半導体とは、何なのか。ニュースでは毎日のように出てくるのに、「電気を通すの?通さないの?」「チップと同じもの?」と聞かれると、答えに詰まる言葉です。
ひとことで言えば、電気を通す・通さないを、条件で切り替えられる物質です。そして、その物質(主にシリコン)で作った部品も、まとめて「半導体」と呼ばれます。スマホのCPUも、AIサーバーのGPUも、データを覚えるメモリも、電気を切り替えるパワー半導体も、すべてこの部品の仲間です。
この記事では、半導体の意味を2つに分けて整理し、種類と使われ方、ウェーハから作る流れの概略、2026年の市場の数字、日本の立ち位置までを図で順に見ていきます。工場の中の工程の細かい順番は、別の記事に任せます。
先に見たい方は 種類と市場/作り方/日本の立ち位置
あなたが今いる場所:半導体製造 > はじめに > 半導体とは
半導体を知る順番
半導体とは ←ココ→ウェーハ→前工程・後工程→先端パッケージ→AIチップ
この記事の先の分かれ道
メモリ(HBM)
GPU
パワー半導体
製造装置・材料
一言でいうと:半導体は「材料」であり「部品」でもある。ここが分かると、ほかの記事がすっと読めます。
半導体とは?電気の通り方を切り替えられる物質
半導体とは、電気をよく通す導体(銅など)と、ほとんど通さない絶縁体(ガラスなど)の中間の性質を持ち、混ぜ物・光・熱・電圧などの条件で電気の通りやすさが大きく変わる物質のことです。代表はシリコン(ケイ素)です。
先に結論
半導体には2つの意味があります。①シリコンのような物質の名前と、②その物質で作った部品(チップ・IC)の名前です。ニュースの「半導体不足」「半導体の会社」は、ほとんどが②の意味です。
電気の流れを「切り替えられる」から、0と1の計算(CPU・GPU)、0と1の記憶(メモリ)、電力のオン・オフ(パワー半導体)ができます。WSTSの予測では、2026年の世界の半導体の市場は約1兆5,112億ドルで、前年の約1.9倍になる見込みです。
用語メモ:IC(集積回路)
1つのチップの上に、トランジスタなどの素子をたくさん作り込んで回路にしたもの。CPU・GPU・メモリはどれもICです。
導体・絶縁体との違いは「切り替えられる」こと
違いは「変えられるか」です。半導体と導体・絶縁体の違いは、電気の通しやすさを外からの条件で変えられるかどうかにあります。銅はいつでもよく通し、ゴムはいつでもほとんど通しません。シリコンは、ごく少しの不純物を混ぜる(ドーピング)と、電気の通しやすさが大きく変わります。
| 分類 |
電気の通し方 |
例 |
使われ方 |
| 導体 | いつもよく通す | 銅・アルミ・金 | 配線・電線 |
| 半導体 | 条件で通したり止めたりできる | シリコン・SiC(炭化ケイ素)・GaN(窒化ガリウム) | チップ・パワー半導体・LED |
| 絶縁体 | ほとんど通さない | ガラス・ゴム・樹脂 | 電線の被覆・基板・封止材 |
この「切り替え」を部品にしたものがトランジスタです。トランジスタは電気のスイッチで、オンとオフを0と1に見立てると計算や記憶ができます。いまのCPUやGPUには、このスイッチが数えきれないほど詰め込まれています。
電子や正孔(ホール)、p型とn型、pn接合といった物理の中身は、電気の基礎として隣のブログで図解しています。導体・絶縁体・半導体の違いとp型半導体とn型半導体の違いを読むと、なぜ混ぜ物で性質が変わるのかがわかります。
たとえるなら
導体は「いつも開いている道」、絶縁体は「いつも閉じた壁」、半導体は「信号機のある道」です。信号(条件)しだいで、車(電気)を通したり止めたりできます。この信号機を何十億個も並べて、計算の交通整理をしているのがチップです。
「半導体」は物質?部品?2つの意味を分ける
「半導体」という言葉が分かりにくいのは、物質と部品の両方を指すからです。会話の中でどちらの意味かを分けると、ニュースが読みやすくなります。
| 言い方 |
指しているもの |
例 |
| 半導体(物質) | 導体と絶縁体の間の性質を持つ材料 | シリコン・SiC・GaN |
| ウェーハ | 半導体の材料を薄い円板にしたもの。チップを作る土台 | 直径300mmのシリコンウェーハ |
| チップ(ダイ) | ウェーハから切り出した、回路の入った小片 | GPUのチップ・メモリのチップ |
| IC(集積回路) | チップの上の回路。多くの素子をまとめたもの | CPU・GPU・メモリ |
| 半導体(部品・製品) | チップをパッケージに入れ、基板に載せられる形にしたもの | スマホの部品・パワーモジュール |
ポイント:ニュースで「半導体が足りない」と言うときは部品の意味、「半導体の材料」と言うときは物質やウェーハ・薬品の意味です。迷ったら「それはシリコンの話か、チップの話か」と置き換えてみてください。
あわせて読みたい
シリコンウェーハ(ウエハー)とは?なぜシリコンか・直径300mmが主流の理由・作り方と信越化学・SUMCOの強みを図解
半導体の土台になる、シリコンウェーハとは何か
半導体は何に使われている?スマホからAIサーバーまで
半導体は、電気で動く製品のほとんどに入っています。役割で分けると「計算する」「覚える」「電気を整える」「感じる・光る」の4つです。
| 役割 |
部品の例 |
入っている製品 |
| 計算する | CPU・GPU・AI用のチップ | スマホ・パソコン・AIサーバー・車 |
| 覚える | DRAM・HBM・NAND(フラッシュ) | スマホ・SSD・AIサーバー |
| 電気を整える | パワー半導体(MOSFET・IGBT など)・電源のIC | 充電器・エアコン・電気自動車・データセンターの電源 |
| 感じる・光る | イメージセンサ・LED・レーザー | カメラ・照明・光通信 |
AIの時代に半導体が注目されているのは、AIの計算に使うGPUと、その隣に積むHBM(広帯域メモリ)が、データセンターで大量に使われるようになったからです。1台のAIサーバーに、計算・記憶・電源・通信の半導体がまとめて入っています。
あわせて読みたい
【完全図解】HBMとは?読み方・仕組みとGPUに必要な理由をやさしく解説
AIの計算を支えるメモリ、HBMとは
半導体の種類:メモリ・ロジック・アナログ・パワー
半導体の種類は、世界の統計(WSTS)では、メモリ・ロジック・マイクロ(CPUなど)・アナログ・光デバイス・ディスクリート(単体の素子)・センサに分けて数えます。2026年の予測では、メモリとロジックの2つで全体の約8割を占めます。
| 種類 |
何をする |
2026年の市場予測 |
| メモリ | データを覚える(DRAM・HBM・NAND) | 約8,039億ドル |
| ロジック | 計算・制御をする(GPU・AI用のチップなど) | 約4,114億ドル |
| マイクロ | CPU・マイコン | 約1,017億ドル |
| アナログ | 電源・音・電波などの連続した信号を扱う | 約954億ドル |
| 光デバイス | LED・レーザー・光センサ | 約442億ドル |
| ディスクリート | 1つの素子だけの部品(ダイオード・トランジスタ) | 約332億ドル |
| センサ | 温度・圧力・動きを測る | 約215億ドル |
メモリだけで前年(2025年)の約3.5倍に増える見込みです。WSTSの公表文は、その理由を大手IT企業のデータセンターへの投資と、AIサーバー向けのメモリ・GPUの伸びとしています。
注意:予測の数字は2026年6月2日の公表文の値です。WSTSは年に2回(原則5月と11月の会議のあと)予測を出し直すので、最新の公表文で確かめてください。
半導体はどう作られる?ウェーハから前工程・後工程へ
半導体のチップは、シリコンの円板(ウェーハ)の上に回路を作り込み、切り分けて包む、という順番で作られます。大きく分けると、ウェーハに回路を作る前工程と、チップに切って包んで確かめる後工程の2つです。
| 段階 |
やること |
くわしい記事 |
| 材料 | シリコンの単結晶を作り、薄く切ってウェーハにする | シリコンウェーハ・CZ法 |
| 前工程 | 膜をつける・光で模様を写す・削る・混ぜ物を入れる、を何度もくり返して回路を作る | 前工程・後工程とは |
| 後工程 | ウェーハを薄く削ってチップに切り分け、配線をつなぎ、樹脂で包み、検査する | ダイシングとは |
| 先端パッケージ | 複数のチップ(GPUとHBMなど)を1つにまとめる | CoWoSとは |
1枚のウェーハから、たくさんのチップが同時にできます。ただし弱点もあります。小さなごみが1つ付くだけで、その場所のチップは動きません。半導体の工場がとても清潔な部屋(クリーンルーム)で作るのはこのためです。
あわせて読みたい
【完全図解】ダイシングとは?ウェーハをチップに切り分ける工程と4つの切り方
ウェーハをチップに切り分ける、ダイシングの仕組み
数字で見る半導体の市場:2026年は前年の約1.9倍の予測
世界の半導体の市場は、2025年の約7,956億ドルから、2026年は約1兆5,112億ドル(予測)へ増える見込みです。割り算すると約1.9倍で、WSTSの前年比+89.9%と合います。この記事の倍率と割合は、公表文の表(百万ドル)から筆者が計算し直した値です。
約1兆5,112億ドル
2026年の世界の半導体市場(予測)
出典:WSTS 2026年6月
約1.9倍
2025年の実績からの伸び
出典:WSTS の表から計算
約8割
メモリとロジックの割合(2026年予測)
出典:WSTS の表から計算
ここで1つ、読み違えやすい点があります。WSTSの「日本市場」は、日本で売られた半導体の金額で、日本の会社が作った半導体の金額ではありません。公表文にも、市場はメーカーの国籍や工場の場所に関係なく、売れた地域で数えると書かれています。日本市場は世界の2025年で約5.6%、2026年の予測で約3.8%ですが、これは「日本の会社の強さ」を表す数字ではありません。
| 数字 |
何を数えているか |
読み方 |
| 世界の市場 | 世界の半導体メーカーが第三者に売った金額 | 業界全体の大きさ |
| 日本市場 | 日本で売られた金額(作った会社の国は問わない) | 日本の電子機器メーカーなどの買う量 |
| 日本企業のシェア | 日本の会社が作って売った金額の割合 | 日本の作る力(統計で値が変わる) |
日本の半導体の立ち位置:チップより装置と材料が強い
強いのは装置と材料です。日本の半導体は、チップそのものの世界シェアでは下がりましたが、チップを作るための装置と材料で強い会社が多くあります。ジェトロの記事によると、日本の会社の世界シェアは1988年ごろに4〜5割(集計で値が違う)あり、2019年時点では1割程度になりました。
| 分野 |
日本の会社の例 |
くわしい記事 |
| ウェーハ(材料) | 信越化学工業・SUMCO | シリコンウェーハとは |
| 製造装置 | 東京エレクトロン・ディスコ・SCREEN など | 半導体製造装置メーカーのランキング |
| パッケージの材料・基板 | 味の素ファインテクノ(ABF)・イビデン・レゾナック | 先端パッケージの日本企業マップ |
| チップ(メモリ) | キオクシア(NANDフラッシュ) | DRAMとNANDの違い |
| 最先端のロジックの量産 | ラピダス(2nmを目指す) | ラピダスとは |
シェアの数字が資料によって4割にも5割にもなるのは、「売上の合計か」「どの会社を日本の会社と数えるか」「どの統計か」が違うからです。この記事では1つの数字に決めず、幅で書きました。ニュースで日本のシェアの数字を見たら、まず出典と数え方を確かめるのがおすすめです。
あわせて読みたい
【完全図解】先端パッケージの日本企業マップ|味の素ABF・イビデン・レゾナックの役割
日本の材料・基板の会社が、AI半導体のどこを支えているか
設計者から見た半導体:部品として選ぶときに見るところ
選ぶ基準は数字です。半導体を「使う側」の目で見ると、半導体はデータシート(仕様書)の数字で選ぶ部品です。パワエレ(電力を変換する回路)の設計では、スイッチに使うパワー半導体を、電圧・電流・損失・温度の4つで選びます。
| 見る項目 |
意味 |
外れるとどうなるか |
| 耐圧 | かけてよい電圧の上限 | 超えると壊れる。余裕を持たせて選ぶ |
| 電流 | 流してよい電流の上限 | 温度が上がると流せる電流が減る |
| 損失 | 部品の中で熱に変わる電力 | 冷却の大きさ・効率が決まる |
| 温度 | チップの中の温度の上限 | 寿命と故障の率に効く |
筆者なら、まず耐圧と損失を見ます。理由は、耐圧は余裕がないと一度で壊れ、損失はそのまま熱になって冷やし方とデータセンターなら電気代に効くからです。AIデータセンターの電源で効率が話題になるのも、同じ理屈です。損失の見積もり方は、隣のブログのパワー半導体の発熱量の見積もりとダイオードのデータシートの読み方で解説しました。
ポイント:GPUやメモリのような最先端のチップも、使う側から見れば「電気を食い、熱を出す部品」です。半導体の性能の話と、電源・冷却の話がAIデータセンターでつながっているのはこのためです。
あわせて読みたい
【完全図解】SiC・GaN・Siの違い|パワー半導体時代の基板戦争
パワー半導体の材料、SiC・GaN・Siの違い
よくある誤解
誤解1:半導体は「電気を半分だけ通す」もの
「半分」ではなく、条件しだいで通したり止めたりできるのが特徴です。混ぜ物や電圧で、電気の通りやすさが大きく変わります。
誤解2:半導体=チップ(部品)のこと
物質の名前でもあります。シリコンやSiCのような材料も半導体です。ニュースではほとんどが部品の意味で使われます。
誤解3:日本市場の数字=日本企業の強さ
WSTSの日本市場は、日本で売れた金額です。作った会社の国は問いません。日本企業の強さは別の数字で見ます。
まとめ
- 半導体とは、電気を通す・通さないを条件で切り替えられる物質(シリコンなど)と、それで作った部品のこと
- 導体・絶縁体との違いは「切り替えられる」こと。その切り替えの部品がトランジスタ
- 種類はメモリ・ロジック・アナログ・パワーなど。2026年の予測ではメモリとロジックで約8割
- 作り方はウェーハ→前工程→後工程。工程の順番は前工程・後工程の記事で
- 2026年の世界の市場は約1兆5,112億ドルの予測(WSTS)で前年の約1.9倍。日本は装置と材料に強い会社が多い
よくある質問
Q. 半導体とは簡単に言うと何ですか?
A. 電気を通す・通さないを条件で切り替えられる物質(シリコンなど)と、それで作った部品のことです。
Q. 半導体とICとチップの違いは何ですか?
A. 半導体は物質と部品の両方を指す広い言葉、チップはウェーハから切り出した小片、ICはチップの上の回路(集積回路)です。
Q. なぜシリコンが使われるのですか?
A. 地球に多くある材料で、混ぜ物で性質を細かく変えられ、純度の高い大きな結晶にできるからです。
Q. 日本の半導体は今も強いのですか?
A. チップそのもののシェアは下がりましたが、製造装置やウェーハ・材料では世界で強い会社が多くあります。
この記事のテーマを、本でもっと深くPR(アフィリエイト広告)
半導体とは何かを、ニュースや業界のつながりまで1冊で押さえたい方に。本書(SBクリエイティブ)は、半導体の基本とニュースから、産業構造、企業どうしのつながり(エコシステム)、前工程・後工程・材料、最新動向までの7章を、図解で解説しています。
¥1,980 (2026/10/05 21:02時点 | Amazon調べ)
ポチップ
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
テーマ別に、もっと深く学ぶ
気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめての方にもわかるように図解で書いています。
半導体製造をもっと深く
つまずきやすい「違い」を解決
あわせて知りたい、隣のテーマ
コメント