ファブレス・ファウンドリ・IDMの違いは、半導体の会社が「設計」と「製造」のどこを自社で受け持つかです。ファブレスは設計だけ、ファウンドリは他社のチップの製造だけ、IDM(垂直統合型)は設計から製造まで1社で行います。
NVIDIA(エヌビディア)は工場を持たないファブレス、TSMC(台湾積体電路製造)はファウンドリ、Intel(インテル)はIDMです。ニュースでは同じ「半導体株」とひとまとめにされますが、儲かり方も弱みも違います。
表で比べたい方は 7つの視点の比較表/ファウンドリのシェア/後工程(OSAT)まで含めた分業
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チップができるまで(左から右へ)
設計 ←ココ
前工程(ウェーハに回路を作る) ←ココ
後工程(切って包んで検査)
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TSMC
OSAT
NVIDIA
ファブレス・ファウンドリ・IDMの違い
先に結論
3つの違いは、設計と製造のどこを自社で受け持つかです。ファブレスは設計だけを行い工場を持たない会社、ファウンドリは他社が設計したチップの製造だけを請け負う会社、IDM(垂直統合型)は設計から製造まで1社で行う会社です。
代表例は、ファブレスが NVIDIA・AMD・Qualcomm、ファウンドリが TSMC、IDM が Intel・Samsung・キオクシアです。最先端の工場の建設費が大きくなりすぎたため、設計と製造を分ける形が広がりました。いまのAIチップの多くは、ファブレスが設計し、ファウンドリが作り、後工程の会社(OSAT)やファウンドリが組み立てる、という分業でできています。
用語メモ:ファブ(fab)
半導体の工場のこと。fabrication facility の略。ファブレスは「ファブを持たない」という意味です。
用語メモ:IDM
Integrated Device Manufacturer の略。設計・製造・(多くは)組み立てまでを自社で行う、垂直統合型の半導体メーカー。
3つの形と、代表的な会社
ファブレス:設計に集中する
チップの設計と販売を行い、製造はファウンドリに任せます。工場の巨額の投資がいらないので、設計とソフトウェアにお金と人を集中できます。例:NVIDIA・AMD・Qualcomm・Broadcom・Apple(自社製品のチップ)
ファウンドリ:製造を請け負う
他社が設計したチップを、自社の工場で作ります。自社ブランドのチップは持たず(持っても少なく)、顧客と競合しないことが信用になります。例:TSMC・Samsung Foundry・SMIC・UMC・GlobalFoundries・Rapidus(2nm の量産を目指す)
IDM:設計から製造まで1社で
自社で設計したチップを、自社の工場で作ります。設計と製造を合わせて最適化できます。例:Intel・Samsung(メモリ)・SK hynix・Micron・キオクシア・Texas Instruments・Infineon
同じ会社でも、事業ごとに形が違うことがあります。Samsung はメモリでは IDM ですが、ファウンドリの事業も持ちます。Intel も、自社の製品を作る IDM を続けながら、他社のチップを作るファウンドリの事業を始めています。
表を作るとき、筆者がいちばん迷ったのは Samsung(サムスン)の置き場所でした。メモリでは IDM、ロジックでは他社の注文を受けるファウンドリ。会社を1つの形に決めると、どちらかの説明が合わなくなります。そこでこの記事は、会社ではなく「事業」を3つの形に分けています。
たとえるなら
ファブレスは「レシピを考えるが厨房を持たない料理研究家」、ファウンドリは「どんなレシピでも作る、腕の良いセントラルキッチン」、IDM は「レシピも料理も自分の店で出すレストラン」です。
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ファブレス・ファウンドリ・IDMを7つの視点で比較
| 視点 |
ファブレス |
ファウンドリ |
IDM |
| 受け持つ所 | 設計・販売 | 製造(前工程) | 設計から製造まで |
| 工場 | 持たない | 持つ(本業) | 持つ |
| お金のかかり方 | 設計の人件費・ソフト | 工場と装置への巨額の投資 | 設計と工場の両方 |
| 強み | 身軽で、新しい製品に集中できる | 多くの顧客の量で、工場を動かし続けられる | 設計と製造を合わせて最適化できる |
| 弱み | 製造の能力を他社に頼る | 顧客の需要の波を受ける | 工場の投資が重く、外れたときの痛手が大きい |
| 代表例 | NVIDIA・AMD・Qualcomm | TSMC・Samsung Foundry・SMIC | Intel・SK hynix・キオクシア |
| 多い分野 | GPU・スマホのSoC・通信 | ロジック(計算のチップ)全般 | メモリ・パワー半導体・アナログ |
いちばん大きな違いは「工場への投資を誰が背負うか」です。最先端の工場には巨額の投資がいるので、多くの顧客の注文を集めて工場を動かし続けられるファウンドリが有利になります。一方、メモリやパワー半導体のように、製造の工夫そのものが性能を決める分野では、IDM が多く残っています。
なぜ、設計と製造を分けるようになったのか
昔の半導体の会社は、ほとんどが IDM でした。流れが変わったのは、TSMC が1987年に、他社のチップの製造だけを請け負う「専業ファウンドリ」という事業モデルを作ってからです。工場を持たなくても、設計さえできればチップを作れるようになり、ファブレスの会社が増えました。
1. 工場が高くなりすぎた
微細化が進むほど、最先端の工場と装置にかかるお金は大きくなります。1社の製品だけで工場を埋め続けるのは難しく、多くの顧客の注文を集めるファウンドリのほうが、工場を効率よく使えます。
2. 設計の会社が増えた
スマートフォン・通信・AI のように、チップを必要とする分野が増え、工場を持たずに設計で勝負する会社が数多く生まれました。
3. IDM も工場を手放した
AMD は2009年に製造部門を切り出して GlobalFoundries を設立し、ファブレスになりました。
534社
TSMC が2025年に製造を受け持った顧客の数(製品は12,682種類)
出典:TSMC Form 20-F(2025年度)
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ファウンドリのシェアはTSMCが7割
ファウンドリの市場は、TSMC が大きく先行しています。調査会社 TrendForce によると、2026年第2四半期のファウンドリ上位10社の売上のうち、TSMC が72.5%を占めました。AI・HPC 向けの先端のプロセスに注文が集中しているためです。
TrendForce の発表で金額を見ると、上位10社の売上の合計は約534.9億ドルで、そのうち TSMC が約402億ドルでした。2位から5位までの4社を足しても18.4%。2割に届きません。
| 順位 |
会社 |
シェア(2026年第2四半期) |
| 1 | TSMC(台湾) | 72.5% |
| 2 | Samsung Foundry(韓国) | 5.9% |
| 3 | SMIC(中国) | 5.4% |
| 4 | UMC(台湾) | 3.9% |
| 5 | GlobalFoundries(米国) | 3.2% |
注意:ファブレスの会社が多くても、最先端のチップを作れるファウンドリは限られています。どこか1社の工場が止まると、多くのファブレスの製品が作れなくなる、という集中の弱さがあります。各国が自国に工場を呼び込もうとしているのは、このためです。
後工程まで含めると、分業はもう1段ある
チップができるまでには、ウェーハに回路を作る前工程のあとに、切り分けて包み、検査する後工程があります。後工程を請け負う会社を OSAT と呼びます。
| 工程 |
受け持つ会社の例 |
| 設計 | ファブレス(NVIDIA など)、IDM |
| 前工程(ウェーハに回路を作る) | ファウンドリ(TSMC など)、IDM |
| 後工程(切る・包む・検査する) | OSAT(ASE・Amkor など)、ファウンドリ、IDM |
AI向けの GPU では、GPU とHBMを1つにまとめる先端パッケージ(CoWoS)をファウンドリの TSMC が自ら手がけているように、ファウンドリが後工程まで広げる動きもあります。分業の境目は、技術の進み方で動いていきます。
用語メモ:OSAT
Outsourced Semiconductor Assembly and Test の略。半導体の組み立てと検査を請け負う会社。
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いま起きている変化
IDM がファウンドリを始める
Intel は2021年に「IDM 2.0」を発表し、自社の工場で作り続けながら、外部の顧客のチップを作るファウンドリの事業に参入しました。
新しいファウンドリが生まれる
日本では Rapidus が、2nm の最先端のロジックを作るファウンドリを目指しています。
ファブレスの顧客が自分でチップを作る
クラウドの会社が、自社のデータセンター向けの AI チップ(ASIC)を設計するようになりました。製造はファウンドリに任せるので、これもファブレスの形です。
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この違いを知ると、何が見えてくるか
あなたにとっての意味
仕事で関わる方へ:装置・材料・部品のどの仕事でも、顧客が「設計の会社」なのか「工場を持つ会社」なのかで、話す相手も求められるものも変わります。ファウンドリと IDM は装置と材料を買う側、ファブレスはファウンドリを通じて間接的に関わる側です。
投資家の方へ:ファブレスの決算は製品の売れ行き、ファウンドリの決算は工場の稼働率と先端プロセスの比率、IDM の決算はその両方で動きます。同じ「半導体株」でも、どの形の会社かで見るべき数字が違います。
学生・就活中の方へ:設計(回路・ソフト)に進むか、製造(プロセス・装置)に進むかで、就職先の形が変わります。ファブレス・ファウンドリ・IDM のどこで働くかで、日々の仕事の中身も大きく違います。
よくある誤解
誤解1:NVIDIA は自社でチップを作っている
NVIDIA はファブレスで、チップの製造は TSMC などのファウンドリに任せています。
誤解2:ファウンドリは設計図どおりに作るだけ
最先端のファウンドリは、トランジスタの構造や配線の技術そのものを開発しています。顧客はその技術の上で設計します。
誤解3:IDM は古い形
メモリやパワー半導体のように、製造の工夫が性能を決める分野では、いまも IDM が主流です。
まとめ
- ファブレスは設計だけ、ファウンドリは製造だけ、IDM は設計から製造まで1社で行う
- いちばん大きな違いは、工場への巨額の投資を誰が背負うか
- TSMC が1987年に専業ファウンドリの形を作り、ファブレスが増えた
- ファウンドリは TSMC が7割を超える(2026年第2四半期)
- 後工程の OSAT も含めた分業の境目は、技術の進み方で動いている
よくある質問
Q. ファブレスとファウンドリの違いは?
A. ファブレスは工場を持たず設計だけを行う会社、ファウンドリは他社が設計したチップの製造だけを請け負う会社です。
Q. IDMとは何ですか?
A. 設計から製造まで、1社で行う垂直統合型の半導体メーカーです。Intel・SK hynix・キオクシアなどが代表です。
Q. NVIDIAはファブレスですか?
A. はい。NVIDIA はチップを設計し、製造は TSMC などのファウンドリに任せるファブレスの会社です。
Q. OSATとは何ですか?
A. 半導体の後工程(切る・包む・検査する)を請け負う会社です。ASE・Amkor などが代表です。
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ポチップ
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、AIインフラを支える半導体・電力・冷却の仕組みを、図解でやさしく解説しています。
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