AI向けのメモリの話題で「高アスペクト比エッチング」という言葉を目にすることが増えました。ひとことで言えば、とても細くて深い穴を、まっすぐ掘る技術です。ところが、穴は深くなるほど、まっすぐ掘るのが急に難しくなります。
こんな疑問はありませんか?
- 高アスペクト比エッチングとは、どんな穴を掘る技術なの?
- なぜ3D NANDやDRAMで、深い穴が必要なの?
- 穴が深くなると、何が難しくなるの?
- 「極低温エッチング」は、なぜ冷やすと深く掘れるの?
- この装置は、どの会社が作っているの?
この記事でわかること
- アスペクト比の意味と、メモリで深い穴が必要な理由
- 深くなるほど起きる4つの問題(遅くなる・ふくらむ・曲がる・止まる)
- 極低温エッチングと、穴を分けて掘る工夫
- 東京エレクトロンとLam Researchが発表した数字
- 装置・材料・使う側の企業を3面のカードで
あなたが今いる場所:前工程 > エッチング > 高アスペクト比エッチングとは?
前工程(ウェーハに回路を作る)
基板
成膜
露光
エッチング ←ココ
ドーピング
CMP
洗浄
配線
計測
後工程(チップに切り分けて仕上げる)
ウェーハテスト
バックグラインド
ダイシング
ボンディング
封止
最終テスト
先端パッケージ
高アスペクト比エッチングは「エッチング」の中でも、とくに深い穴を掘る応用編です。薄い色の「成膜」で何十層も膜を積み、「露光」で穴の位置を決めてから掘ります。
高アスペクト比エッチングとは?先に結論
先に結論
高アスペクト比エッチングとは、穴や溝の幅に比べて深さがとても大きい形(高アスペクト比)を、上から下まで同じ太さで、まっすぐ掘るドライエッチングです。
層を何百層も積み重ねる3D NANDや、電気をためる部分を細長く立てるDRAMで欠かせない工程です。穴が深くなるほど、底までイオンやガスが届きにくくなり、掘る速さが落ちたり、穴がふくらんだり曲がったりします。対策として、ウェーハを零度よりずっと低い温度に冷やして掘る「極低温エッチング」の実用化が進んでいます。
用語メモ:アスペクト比
形の「深さ」と「幅」の比。たとえば幅0.1μmで深さ10μmの穴なら、アスペクト比は1:100(100とも書く)。この数字が大きいほど、細くて深い穴です。
用語メモ:チャネルホール
3D NANDで、積み重ねた何百層もの膜を上から下まで貫く穴。この穴の内側に、データをためる部分を作ります。
アスペクト比とは:どれくらい「細く深い」のか
アスペクト比は、もともと画面の縦横の比などに使う言葉です。エッチングでは、掘る形の深さを幅で割った値を指します。
10μm
極低温エッチングで掘れる穴の深さ(東京エレクトロン・Lam Researchの発表)
出典:東京エレクトロン(2023年)・Lam Research(2024年)
1:100
東京エレクトロンが極低温エッチングで実現したアスペクト比(目標は1:200)
出典:東京エレクトロン ブログ(2024年10月)
どれくらい細く深いのか
アスペクト比1:100の穴を、直径1cmまで拡大すると、深さは1mになります。直径1cmの筒を、1mの深さまで、途中で曲げたりふくらませたりせずに掘り下げる作業です。しかも1枚のウェーハに、こうした穴を何十億個も同時に掘ります。
この工程の役割
受け取るもの
膜を何十層も積んだウェーハ
露光で穴の位置を決めた状態
→
エッチング
高アスペクト比エッチング
細く深い穴をまっすぐ掘る
→
次の工程へ渡すもの
深い穴の開いたウェーハ
穴の内側に膜を積む工程へ
どこで深い穴が必要なのか:3D NAND・DRAM・TSV
高アスペクト比エッチングの出番は、主にメモリです。メモリは「同じ面積に、どれだけたくさん記憶の部屋を詰め込めるか」の勝負で、平面に並べるだけでは足りなくなり、縦に伸ばす方向へ進みました。
| 場所 |
何を掘るか |
なぜ深いのか |
| 3D NAND | 積み重ねた膜を貫くチャネルホール | 層を積むほど容量が増える。層が増えると、穴も深くなる |
| DRAM | 電気をためるキャパシタの穴 | 狭い面積で必要な電気の量を確保するため、細長く上に伸ばす |
| TSV | チップを縦に貫く電極の穴 | HBMのようにチップを積み重ね、上下を最短距離でつなぐ |
3D NANDの層の数は、世代ごとに増えています。キオクシアとウエスタンデジタルは2023年3月に218層の製品を発表し、SK hynixは2024年11月に321層の製品の量産を始めました。層が増えるほど、1本の穴に求められる深さとまっすぐさの水準は上がります。
あわせて読みたい
HBMの製造工程とは?TSV・積層(MR-MUF・TC-NCF)・検査の15ステップを図解
チップを縦に貫くTSVの穴から積層まで。HBMができるまでの15段階
深くなるほど起きる4つの問題
エッチングは、上から飛んでくるイオンと、反応しやすいガスの粒(ラジカル)で膜を削る工程です。穴が深くなると、どちらも底まで届きにくくなり、次のような問題が起きます。
1. 遅くなる
深い所ほどイオンやガスが届かず、削る速さが落ちます。同じウェーハの中でも、細い穴ほど遅く削れる現象(ARDE)が起きます。
2. ふくらむ(ボーイング)
斜めに入ったイオンが壁に当たり、穴の途中がたるのようにふくらみます。隣の穴とつながると不良になります。
3. 曲がる・ねじれる
穴の底がまっすぐ下に進まず、横にずれたり、ねじれたりします。下の層の正しい位置に届かなくなります。
4つ目の問題は「止まる」です。穴の底に削りかすがたまったり、電気がたまってイオンをはね返したりすると、途中で削れなくなります(エッチストップ)。
用語メモ:ARDE
Aspect Ratio Dependent Etching の略。アスペクト比が大きい(細く深い)所ほど、削る速さが遅くなる現象です。
注意:4つの問題は、どれか1つを直すと別の問題が出やすい関係にあります。たとえば壁を守る膜を厚くすると、ふくらみは減っても、穴が細って途中で止まりやすくなります。ガス・圧力・電力・温度のバランスを、穴の深さに応じて調整し続ける必要があります。
あわせて読みたい
【図解】ウェットエッチングとドライエッチングの違い|7つの視点で比較
等方性と異方性の違いから。ウェットとドライを7つの視点で比べる
対策1:極低温エッチング(冷やして掘る)
近年、深い穴を掘る切り札として実用化が進んでいるのが、ウェーハを零度よりずっと低い温度に冷やしながら掘る「極低温(クライオ)エッチング」です。
なぜ冷やすと深く掘れるのか
ウェーハを冷やすと、ガスの成分が穴の壁にとどまりやすくなり、壁を守りながら底だけを削りやすくなります。また、削っている最中にウェーハが熱くなりすぎるのを防げます。東京エレクトロンは、零度より数十度低い冷却液を使うことで、深い穴を従来より速く掘れるとしています。
| 発表 |
時期 |
主な内容 |
| 東京エレクトロン | 2023年6月 | 400層を超える3D NAND向けのチャネルホールの技術。深さ10μmを33分で掘り、地球温暖化係数(GWP)を84%減らせる |
| 東京エレクトロン(ブログ) | 2024年10月 | 深い穴を従来の2.5倍の速さで掘れる。アスペクト比1:100を実現、1:200が目標。少量生産は2025年に始まる見込み |
| Lam Research「Lam Cryo 3.0」 | 2024年7月 | 深さ最大10μmの穴を、上から下までの寸法のずれ0.1%未満で掘れる。従来の2倍以上の速さ。1,000層の3D NANDへの道筋 |
ポイント:極低温エッチングは、深く掘れるだけでなく、速さと環境負荷の面でも利点があるとされています。エッチングに使うガスには地球温暖化の影響が大きいものがあり、その使い方を減らせることも、各社が強調している点です。
対策2:穴を分けて掘る・マスクと条件を作り込む
1回で掘れる深さには限りがあります。そこで、装置の進化と並んで、工程の組み立て方の工夫も重ねられています。
| 工夫 |
やり方 |
ねらい |
| 穴を分けて掘る | 膜をいくつかの段に分けて積み、段ごとに穴を掘ってからつなぐ | 1回に掘る深さを減らし、まっすぐさを保つ |
| 厚く強いマスク | 削られにくい炭素系などの厚いマスクを上にのせる | 深く掘る間にマスクが先になくならないようにする |
| 条件を途中で変える | 掘り進む深さに応じて、ガス・電力・圧力を切り替える | 浅い所と深い所で最適な削り方が違うため |
| 電力をパルスにする | プラズマにかける電力を細かく入り切りする | 底にたまった電気を逃がし、イオンを届きやすくする |
SK hynixは321層の製品で、穴(プラグ)を作る工程を3回に分けて行い、あとで電気的につなぐ「スリープラグ」という方法を使っています。段と段のつなぎ目の位置ずれを自動で補正する技術も組み合わせています。
たとえるなら
深い井戸を一気に掘るのではなく、何段かに分けて掘り、それぞれの段の中心をぴたりと合わせてつなぐようなものです。1段ずつなら、まっすぐ掘りやすくなります。そのかわり、つなぎ目の位置合わせが新しい難所になります。
なぜAI時代に、高アスペクト比エッチングが重要なのか
1. AIのデータを置く場所が増える
AIの学習と推論では、大量のデータを高速に読み書きします。データセンターのSSDに使われるNANDフラッシュと、GPUの隣に置かれるHBM(DRAMを積み重ねたメモリ)のどちらも、深い穴を掘る工程なしには作れません。
2. メモリの投資が戻ると、エッチングの出番が増える
東京エレクトロンは2026年3月期の決算説明で、長く手控えられていた3D NANDの投資に回復の兆しが見えてきたと述べています。3D NANDの工場では、層が増えるたびに深い穴を掘る装置の性能が問われるため、メモリの投資の動きは、エッチング装置の需要に直結します。
3. 層を増やすか、穴を細くするか
メモリの容量を増やす方法は、層を増やす(穴を深くする)か、穴を細くして並べる密度を上げるかです。どちらを選んでも、アスペクト比は大きくなります。高アスペクト比エッチングは、メモリの進化の速さそのものを左右する工程です。
高アスペクト比エッチングを支える企業:装置・材料・使う側
深い穴を掘るエッチング装置は、手がけられる会社が限られます。米国のLam Researchは、自社の年次報告書でエッチングの競合として、Applied Materials・日立・東京エレクトロンを挙げています。
装置メーカー
- Lam Research(LRCX):絶縁膜のエッチング装置(Flexなど)と、極低温エッチング「Lam Cryo 3.0」を手がける
- 東京エレクトロン(8035):3D NAND向けのチャネルホールの極低温エッチング技術を開発
- Applied Materials(AMAT):米国の製造装置最大手。エッチング装置も手がける
- 日立ハイテク(日立製作所の子会社):エッチング装置を手がける
材料メーカー(ガスなど)
- 関東電化工業(4047):半導体向けのフッ素系ガスを手がける
- レゾナック(4004):半導体向けの高純度ガスを手がける
使う側(メモリを作る会社)
- キオクシア(285A):3D NANDフラッシュ
- SK hynix(000660.KS)・Samsung Electronics(005930.KS):3D NAND・DRAM・HBM
- Micron Technology(MU):DRAM・HBM・NAND
2社の事業の比べ方は、東京エレクトロンとLam Researchのエッチングの記事で詳しく整理します。
高アスペクト比エッチングを知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:成膜・露光・洗浄の担当でも、深い穴を掘る工程の制約が、膜の厚さや材料、マスクの設計を決めていることを知っておくと、前後の工程との話が通じやすくなります。穴の形の不良は、エッチングだけでなく積んだ膜の性質から来ることもあります。
投資家の方へ:メモリの層数が増える、極低温エッチングが量産に入る、といったニュースは、エッチング装置の需要と各社の勢力図に関わります。装置の受注は、メモリメーカーの投資の動きと一緒に見ると位置づけがわかります。
学生・就活中の方へ:高アスペクト比エッチングは、プラズマ物理・表面化学・熱(冷却)・機械が交わる分野です。物理系・化学系・機械系の学生にとって、最先端の研究と量産が直結している分野の1つです。
よくある誤解
誤解1:時間をかければ、いくらでも深く掘れる
深くなるほど削る速さが落ち、穴がふくらんだり曲がったりします。途中で削れなくなることもあります。時間をかければよい、という単純な話ではありません。
誤解2:深い穴を掘るのは3D NANDだけ
DRAMのキャパシタや、HBMを積み重ねるためのTSVも、細く深い穴を掘る工程です。メモリ全般とパッケージの技術を支えています。
誤解3:極低温エッチングは、冷やすだけの単純な改良
冷やすことで、ガスの壁へのつき方や反応の進み方が変わります。ガスの選び方や装置の構造も合わせて作り直す必要があり、各社が長い開発を重ねてきた技術です。
まとめ
- 高アスペクト比エッチングは、幅に比べてとても深い穴や溝を、まっすぐ掘るドライエッチング
- 3D NANDのチャネルホール、DRAMのキャパシタ、TSVで欠かせない
- 深くなるほど「遅くなる・ふくらむ・曲がる・止まる」の4つの問題が起きる
- 極低温エッチングと、穴を分けて掘る工夫で、層の増加に対応している
- 装置は日米の大手が担い、メモリの投資の動きが需要を左右する
よくある質問
Q. 高アスペクト比エッチングとは何ですか?
A. 穴や溝の幅に比べて深さがとても大きい形を、上から下まで同じ太さで、まっすぐ掘るドライエッチングのことです。
Q. アスペクト比とは何ですか?
A. 掘る形の深さと幅の比です。幅に対して深さが大きいほどアスペクト比は大きく、細くて深い穴になります。
Q. なぜ3D NANDでは深い穴が必要なのですか?
A. 膜を何百層も積み重ねて容量を増やすため、その全部の層を上から下まで1本の穴で貫く必要があるからです。
Q. 極低温エッチングとは何ですか?
A. ウェーハを零度よりずっと低い温度に冷やしながら掘る方法です。壁を守りながら、深い穴を速く掘りやすくなります。
この記事のテーマを、本でもっと深くPR(アフィリエイト広告)
¥2,200 (2026/10/04 13:17時点 | Amazon調べ)
ポチップ
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
テーマ別に、もっと深く学ぶ
気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめての方にもわかるように図解で書いています。
前工程をもっと深く
つまずきやすい「違い」を解決
あわせて知りたい、隣のテーマ
コメント