半導体の説明でよく出てくる「ドーピング」という言葉。スポーツの話ではなく、半導体を半導体として働かせるための、いちばん根っこの工程です。
こんな疑問はありませんか?
- 半導体のドーピングとは、何を何のために入れているの?
- n型とp型は、何が違うの?
- トランジスタの、どこに不純物を入れているの?
- 熱拡散とイオン注入は、どう使い分けるの?
- 入れたあとに、なぜ熱を加える(アニール)の?
この記事でわかること
- ドーピングの定義と、ごく微量の不純物で電気の流れが変わる理由
- n型とp型の違いを1枚の表で
- トランジスタの中で不純物を入れる4つの場所
- 熱拡散・イオン注入・成長中のドーピングの比較
- 装置・材料・使う側の企業を3面のカードで
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前工程(ウェーハに回路を作る)
基板
成膜
露光
エッチング
ドーピング ←ココ
CMP
洗浄
配線
計測
後工程(チップに切り分けて仕上げる)
ウェーハテスト
バックグラインド
ダイシング
ボンディング
封止
最終テスト
先端パッケージ
ドーピングは、露光とエッチングで作った模様(マスク)を使い、決めた場所だけに不純物を入れる工程です。そのあとの熱処理(アニール)までを含めて考えます。
ドーピングとは?先に結論
先に結論
半導体のドーピングとは、純粋なシリコンに、リンやホウ素などの別の元素(不純物)をごく微量だけ入れて、電気の流れやすさと、電気を運ぶ粒の種類を決める前工程です。
電子が余るように入れたものがn型、電子の抜け穴(ホール)ができるように入れたものがp型です。n型とp型を隣り合わせに作ることで、電気を流したり止めたりするトランジスタのスイッチが生まれます。入れ方は主にイオン注入で、入れたあとに熱を加えて不純物を働かせます(アニール)。
用語メモ:ドーパント
ドーピングで入れる不純物の元素のこと。n型にはリンやヒ素、p型にはホウ素がよく使われます。
用語メモ:n型・p型
n は negative(負)、p は positive(正)の頭文字。電気を運ぶのが、マイナスの電子ならn型、プラスに見えるホール(電子の抜け穴)ならp型です。
なぜ、わざわざ不純物を入れるのか
シリコンの原子は、外側に4本の「手」(価電子)を持ち、となりの原子と手をつないで結晶を作っています。手がすべてつながっていると、自由に動ける電子がほとんどないため、純粋なシリコンは電気をあまり通しません。
そこに、手の数が違う元素をほんの少しだけまぜると、状況が変わります。
|
n型 |
p型 |
| 入れる元素 | リン・ヒ素(手が5本) | ホウ素(手が3本) |
| 結晶の中で起きること | 手が1本余り、その電子が自由に動ける | 手が1本足りず、電子の抜け穴(ホール)ができる |
| 電気を運ぶもの | 電子(マイナス) | ホール(プラスに見える) |
たとえるなら
満車の駐車場では、車は1台も動けません。そこに車を1台足すと(n型)、あふれた車が通路を走り回れます。逆に1台抜くと(p型)、空いた1台分のすき間に隣の車が順に詰めていき、すき間そのものが動いていくように見えます。
ポイント:入れる量はごくわずかでも、電気の通りやすさは大きく変わります。だからこそ、量と場所と深さを正確に決めることが、ドーピングの腕の見せどころです。
トランジスタの、どこに入れるのか
1個のトランジスタの中でも、ドーピングは場所を変えて何度も行われます。場所ごとに、入れる元素・量・深さが違います。
| 場所 |
何をするところか |
ドーピングのねらい |
| ウェル | トランジスタを作る「土台」の領域 | n型・p型のトランジスタを作り分けるため、土台の性質を決める。深く入れる |
| チャネル | 電気が流れる通り道 | スイッチが入る電圧(しきい値)を調整する。量をとても細かく決める |
| ソース・ドレイン | 電気の入り口と出口 | 電気をたくさん流せるよう、浅く、濃く入れる |
| ゲートなどの電極 | スイッチを操作する部分 | かつてはシリコンの電極に入れて電気を通した(最先端では金属に置き換わっている) |
n型とp型が接する境目(pn接合)では、電気が一方向にしか流れにくくなります。トランジスタは、この境目の性質と、ゲートにかける電圧を組み合わせて、電気を流したり止めたりしています。
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ウェーハの上に結晶をもう1層。成長させながら不純物を入れる方法もある
ドーピングの3つの方法
不純物の入れ方は、大きく3つあります。いまの主役はイオン注入ですが、目的によって使い分けられています。
| 方法 |
やり方 |
得意なこと |
苦手なこと |
| 熱拡散 | 不純物を含むガスの中でウェーハを高温にし、表面からしみこませる | 一度にたくさんのウェーハを処理できる | 量と深さを細かく決めにくい。横にも広がる |
| イオン注入 | 不純物をイオンにして電気で加速し、ウェーハに打ち込む | 量と深さを正確に決められる。マスクで場所を選べる | 結晶が傷つくので、あとで熱で直す必要がある |
| 成長中のドーピング | エピタキシャル成長などで、膜を作りながら不純物をまぜる | 膜全体に均一に入れられる。立体の構造にも入れやすい | 場所を細かく選ぶには、別の工程との組み合わせが必要 |
トランジスタが小さくなるにつれて、「どこに・どれだけ・どの深さまで」を正確に決める必要が高まり、熱拡散からイオン注入が主役になりました。イオン注入の装置や物理は、別の記事でくわしく解説します。
注意:イオン注入では、不純物は「マスクで覆われていない場所」にだけ入ります。マスクは露光(リソグラフィ)で作るため、ドーピングの位置の正確さは、露光の正確さにも左右されます。
入れただけでは働かない:アニールの役割
イオン注入で打ち込んだ不純物は、そのままでは結晶の決まった位置におさまっておらず、電気を運ぶ役目を果たせません。しかも、打ち込んだ勢いで結晶の並びが乱れています。そこで、ウェーハに熱を加える「アニール」を行います。
活性化
不純物を、シリコンの結晶の決まった位置に入れ替えて、電子やホールを生み出せる状態にします。
結晶の修復
打ち込みで乱れた原子の並びを、熱で元の整った結晶に戻します。
広がりとの戦い
熱を長く加えるほど、不純物が周りに広がってしまいます。短く、高い温度で済ませる工夫が続けられています。
最先端のチップでは、ごく浅い場所に不純物をとどめる必要があるため、一瞬だけ高温にする方法が使われています。ドーピングとアニールは、2つで1組の工程です。
用語メモ:アニール
英語の anneal(焼きなます)から来た言葉。半導体では、ウェーハに熱を加えて、不純物を働かせたり結晶の乱れを直したりする熱処理を指します。
AI半導体とパワー半導体で、何が難しくなったのか
1. ごく浅く、ごく正確に
トランジスタが小さくなると、ソースやドレインの不純物は、より浅い場所にとどめる必要があります。少しでも広がると、隣どうしがつながって電気がもれてしまうためです。
2. 立体のトランジスタに、まんべんなく
FinFETやGAAのような立体のトランジスタでは、上から打ち込むだけでは側面に均一に入りません。打ち込む角度を工夫したり、成長中のドーピングを組み合わせたりして、立体の表面全体に不純物を入れます。
3. SiCのパワー半導体では「熱いまま」打ち込む
データセンターの電源や電気自動車で使われるSiC(炭化ケイ素)のパワー半導体では、ドーピングの条件がシリコンと大きく違います。報道によると、SiC向けのイオン注入装置では、ウェーハを500度C程度に加熱したうえでイオンを打ち込みます。
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ドーピングを支える企業:装置・材料・使う側
ドーピングの装置は、イオン注入装置と、アニールなどの熱処理装置に分かれます。どちらにも日本企業がいます。
装置メーカー
- Applied Materials(AMAT):米国の製造装置最大手。イオン注入装置も手がける
- Axcelis Technologies(ACLS):米国のイオン注入装置の専業メーカー
- 住友重機械工業(6302):グループの住友重機械イオンテクノロジーがイオン注入装置を手がける
- 日新電機グループ:日新イオン機器がイオン注入装置を手がける
- KOKUSAI ELECTRIC(6525):熱処理(アニール)や成膜の装置を手がける
材料メーカー(ウェーハなど)
- 信越化学工業(4063)・SUMCO(3436):シリコンウェーハ。ウェーハ自体も、あらかじめ不純物を入れてn型やp型にしてある
使う側(チップを作る会社)
- TSMC(2330.TW):ロジック半導体の受託製造
- Samsung Electronics(005930.KS)・SK hynix(000660.KS):DRAM・HBM
- ローム(6963):SiCのパワー半導体
イオン注入装置は、ウェーハを打ち込む深さや量に応じて、いくつかの種類に分かれます。装置の中身と種類は、イオン注入の記事で整理します。
ドーピングを知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:設計・品質・製造のどの担当でも、トランジスタの性能のばらつきは、ドーピングの量と深さのばらつきから来ることが多いと知っておくと、不良の原因を考えるときの見通しがよくなります。
投資家の方へ:新しい世代のトランジスタやSiCのパワー半導体が増えると、イオン注入と熱処理の装置の出番が増えます。ニュースは「どの種類のチップの話か」とセットで読むと位置づけがわかります。
学生・就活中の方へ:ドーピングは、固体物理(電子とホール)・化学(元素の性質)・電気(トランジスタの動作)が交わる分野です。物理系・電気電子系・材料系の授業で習うpn接合が、そのまま工場の工程につながっています。
よくある誤解
誤解1:「不純物」だから、少ないほど良い
ドーピングの不純物は、わざと入れる「調味料」です。少なすぎても多すぎても狙った性能になりません。困るのは、入れるつもりのない汚れの不純物で、そちらは洗浄で徹底的に取り除きます。
誤解2:ドーピングとイオン注入は同じ意味
ドーピングは「不純物を入れること」全体を指し、イオン注入はその方法の1つです。ほかに熱拡散や、膜を成長させながら入れる方法もあります。
誤解3:入れたら、それで終わり
打ち込んだだけの不純物は働かず、結晶も傷ついています。熱を加えるアニールまでが、ドーピングの1セットです。
まとめ
- ドーピングは、シリコンにごく微量の不純物を入れて、電気の流れ方を決める前工程
- リンやヒ素でn型(電子が運ぶ)、ホウ素でp型(ホールが運ぶ)になる
- 1個のトランジスタの中でも、ウェル・チャネル・ソース・ドレインと場所を変えて入れる
- いまの主役はイオン注入。入れたあとのアニールで不純物を働かせる
- 装置はイオン注入と熱処理に分かれ、どちらにも日本企業がいる
よくある質問
Q. 半導体のドーピングとは何ですか?
A. シリコンにリンやホウ素などの不純物をごく微量だけ入れて、電気の流れやすさと流れ方を決める工程です。
Q. n型とp型の違いは何ですか?
A. n型は余った電子が電気を運び、p型は電子の抜け穴であるホールが電気を運びます。入れる元素の違いで決まります。
Q. ドーピングとイオン注入の違いは何ですか?
A. ドーピングは不純物を入れること全体を指し、イオン注入はその方法の1つです。今の主役の方法がイオン注入です。
Q. ドーピングのあとに熱を加えるのはなぜですか?
A. 打ち込んだ不純物を結晶の決まった位置におさめて働かせ、打ち込みで乱れた結晶を直すためです。アニールといいます。
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ポチップ
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電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
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