果そのものは会社予想を上回っていました。
Q. キオクシアの決算は悪かったのですか?
A. 悪くありません。売上も営業利益も会社の7月の予想を上回りました。弱かったのは次の3か月の見通しの方向です。
Q. NANDの値上がりは終わったのですか?
A. 終わったとは会社は言っていません。上がり方が鈍ったと報じられ、来期も上昇が続くかは「不透明」と述べたと伝えられています。
免責事項:本記事は、技術と産業の構造を理解するための情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。社名・証券コードや、株価・業績などの数値は、記事中に示した時点の公開情報にもとづきます。投資判断は、ご自身の責任と最新の一次情報(IR・有価証券報告書など)にもとづいて行ってください。
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シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
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気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめての方にもわかるように図解で書いています。
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