半導体の工程表には、「アニール」という熱処理が何度も出てきます。膜を積むわけでも、削るわけでもないのに、この工程を抜くとトランジスタはまともに動きません。
こんな疑問はありませんか?
- 半導体のアニールとは、何のために熱を加えているの?
- 熱を加えるなら、高い温度で長く加えればいいのでは?
- 炉・RTA・フラッシュランプ・レーザーは何が違うの?
- 工程のどこで、何回くらいアニールするの?
- アニールの装置は、どの会社が作っているの?
この記事でわかること
- アニールの定義と、4つの目的
- 熱をかけすぎると困る理由(サーマルバジェット)
- 4つの方式を、時間の長さで並べた比較表
- 工程の中でアニールが登場する5つの場面
- 装置・材料・使う側の企業を3面のカードで
あなたが今いる場所:前工程 > ドーピング > アニールとは?
前工程(ウェーハに回路を作る)
基板
成膜
露光
エッチング
ドーピング ←ココ
CMP
洗浄
配線
計測
後工程(チップに切り分けて仕上げる)
ウェーハテスト
バックグラインド
ダイシング
ボンディング
封止
最終テスト
先端パッケージ
アニールは、イオン注入のあとの熱処理として「ドーピング」の工程に入ります。薄い色の「成膜」や「配線」のあとにも、目的を変えて登場します。
アニールとは?先に結論
先に結論
半導体のアニールとは、ウェーハに熱を加えて、打ち込んだ不純物を働かせたり、乱れた結晶や膜の状態を整えたりする熱処理です。
ただし、熱を加えすぎると、狙った場所に入れた不純物が周りに広がってしまいます。そのため、トランジスタが小さくなるほど「必要なだけ熱を加えて、すぐ冷ます」ことが求められ、数十分かける炉から、数秒のRTA、さらに数ミリ秒のフラッシュランプや、1ミリ秒未満のレーザーへと、加熱の時間を短くする方向に進んできました。
用語メモ:サーマルバジェット
ウェーハが工程全体で受ける「熱の総量」。温度が高く、時間が長いほど大きくなります。これが大きすぎると、不純物が広がったり、膜や配線が傷んだりします。
用語メモ:活性化
打ち込んだ不純物の原子を、シリコンの結晶の決まった位置に入れ替えて、電気を運ぶ役目(電子やホールを生み出す役目)を果たせる状態にすること。
アニールの4つの目的
この工程の役割
受け取るもの
前の工程を終えたウェーハ
不純物を打ち込んだ・膜を積んだ直後
→
→
次の工程へ渡すもの
性質が整ったウェーハ
次の工程へ
アニールは、どの工程のあとに行うかで、ねらいが変わります。主な目的は次の4つです。
| 目的 |
何が起きるか |
主な場面 |
| 不純物の活性化 | 打ち込んだ不純物が結晶の決まった位置におさまり、電気を運べるようになる | イオン注入のあと |
| 結晶の修復 | 打ち込みで乱れた原子の並びが、元の整った結晶に戻る | イオン注入のあと |
| 膜を整える | 積んだ膜を緻密にしたり、膜の中の不要な成分を抜いたりする | 成膜のあと |
| 金属を反応・成長させる | 金属とシリコンを反応させて電極の接点を作る。配線の銅の結晶を大きくして電気を通しやすくする | 電極や配線を作るとき |
ポイント:どの目的でも、アニールは「形を変えずに、中身を変える」工程です。見た目の形は前の工程で決まり、アニールでその形に「電気の性質」を与えます。
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熱をかけすぎると困る:サーマルバジェットの考え方
熱を加えると、原子は動きやすくなります。結晶を整えるにはそれが必要ですが、同時に、狙った場所に入れた不純物まで周りへ広がっていきます。
|
熱が足りない |
ちょうどよい |
熱をかけすぎ |
| 不純物 | 結晶の決まった位置におさまらず、働かない | 決まった位置におさまって働く | 周りに広がり、狙った場所からはみ出す |
| 結晶 | 乱れが残る | 整う | 整うが、ほかの部分に悪影響が出ることがある |
| トランジスタ | 電気が流れにくい | 狙った性能になる | 隣どうしがつながって電気がもれる |
たとえるなら
ケーキの表面だけを香ばしく焼いて、中のクリームは溶かしたくない、という料理に似ています。オーブンでじっくり焼くと中まで熱が回ってしまいます。そこで、バーナーで表面だけを一瞬あぶる方法が考えられました。半導体のアニールも、表面の浅い所だけを一瞬で熱する方向に進んでいます。
注意:サーマルバジェットは、1回のアニールだけで決まるものではありません。前工程のすべての熱処理の合計で考えます。あとの工程で熱を加えすぎると、前の工程で作り込んだ不純物の分布が崩れてしまうため、工程全体で熱の使い方を設計します。
アニールの4つの方式:時間をどこまで短くするか
アニールの方式は、熱を加える時間の長さで大きく4つに分けられます。時間が短いほど、表面の浅い所だけを熱し、不純物の広がりを抑えられます。
| 方式 |
加熱の仕方 |
時間の目安 |
得意なこと |
| 炉アニール | たくさんのウェーハを炉に並べ、まとめて熱する | 数十分〜数時間 | 一度に大量に処理でき、全体を均一に熱する |
| RTA(急速熱処理) | ランプの光で1枚ずつ急速に熱して冷ます | 数秒 | 炉より熱の総量を抑えられる |
| フラッシュランプアニール | キセノンランプを一瞬光らせて、表面だけを熱する | 数ミリ秒 | 浅い所の不純物をよく働かせ、広がりを抑える |
| レーザーアニール | レーザーで表面の数原子層だけを熱する | 1ミリ秒未満 | さらに浅い所だけを、極めて短く熱する |
用語メモ:RTA
Rapid Thermal Annealing(急速熱処理)の略。RTP(Rapid Thermal Processing)とも呼びます。温度を一気に上げ、狙った温度に達したらすぐ下げる「スパイクアニール」もこの仲間です。
最先端のチップでは、1つの方式だけを使うのではなく、炉やRTAで全体を整えたあと、フラッシュランプやレーザーで表面の浅い所だけをもう一度熱する、といった組み合わせが使われます。
一瞬で熱して一瞬で冷ます:ミリ秒アニール
フラッシュランプとレーザーのアニールは、合わせて「ミリ秒アニール」と呼ばれます。ウェーハの表面だけを、目にもとまらない速さで高温にして、すぐに冷ます方法です。
1,000℃超
レーザーで加熱するウェーハ表面の温度
出典:Applied Materials「Vantage Astra DSA」
1ミリ秒未満
レーザーで表面を加熱する時間
出典:Applied Materials「Vantage Astra DSA」
フラッシュランプアニール
SCREENのフラッシュランプアニール装置「LA-3100」は、瞬間的に光るキセノンランプで数ミリ秒の光を当て、ウェーハの表面の温度を高速で上げ下げします。ソースやドレインの不純物をよく働かせながら、不純物の濃さの分布を精密に制御できるとしています。
レーザーアニール
Applied Materialsのレーザーアニール装置「Vantage Astra DSA」は、ウェーハ表面の数原子層を、1ミリ秒未満で1,000度Cを超える温度まで熱します。熱の上がり方は毎秒100万度Cにもなり、金属とシリコンを反応させて電極の接点(シリサイド)を作る工程に使われています。
アニールは工程のどこで登場するのか
アニールは、前工程の中で何度も登場します。主な場面を、工程の順番に並べると次のようになります。
| 順番 |
場面 |
アニールのねらい |
| 1 | イオン注入のあと | 不純物の活性化と、結晶の修復 |
| 2 | 絶縁膜を積んだあと | 膜を緻密にして、性質を安定させる |
| 3 | 電極の接点を作るとき | 金属とシリコンを反応させ、電気を通しやすい接点(シリサイド)を作る |
| 4 | 配線の銅をめっきしたあと | 銅の結晶を大きくして、電気を通しやすくする |
| 5 | 工程の終わり近く | 水素などの雰囲気で熱して、トランジスタの境目の小さな欠陥を減らす |
配線を作り始めてからは、銅や配線の間の絶縁膜を傷めないように、熱を加える温度を低く抑える必要があります。前工程の前半ほど高い温度、後半ほど低い温度で熱処理するのが基本です。
用語メモ:シリサイド
シリコンと金属(ニッケルなど)を熱で反応させてできる化合物。トランジスタの電極と配線の接点を、電気が通りやすい状態にします。
AI半導体とパワー半導体で、アニールの何が難しくなったか
1. 浅く、濃く、広げずに
トランジスタが小さくなるほど、ソースやドレインの不純物は、ごく浅い場所に濃くとどめる必要があります。熱を加える時間を極限まで短くできるミリ秒アニールの重みが増しています。
2. 立体の構造と、低い温度の制約
GAAのような立体のトランジスタや、チップを貼り合わせて積み重ねる構造では、すでにできている部分を傷めないよう、使える熱の総量がさらに限られます。表面の必要な部分だけを熱する方法の工夫が続いています。
3. SiCは、とても高い温度が必要
データセンターの電源や電気自動車に使うSiC(炭化ケイ素)のパワー半導体は、結晶がとても硬く、打ち込んだ不純物を働かせるのに、シリコンよりずっと高い温度の熱処理が必要です。材料が変わると、アニールの装置や条件も大きく変わります。
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アニールを支える企業:装置・材料・使う側
アニールの装置は、たくさんのウェーハをまとめて熱する炉と、1枚ずつ一瞬で熱する装置に分かれ、どちらにも日本企業がいます。
装置メーカー
- KOKUSAI ELECTRIC(6525):まとめて熱するバッチ式の装置。成膜・酸化・アニール・拡散に対応
- 東京エレクトロン(8035):熱処理(炉)の装置も手がける
- SCREENホールディングス(7735):フラッシュランプアニール、レーザーアニールの装置
- Applied Materials(AMAT):RTPと、レーザーアニールの装置
材料(ガス・ウェーハ)
- 日本酸素ホールディングス(4091):熱処理の雰囲気に使う窒素などの産業ガス
- 信越化学工業(4063)・SUMCO(3436):熱処理を受けるシリコンウェーハ
使う側(チップを作る会社)
- TSMC(2330.TW):ロジック半導体の受託製造
- Samsung Electronics(005930.KS)・SK hynix(000660.KS):DRAM・HBM
- ローム(6963):SiCのパワー半導体
アニールを知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:トランジスタの特性がずれたとき、原因はイオン注入の条件だけでなく、そのあとのアニールや、ほかの工程の熱処理にあることがよくあります。工程全体の「熱の総量」という見方を持っておくと、原因の切り分けがしやすくなります。
投資家の方へ:アニールの装置は、炉のような大量処理の装置と、ミリ秒アニールのような最先端の装置で、需要の動き方が違います。微細化が進むほど後者の出番が増え、SiCなどのパワー半導体の投資は前者にも関わります。
学生・就活中の方へ:アニールは、熱(伝熱)・材料(拡散と結晶)・光学(ランプとレーザー)・電気(トランジスタの性能)が交わる分野です。物理・材料・機械・電気のどの専攻でも入り口があります。
よくある誤解
誤解1:温度が高く、時間が長いほど、よく効く
熱をかけすぎると、不純物が周りに広がって狙った形が崩れます。必要なだけ熱を加えてすぐに冷ます、という「熱の使い方」が腕の見せどころです。
誤解2:アニールは1回だけの工程
イオン注入のあと、成膜のあと、電極や配線を作るとき、工程の終わり近くなど、目的を変えて何度も登場します。
誤解3:アニールと熱酸化は同じもの
どちらも炉で熱を加えますが、熱酸化は酸素と反応させて膜を作る工程、アニールは膜を作らずに中身の性質を整える工程です。
まとめ
- アニールは、ウェーハに熱を加えて、不純物を働かせ、結晶や膜の状態を整える熱処理
- 目的は、活性化・結晶の修復・膜を整える・金属を反応させるの4つ
- 熱をかけすぎると不純物が広がるため、工程全体の熱の総量(サーマルバジェット)で考える
- 方式は、炉・RTA・フラッシュランプ・レーザーと、加熱の時間を短くする方向に進んできた
- バッチの炉とミリ秒アニールの装置の両方に、日本企業がいる
よくある質問
Q. 半導体のアニールとは何ですか?
A. ウェーハに熱を加えて、打ち込んだ不純物を働かせたり、乱れた結晶や膜の状態を整えたりする熱処理のことです。
Q. アニールで不純物が広がるのはなぜですか?
A. 熱を加えると原子が動きやすくなり、狙った場所に入れた不純物まで周りへ移動してしまうからです。熱の量の管理が大切です。
Q. RTAとは何ですか?
A. ランプの光で1枚のウェーハを数秒で急速に熱して冷ます熱処理です。炉より、ウェーハにかかる熱の総量を抑えられます。
Q. フラッシュランプアニールとは何ですか?
A. キセノンランプを一瞬だけ光らせ、数ミリ秒でウェーハの表面だけを熱する方法です。浅い不純物を広げずに働かせられます。
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