枚葉式とバッチ式の違いとは?半導体の洗浄装置を7つの視点で比較し、枚葉式が増えた理由まで

枚葉式とバッチ式の違いを示すアイキャッチ。薬液の槽にまとめて浸けるバッチ式と、1枚を回してスプレーする枚葉式の洗浄装置 前工程
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枚葉式とバッチ式の違いは、ウェーハを1枚ずつ回しながら薬液を吹きつけて洗うか(枚葉式)、何十枚もまとめて薬液の槽に浸けて洗うか(バッチ式)です。半導体の洗浄装置は、この2つの方式が工程ごとに使い分けられています。

最先端の工程では、汚れが移りにくい枚葉式が主流になりました。それでもバッチ式は消えていない。長く浸ける処理と、薬液を効率よく使う処理が残っているからです。7つの視点の比較と、乾燥・処理能力・メーカーまでを順に見ます。

先に見たい節 7つの視点の比較表/バッチ式が残る理由/乾燥の方式/1時間の処理枚数

あなたが今いる場所:前工程 > 洗浄 > 枚葉式とバッチ式の違い
前工程(ウェーハに回路を作る)
基板 成膜 露光 エッチング ドーピング CMP 洗浄 ←ココ 配線 計測
後工程(チップに切り分けて仕上げる)
ウェーハテスト バックグラインド ダイシング ボンディング 封止 最終テスト 先端パッケージ
洗浄は、ほぼすべての工程の前後に入ります。薄い色の「エッチング」「CMP」のあとは、とくに汚れが多く、洗浄の方式の選び方が大切になります。

枚葉式とバッチ式の違いとは

先に結論

違いは、ウェーハを1枚ずつ回転させながら薬液を吹きつけて洗うか(枚葉式)、何十枚もまとめて薬液の槽に浸けて洗うか(バッチ式)です。

枚葉式は、1枚ごとに条件をそろえやすく、ほかのウェーハの汚れが移りにくいため、細かい回路を作る最先端の工程で主流になっています。バッチ式は、一度に大量に処理でき、薬液を効率よく使えるため、時間のかかる処理や、コストを重視する工程で使われ続けています。どちらが優れているかではなく、工程に合わせて使い分けるのが基本です。

用語メモ:枚葉式

ウェーハを1枚ずつ処理する方式。「葉」は紙のように薄いウェーハを1枚、2枚と数える意味です。

用語メモ:バッチ式

複数のウェーハをひとまとめ(バッチ)にして、同時に処理する方式。キャリアに立てて並べたウェーハを、薬液の槽に順に浸けます。

1枚ずつ洗う枚葉式と、何十枚もまとめて槽に浸けるバッチ式の違いを並べた図

2つの方式の仕組み:ウェーハはどう流れるか

バッチ式:槽から槽へ、まとめて渡っていく

バッチ式の装置(ウェットステーション)には、薬液の槽と水洗いの槽が一列に並んでいます。ウェーハをまとめてつかんだロボットが、薬液の槽 → 水洗いの槽 → 次の薬液の槽 → … と順に浸けていき、最後に乾燥させます。

枚葉式:1枚を回しながら、吹きつけて振り切る

枚葉式の装置では、ウェーハを1枚ずつ小さな部屋(チャンバー)に入れて回転させ、ノズルから薬液や水を吹きつけます。洗い終わったら高速で回して水を振り切り、乾かします。装置の中には、このチャンバーがいくつも並んでいて、同時に何枚も処理します。

比較項目 バッチ式 枚葉式
ウェーハの持ち方キャリアに立てて並べ、まとめてつかむ1枚を水平に置いて回転させる
薬液の当て方槽にためた薬液に浸けるノズルから吹きつけ、流し捨てる(または回収する)
乾かし方引き上げながら、IPAの蒸気などで乾かす高速回転で振り切る
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枚葉式とバッチ式を7つの視点で比較

視点 バッチ式 枚葉式
1. 処理の単位何十枚をまとめて1枚ずつ(チャンバーを並べて同時に処理)
2. 時間のかかる処理得意(長く浸けても枚数ぶん処理できる)苦手(1枚ずつ待つ時間がかかる)
3. 薬液の使い方槽の薬液をくり返し使え、効率がよい新しい薬液を当てやすいが、使う量は増えやすい
4. 汚れの移りやすさ同じ槽の中で、ほかのウェーハの汚れが移ることがあるウェーハごとに分かれているので移りにくい
5. 条件のそろえやすさ槽の中の位置で、わずかな差が出ることがある1枚ごとに条件を細かく決められる
6. 裏面と端の洗浄表裏をまとめて浸けるので、片面だけの処理は苦手裏面だけ、端だけ、といった処理がしやすい
7. 装置の大きさ槽が並ぶため長くなりやすいチャンバーを縦に積んで、床面積を抑える工夫が進む
ポイント:ざっくり言えば、バッチ式は「量と効率」、枚葉式は「1枚ごとのきめ細かさ」が強みです。工程ごとに、どちらを重視するかで方式が選ばれます。
用語メモ:クロスコンタミネーション

ある製品やウェーハの汚れが、別のウェーハに移ってしまうこと。同じ薬液を共有するバッチ式で気をつける点の1つです。

なぜ枚葉式が増えたのか

回路が細かくなるにつれて、洗浄に求められることが変わり、枚葉式の出番が増えてきました。理由は大きく3つです。

問題になる汚れが小さくなった

わずかな粒子でも不良になるため、ほかのウェーハから汚れが移らない、1枚ずつの処理の安心感が増しました。

1枚ごとに条件を決めたい

工程の数が増え、工程ごとに最適な薬液・時間・温度が違います。1枚ずつ細かく制御できる枚葉式が向いています。

裏面・端・倒れやすい構造

ウェーハの裏や端だけを洗う、細い構造を倒さないよう液の当て方を調整する、といった処理は枚葉式が得意です。

枚葉式は1枚ずつ処理するぶん、処理能力が課題でした。そこで、1台の装置の中にチャンバーを何段にも積み重ね、多くのウェーハを同時に処理する工夫が進んでいます。

小さな汚れ・1枚ごとの条件・裏面と端の洗浄の3つで、枚葉式の洗浄装置が増えた理由を示した図

それでもバッチ式が使われ続ける理由

枚葉式が主流になっても、バッチ式がなくなったわけではありません。バッチ式でなければ効率が悪い処理があるからです。

理由 具体例
長い時間、浸けておく処理厚い膜を薬液でゆっくり溶かす処理。1枚ずつだと時間がかかりすぎる
大量のウェーハを同じ条件で高温の炉に入れる前の洗浄など、まとめて処理するほうが効率的な工程
薬液を効率よく使いたい槽の薬液をくり返し使えるため、薬液のコストと廃液を抑えやすい

たとえば東京エレクトロンのバッチ式洗浄装置「EXPEDIUS」は、炉に入れる前の洗浄、エッチングのあとの洗浄、レジストの剥離のほか、3D NAND向けに、酸化膜と窒化膜のどちらか一方だけを選んで溶かすウェットエッチングにも使われています。何百層も積み重ねたメモリで、膜の一部を薬液でまとめて溶かす処理は、バッチ式の得意分野です。

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洗浄のあとの乾燥の方式

洗浄の最後は、ウェーハを乾かす工程です。乾かし方が悪いと、水のあとが「しみ」になって残ったり、細い構造が倒れたりします。

乾かし方 主な方式 ねらい
回して振り切る枚葉式高速回転で水を飛ばす
IPAで水を置き換えるバッチ式・枚葉式水より乾きやすいIPA(アルコールの一種)で水を押し出し、しみを残さない
圧力を下げて乾かすバッチ式減圧にして乾きやすくし、しみを抑える
用語メモ:ウォーターマーク

乾かすときに、水に溶けていたわずかな成分や、水とシリコンの反応でできたものが、しみのように残ったもの。次の工程の不良の原因になります。

SCREENのバッチ式装置「FC-3100」は、圧力を下げた状態で高濃度のIPAを供給する乾燥の仕組みで、ウォーターマークを大幅に抑えるとしています。洗浄装置の性能は、洗う力だけでなく、乾かし方でも差がつきます。

品質保証の目で見ると、乾燥のしみのような不良は扱いにくい部類です。出荷の検査で見つけにくく、後の工程や、使われ始めてから表に出ることがあるからです。不良は出た所より、作り込まれた所で止める。これが品質の基本で、洗浄装置のメーカーが乾かし方で競うのは、その考え方に沿っています。

水のしみが残るウェーハと、IPAの蒸気で乾かしてしみを抑えるウェーハを比べた、洗浄のあとの乾燥の図

洗浄装置の処理能力は1時間何枚か

メーカーが公表している処理能力を見ると、枚葉式もバッチ式も、1時間に1,000枚を超える水準に達しています。

1,200枚
SCREEN「SU-3400」(枚葉式)の1時間あたりの最大処理枚数
出典:SCREEN 製品ページ
1,000枚
SCREEN「FC-3100」・東京エレクトロン「EXPEDIUS-i」(バッチ式)の1時間あたりの処理枚数
出典:SCREEN・東京エレクトロン 製品ページ
装置 方式 公表されている特長
SCREEN「SU-3400」枚葉式最大24チャンバー(6段×4タワー)。前の機種よりフットプリントを30%削減
SCREEN「FC-3100」バッチ式7つの独立したモジュールの組み合わせ。減圧のIPA乾燥
東京エレクトロン「EXPEDIUS」バッチ式一度に最大50枚。複数の処理槽
東京エレクトロン「CELLESTA」枚葉式先端の洗浄・乾燥工程向け。両面を同時に洗う物理洗浄の機種もある

枚葉式は、チャンバーを縦に積んで数を増やすことで、バッチ式に近い処理能力を実現しています。「枚葉式は遅い」というのは、もはや一面的な見方です。

この表を作るとき、筆者は「1時間の枚数で速さを比べてよいか」で迷いました。枚葉式は1枚ずつの短い処理を、バッチ式は長く浸ける処理を受け持つことが多く、同じ1時間の枚数でも中身が違うからです。そこでこの記事は、枚数を「どちらが速いか」ではなく「どちらも1時間に千枚の桁に届いている」という目安として使っています。

チャンバーを6段に積んだ枚葉式の洗浄装置と、薬液の槽が並ぶバッチ式の洗浄装置の大きさの違いの図

洗浄装置を支える企業:装置・材料・使う側

洗浄装置は、日本企業の存在感がとくに大きい分野です。米国のLam Researchは年次報告書で、ウェット洗浄の競合としてSCREEN・SEMES(韓国)・東京エレクトロンを挙げています。

装置メーカー

  • SCREENホールディングス(7735):枚葉式・バッチ式・スピンスクラバー。2025年7月に洗浄装置の累計出荷が15,000台を突破
  • 東京エレクトロン(8035):枚葉式のCELLESTA、バッチ式のEXPEDIUS
  • Lam Research(LRCX):枚葉式の洗浄装置

材料(薬液・水)

  • ステラケミファ(4109):高純度フッ酸など
  • 三菱ガス化学(4182):高純度の過酸化水素など、半導体向けの薬品
  • 栗田工業(6370)・オルガノ(6368):超純水の設備

使う側(チップを作る会社)

  • TSMC(2330.TW):ロジック半導体の受託製造
  • Samsung Electronics(005930.KS)・SK hynix(000660.KS):DRAM・HBM・NAND
  • キオクシア(285A):3D NAND

SCREENは、枚葉式洗浄・バッチ式洗浄・スピンスクラバーのそれぞれの分野で世界シェア1位だと発表しています。どの方式にも強い会社があることで、チップメーカーは工程ごとに方式を選べるようになっています。

化学・流体・機械・制御の4つの技術が重なって成り立つ、半導体の洗浄装置の企業の強みを示した図

2つの方式の違いを知ると、何が見えてくるか

あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:工程を新しく立ち上げるとき、洗浄をどちらの方式で行うかは、処理時間・薬液のコスト・汚れのリスクのバランスで決まります。担当する工程の前後の洗浄がどちらの方式かを知っておくと、粒子の不良や時間の制約の話がしやすくなります。
投資家の方へ:洗浄装置の需要は、工場の数と工程の数に比例して増えます。微細化が進むほど枚葉式の台数が増え、3D NANDのような積み重ねる構造ではバッチ式の出番もあります。方式ごとの得意分野を知ると、メモリとロジックの投資の動きがどちらに効くかが見えてきます。
学生・就活中の方へ:洗浄装置は、化学(薬液)・流体(液の流れと乾燥)・機械(搬送ロボット)・制御(条件の管理)が交わる装置です。化学系・機械系・電気系のどの専攻でも入り口があります。

よくある誤解

誤解1:枚葉式は1枚ずつなので、遅くて使いにくい

チャンバーを何段にも積み重ねて同時に処理することで、公表値では1時間に1,000枚を超える処理能力の装置もあります。最先端の工程では、むしろ主流です。

誤解2:バッチ式は古い方式で、なくなっていく

長い時間浸ける処理や、大量のウェーハを同じ条件で処理する工程では、今もバッチ式のほうが効率的です。3D NAND向けの処理など、新しい用途もあります。

誤解3:洗浄は、汚れが落ちればそれで終わり

乾かし方が悪いと、水のしみが残ったり、細い構造が倒れたりします。洗う・すすぐ・乾かすまでが1つの工程です。

まとめ

  • 枚葉式は1枚ずつ回して吹きつける方式、バッチ式は何十枚もまとめて槽に浸ける方式
  • 枚葉式は1枚ごとのきめ細かさと汚れの移りにくさ、バッチ式は量と薬液の効率が強み
  • 微細化で枚葉式が増えたが、時間のかかる処理や3D NAND向けではバッチ式も使われる
  • 乾燥の方式も、洗浄の仕上がりを左右する
  • 装置はSCREEN・東京エレクトロンなど日本企業の存在感が大きい

よくある質問

Q. 枚葉式とバッチ式の違いは何ですか?

A. 枚葉式はウェーハを1枚ずつ回して薬液を吹きつけて洗い、バッチ式は何十枚もまとめて薬液の槽に浸けて洗います。

Q. 枚葉式洗浄のメリットは何ですか?

A. 1枚ごとに条件をそろえやすく、ほかのウェーハの汚れが移りにくい点です。裏面や端だけを洗う処理もしやすくなります。

Q. バッチ式洗浄のメリットは何ですか?

A. 一度に大量のウェーハを処理でき、槽の薬液をくり返し使えるため効率がよい点です。長時間浸ける処理にも向いています。

Q. 洗浄のあとの乾燥はなぜ大切なのですか?

A. 乾かし方が悪いと水のしみが残って不良の原因になったり、細い構造が水の力で倒れたりするからです。

次の一歩:枚葉式・バッチ式の両方を持つ東京エレクトロンが、洗浄を含む装置の売上を決算でどう説明しているかを追うと、装置の需要の波を数字で読めるようになります → 東京エレクトロンとは?何の会社か・決算はいつか・AIインフラのどこにいるか(8035)|基本データと関連記事・最新の速報
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この記事で比べた枚葉式とバッチ式を、工場の全体の中で見たい方に。本書(ダイヤモンド社)は半導体工場を切り口にした入門書で、「バッチ処理から枚葉処理へ」「タテ型の炉が主流の理由」「ロットサイズが生産性に影響」のほか、洗浄後のリンスと乾燥の項目もあります。

S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。

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