30秒でわかる答え
データセンターの受変電設備とは、送電網から特別高圧(7,000Vを超える電圧)で電気を受け取り、建物の中のサーバーや空調で使える電圧まで、何段階かに分けて下げる設備のまとまりです。
入口で電気を入れたり切ったりするGIS(ガス絶縁開閉装置)、電圧を下げる特高変圧器、建物の中に配る配電盤、停電に備えるUPSと非常用発電機などが順に並びます。大きなAIデータセンターは使う電力が大きいため、特別高圧で受けるのが一般的です。図に出てくる略語は記事の中ほどの早見表にまとめました。
こんな悩み、ありませんか?
- 「AIデータセンターは電気を食う」と聞くが、どんな設備で受けているのかイメージできない
- 「特別高圧受電」という言葉は見るが、普通のビルと何が違うのかわからない
- GIS・変圧器・UPS・非常用発電機…単語は知っているが、並び順がわからない
- 三菱電機や富士電機が「DC特需」と言われる理由を、機器レベルで理解したい
ひとつでも当てはまったら、この記事はきっとお役に立てます。
データセンターの電気設備は、実は「電気のバケツリレー」です。66,000Vという“暴れ馬”のような電気を、サーバーが飲み込める200V前後まで、段階的におとなしくしていく。その各段階に、専用の機器が1つずつ置かれているだけなんです。
この記事では、受電点からGPUまでを1枚の地図にして、機器を1つずつ図解していきます。専門用語はすべて、その場で噛み砕きます。
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▼ 電気の通り道(上流→下流)
発電所
送電網(系統)
変電所
DC受変電設備 ←ココ
UPS・配電
GPUラック
GPU / HBM
▼ サプライチェーン(誰が作っているか)
素材(電磁鋼板・銅)
重電メーカー ←ココ
電気工事・EPC
DC事業者
クラウド・AI企業
先に結論:受変電設備とは「電圧を段階的に落とす関所」
この記事の結論(3行)
- 受変電設備=66,000Vを200Vまで落とす「変圧の連続工程」。機器はすべてこの目的のために並んでいます。
- AIデータセンターは1ラック 約130〜150kW(GB300 NVL72の推定値)という桁違いの消費のため、高圧(6,600V)受電では容量が足りず、特別高圧(7,000V超)受電が事実上の必須になりました。
- 結果、特高変圧器・GIS(開閉装置)が世界的な品薄となり、三菱電機(6503)や富士電機(6504)などの重電メーカーが「AI関連銘柄」として再評価されています。
この記事と「電力の流れ」記事の役割分担
当サイトには電力設備の記事が2本あります。混乱しないよう、役割を先に整理します。
機器の中身を知りたい方 → この記事
= その経路に「どんな機械が置かれているか」という部品リストの記事
そもそも「特別高圧」とは何ボルトのこと?
まず、いちばん基本のところから。日本の電気は、法律(電気設備に関する技術基準を定める省令 第2条)で3つのランクに分けられています。「特別高圧」は、その最上位ランクの呼び名です。
| 区分 |
電圧(交流) |
身近な例 |
契約電力の目安 |
| 低圧 |
600V以下 |
一般家庭(100V/200V)、コンビニ |
〜50kW未満 |
| 高圧 |
600V超〜7,000V以下 |
中小ビル、スーパー、町工場(6,600V) |
50kW〜2,000kW程度 |
| 特別高圧 |
7,000V超 |
大規模工場、鉄道、AIデータセンター(22kV/66kV/154kV等) |
概ね2,000kW以上 |
※電圧区分は電気設備技術基準 第2条に基づく。契約電力の目安は一般的な運用例であり、電力会社・地域により異なります。
低圧・高圧・特別高圧の境目は、電圧の大きさで決まっています。身近な例で覚えたい方は、同じ筆者が運営する電気と品質管理のブログ shirasusolo.net の電圧の3区分で詳しく解説しています。
たとえ話:水道管で考えるとカンタンです
電圧は「水圧」、電流は「水量」だと思ってください。
低圧(100V)=家庭の蛇口。安全ですが、ちょろちょろしか出ません。
高圧(6,600V)=ビル1棟分の太い水道管。
特別高圧(66,000V)=消防車の放水ホース。大量に運べますが、そのままサーバーに向けたら一瞬で吹き飛びます。
だから「大量に運び込んで、手元で細く分ける」必要がある。その“分ける装置一式”が、受変電設備です。
「法令の区分」と「電力会社から受ける電圧」は別の話
特別高圧は、法令(電気設備に関する技術基準を定める省令 第2条)で「7,000Vを超える電圧」と決められていて、上限はありません。66,000Vも154,000Vも特別高圧です。一方、実際に電力会社から受ける電圧は、契約電力や地域の送電網で決まり、数万Vのことが多くなります(下のQ2)。「特別高圧は2万V以上」という説明を見かけるのは、契約で使われる電圧の話と法令の区分が混ざっているためです。高圧で受けるビルの電圧は6,600Vが一般的です。
なぜAIデータセンターは「特別高圧」でしか受けられないのか
答えはシンプルで、桁が違いすぎるからです。実際に電卓を叩いてみましょう。
約130kW
GB300 NVL72
1ラックあたりの消費電力(推定の下限。最大150kW程度)
ざっくり計算してみましょう
GPUラック
200本のAIデータセンターを想定します。
① IT機器の消費(推定の下限130kWで計算):130kW × 200本 =
26,000kW(26MW)
② 冷却・照明・変換ロスを加算(PUE 1.3と仮定):26,000 × 1.3 ≒
33,800kW(約34MW)
→ 高圧受電の上限(約2,000kW)の約17倍。
そもそも土俵が違う、というのがわかります。
ちなみに34MWは、一般家庭 約7万〜8万世帯分の電力に相当します(1世帯あたり平均400〜500W換算の概算)。中規模の街がまるごと1棟の建物に入っているようなものです。
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受変電設備の全体地図|66,000V → 200Vまでの7段階
ここが本記事の心臓部です。電気が入口からGPUに届くまでに通る「7つの関所」を、上から順に並べました。まずはこの図を頭に入れてください。以降のセクションで、1つずつ中身を解説します。
STEP 1|受電点(引込)
電力会社から 66,000V を受け取る
▼
STEP 2|特高開閉装置(GIS)
電気の「入口ドア」を開け閉めする
▼
STEP 3|特高変圧器(主変圧器)
66,000V → 6,600V へ大減圧
▼
STEP 4|高圧配電盤・非常用発電機
建物内へ振り分け+停電時の切替
▼
STEP 5|低圧変圧器
6,600V → 415V/210V へ
▼
STEP 6|UPS(無停電電源装置)+蓄電池
一瞬の停電も許さない“最後の砦”
▼
STEP 7|PDU/ラックPDU
ラックの1本1本に電気を配る
▼
ひとことメモ:この7段階のうち、STEP 1〜3が「特別高圧」の領域で、電気主任技術者の腕の見せどころ。STEP 4〜7は「高圧・低圧」の領域で、UPSやPDUなどIT寄りの機器が並びます。境目は特高変圧器だと覚えると整理しやすいです。
この地図の流れを、66,000Vで受けた電気がGPUの棚に届くまでの「旅」として動く図で追う動画です。
受変電設備の図に出てくる略語の早見表
受変電設備の図(単線結線図)には、機器が略語で書かれています。データセンターの受変電設備でよく見るものを、電気が流れる順に並べました。
| 略語 | 機器の名前 | 役割 |
| GIS | ガス絶縁開閉装置 | 特別高圧の入口で、遮断器などをガスで絶縁した容器にまとめた設備 |
| CB・GCB・VCB | 遮断器(ガス遮断器・真空遮断器) | 事故の大きな電流を短い時間で切る |
| DS | 断路器 | 点検のときに回路を切り離す |
| LA | 避雷器 | 雷などの異常な電圧から機器を守る |
| VT・CT | 計器用変圧器・変流器 | 電圧と電流を、計器や保護のための小さな値にして取り出す |
| Tr | 変圧器 | 電圧を下げる(特高変圧器・高圧の変圧器) |
| UPS | 無停電電源装置 | 停電や瞬時の電圧低下のときも、電池で電気を送り続ける |
| G(EG) | 非常用発電機 | 長い停電のときに電気を作る |
| PDU | 電源分配ユニット | ラックの中で、各サーバーへ電気を配る |
ポイント:略語を電気の流れの順に追うと、「受ける(GIS)→下げる(Tr)→配る→止めない(UPS・発電機)→ラックへ(PDU)」という流れになります。入口のGISの中身は
GISとは、電気が届く全体の流れは
AIデータセンターはなぜ電力で詰まるのかで解説しています。
STEP 1|受電点:電気の「玄関」をどう作るか
架空線か、地中線か
電力会社の変電所からデータセンターまで、電気を引き込む方法は2通りあります。
架空引込(鉄塔・電柱)
- 工事費が安く、工期も短い
- 故障箇所を目視で探せる
- 台風・落雷・塩害に弱い
- 用地と景観の調整が必要
地中引込(洞道・管路)
- 天候・災害に強く信頼性が高い
- 都市部の大型DCはほぼこちら
- 工事費が高く、工期が長い
- 故障時の復旧に時間がかかる
「2ルート受電」がデータセンターの常識
データセンターは、原則として1本の線だけで電気を受けません。1本が切れた瞬間にサービスが止まってしまうからです。そこで、以下のような冗長化(じょうちょうか=予備を持たせること)が行われます。
| 受電方式 |
仕組み |
停電時間 |
| 1回線受電 |
線が1本だけ。小規模施設向け |
復旧まで停電 |
| 本線・予備線受電 |
普段は本線。故障したら予備線に切替 |
数秒〜数十秒 |
| スポットネットワーク受電 |
3回線を常時並列運転。1本切れても残りが自動で受け持つ |
実質ゼロ |
たとえ話:スポットネットワークは「3人がかりで荷物を持つ」ような方式です。1人が手を離しても、残る2人が持ち続けるので荷物は落ちません。本線・予備線方式は「1人が持ち、もう1人が隣で待機」。落としてから拾うので、一瞬“落ちる”わけです。
STEP 2|GIS:66,000Vを安全に「入り切り」する装置
用語ミニ解説:GIS(ガス絶縁開閉装置)
GIS=Gas Insulated Switchgear。金属の密閉容器の中に、遮断器・断路器・避雷器などをまとめて収め、絶縁性の高いガス(従来はSF6ガス)を充填した装置です。
ひと言でいえば「
特別高圧用の、超・高性能ブレーカー箱」。
遮断器(電流が流れたまま切れる)と断路器(電流を切ってから開く)の違いなど、変電所の機器一つひとつの役割は、同じ筆者が運営する電気と品質管理のブログ shirasusolo.net の
変電所の役割と主要機器で詳しく解説しています。
なぜ「ガスの箱」に入れる必要があるのか
理由は絶縁距離です。66,000Vの電気は、空気中でも数十cm離れた金属に向かって飛びます(アーク放電)。空気で絶縁しようとすると、装置がとんでもなく巨大になってしまう。
そこで、空気よりはるかに絶縁性が高いガスを密閉容器に詰めることで、設置面積を大幅に小型化できます。用地が限られる都市部のデータセンターにとって、これは死活問題です。
遮断器(CB)
事故で大電流が流れた瞬間に、電流を強制的に切る。人間でいう反射神経。動作は数十ミリ秒。
断路器(DS)
点検時に、回路を目に見える形で切り離す。電流が流れている状態では開けられない。安全確保用。
避雷器(LA)
雷の異常電圧を大地に逃がす。落雷が多い日本では必須の守護神。
いま起きている変化:脱SF6
GISに使われてきたSF6(六フッ化硫黄)ガスは、CO2の数千倍という非常に強い温室効果を持つため、世界的に代替が進んでいます。三菱電機(6503)は2024年7月に、温室効果ガスを使わない「84kVドライエア絶縁開閉装置」の初号機受注を発表しました。環境規制が、そのまま重電メーカーの新しい受注機会になっている構図です。
STEP 3|特高変圧器:いま世界で最も足りない機械
受変電設備の主役が、この変圧器(トランス)です。66,000Vを6,600Vへ、電圧を10分の1に落とします。原理自体は中学校の理科で習う「電磁誘導」そのもの。鉄心に巻いたコイルの巻き数の比で、電圧を上げ下げしています。
変圧器のしくみ(巻き数の比で電圧が決まる)
巻き数を1/10にすれば、電圧も約1/10になる。原理はシンプルです。
問題は「原理」ではなく「納期」
技術的に枯れた機械なのに、いま世界中でこれが手に入りません。理由は、生成AIによるデータセンター建設ラッシュが、変圧器メーカーの生産能力を一気に飲み込んでしまったからです。
2030年以降
大型変圧器を今から発注した場合の納入時期の目安
(電気新聞報道/メーカー談話ベース)
新工場棟
三菱電機が受配電システム製作所(香川県丸亀市)に建設、C-GIS増産へ
(2025年8月 同社発表)
ここが投資家にとっての最重要ポイントです。GPUをいくら買っても、変圧器がなければデータセンターは1ワットも動きません。AI投資のボトルネックが「半導体」から「電気設備」へ移りつつある、というのが2025〜2026年に起きている構造変化です。
この不足を背景に、鉄心とコイルの変圧器の仕事をパワー半導体に分担させる「SST(ソリッドステート変圧器)」も話題になっていますが、コストと損失では今も従来の変圧器が有利です(SST(ソリッドステート変圧器)とは?)。
企業分析記事
三菱電機(6503)とは?AIデータセンターの「電力の砦」を握る重電トップの総合力
変圧器・GISの供給制約を、企業の受注構造・セグメント別業績から投資家向けに徹底解説しています。この記事の“機器の話”を“銘柄の話”に翻訳した1本です。
企業分析を読む →
STEP 4-5|配電盤と低圧変圧器:建物の中で「枝分かれ」させる
6,600Vに落ちた電気は、高圧配電盤で建物の各エリアへ振り分けられます。ここから先は、幹から枝へ、枝から葉へ、と分岐していくイメージです。
| 機器 |
役割 |
身近なたとえ |
高圧配電盤 (キュービクル/C-GIS) |
6,600Vを系統ごとに分岐。事故時は該当区画だけを切り離す |
家の分電盤の巨大版 |
| 低圧変圧器 |
6,600V → 415V/210V へ最終減圧 |
最後の水圧調整バルブ |
PDU (電力分配ユニット) |
サーバールーム内で、ラック群へ電気を分配 |
部屋ごとのブレーカー |
| ラックPDU |
ラック1本の中で、サーバー1台ずつへ給電。電流を計測する機能付きも多い |
高機能な電源タップ |
ひとことメモ:AIデータセンターでは、この配電の“太さ”が根本的に変わりました。1ラック5kWなら細いケーブルで足りましたが、130kWとなるとケーブルもブレーカーも桁違いに太くする必要があります。床下に収まりきらず、天井のバスダクト(金属製の給電レール)で配るケースが増えているのも、この理由です。
関連記事
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「1ラック130kW」がどれほど異常な数字なのか、ラック側の視点から解説しています。配電が太くなる理由がストンと落ちます。
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STEP 6|UPSと非常用発電機:停電と戦う二段構え
用語ミニ解説:UPS(無停電電源装置)
UPS=Uninterruptible Power Supply。内部に蓄電池を持ち、停電した瞬間に切れ目なく電気を供給し続ける装置です。持続時間は数分〜十数分程度と短く、あくまで「発電機が起動するまでのつなぎ」が役割。
なぜ「二段構え」なのか|時間軸で理解する
⏱️ 停電発生からの時間軸
0秒|停電発生
電力会社からの供給が途絶える。サーバーは電気が0.02秒でも途切れると落ちます。
0秒〜|UPSが引き継ぐ
蓄電池から給電開始。「常時インバータ給電方式」なら、そもそも常にUPS経由で給電しているため、切替時間はゼロです。
約10〜40秒|非常用発電機が起動
ディーゼルまたはガスタービン発電機が始動し、定格回転に達して電圧が安定するまでの時間。
以降|発電機が主役に
燃料が続く限り運転継続。多くのDCが48時間〜72時間分の燃料備蓄を目安としています。
たとえ話:UPSは「息継ぎ」、発電機は「酸素ボンベ」です。
息継ぎ(UPS)は数分しか持たないけれど、瞬時に効く。酸素ボンベ(発電機)は長時間もつけれど、装着に数十秒かかる。だから両方いる、というだけの話なんです。
ディーゼル vs ガスタービン
ディーゼルエンジン発電機
- 起動が速く、燃費が良い
- 実績が豊富でコストが安い
- 冷却水が必要な機種が多い
- 振動・騒音・排ガス対策が課題
ガスタービン発電機
- 小型で大出力が得られる
- 空冷式で冷却水が不要(断水時も可)
- 屋上設置に向く
- 燃費はディーゼルに劣る傾向
冗長構成「N」「N+1」「2N」を1分で理解する
データセンターの資料を読むと必ず出てくるこの記号。難しそうに見えますが、「予備を何台持つか」を表しているだけです。Nは「必要な台数」を意味します。
N
予備なし
必要な分だけ。1台壊れたら止まる。コストは最安。
N+1
予備1台
+1
1台壊れても稼働継続。点検中でも運転できる。現実的なバランス。
2N
系統まるごと二重化
|
受電からPDUまで完全に2系統。片方が全滅しても動く。コストは倍。
AI時代のジレンマ:2N構成は安心ですが、設備を2倍持つ=建設コストも2倍。1ラック130kWの時代にこれを貫くと、投資額が跳ね上がります。
そのため近年のAI学習用データセンターでは、「学習ジョブは中断・再開できるので、金融システムほどの可用性は不要」と割り切り、あえて冗長度を下げてコストを優先する設計思想も広がりつつあります。これは可用性の考え方そのものの転換点です。
これから起きる変化|「800V直流給電」への転換
ここまで解説した受変電設備は、基本的に交流(AC)を前提にした世界でした。しかし1ラック130kW超が当たり前になると、この方式に限界が見えてきます。
何が問題なのか
① 変換ロスの積み重ね:AC→DC→AC→DC…と何度も変換するたび、数%ずつ電気が熱になって消えます。
② ケーブルが太くなりすぎる:電圧が低いまま大電力を送ると電流が増え、銅の塊のような配線が必要になります。
③ そのケーブル自体が発熱する:冷却負荷がさらに増える悪循環。
そこでNVIDIAが提唱しているのが800VDC(800V直流)アーキテクチャです。ラックの手前まで高い電圧の直流で持ってくることで、電流を抑え、変換回数を減らし、ケーブルを細くする。同社は次世代のラックスケールシステムに向けて、この方式への移行を打ち出しています。
ラックの中の配線が今の54Vのままだと、ラックの電力が増えるほど電流が大きくなり、銅もスペースも足りなくなる──これがNVIDIAが800VDCへ移る理由です(800VDC給電とは?NVIDIAがラック直流化に踏み切った理由)。
| 観点 |
従来のAC給電 |
800VDC給電 |
| 変換回数 |
多い(複数回) |
少ない |
| 銅使用量 |
多い |
大幅削減 |
| 課題 |
実績豊富で枯れている |
直流遮断技術・標準化が発展途上 |
ひとことメモ:直流は「電流がゼロになる瞬間がない」ため、交流よりも遮断(電気を切ること)が格段に難しいという物理的な壁があります。ここで効いてくるのがSiC・GaNといったパワー半導体。電力設備の話が、じつは半導体の話とつながっているのが面白いところです。
誰がこの設備を作っているのか|関連企業を3層で整理
受変電設備は、機器メーカー・施工会社・運用者の3層で成り立っています。投資家の方は、この3層のどこにボトルネックがあるかで注目先が変わります。
上流:機器メーカー(重電)
- 三菱電機(6503):変圧器・GIS・C-GIS
- 日立製作所(6501):送変電システム・海外展開
- 富士電機(6504):UPS・受配電・パワー半導体
- 明電舎(6508):変圧器・開閉装置
- 東芝(非上場):変圧器・送変電
- ダイヘン(6622)/愛知電機(6623):配電用変圧器
- 山洋電気(6516):電源・ファン
- Eaton(ETN)/Schneider Electric(SU.PA)/ABB(ABBN.SW):海外大手
- Vertiv(VRT):DC電源・冷却の専業
中流:設計・施工(EPC)
- きんでん(1944):電気工事大手
- 関電工(1942):電気設備工事
- 九電工(1959):電気・空調工事
- 高砂熱学工業(1969):空調+電気の総合
- 大成建設・鹿島等:DC建屋本体
機器があっても据え付ける技術者が足りないのが日本の現状。施工力そのものが希少資源になっています。
下流:DC事業者・利用者
- NTT(9432):DC運営+IOWN
- ソフトバンク(9434):苫小牧AI DC等
- KDDI(9433):大阪堺のAI DC
- さくらインターネット(3778)
- NVIDIA(NVDA):GPUを供給する側
- 電力会社各社:系統接続の可否を握る
※企業の掲載は事業内容の説明を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。事業構成・受注状況は各社IR資料で最新情報をご確認ください。
富士電機(6504)|冷却×電力の二刀流
読む →
Vertiv(VRT)|DC電源・冷却の純粋プレイ王者
読む →
この知識が、あなたにとって何の役に立つか
投資家の方へ
ニュースで「DC投資○兆円」と出たら、その何割が受変電・電源設備に落ちるかを想像できるようになります。決算説明会で「送配電システム事業の受注残」という言葉が出たとき、その意味が具体的に見えるはずです。
学生・就活生の方へ
「重電=古い業界」というイメージは、もう完全に過去のものです。AIインフラの物理的な律速段階が電気設備にある以上、この分野の技術者需要は構造的に強い。面接でこの話ができると、確実に刺さります。
技術者の方へ
特別高圧の需要設備を持つ事業場では、電気主任技術者の選任が必要です。受電電圧5万V未満なら第三種、17万V未満なら第二種が目安(出力条件等の例外あり)。DC建設ラッシュで、この資格の市場価値はいま静かに上がっています。
よくある3つの誤解
誤解①「特別高圧で受電すれば電気代が安くなる」
単価は下がりますが、受変電設備の建設費と保守費は自己負担です。設備投資と主任技術者の人件費を含めた総額で判断する必要があります。
誤解②「UPSがあれば停電しても長時間動く」
UPSの持ち時間は通常わずか数分〜十数分。あくまで発電機起動までのつなぎです。長時間の停電に耐えるのは発電機と燃料備蓄の役目。
誤解③「土地と資金があればDCは建てられる」
現実の最大の壁は「系統接続の空き容量」と「変圧器の納期」です。電力会社に接続を申し込んでも、送電網に余力がなければ待たされます。用地選定でDC事業者が変電所の近くにこだわる理由がここにあります。
まとめ
- 受変電設備とは、電力会社から受け取った特別高圧(7,000V超)の電気を、サーバーが使える200V前後まで段階的に落とす設備一式のこと。
- 順路は受電点 → GIS → 特高変圧器 → 高圧配電盤 → 低圧変圧器 → UPS → PDU → GPUの7段階。
- AIデータセンターは1ラック約130〜150kW(推定)と桁違いのため、特別高圧受電が事実上の必須条件になった。
- いま最大のボトルネックは技術ではなく変圧器・GISの納期と系統の空き容量。
- その結果、三菱電機(6503)や富士電機(6504)などの重電各社が、AIインフラの中核プレイヤーとして再評価されている。
よくある質問(FAQ)
Q1. 特別高圧受電に、電気主任技術者は必要ですか?
はい、必要です。事業用電気工作物である需要設備には主任技術者の選任義務があります。受電電圧5万V未満は第三種、17万V未満は第二種、それ以上は第一種が目安です(出力5,000kW以上の発電所を含む場合など、例外規定があります)。詳細は電気事業法および同施行規則をご確認ください。
Q2. 日本のデータセンターは何ボルトで受電しているのですか?
中〜大規模では66kV/77kVが多く見られます。さらに大規模なものでは154kVや275kVでの受電も検討されます。たとえば北海道・苫小牧のAIデータセンター案件では、66kVの特別高圧変電所の建設が2026年に公表されています。実際の受電電圧は、立地する地域の系統構成と契約電力によって決まります。
Q3. GISとキュービクルは何が違うのですか?
扱う電圧が違います。GISは特別高圧(数万V級)用の大型設備、キュービクルは主に高圧(6,600V)用の箱型受電設備です。近年は両者の中間として、高圧をガス絶縁でコンパクトにまとめたC-GIS(キュービクル形GIS)の採用が拡大しています。
Q4. 受変電設備でもPUEは改善できますか?
できます。PUEの分子(施設全体の電力)を押し上げる要因のひとつが、変圧器やUPSでの変換損失だからです。高効率変圧器の採用や、UPSの運転モード最適化、そして直流給電への移行は、いずれもPUE改善に直結します。ただし影響度としては冷却のほうが大きいのが一般的です。
Q5. 変圧器が足りないなら、DC建設は止まるのですか?
止まるというより「遅れる」「順番待ちになる」と表現するのが正確です。実際、各社は増産投資を進めており、三菱電機は2025年8月に新工場棟の建設を発表しています。ただし工場を建てて量産が立ち上がるまでには年単位の時間がかかるため、需給の逼迫はしばらく続くとみられます。
Q6. 受変電設備とは何ですか?
電力会社から高い電圧で受けた電気を、建物の中で使える電圧まで下げて配るための、開閉器・変圧器などの設備のまとまりです。
Q7. 特別高圧とは何ボルトからですか?
国の省令で、交流・直流とも7,000ボルトを超える電圧が特別高圧と決められています。大きな施設はこの電圧で電気を受けます。
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ポチップ
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
テーマ別に、もっと深く学ぶ
気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめての方にもわかるように図解で書いています。
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