ラピダス(Rapidus)とは、2nm世代の最先端ロジック半導体を、北海道千歳市の工場「IIM-1」で受託製造することを目指す日本の半導体メーカーです。設立は2022年8月。2025年4月に試作の製造ライン(パイロットライン)を動かし始め、2027年に量産を始める予定です。
このブログはTSMCやIntelの記事で2nmの話を何度も書いてきましたが、日本で2nmを作ろうとしている会社そのものの記事はありませんでした。検索でも「rapidus」「ラピダス 千歳」と調べる人が多い。そこで、会社の発表と経済産業省の資料だけを読んで、何の会社か・いつ量産か・国の支援はいくらかを整理しました。報道だけの話は、報道だと分けて書きます。
知りたいところから読めます 何をする会社か/千歳の工場IIM-1/量産はいつ/国の支援額/顧客は決まっているか
この企業の立ち位置:AIインフラ > ロジック・ファウンドリ > ラピダス(Rapidus)
サプライチェーン(上流から下流へ)
素材・製造装置→半導体の受託製造(ラピダス) ←ココ→AIチップの設計会社→サーバー・システム→データセンター
関わる技術
2nm世代
GAAトランジスタ
EUV露光
チップレット
一言でいうと:2nm世代のロジック半導体を、設計の支援から後工程まで一貫して請け負うことを目指す国策のファウンドリ
ラピダスは何をする会社か
ラピダスは、半導体の設計会社から注文を受けて、最先端のロジック半導体(計算をする半導体)を作る会社です。自社では製品を設計せず、作ることを請け負う「ファウンドリ」に分類されます。会社は自らを「世界最先端2nm GAAプロセスによるロジック半導体の開発、製造を目指す企業」と説明しています。
| 項目 |
内容 |
| 社名 | Rapidus株式会社(英文名 Rapidus Corporation) |
| 設立 | 2022年8月10日 |
| 本社 | 東京都千代田区麹町 |
| 製造拠点 | IIM-1(北海道千歳市美々) |
| 経営 | 取締役会長 東哲郎、代表取締役社長兼CEO 小池淳義 |
| 従業員 | 1,024名(2025年12月1日現在) |
| 資本金等 | 4,249億5,000万円(2026年6月5日時点、資本準備金を含む) |
| 上場 | 非上場(株式市場で株は買えない) |
作るのは「2nm世代」のロジック半導体です。AIのチップやCPUがこれにあたります。2nm世代では、トランジスタの形がGAA(ゲート・オール・アラウンド)に変わります。電流の通り道を、スイッチの役のゲートが四方から囲む形。なお「2nm」は製造技術の世代の呼び名です。回路のどこかの長さが2nmという意味ではありません。
用語メモ:ファウンドリ
半導体の設計を持つ会社(ファブレス)から注文を受け、工場でウェーハに回路を作る会社。TSMCが代表例です。ラピダスは、ここに設計の支援と後工程まで足すことを目指しています。
千歳の工場IIM-1とは
IIM-1(イーム)は、ラピダスの研究製造拠点です。場所は北海道千歳市美々の工業団地「千歳美々ワールド」。2023年9月に起工し、2025年4月にパイロットラインが動き始めました。名前は Innovative Integration for Manufacturing の頭文字です。
| 時期 |
IIM-1で起きたこと |
| 2023年9月 | 起工式・建設開始 |
| 2024年12月 | 日本初の量産対応のEUV露光装置(オランダASML社のNXE:3800E)の設置を開始 |
| 2025年4月1日 | EUV露光を初めて実施(搬入から約3か月) |
| 2025年6月まで | 200台を超える製造装置をつなぎ終える |
| 2025年7月 | 2nm GAAトランジスタの動作を確認 |
| 2026年4月 | 隣に解析センターを開所。後工程の拠点RCSも本格稼働 |
後工程の拠点RCS(Rapidus Chiplet Solutions)は、IIM-1の近くにあるセイコーエプソン千歳事業所の中に置かれています。前工程と後工程の拠点が、同じ千歳市の中にそろったことになります。
なぜ千歳なのか。会社は4つの理由を挙げています。広い敷地、半導体づくりに欠かせない水、再生可能エネルギーを含む豊富な電力、そして人が住みたいと思える場所であることです。電源の設計者の目で見ると、気になるのは「電力」だった。工場の電気は量だけでなく、一瞬も途切れずに届くことが品質を左右するからです。ただ、IIM-1がどれだけの電力を使うかは、会社のページに数字がありませんでした。この記事でも書きません。
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RUMSとは?前工程と後工程の一貫
RUMS(Rapid and Unified Manufacturing Service)は、設計の支援・前工程・後工程を1社で一貫して引き受ける、ラピダス独自の事業モデルです。目標は、注文から完成品が届くまでの時間(サイクルタイム)を世界最速にすること。会社はそう説明しています。
| 工程 |
いまの業界の分業 |
ラピダスのRUMS |
| 設計 | 設計会社(ファブレス)が自分で行う | 製造のデータをAIで分析して設計を支える「Raads」を提供 |
| 前工程 | ファウンドリがウェーハに回路を作る | IIM-1で2nm GAA。300mmウェーハを1枚ずつ処理する枚葉プロセス |
| 後工程 | 別の会社(OSAT)が切り分けて組み立てる | RCSでチップレットのパッケージ。600mm角のパネルを使う |
ウェーハを1枚ずつ処理すると、1枚ごとの製造データがたまります。そのデータを設計の側へ返して、歩留まりを早く上げる。これがRUMSの考え方です。
会社の「事業と技術」のページとNEDOの承認の発表を読み比べて、気づいたことがあります。前工程と後工程は、別々の国の研究開発プロジェクトとして予算が付いていました。前工程は2022年11月、後工程は2024年3月の採択です。ただ、経済産業省の資料では後工程の採択が2024年4月でした。1か月のずれです。この記事は会社の発表の月で書きます。RUMSは、この2本を千歳の工場群でつなぐ計画だと読めます。
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ラピダスの量産はいつから?
ラピダスは、2nm世代のロジック半導体の量産を2027年に始める予定です。2026年4月の発表では「2027年度後半からの量産」と書いており、年度で読むと2027年10月から2028年3月の間にあたります。いまはまだ試作のラインの段階です。
会社のページでは「2027年」、2026年4月の発表では「2027年度後半から」と、書き方が分かれていました。どちらも会社の言葉なので、この記事は両方を並べます。
| 時期 |
出来事 |
区分 |
| 2022年8月 | 会社を設立 | 実績 |
| 2022年11月 | NEDOの次世代半導体の研究開発プロジェクトに採択 | 実績 |
| 2022年12月 | IBMと戦略的パートナーシップ、imecと協力覚書 | 実績 |
| 2023年9月 | IIM-1を起工 | 実績 |
| 2025年4月 | パイロットラインの立ち上げを開始 | 実績 |
| 2025年7月 | 2nm GAAトランジスタの動作を確認 | 実績 |
| 2025年度 | 先行顧客向けに先行評価用のPDK(設計キット)をリリース | 実績 |
| 2026年4月 | 解析センターとRCSを開所 | 実績 |
| 2026年度 | 顧客の設計に必要なPDKをリリース | 予定 |
| 2027年 | 量産開始(2026年4月の発表では2027年度後半から) | 予定 |
PDK(Process Design Kit)は、顧客がラピダスの工場向けにチップを設計するときに使う設計キットです。これが顧客の手に渡らないと、量産に向けた設計が始まりません。2026年度にPDKを広く出すことが、量産の前の大きな節目になります。
ラピダスへの国の支援はいくら?
国の支援は2つの形があります。1つはNEDOを通じた研究開発の委託費で、2022〜2026年度の支援上限を足すと2兆3,540億円です。もう1つは政府の出資で、IPA(情報処理推進機構)が2026年に合わせて2,500億円を出資しました。
| 年度 |
支援上限(合計) |
前工程 |
後工程 |
| 2022年度 | 700億円 | 700億円 | — |
| 2023年度 | 2,600億円 | 2,600億円 | — |
| 2024年度 | 5,900億円 | 5,365億円 | 535億円 |
| 2025年度 | 8,025億円 | 6,755億円 | 1,270億円 |
| 2026年度 | 6,315億円 | 5,141億円 | 1,174億円 |
| 合計 | 2兆3,540億円 | 2兆561億円 | 2,979億円 |
この表は、経済産業省の2026年4月11日の資料にある年度ごとの数字を、筆者が足したものです。資料には小計も載っています。「2022〜2025年度の前工程は1兆5,420億円」「2024〜2025年度の後工程は1,805億円」。足し算はどちらも一致しました。気をつけたいのは、これが「使ってよい額の上限」だという点です。実際に使われた額は、今回読んだ資料にはありませんでした。
2兆3,540億円
研究開発の支援上限の合計(2022〜2026年度)
出典:経済産業省 2026年4月の資料から計算
2,500億円
政府(IPA)の出資(2026年2月・6月)
出典:ラピダスの発表
4,249億円
資本金等(2026年6月5日時点)
出典:ラピダスの発表
出資の流れも追っておきます。設立のときに民間8社が73億円を出しました。2026年2月にはIPAから約1,000億円、民間32社から約1,676億円。2026年6月にIPAが1,500億円を追加し、資本金と資本準備金の合計は4,249億5,000万円になりました。会社は、量産に向けて民間からの出資と融資の準備も進めていると書いています。
ラピダスの顧客は決まっている?
2026年10月22日時点で、ラピダスは量産の顧客の名前と注文の量を公表していません。公表されているのは、試作や設計での協業と、基本合意までです。
| 時期 |
相手 |
公表された中身 |
| 2023年11月 | Tenstorrent(テンストレント、米国のAI半導体の設計会社) | IPのパートナーシップ |
| 2024年2月 | Tenstorrent | エッジAI向けアクセラレータの開発・製造を推進 |
| 2025年1月 | Preferred Networks・さくらインターネット | PFNが設計するAI半導体MN-Coreを、ラピダスが作る構想の基本合意 |
| 2025年3月 | Quest Global | AI半導体に向けた2nmのソリューションで戦略的パートナーシップ |
| 2026年10月 | Cadence・Synopsys・大日本印刷・TOPPANなど17社 | 設計を支える仲間「Rapidus CORE」の第一弾 |
報道では、AppleやGoogleとの商談が取り上げられたことがあります。これについて会社は2025年4月、「大企業からAIスタートアップまで多くの顧客候補と話しているが、特定の顧客を明かしたものではない」という趣旨の声明を出しました。この記事では、報道に出た社名を顧客として数えません。
注意:基本合意や協業は、量産の注文とは別のものです。顧客がPDKで設計を進め、量産の注文を出した段階で、初めて工場の稼働につながります。
ラピダスに関わる上場企業
ラピダスは非上場なので、株式市場で株を買うことはできません。関わる上場企業として公表されているのは、出資した会社、装置や拠点を担う会社、設計で組む会社の3つです。下はいずれも、会社の発表で確かめられる関係だけを並べました。
出資:設立のときからの8社
- トヨタ自動車(7203)
- デンソー(6902)
- ソニーグループ(6758)
- NTT(9432)
- 日本電気(6701)
- ソフトバンク(9434)
- キオクシア(親会社はキオクシアホールディングス 285A)
- 三菱UFJ銀行(親会社は三菱UFJフィナンシャル・グループ 8306)
装置・拠点
- ASML(ASML):IIM-1のEUV露光装置
- セイコーエプソン(6724):千歳事業所の中に後工程の拠点RCS
- 鹿島建設(1812):IIMの建設
設計・協業
- IBM(IBM):2nm技術の共同開発のパートナー
- Cadence・Synopsys(CDNS・SNPS):設計の仲間 Rapidus CORE
- 大日本印刷・TOPPAN(7912・親会社 TOPPANホールディングス 7911):Rapidus CORE
- さくらインターネット(3778):PFNと3社の基本合意
2026年2月の増資には、このほかキヤノン・富士通・本田技研工業・北海道電力・日本政策投資銀行なども加わりました。民間からの出資は32社です。ただ、ラピダスの事業がこれらの会社の業績にどれだけ響くかは、どの会社も数字で示していません。発表だけで業績への影響は読めない、というのがこの記事の立場です。
ラピダスの課題は何か
大きな課題は、試作から量産へ移るときの歩留まり(良品の割合)と、量産の顧客を公表できるところまで集めることです。資金も、会社は国と民間の出資・融資でさらに集めるとしています。
追い風:国の支援が続いている
2026年度の計画と予算が承認され、研究開発の支援上限は5年度で2兆3,540億円になりました。
追い風:設計の仲間が増えている
2026年10月に、設計を支える17社の枠組み「Rapidus CORE」を発表しました。
逆風:先に量産した会社がいる
TSMCは2nm(N2)の量産を2025年10〜12月期に始めています。
逆風:顧客がまだ見えない
量産の注文の相手と量は公表されていません。
逆風:量産にはさらにお金が要る
会社は民間からの出資と融資の準備を進めていると書いています。
品質保証の仕事では、試作品が規格どおりに動くことと、量産で同じ品質を毎日出し続けることを、別の関門として扱います。NEDOの2026年度の計画に「欠陥密度の年度内目標を達成する」という項目が入ったのは、ラピダスが後者の関門に入ったという意味だと筆者は読んでいます。その目標の値は公表されていません。
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まとめ
- ラピダスは、2nm世代のロジック半導体の受託製造を目指す日本の会社(非上場)
- 工場は北海道千歳市のIIM-1。後工程の拠点RCSも千歳にある
- 設計の支援から後工程までを1社で担う「RUMS」で、早く届けることを売りにする
- 量産は2027年の予定。会社の2026年4月の発表では2027年度後半から
- 国は研究開発の委託費と出資の両方で支えている。量産の顧客はまだ公表されていない
よくある質問
Q. ラピダスとは何の会社ですか?
A. 2nm世代の最先端ロジック半導体を受託で作ることを目指す日本の会社です。北海道千歳市の工場IIM-1で量産の準備をしています。
Q. ラピダスの工場はどこにありますか?
A. 北海道千歳市美々の工業団地にある研究製造拠点IIM-1です。近くのセイコーエプソン千歳事業所の中に、後工程の拠点もあります。
Q. ラピダスの量産はいつからですか?
A. 2027年に量産を始める予定です。2026年4月の会社の発表では「2027年度後半から」と書いています。
Q. ラピダスの株は買えますか?
A. 買えません。ラピダスは非上場の会社です。出資している上場企業はありますが、その株はラピダスの株ではありません。
免責事項:本記事はラピダス(Rapidus)の事業と国の支援の構造を理解するための情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。業績などの数値は2026年10月22日時点の公開情報に基づき、将来の成果を保証しません。投資判断は、ご自身の責任と最新の一次情報(IR・有価証券報告書など)に基づいて行ってください。
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ラピダスが目指す「前工程と後工程を1か所で」を、業界の分業の中で位置づけたい方に。本書(ダイヤモンド社)は、半導体産業の構造と関連企業を製造工程から整理した本で、「ファブレス、ファウンドリー、OSAT」の項目と、受託生産の会社(ファウンドリー、OSAT)を扱う章があります。この記事のRUMSが、これまでの分業とどこが違うのかを考える土台になります。
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電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
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