ガラスクロスとは?基板の中の「ガラスの布」の役割と、AIで足りなくなったTガラス・低誘電ガラス

ガラスクロスとは何かを示す図解。ガラス繊維を織った布が、GPUの下のパッケージ基板の芯になる様子のイラスト メモリ・HBM・先端パッケージ
記事内に広告が含まれています。

ガラスクロスとは、細いガラス繊維の糸を布のように織ったもので、樹脂をしみこませて基板の芯にする材料です。熱で伸び縮みしにくく、基板を反りにくくします。

AIサーバーが増えて、この地味な布が足りなくなりました。足りないのは、さらに伸びにくい T ガラスと、高速の信号が弱まりにくい低誘電ガラスです。

先に読みたい節 なぜ基板にガラスの布を入れるのか/ふつうのガラス・Tガラス・低誘電ガラスの違い/ガラスコア基板との違い

あなたが今いる場所:AI半導体 > 基板の材料 > ガラスクロスとは
パッケージの積み上がり(下から上へ)
マザーボード パッケージ基板 ガラスクロス(基板の芯) ←ココ インターポーザー GPU・HBM
サプライチェーン(上流から下流へ)
ガラス繊維・ガラスクロス ←ココ 樹脂・銅箔 基板の材料 基板メーカー パッケージング

ガラスクロスとは

先に結論

ガラスクロスとは、細いガラス繊維を束ねた糸を、布のように縦横に織ったものです。樹脂をしみこませて固め、基板の芯(骨組み)にします。

ガラスは熱で伸び縮みしにくく、硬く、電気を通さないので、樹脂だけでは弱い基板を、反りにくく丈夫にします。AI向けの大きなパッケージ基板では、さらに伸び縮みしにくい「Tガラス」や、高速の信号が弱まりにくい「低誘電ガラス(NEガラスなど)」のような特殊なガラスクロスが必要です。この特殊なガラスクロスの生産が需要に追いつかず、2025年から品薄と値上げが続いています。

用語メモ:パッケージ基板

チップを載せて、マザーボードにつなぐための土台の板。樹脂と銅の配線でできていて、芯の部分にガラスクロスが入っています。

用語メモ:誘電率

電気の信号が通るときに、材料がどれだけ信号のエネルギーをためこむかを表す値。低いほど、高速の信号が遅れにくく、弱まりにくい。

ガラス繊維を織ったガラスクロスに樹脂をしみこませ、基板の芯として重ねる構造を示した概念図

なぜ、基板の中にガラスの布を入れるのか

基板の主な材料は、エポキシなどの樹脂です。樹脂は加工しやすい一方で、熱で大きく伸び縮みし、やわらかく反りやすい性質があります。そこに、ガラスクロスを骨組みとして入れます。

1. 伸び縮みを抑える

ガラスは熱で伸び縮みしにくい材料です。基板がチップ(シリコン)と同じくらいしか伸び縮みしなければ、はんだの接合に無理な力がかかりません。

2. 硬くして反りを防ぐ

ガラスの繊維は硬く、基板全体を反りにくくします。大きな基板ほど、反りはチップの接合不良につながります。

3. 電気を通さない

ガラスは電気を通さず、熱にも強いので、配線どうしの間の絶縁の土台になります。

日東紡は、ガラスクロスを、ガラス繊維の電気絶縁性・耐熱性・寸法安定性を生かした絶縁用の基材で、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂と組み合わせて使うものと説明しています。厚さは製品によって0.013〜0.180mm と、紙よりも薄いものが中心です。

たとえるなら

鉄筋コンクリートの「鉄筋」です。コンクリート(樹脂)だけでは割れたり曲がったりしやすいので、中に骨組み(ガラスクロス)を入れて形を保ちます。

このブロックの参照データ
・日東紡「電子材料用ガラスクロス」 電気絶縁性・耐熱性・寸法安定性、エポキシ・ポリイミド樹脂と組み合わせる、厚さ0.013〜0.180mm
樹脂だけの基板が熱で反るのに対し、ガラスクロスを骨組みに入れた基板は反りにくいことを、鉄筋コンクリートのたとえで示した図

基板の中で、ガラスクロスはどこにあるのか

ガラスクロスに樹脂をしみこませて半分固めたシートを「プリプレグ」と呼びます。プリプレグを何枚か重ね、両面に銅箔を貼って熱と圧力で固めたものが、基板の芯になる「銅張積層板(CCL)」です。この芯の上に配線の層を積んで、基板ができあがります。

この工程の役割
受け取るもの
ガラスクロス+樹脂
布に樹脂をしみこませる
→
基板の材料づくり
プリプレグ(半分固めたシート)
重ねて銅箔を貼る
→
次の工程へ渡すもの
銅張積層板
基板の芯

AI向けのGPUのパッケージ基板(ABF 基板)では、芯の部分にガラスクロス入りの層があり、その上下に、ガラスクロスを入れない絶縁フィルム(ABF)と銅の配線を何層も積み上げます。つまり、ガラスクロスは基板の「背骨」にあたる部分を受け持っています。

用語メモ:ABF

味の素ビルドアップフィルム。パッケージ基板の配線の層の間に使う絶縁フィルムで、こちらにはガラスクロスは入っていません。

味の素ファインテクノのABFとは?AI半導体を支える絶縁フィルムが世界シェアほぼ100%の理由
あわせて読みたい
味の素ファインテクノのABFとは?AI半導体を支える絶縁フィルムが世界シェアほぼ100%の理由

パッケージ基板の配線の層を作る絶縁フィルム、味の素のABF

ガラスクロスに樹脂をしみこませたプリプレグを重ねて銅張積層板にし、その上にABFと配線を積むパッケージ基板の断面図

ふつうのガラス・Tガラス・低誘電ガラスの違い

種類 特徴 主な使い道
ふつうのガラス(Eガラス)基板用のガラス繊維として広く使われる標準のガラス一般のプリント基板
Tガラス(低熱膨張)高弾性・低熱膨張。熱で伸び縮みしにくく、硬いAI半導体・通信ASIC・高機能CPU のパッケージ基板
NEガラス(低誘電)低誘電・低誘電正接。高速の信号が弱まりにくい高速通信の機器、高速処理のパッケージ

AIのチップは大きく、パッケージ基板も大きくなっています。基板が大きいほど、熱による伸び縮みと反りの影響が大きくなるので、伸び縮みしにくい Tガラスが欠かせません。また、AIサーバーの中では、GPUどうしやスイッチの間を非常に速い信号が行き来するので、信号を弱めにくい低誘電のガラスクロスも必要です。

日東紡は、Tガラスを「高密度パッケージ基板に不可欠」とし、AI半導体・通信ASIC・高機能CPU のパッケージ基板に採用されていると説明しています。NEガラスは1990年代に開発し、低誘電ガラスの事実上の標準になってきたとしています。

このブロックの参照データ
・日東紡「電子材料事業」 Tガラス(高弾性・低熱膨張)とNEガラス(低誘電・低誘電正接)
注意:「Tガラス」「NEガラス」は日東紡の製品の呼び名です。ほかの会社にも、低熱膨張や低誘電のガラス繊維・ガラスクロスがあり、呼び名は会社によって違います。
ふつうのガラス・Tガラス(低熱膨張)・NEガラス(低誘電)の3種類のガラスクロスの特徴と使い道を並べた比較図

ガラスクロスとガラスコア基板の違い

名前が似ていますが、ガラスクロスとガラスコア基板は別のものです。

比べる点 ガラスクロス入りの基板(いま) ガラスコア基板(次の世代)
芯の中身ガラスの布+樹脂1枚のガラスの板
ガラスの形細い繊維を織った布平らな板
電気を通す穴ドリルやレーザーで樹脂と布に開けるガラスに細かい穴を開けて金属を埋める
状況いまの基板の主流次の世代の候補として開発中

ガラスコア基板は、芯をガラスの板そのものに置き換えて、さらに平らで伸び縮みしにくい基板を目指すものです。いまの基板の芯を支えているのが、ガラスクロスです。

【完全図解】ガラスコア基板とは?仕組み・メリット・課題とABF基板との違い
あわせて読みたい
【完全図解】ガラスコア基板とは?仕組み・メリット・課題とABF基板との違い

次の世代の基板、ガラスコア基板とは

ガラスの布と樹脂でできたいまの基板の芯と、1枚のガラスの板を芯にするガラスコア基板を比べた断面図

なぜ、AIでガラスクロスが足りなくなったのか

1. 基板が大きく、層が多くなった

AIのGPUのパッケージは大きく、サーバーの基板も層が増えました。1台のAIサーバーが使うガラスクロスの量が増えています。

2. 特殊なガラスは作れる会社が少ない

Tガラスや低誘電ガラスは、ガラスの組成から繊維にする技術、織る技術までが必要で、すぐに作れる会社が増えません。

3. 増産に時間がかかる

ガラスを溶かす炉や、細い糸を織る設備を増やすには、年単位の時間がかかります。

調査会社 TrendForce は2025年7月、日本のメーカーが低誘電・低熱膨張の高付加価値品に生産を移したことで、ガラスクロスの供給の不足が10%を超え、高級なガラスクロスは最大20%値上げの見込みだと伝えました。台湾の基板メーカーも、Tガラスを使う基板を中心に値上げしたとしています。

日東紡は約150億円を投じて、福島市の拠点に Tガラスクロス・NEガラスクロスなどの生産設備を増やし、いまの生産実績の3倍程度を作れるようにする計画で、稼働は2027年1〜3月の予定と報じられています。

約3倍
日東紡の福島の新しい設備で可能になる、スペシャルガラスクロスの生産(いまの生産実績との比較)。投資は約150億円、稼働は2027年1〜3月の予定
出典:ニュースイッチ(日刊工業新聞、2025年9月29日)
このブロックの参照データ
・TrendForce(2025年7月22日) 供給の不足が10%超、高級品は最大20%値上げの見込み、BT 基板の値上げ
AIで基板が大きく層が増え、特殊なガラスクロスを作れる会社が少なく、増産に時間がかかるため品薄になった流れを示した図

ガラスクロスを支える企業

ガラスクロス・ガラス繊維

  • 日東紡績(3110):Tガラス・NEガラスのスペシャルガラスクロス

基板の材料(銅張積層板など)

  • レゾナック(4004):基板の材料
  • 味の素(2802):パッケージ基板の絶縁フィルム(ABF)

パッケージ基板

  • イビデン(4062):AI向けのパッケージ基板
  • 新光電気工業(非上場):パッケージ基板

ガラスクロスは、ガラス繊維 → ガラスクロス → 基板の材料(プリプレグ・銅張積層板) → 基板 → パッケージ、と何段も先の工程に流れていきます。いちばん上流の材料が足りなくなると、その下のすべての工程に影響が広がります。

イビデン(4062)とは?AI半導体の「土台」ABF基板で世界首位|事業構造を図解
あわせて読みたい
イビデン(4062)とは?AI半導体の「土台」ABF基板で世界首位|事業構造を図解

パッケージ基板で世界首位、イビデン

ガラスクロスのメーカーから、基板の材料、パッケージ基板のメーカーへと流れるサプライチェーン図

ガラスクロスを知ると、何が見えてくるか

あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:基板・部品・調達のどの仕事でも、AIの部材不足はチップやメモリだけでなく、基板の芯の「布」でも起きると知っておくと、納期や価格の話の背景が読みやすくなります。
投資家の方へ:ガラスクロスのように、市場は小さくても代わりが効きにくい材料は、AIの需要が増えると値上げしやすくなります。一方で、増産の設備が動き出す時期には需給がゆるむこともあるので、増産の計画とあわせて見ることが大切です。
学生・就活中の方へ:ガラスクロスは、材料(ガラスの組成)・繊維(糸にする)・織物(織る)・電気(誘電率)が交わるテーマです。材料・化学・電気のどの専攻にもつながります。

よくある誤解

誤解1:ガラスクロスとガラスコア基板は同じもの

ガラスクロスはガラスの布で、いまの基板の芯に入っています。ガラスコア基板は、芯を1枚のガラスの板にする次の世代の基板です。

誤解2:ガラスクロスはどれも同じ

ふつうのガラスのほかに、伸び縮みしにくい Tガラスや、信号を弱めにくい低誘電ガラスがあり、AI向けには特殊なものが必要です。

誤解3:ABF 基板にはガラスが入っていない

配線の層の ABF にはガラスクロスは入りませんが、基板の芯の部分にはガラスクロス入りの層があります。

まとめ

  • ガラスクロスは、細いガラス繊維を織った布で、樹脂と重ねて基板の芯にする
  • 伸び縮みを抑え、反りを防ぎ、絶縁の土台になる
  • AI向けには、低熱膨張の Tガラスや低誘電のガラスが欠かせない
  • ガラスコア基板(ガラスの板)とは別のもの
  • AIで需要が増え、特殊なガラスクロスは品薄に。日東紡は約3倍に増産する計画(日刊工業新聞の報道)

よくある質問

Q. ガラスクロスとは何ですか?

A. 細いガラス繊維の糸を、布のように織ったものです。樹脂をしみこませて重ね、プリント基板やパッケージ基板の芯にします。

Q. Tガラスとは何ですか?

A. 日東紡の高弾性・低熱膨張のガラスで、熱で伸び縮みしにくく、AI半導体などのパッケージ基板に使われます。

Q. ガラスクロスとガラスコア基板の違いは?

A. ガラスクロスはガラスの布で、いまの基板の芯に入ります。ガラスコア基板は芯を1枚のガラスの板にした次の世代の基板です。

Q. なぜガラスクロスが不足したのですか?

A. AIで基板が大きく層も増えて需要が伸びた一方、特殊なガラスクロスは作れる会社が少なく、増産に時間がかかるためです。

この記事のテーマを、本でもっと深くPR(アフィリエイト広告)

ガラスクロスのような基板の材料を、半導体の製造と業界の全体の中で位置づけたい方に。本書(SBクリエイティブ)は、前工程・後工程・材料の章に加え、NVIDIAが牽引するAI向け半導体の進化や最新動向も、図解で紹介しています。

S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。

次に読むべき記事

ここまでで、ガラスクロスが「基板の芯に入るガラスの布」で、AIで特殊なものが足りなくなっていることがわかりました。次は、ガラスクロスを使う基板と、その次の世代を読むと、つながりが見えてきます。

【完全図解】先端パッケージとは?AIチップの「組み立て方」が変わった理由
まずはここから
【完全図解】先端パッケージとは?AIチップの「組み立て方」が変わった理由

AIチップの「組み立て方」が、なぜ変わったのか。先端パッケージの全体

まずはここから →
この記事の続きはこちら

テーマ別に、もっと深く学ぶ

気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめての方にもわかるように図解で書いています。

先端パッケージと基板をもっと深く
つまずきやすい「違い」を解決
あわせて知りたい、隣のテーマ
【図解】TSMCのAIインフラ支配力|CoWoS・3nm製造の「蛇口」を握る構造を解説
担う企業
【図解】TSMCのAIインフラ支配力|CoWoS・3nm製造の「蛇口」を握る構造を解説

CoWoS と最先端の製造の「蛇口」を握る TSMC

企業を見る →
ガラスコア基板の"素材の覇者"|日本電気硝子(5214)+住友化学連合を企業分析|サムスン合弁で本格離陸
担う企業
ガラスコア基板の”素材の覇者”|日本電気硝子(5214)+住友化学連合を企業分析|サムスン合弁で本格離陸

ガラス基板の素材の覇者、日本電気硝子

企業を見る →
【完全図解】先端パッケージング日本企業マップ|"見えない主役"レゾナック・味の素ABFの実力
担う企業
【完全図解】先端パッケージング日本企業マップ|”見えない主役”レゾナック・味の素ABFの実力

先端パッケージを支える日本企業の地図

企業を見る →
【完全図解】OSAT(ASE・Amkor・JCET)とは|TSMCの裏で先端パッケージを支える受託企業群
担う企業
【完全図解】OSAT(ASE・Amkor・JCET)とは|TSMCの裏で先端パッケージを支える受託企業群

パッケージングを受託する OSAT(ASE・Amkor・JCET)

企業を見る →

コメント

タイトルとURLをコピーしました