3D NANDとは、データをためる小さな部屋(メモリセル)を縦に何百層も積み上げた、NAND型フラッシュメモリです。電源を切ってもデータが消えないので、SSDやスマートフォンの記憶装置に使われます。
平面のまま部屋を小さくする方法は、行き止まりに来ました。そこで高層に建て替えた。いまはAIの推論でデータセンター向けのSSDが足りなくなり、3D NANDの値段も上がっています。作り方と層の数の競争、AIとの関係を順に見ます。
先に見たい節 作り方/層の数の競争/AIでSSDが足りない理由
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3D NANDとは
先に結論
3D NANDとは、データをためる小さな部屋(メモリセル)を、平面に並べるだけでなく、縦に何百層も積み上げたNAND型フラッシュメモリです。電源を切ってもデータが消えないため、SSDやスマートフォンの記憶装置に使われます。
平面のまま部屋を小さくする方法は、部屋どうしが近づきすぎて限界を迎えました。そこで、膜を何百層も積み、上から下まで穴で貫いて、すべての層に一度に部屋を作る方法が生まれました。キオクシアの第10世代は332層です。AIの推論で大量のデータを読み書きするため、データセンター向けのSSDの需要が増え、3D NANDの重要性が高まっています。
用語メモ:NAND型フラッシュメモリ
電源を切ってもデータが残るメモリ(不揮発性メモリ)の代表。セルを直列につないだ回路の形が、論理回路のNANDに似ていることから、この名前がついています。
用語メモ:メモリセル
1ビット〜数ビットのデータをためる、いちばん小さな部屋。電子をためたり抜いたりして、0と1を記録します。
なぜ平面から「3D」に変わったのか
フラッシュメモリの容量は、同じ面積にどれだけたくさんのメモリセルを詰め込めるかで決まります。長い間、メモリセルを小さくして平面にぎっしり並べることで、容量を増やしてきました。
部屋が小さすぎる
メモリセルが小さくなると、ためておける電子の数が減り、0と1の区別がつきにくくなります。
隣の部屋に響く
メモリセルどうしが近づきすぎると、隣のセルを書き換えるときの影響を受けやすくなります。
模様が描けない
細かくするほど、露光で模様を描くのが難しくなり、費用もかかります。
そこで、平面で小さくするのをやめて、縦に積み上げる方向に変えたのが3D NANDです。キオクシアは2007年に、3次元フラッシュメモリの技術を世界で初めて発表しました。
たとえるなら
土地の限られた都心で、住む人を増やす方法に似ています。1部屋をどんどん狭くするのには限界があります。それなら、平屋をやめて高層マンションを建てれば、同じ土地にずっと多くの部屋を作れます。
3D NANDの作り方:積んでから、まとめて貫く
何百層ものメモリセルを、1層ずつ作っていたら、工程の数が膨大になります。3D NANDの作り方の要は、「先に膜を全部積んでから、穴をまとめて開ける」発想です。
| 順番 |
やること |
| 1 | 電極になる膜と、電気を通さない膜(絶縁膜)を、交互に何百層も積み重ねる |
| 2 | 積んだ膜を上から下まで貫く、細く深い穴(チャネルホール)を開ける |
| 3 | 穴の内側に、電子をためる膜と、柱になる電極を埋め込む |
| 4 | 穴の柱と、積んだ電極の層が交わる所が、1つ1つのメモリセルになる |
キオクシアは、この方法を「1層1層下からメモリセルを積み上げるのではなく、板状の電極を積み上げ、それらを貫く穴を開けて、一気にすべての層でメモリセルを作る」と説明しています。層を増やしても工程の数が増えにくいことが、低いコストにつながります。
用語メモ:チャネルホール
積み重ねた何百層もの膜を、上から下まで貫く穴。この穴の内側が、電子の通り道とメモリセルになります。
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3D NANDの層の数は何層か
3D NANDの容量を増やすいちばんの方法は、層の数を増やすことです。キオクシアの公表している層の数は、次のように増えてきました。
| 年 |
キオクシアの3D NANDの層の数 |
| 2015年 | 48層 |
| 2018年 | 96層 |
| 2020年 | 112層 |
| 2022年 | 162層 |
| 2023年 | 200層超 |
| 2026年(第10世代、サンプル出荷) | 332層 |
332層
キオクシアの第10世代 BiCS FLASH の層の数(2026年7月サンプル出荷)
出典:キオクシア(2026年7月3日)
321層
SK hynix が2024年11月に量産を始めた NAND の層の数
出典:SK hynix Newsroom
キオクシアの第10世代は、第8世代(218層)と比べて記憶の密度を59%高め、データを出し入れする速さ(インターフェース速度)を4.8Gbpsに上げたとしています。層を増やすほど、穴をまっすぐ深く掘る技術や、何百層もの膜を均一に積む技術の難しさが増していきます。
注意:層の数は「多いほど良い」と単純には比べられません。各社で数え方や、穴を何段に分けて掘るかが違い、同じ層の数でもセルの大きさや性能は異なります。容量・速さ・コストを合わせて見る必要があります。
上の表をキオクシア1社の数字にしたのは、筆者が各社の層の数を同じ物差しでそろえられなかったからです。発表ごとに数え方が違い、並べると「どちらが上か」の表に見えてしまう。比べるのは1社の中の伸び方までにしています。
なぜAIで、SSDとNANDが足りなくなっているのか
AIデータセンターでは、GPUのそばのHBM(DRAM)に注目が集まりがちですが、その外側で大量のデータをためておくのが、3D NANDを使ったSSDです。
学習のデータ置き場
AIの学習に使う大量の文章・画像・動画は、SSDやHDDに置かれ、GPUに次々と送られます。
推論で読み書きが増える
AIの推論(実際に使う場面)が広がると、検索に使うデータ(ベクトルデータベース)や、途中の計算結果を一時的にためておく場所としても、SSDが使われます。
速さと容量の両立
HDDより速く、DRAMより安く大容量のSSDは、その中間を埋める記憶装置として出番が増えています。
調査会社の TrendForce(トレンドフォース)は2026年9月30日の発表で、2026年10〜12月期の NAND フラッシュの契約価格が前の四半期より15〜20%上がると予想しました。データセンター向けのSSD(エンタープライズSSD)は、値上がりが速まる唯一の分野としています。理由は、AIの推論の設備を増やすクラウドの大手の注文です。キオクシアも第10世代の製品を、主にエンタープライズSSDやデータセンター向けのSSDに向けるとしています。
電源の設計者がメモリを見るとき、最初に確かめたいのは「電源を切ったらデータがどうなるか」です。消えるなら、停電の瞬間に何をどこへ逃がすかを、電源の側で考えなければならない。NANDは電気がなくてもデータを持てるので、その最後の受け皿になります。この記事でSSDを「書庫」と呼ぶのは、その意味もあります。
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DRAM・HBMとの役割分担
|
DRAM・HBM |
3D NAND(SSD) |
| 電源を切ると | データが消える | データが残る |
| 速さ | とても速い | DRAMより遅い |
| 容量あたりの値段 | 高い | 安い |
| AIデータセンターでの役割 | GPUが今まさに計算しているデータを置く | 大量のデータをためておき、必要なときに送る |
DRAMは「作業机」、3D NANDのSSDは「書庫」にたとえられます。作業机は広くて速いほど仕事がはかどりますが、高価です。書庫は少し取りに行く時間がかかりますが、大量の資料を安く保管できます。AIデータセンターでは、両方の量がそろって増えています。
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3D NANDを支える企業:装置・材料・作る会社
作る会社(メモリメーカー)
- キオクシア(285A):BiCS FLASH。北上工場・四日市工場で生産
- Samsung Electronics(005930.KS)・SK hynix(000660.KS):3D NAND・DRAM・HBM
- Micron Technology(MU):3D NAND・DRAM・HBM
装置メーカー
- 東京エレクトロン(8035):成膜・エッチングの装置
- Lam Research(LRCX):深い穴のエッチング、成膜の装置
- KOKUSAI ELECTRIC(6525):何百層もの膜を積む成膜の装置
材料メーカー
- 信越化学工業(4063)・SUMCO(3436):シリコンウェーハ
- レゾナック(4004)・関東電化工業(4047):エッチングや成膜に使うガス
3D NANDは、膜を積む装置と、深い穴を掘る装置の性能が、層の数を左右します。層の数が増えるほど、これらの装置と材料の出番も増える構造です。
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あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:半導体・電機・データセンターのどの担当でも、「メモリ不足」と言われたときに、DRAM(HBM)の話か、NAND(SSD)の話かを分けて考えると、何が足りないのかがはっきりします。
投資家の方へ:NANDの価格や層の数のニュースは、メモリメーカーだけでなく、膜を積む装置・穴を掘る装置・ガスなどの需要にもつながります。DRAMとは需要の波の動き方が違う点にも注意すると、位置づけがわかりやすくなります。
学生・就活中の方へ:3D NANDは、材料・プロセス・回路設計が一体になった技術です。電子材料・電気電子・機械系の学生にとって、学んだことが量産の最前線につながる分野です。
よくある誤解
誤解1:3D NANDは、平面のメモリを何枚も重ねて貼ったもの
チップを重ねて貼るのではありません。1枚のシリコンの上で、膜を何百層も積み、穴でまとめて貫いて、すべての層に一度にメモリセルを作ります。
誤解2:AIに必要なメモリはHBMだけ
HBMはGPUが計算しているデータを置く場所です。学習や推論のための大量のデータは、3D NANDを使ったSSDなどにためられています。
誤解3:層が多い会社のメモリが一番良い
層の数の数え方や作り方は会社ごとに違います。容量・速さ・消費電力・コストを合わせて比べる必要があります。
まとめ
- 3D NANDは、メモリセルを縦に何百層も積み上げたNAND型フラッシュメモリ
- 平面で小さくする限界を、縦に積む発想で越えた
- 膜を積んでから穴でまとめて貫き、すべての層に一度にメモリセルを作る
- キオクシアの第10世代は332層。層を増やす競争が続いている
- AIの推論でデータセンター向けSSDの需要が増え、NANDの重要性が高まっている
よくある質問
Q. 3D NANDとは何ですか?
A. データをためるメモリセルを縦に何百層も積み上げた、NAND型フラッシュメモリです。SSDやスマートフォンに使われます。
Q. 3D NANDと平面のNANDの違いは何ですか?
A. 平面のNANDはセルを小さくして並べ、3D NANDはセルを縦に積みます。積むことで、平面の限界を越えて容量を増やしました。
Q. 3D NANDは何層まで積まれていますか?
A. キオクシアは2026年7月に332層の第10世代のサンプル出荷を始めました。各社が層を増やす競争を続けています。
Q. なぜAIでSSDの需要が増えるのですか?
A. 学習のデータ置き場に加え、推論で使うデータや途中の計算結果をためる場所として、データセンター向けSSDが使われるからです。
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