zHBM(ゼットHBM)とは、Samsungが2026年8月のFMS 2026で公開した、HBMをGPUなどのチップの「真上」に積む次の世代のメモリの構想です。今のHBMはGPUの「隣」に置き、インターポーザーという土台を通してつなぎます。zHBMはこの横の道をなくし、データの通り道を短くして、速さと電力の効率を上げることを狙います。
製品ではなく構想の段階で、Samsungは「HBM5と比べて最大8倍の性能」を掲げています。最大の課題は、熱いGPUの真上にDRAMを置くための熱の逃がし方です。
- 「zHBM」という単語を海外ニュースで見たが、日本語の解説が1本も出てこない
- HBM4・HBM4E・HBM5まではついていけたが、その先が急にわからなくなった
- 「GPUの真上にメモリを積む」って、今までは積んでなかったの?と混乱している
- SK hynixがIntelのEMIBを検討と聞いて、TSMC一強が崩れるのか気になっている
2026年8月のHot Chips 2026とFMS 2026でSamsungが公開したHBMの次の次の構想を、図解と数字で一つずつ整理していきます。
Samsungが打ち出したのは「zHBM(ゼットHBM)」。HBMをGPUの「隣」ではなく「真上」に積むという、これまでの常識をひっくり返す構想です。
一方のSK hynixは、派手な新アーキテクチャではなく「熱」と「パッケージ」という地味で本質的な課題に集中しました。そしてその資料の中に、業界関係者がざわついた一行が混じっていたのです。
先に結論:Hot Chips 2026で何が起きたのか
② SK hynix:新アーキテクチャではなく「熱」と「パッケージ」で勝負。独自のi-HBMで熱抵抗30%超削減、20段超積層はハイブリッドボンディングで狙う。
③ 業界構造:SK hynixの2.5Dパッケージ候補リストにIntelのEMIBが並記された。TSMCのCoWoS一択という前提が揺らぎ始めている。
zHBMは「コンセプト」段階です。製品ではありません。Samsung自身も商用化の時期を明言していません。
それでもこの記事で扱う理由は、コンセプトの方向性が、その先5〜10年の設備投資・材料需要・企業の勝ち負けを決めてしまうからです。

zHBMとは?「隣」から「真上」への引っ越し
「HBMって、もともと積み上げてるメモリじゃないの?」——その通りです。ただし積んでいる向きと相手が違います。
従来HBM(2.5D)
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シリコンインターポーザー
- HBM同士は縦に積む(12段・16段)
- でもGPUとは横に並ぶ
- データは一度下に降りて横に走る
- この「横の道」がインターポーザー
zHBM(真の3D)
【 GPU 】
インターポーザー不要
- HBMをGPUの真上に直接積む
- データはまっすぐ下に落ちるだけ
- 横移動がないので距離が激減
- 2.5Dインターポーザーが消える
zHBMは、資料室をあなたの机の真上に置いてしまう発想。手を伸ばすだけで届きます。廊下を歩く体力(=電力)もいりません。

なぜ「真上」なのか?3つの切実な理由
理由①:データを横に運ぶ「電気代」が高すぎる
横に並んだHBMとGPUの間では、データを送る前にSerDes(サーデス)という回路で信号を整え、届いた側でまた並べ直す作業が必要です。この往復の手間が、そのまま電力になります。
理由②:GPUの「土地」がもう足りない
GPUチップの外周部分は、HBMとつながる配線を出すための貴重なスペースです。HBMを増やしたければ外周を広げるしかない。でもチップはレチクル限界(露光装置で一度に焼ける最大サイズ)に達していて、もう大きくできません。
理由③:インターポーザーも限界に近い
zHBMはそのインターポーザー自体を取り払うという、極めてラディカルな回答です。

zHBMの数字:Samsungは何を約束したのか
性能(次世代IF込み)
メモリ密度
数字を読むときの重要な注意点
| 発表の場 | 比較対象 | 主張された数値 |
|---|---|---|
| FMS 2026 (Samsung公式) |
HBM5 | 性能約8倍/密度10倍超/効率3倍/熱抵抗半減 |
| Hot Chips 2026 | 標準HBM4E | 電力効率+70%/DRAM帯域+230% |
| SEMICON Taiwan 2026 (報道ベース) |
HBM4E | 性能8倍/電力あたり性能3倍 |
1200WのGPUに4つのzHBMスタックを載せた構成で、帯域を大きく伸ばしながらおよそ100Wの電力を節約できる、という試算です。
100Wというと家庭では小さく感じますが、GPUが数万台並ぶデータセンターではメガワット級の差になります。AIデータセンターが電力で詰まっている今、これは非常に重い数字です。

いきなりzHBMではない。Samsungの「3段階」ロードマップ
Samsungは「明日からzHBM」とは言っていません。HBMの一番下にある「ベースダイ」を段階的に賢くしていくという、3段階のシナリオを示しました。
Samsungの主張は「ここを賢くすれば全部変わる」です。
結果、GPUの貴重な面積が計算回路のために空く——これがフェーズ1の狙いです。
Samsungの答えがHPB(Heat Path Block)。PHY面積の50%を覆うことでピーク温度を35%超引き下げると説明しています。
・センサー類(温度・電圧・劣化)を内蔵してリアルタイム監視
・自己テスト回路を載せて検査カバレッジと歩留まりを改善
・SRAMベースの不良セル修復で、従来より柔軟に救済
・外部メモリを直接ぶら下げるPHYを増設して容量拡張
・PE(演算素子)を載せてGPUの仕事を一部肩代わり
最後のPE搭載が効きます。データを動かさずにメモリ側で処理するので、インターポーザーを越えるデータ量そのものが減ります。
I/Oをスタック内に分散配置することでデータの移動距離を極限まで短くし、HBM PHYもD2Dインターフェースも不要になる、というのがSamsungの構想です。

世代マップで見る:zHBMはどこにいるのか
zHBMの影に隠れがちですが、HBM5ではベースダイが4nm → Samsung内製の2nmに進化し、積層も12段・16段に加えて20段が選択肢に入ります。HBM4E比で性能2倍、電力あたり性能20%向上、熱抵抗20%低減が目標とされています。

zHBMを可能にする2本柱の技術
① WoW(ウェーハ・オン・ウェーハ)接合
難しさ:ウェーハ全面で寸法をぴったり合わせる必要があり、わずかな反りや歪みが全体を不良にします。
② ハイブリッドボンディング
利点:バンプの隙間がなくなるので薄くなり、しかも熱が伝わりやすくなります。
イメージとしては、画鋲で貼るのをやめて、両面テープで完全に密着させるような違いです。距離がゼロに近づくので速く、熱も逃げやすくなります。
最大の壁は「熱」──1200Wの上にDRAMを載せる無謀さ
「1200Wで発熱するGPUの真上に、熱に弱いDRAMを置いて大丈夫なのか?」
これがzHBM最大の、そして未解決の課題です。
そして温度が上がるほど電荷の抜けが速くなるため、リフレッシュ回数を増やさねばならず、その分だけ性能が落ち、電力も食う。悪循環です。
従来のHBMがGPUの「横」にいたのは、実は熱源から少しでも離れるためという合理性もあったのです。
だからこそ、Samsungが「熱抵抗を半分以下にする」と繰り返し強調しているわけです。これは自慢ではなく前提条件なのです。

韓国 SK hynixは何を語ったか──派手さより「積み方」と「熱」
新アーキテクチャの構想ではなく、「どうやって積むか」「どうやって熱を逃がすか」という、地に足のついた話です。この対比自体が、両社の立ち位置を物語っています。
SK hynixの発表ポイント3つ
SamsungのHPBと発想は近く、「局所ホットスポットをどう殺すか」が両社共通の最重要テーマになっていることがわかります。
同社はMR-MUFを当面延命しつつ、20段超でハイブリッドボンディングへという慎重な二段構えを示しました。
昔のメモリは、システムの最後に挿すものでした。ところが先端パッケージでは、HBMはいちばん最初に組み込まれます。
つまりHBMは、そのあとに続く全工程の熱と応力をずっと浴び続けることになる。不良が出れば高価なインターポーザーごと捨てることになります。HBMの検査がここまで厳しい理由が、この一点に凝縮されています。
Samsungは構想の大きさで勝負し、SK hynixは今売っている製品の完成度で勝負しています。どちらが正しいという話ではなく、シェアで先行する側と追う側の、典型的な戦略の違いです。

業界がざわついた一行:SK hynixのロードマップに「EMIB」
2.5Dパッケージの選択肢として、CoWoS-S、CoWoS-L、CoWoS-Rと並んで、IntelのEMIBが記載されていたのです。
高価なシリコン板を使わない分、コストが安く、大きなパッケージも作りやすいのが特徴。さらにEMIB-TはTSV(貫通電極)を備え、上下方向の給電ができます。
CoWoS(TSMC)
◯配線の自由度が高く実績が豊富
△大面積化が難しく、供給量がボトルネック
△コストが高い
EMIB(Intel)
◯シリコン板が不要でコストが低い
◯大きなパッケージにも対応しやすい
△HBM用途での量産実績はこれから
そこにHBM最大手が「別の選択肢も評価中」と公の場で示した——これは技術ニュースであると同時に、交渉カードが増えたというシグナルでもあります。
報道によれば、EMIB-TとCoWoSのコスト差は最大50%程度に達する可能性があるとされます(TechPowerUp、2026年)。
ただし冷静に見るべきは、これは「評価・R&D段階」であって採用決定ではないという点です。実際に量産ラインが動くまでには、信頼性検証に数年かかります。

zHBM時代に効いてくるのはどこか?関連企業を3層で整理
「メモリとロジックの境界が消える」という方向性が本物なら、恩恵を受ける領域はかなりはっきりしています。
上流:素材・装置
- ディスコ(6146):ウェーハの薄化研磨・ダイシング。積層が増えるほど重要度が上がる
- Besi(BESI.AS):ハイブリッドボンディング装置の代表格
- ハンミ半導体(042700.KQ):TCボンダー世界首位
- 東京エレクトロン(8035):ウェーハ接合・前工程装置
- Applied Materials(AMAT):成膜・接合関連
- レゾナック(4004):封止材・後工程材料
- SUSS MicroTec(SMHN.DE):パッケージング装置
中流:製造・パッケージ
- Samsung(005930.KS):zHBM提唱者。メモリ+ファウンドリ+パッケージを自社完結できる唯一のIDM
- SK hynix(000660.KS):HBM首位。i-HBM・ハイブリッドボンディングで対抗
- Micron(MU):米国勢。ベースダイ回路設計の最適化で勝負
- TSMC(2330.TW / TSM):CoWoSの主。zHBM化は同社の役割を変えうる
- Intel(INTC):EMIB/EMIB-Tで参入を狙う
- イビデン(4062):ABF基板
下流:設計・検査・ユーザー
- NVIDIA(NVDA):最大のHBMユーザー。独自のNVHBM構想も表明
- AMD(AMD):Instinct系でHBMを大量採用
- アドバンテスト(6857):テスター世界首位。積層が複雑化するほど検査工数が増える
- 日本マイクロニクス(6871):HBM検査プローブカード
- 日本電子材料(6855):プローブカード
- テラプローブ(6627):後工程テスト受託

3社は「熱」に対してどう答えたか
SK Hynix(000660.KS)
- PHY領域に高熱伝導・絶縁材を埋め込む
- 熱抵抗30%超削減を目標
- HBM5世代での採用を計画
- 20段超はハイブリッドボンディング
Samsung(005930.KS)
- Heat Path Blockで銅の放熱経路を確保
- PHY面積の50%を覆いピーク温度35%超低減
- 最終的にアーキテクチャごと変える
- IDMとして垂直統合を武器に
Micron(MU)
- ベースダイの回路設計自体を効率化
- そもそも発熱を減らすアプローチ
- 新材料・新構造に頼らない現実路線
- 唯一の米国勢という立場
SK hynixとSamsungは「熱の通り道を物理的に作る」、Micronは「そもそも熱を出さない」という発想です。
どれが正解かはまだ決まっていません。ただ、HBMの競争軸が「容量・帯域」から「熱をどう捌くか」へ移ったことだけは、3社の発表が揃って示しています。
このニュースは、あなたにとって何を意味するか
ただし、この発表から読み取れる方向性は重要です。
① ベースダイが先端ロジック化する=メモリメーカーがファウンドリを必要とする構図が強まる
② 接合技術が主戦場になる=ボンディング装置・薄化装置の重要度が上がる
③ パッケージの選択肢が増える=TSMC一択という前提は永久ではない
「独占は続くのか」を技術で判定する視点が、こういうニュースでは効いてきます。
話す順番はシンプルに。
「横に置く方式が電力と面積で限界 → 真上に積む → しかし熱が最大の壁 → だから接合技術と放熱設計が鍵」
これだけで、構造で物を考えられる人だと伝わります。装置・材料メーカー志望なら、ハイブリッドボンディングと薄化研磨を絡めると刺さります。
電力密度が0.5W/mm²から2.0W/mm²超へ4倍になるという数字は、熱設計をやったことがある方なら重さがわかるはずです。単純な放熱器の増強では追いつきません。熱の経路そのものを設計に織り込むフェーズです。
チップ内の熱経路設計、パッケージの熱抵抗、そしてデータセンターの液冷——これらが一本の線でつながるのがAIインフラの面白いところです。
よくある誤解を3つ、整理しておきます
一方で、Samsungがメモリ・ファウンドリ・パッケージをすべて自社で持つ唯一のIDMであることは事実で、zHBMのような垂直統合型アーキテクチャとは相性が良い。これも事実です。
ただし、選択肢が存在するだけで価格交渉力は変わります。ここは押さえておいて損はありません。
まとめ:HBMは「部品」から「構造の一部」へ
HBMをGPUの「隣」ではなく「真上」に直接積む3D構想。2.5Dインターポーザーを廃止し、HBM5比で約8倍の性能、10倍超の密度、3倍のエネルギー効率、熱抵抗半減を目標とする(Samsung、FMS 2026)。2029年以降のコンセプト。
② 段階的ロードマップ
sHBM → cHBM(ベースダイを先端ロジック化しメモリコントローラを移設)→ aHBM(演算素子を搭載)→ zHBM(真の3D統合)の3フェーズ。
③ SK hynixは別ルート
i-HBMで熱抵抗30%超削減、MR-MUFを延命しつつ20段超でハイブリッドボンディングへ。既存製品の完成度で勝負する現実路線。
④ EMIBの登場
SK hynixの2.5DロードマップにIntel EMIBが並記。CoWoS一択という前提が揺らぎ始めたシグナル。ただし評価段階。
⑤ 共通するメッセージ
3社すべてが「熱」を語った。HBMの競争軸は、容量・帯域から「熱をどう捌くか」へ移りつつあります。
よくある質問(FAQ)
zHBMは「配置そのものを変える」アプローチ。GPUの真上に移動します。
Samsungのロードマップでは、cHBMが手前、zHBMが最終形という位置づけです。
また、積層が複雑になるほど検査工数は増えるため、アドバンテスト(6857)や日本マイクロニクス(6871)といった検査系も構造的に重要度が上がります。
※本記事の数値はいずれも各社の発表・目標値および報道ベースです。流動的な情報のため、投資判断の際は必ず各社の最新IR資料をご確認ください。本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
HBMをGPUに積む技術の土台を、製造工程から知りたい方に。本書(技術評論社)は、半導体製造プロセスの全体像から各工程までを図解した本で、「パッケージング」の章ではTSV・バンプ形成・フリップチップボンディングが、「製造技術・装置の最新動向」の章ではチップレット/3D積層が取り上げられています。
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
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