ペリクルとは、フォトマスクの表面を枠で数ミリ浮かせて覆う、薄い防塵の膜です。落ちてきたゴミを膜の上で受け止め、露光のピントの外に置きます。
ただのカバーに見えます。ところが EUV 用は、ほとんどの物質が光を吸ってしまうため、光を通しつつ熱に耐える膜を極めて薄く作らなければなりません。そのため最先端の材料として話題になっています。
先に読みたい節 仕組み/DUV用とEUV用の違い/作る会社
あなたが今いる場所:前工程 > リソグラフィ > ペリクルとは?
前工程(ウェーハに回路を作る)
基板
成膜
露光 ←ココ
エッチング
ドーピング
CMP
洗浄
配線
計測
後工程(チップに切り分けて仕上げる)
ウェーハテスト
バックグラインド
ダイシング
ボンディング
封止
最終テスト
先端パッケージ
ペリクルは「露光」で使うフォトマスク(レチクル)に付ける部品です。露光装置の中で、マスクの模様をウェーハに写すあいだ、マスクをゴミから守ります。
ペリクルとは
先に結論
ペリクルとは、フォトマスクの表面を枠(フレーム)で数ミリ浮かせて覆う、薄い透明な膜です。マスクに向かって落ちてくるゴミを膜の上で受け止め、ゴミを露光のピントから外れた位置に置くことで、ゴミの影がウェーハに写らないようにします。
三井化学の説明では、ペリクルは「各露光波長に対して耐光性のある膜材料を選択し、高い透過率を得られるように膜厚設計したフォトマスク用防塵カバー」です。従来の深紫外線(DUV)露光では樹脂の膜で足りましたが、EUV(波長13.5nm)はほとんどの物質に吸収されるため、光を通し、熱に耐える極めて薄い膜が必要になります。EUVペリクルは2021年に三井化学が商業生産を始め、膜材はシリコン系から、より光を通すカーボンナノチューブ(CNT)へ移ろうとしています。
用語メモ:フォトマスク(レチクル)
回路の模様を描いた原版。露光装置はこの模様を縮小してウェーハに写します。最先端ではレチクルとも呼びます。
用語メモ:DUV と EUV
DUVは深紫外線(KrF 248nm・ArF 193nm など)、EUVは極端紫外線(13.5nm)。波長が短いほど細い線を描けますが、光が物質に吸収されやすくなります。
ペリクルの仕組み:膜を浮かせて、ゴミを「ピントの外」に置く
ペリクルは、膜(メンブレン)と枠(フレーム)の2つの部品でできています。枠をマスクの模様がある面に貼り、その枠の上に膜を張ります。膜はマスクの表面から離れた位置で、マスクの模様の全体を覆います。
なぜ、マスクに直接ラップのように貼らないのでしょうか。露光装置は、マスクの模様の面にピントを合わせてウェーハに写します。ゴミが模様の面に付けば、模様と同じようにくっきり写ってしまいます。けれど、膜の上に乗ったゴミは、ピントの合う面から離れているので、ぼやけて広がり、ウェーハには写りません。写真で、レンズの前の小さなほこりが写らないのと同じ理屈です。
たとえるなら
ペリクルは、額縁のガラスのようなものです。絵(マスクの模様)にほこりが直接付けば作品の一部に見えてしまいますが、少し離れたガラスの上に乗ったほこりは、絵を鑑賞するときにはほとんど気になりません。ペリクルは、この「少し離す」を数ミリの枠で実現しています。
膜(メンブレン)
露光の光を通す薄い膜。光をできるだけ吸収せず、露光の光と熱に長く耐える材料を選ぶ。
枠(フレーム)
膜をマスクから浮かせて支える枠。マスクに接着し、膜と模様の間にすき間を作る。
すき間
膜の上のゴミをピントの外に置くための距離。ここがあるから、ゴミが写らない。
あわせて読みたい
レチクル・フォトマスクとは?違いと構造、ペリクルを図解|日本企業が寡占する半導体の「型紙」
ペリクルが守る「フォトマスク」とは何か、産業構造まで
ゴミ1個が「チップ全部」の不良になる理由
ウェーハの上の1か所にゴミが付いても、だめになるのはその1個のチップだけです。ところがマスクの上のゴミは話が違います。露光装置は、同じマスクの模様を1枚のウェーハに何百回も並べて写し、さらに何枚ものウェーハに同じマスクを使います。マスクにゴミが付いたまま露光すると、そのゴミの影が、写したすべてのチップの同じ場所に繰り返し入るのです。
だから、マスクは「汚れたら拭く」ではなく「最初から汚れさせない」部品です。三井化学は、ペリクルを「フォトマスクに塵が付着しシリコンウェハーやパネル基盤に結像することを防ぐために、フォトマスクのカバーとして使用される保護膜」と説明しています。マスクはウェーハの前の工程で検査され、ペリクルを付けて出荷されます。ペリクルを付けた後は、膜の上にゴミが乗っても写らないので、マスクをクリーンな状態で長く使い続けられます。
ポイント:ウェーハのゴミは「1個の不良」、マスクのゴミは「全数の不良」。ペリクルは、この桁違いの損失を防ぐ部品です。
DUV用とEUV用のペリクルは、何が違うのか
ペリクルの考え方は、KrF・ArF の深紫外線(DUV)露光でもEUV露光でも同じです。違うのは、光がマスクをどう通るかと、光が物質にどれだけ吸収されるかです。
| 比較項目 |
DUV用ペリクル(KrF・ArF) |
EUV用ペリクル |
| マスクの型 | 透過型。光はマスクのガラスを通り抜ける | 反射型。光はマスクの多層膜で反射して戻る |
| 光がペリクルを通る回数 | 1回 | 2回(マスクに入るときと、反射して出るとき) |
| 膜の材料の考え方 | 波長に耐える樹脂系の膜。透過率を高く設計 | ほとんどの物質がEUVを吸収するため、極めて薄い膜(シリコン系、CNT) |
| 熱 | 膜が光を吸収する割合が小さく、熱の問題は小さい | 吸収した光が熱になり、膜の温度が上がる。高出力の露光機ほど厳しい |
| 露光の環境 | 大気中 | 真空中 |
EUV用がとくに難しいのは、「光を通す」と「熱に耐える」を同時に満たす材料がほとんどないからです。膜を薄くすれば光は通りますが、弱くなります。厚くすれば丈夫になりますが、光を吸収して熱くなり、ウェーハに届く光も減ります。しかも反射型のマスクでは光が膜を2回通るので、吸収の影響も2回分かかります。
あわせて読みたい
EUVとは?極端紫外線の読み方・波長13.5nmの意味とEUV露光の仕組みを図解
反射型のマスクを使う EUV 露光の仕組み
EUVペリクルの膜は、シリコン系からCNTへ
EUVペリクルは、2021年に三井化学がASMLからライセンスを受けて、岩国大竹工場(山口県)で世界に先駆けて商業生産を始めました。この既存のEUVペリクルは、膜材にシリコン系の素材を使っています。
次の課題は、露光機の高出力化です。露光機の光源が強くなるほど、膜が受ける熱も増えます。三井化学と imec は、次世代の 0.33NA EUV露光機の出力が600W以上になる2025〜2026年に合わせて、カーボンナノチューブ(CNT)の膜を使うペリクルの事業化で提携しました。CNTの膜は、EUVをよく通し、反射が少なく、1kWを超える露光出力にも耐えると説明されています。
≧92%
三井化学 CNTペリクルのEUV透過性(量産設備の発表時)
出典:三井化学 ニュースリリース(2024年5月)
≧94%
三井化学・imec が目指すCNTペリクルのEUV透過率
出典:三井化学・imec ニュースリリース(2023年12月)
5,000枚/年
岩国大竹工場のCNTペリクル生産能力(2025年12月完工予定で発表)
出典:三井化学 ニュースリリース(2024年5月)
imec は2020年の発表で、CNTペリクルをEUV露光機(NXE:3300)に載せて露光し、単回の透過率で最大97%を示しています。透過率が数%上がるだけで大きな話に聞こえるのは、光が膜を2回通るうえ、透過率がそのままウェーハに届く光の量、つまり露光機の生産性に直結するからです。
注意:ここに書いた透過率と耐える出力は、各社の発表の値です。ペリクルの寿命(何回の露光に耐えるか)の数字は一次情報で確かめられなかったので書いていません。量産での性能は、各社の最新の発表で確かめてください(2026年10月時点)。
ペリクルを作る会社と、まわりの会社
ペリクルは、マスクメーカーでも露光装置メーカーでもない、材料の会社が作ります。日本の会社が中心にいる分野です。
ペリクルを作る
- 三井化学(4183):1984年にペリクルを発売。EUVペリクルを2021年に商業生産。CNTペリクルの量産設備を岩国大竹工場に
- 三井化学EMS(三井化学 100%・非上場):旭化成から引き継いだFPDペリクルとDUVペリクル。宮崎県延岡市
- リンテック(7966):EUVペリクルの初期サンプルを数社に提供し、量産を目指す(2024年7月の報道)
露光装置・研究機関
- ASML(ASML):EUV露光機のメーカー。三井化学にEUVペリクル事業をライセンス
- imec(ベルギーの研究機関・非上場):2015年からCNTペリクルを開発。三井化学と事業化で提携
マスクを作る・使う
- フォトマスクメーカー:描画したマスクにペリクルを付けて出荷する
- ファウンドリ・メモリメーカー:露光装置の中でペリクル付きのマスクを使う
投資の目で見るときの注意は2つです。ペリクルは会社全体の売上の中では小さな事業で、株価がペリクルだけで動くことはまずありません。もう1つは、EUVペリクルの材料はまだ移り変わりの途中で、どの材料が標準になるかは決まっていないことです。
あわせて読みたい
【完全図解】レジストとは?日本企業が強い「光で変質する薬品」の仕組みと主要メーカー
同じく日本企業が強い「レジスト」の仕組みとメーカー
ペリクルを知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:装置・材料・マスクのどこかに関わる方は、「マスクのゴミは全数不良」という前提を押さえると、マスク検査・ペリクル・クリーン搬送(マスクのポッド)がなぜセットで語られるかがつながります。EUVの高出力化の話題が出たら、ペリクルの熱の問題も一緒に動くと覚えておくと先が読めます。
投資家の方へ:三井化学やリンテックのニュースで「EUVペリクル」が出たら、見るべき数字は透過率と耐えられる出力、そして量産の時期です。会社全体の売上に対する大きさも確かめてください。推奨ではなく、ニュースの読み方の話です。
学生・就活中の方へ:ペリクルは、光学(透過率・ピントの深さ)、材料(薄膜・CNT)、熱(高出力の光を受ける膜の温度)が1枚の膜の上で交わる部品です。化学・材料・物理のどの専攻からでも入口になります。
よくある誤解
誤解1:ペリクルはマスクに直接貼るフィルム
枠でマスクから浮かせて張ります。浮かせるからこそ、膜の上のゴミがピントの外に出て写りません。
誤解2:EUV露光ではペリクルは使わない
EUV用のペリクルは2021年から商業生産されています。真空中で光が2回通るぶん、材料の要求が厳しいだけです。
誤解3:透過率が数%上がるくらいは大した差ではない
透過率はウェーハに届く光の量、つまり露光機の生産性に直結します。光が膜を2回通る反射型のEUVでは、なおさらです。
まとめ
- ペリクルは、フォトマスクを枠で浮かせて覆う薄い膜。ゴミをピントの外に置き、ウェーハに写さない
- マスクのゴミは写したチップ全部に入るので、「最初から汚れさせない」部品が要る
- DUV用は樹脂の膜で光が1回通る。EUV用は光が2回通り、吸収と熱が厳しいので、極めて薄い膜が必要
- EUVペリクルは2021年に三井化学が商業生産を開始。膜材はシリコン系から、より光を通し高出力に耐えるCNTへ
- 作るのは材料の会社(三井化学・三井化学EMS・リンテック)。露光装置(ASML)と研究機関(imec)が開発を支える
よくある質問
Q. ペリクルとは何ですか?
A. フォトマスクの表面を枠で浮かせて覆う薄い透明な膜で、マスクに落ちるゴミを受け止め、ピントの外に置いてウェーハに写さないための防塵カバーです。
Q. ペリクルはなぜ必要なのですか?
A. マスクのゴミは、そのマスクで写したすべてのチップの同じ場所に影として入るためです。ウェーハのゴミより損失の桁が違います。
Q. EUVペリクルはなぜ難しいのですか?
A. EUVはほとんどの物質に吸収され、反射型マスクでは膜を2回通ります。光を通しつつ熱に耐える極めて薄い膜が必要だからです。
Q. ペリクルはどこの会社が作っていますか?
A. 三井化学と三井化学EMS、リンテックなど日本の材料の会社が中心です。EUV用はASMLのライセンスのもとで三井化学が商業生産しています。
この記事のテーマを、本でもっと深くPR(アフィリエイト広告)
この記事で見たペリクルとフォトマスクを、リソグラフィの工程全体から知りたい方に。本書(技術評論社)は、半導体製造プロセスの全体像から各工程までを図解した本で、「リソグラフィ」の章では、露光、液浸露光技術、ダブル/マルチパターニング、EUV露光技術、リソグラフィ装置とメーカーが取り上げられています。
¥2,200 (2026/10/04 13:17時点 | Amazon調べ)
ポチップ
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
テーマ別に、もっと深く学ぶ
気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめての方にもわかるように図解で書いています。
前工程をもっと深く
つまずきやすい「違い」を解決
あわせて知りたい、隣のテーマ
コメント